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主題化

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 35-39)

第 2 章 日本語の主題卓越型構造の転移に関する先行研究

2.2 日本語の主題卓越型構造

2.2.3 主題化

益岡(2004)などが指摘したように、事象叙述文の主語は、文脈を与えることで、主題提示 が行われることがある。このとき、下記の(15)・(16)が示すように、主格を示す「が」が提 題助詞の「は」に置き換わっている。

属性

内在的属性

カテゴリー属性

所有属性

単純所有属性

履歴属性 非内在的属性

(15) 子供たちが公園で野球をしている。

(16) (その)子供たちは公園で野球をしている。

このように、主格を示す「が」が提題助詞の「は」に交替することは広く認知されており、

中学英語の検定教科書においても、日本語の主語は「は」または「が」によって表されるとま で説明されている。

三上(1960)は、「は」は、「が」だけでなく、「の」・「を」・「に」・「で」などの働きも代行 することができると指摘している。下記の(17)~(20)が示すように、それぞれのaの文の 主題に後続する「は」は、それぞれの b の文の「を」・「に」・「で」が交替していると指摘し ている。また、(20)の場合、「明日」に後続する助詞はないが、三上(1960)によると、「ゼ ロ」という格助詞が「は」に交替すると考える。なお、格助詞「の」についても、「は」が代 行することができ、二重主語文の「象は鼻が長い。」の「象」に後続する「は」は、「象の鼻が 長い。」における「の」が交替したものであり、このことに関しては、2.2.5において詳しく述 べる。

(17) a.この本は父が買ってくれました。

b.この本を父が買ってくれました。(三上1960:24)

(18) a.秋はいろんな行事が続く。

b.秋にいろんな行事が続く。(三上1960:35)

(19) a.この温泉は石鹸が使えない。

b.この温泉で石鹸が使えない。(三上1960:45)

(20) a.明日は、京都へ行きます。

b.明日[ゼロ]京都へ行きます。(三上1960:48)

また、益岡・田窪(1992)や野田(1994)は、(18)や(19)の例とは別に、(21)や(22)

の例が示すように、格助詞「に」や「で」の後ろに提題助詞「は」が後続し、主題にあたる名 詞Xの後ろに2種類の助詞が続くことは珍しくないと指摘している。ただし、格助詞の「が」

と「を」は提題助詞と共に表すことができない。つまり、(23)や(24)のとおり、提題助詞

「は」が用いられる際、格助詞「が」・「を」は表現されない。

(21) 都会には大きな駅や空港がある。(益岡・田窪1992:146)

(22) 神戸では先月、神戸まつりが行われた。(益岡・田窪1992:146)

(23) 太郎{は/が/*がは}テレビのスイッチを入れた。(益岡・田窪1992:146)

(24) この本{は/を/*をは}どこで買いましたか。(益岡・田窪1992:146)

本論文では、「には」と「では」に関しては、「は」と同じ主題標識と定め、「には」と「は」

の違いおよび「では」と「は」の違いはないものとし、「では」・「には」と「は」の違いに基 づく学習者言語の分析は行わないこととする。

2.2.1で述べたように、与えられている文脈に応じて、どの名詞句が主題になるかが変わる。

野田(1994)が指摘するとおり、(25)では、ある文脈に応じて、「この本」に焦点があてら れ、日本語の基本語順SOVの文に対して、(26)のような操作を与えられることで、「この本」

が主題化されている。また、「この本」を主題化する場合は、「この本」のコピーが文頭に現 れ、提題助詞の「は」が後続する。その後、後ろの「この本を」が代用化されて、削除される。

(25) この本は父が買ってくれました。(野田1994:34)

(26) 父がこの本を買ってくれました。

⇒この本は[父がこの本を買ってくれました]。

⇒この本は[父が買ってくれました]。(野田1994:34)

ただし、塚田(2001)や益岡(2004)が指摘するように、「は」が後続しない有標主題が導 かれる場合、野田(1996・2002)の指摘しているように、主題を提示するために、文法的手段 のみが用いられて、主題に提題助詞「は」を後続させる形態的手段を用いずに表示される。

したがって、主題化の操作はこの点を考慮する必要がある。

よって、本論文では、(26)の操作を(27)のように修正する。

(27) a.父がこの本を買ってくれました。

b.この本を[父がこの本を買ってくれました]。

⇒この本を[父が買ってくれました]。

c.この本は[父が買ってくれました]。

(27a)の「この本」を主題化する場合、(27b)のとおり、「この本を」を文頭にコピーし、

後続の「この本を」が代用化されて、削除される。ここから導かれた(27b)の「この本を父 が買ってくれました。」の「この本」が有標主題になる。そして、(27b)の「この本を」の「を」

を提題助詞の「は」に置き換えて、(27c)の「この本は父が買ってくれました。」が導かれる。

ここでの「この本」が無標主題になる。

以上のような操作を行い、格助詞が提題助詞「は」に交替した結果、表面上、格の働きが読 み取れなくなる場合が多々ある。しかしながら、野田(2007)は、主題のカテゴリーと格のカ テゴリーは別々に検討すべきであると指摘している。例えば、下記の(28a)・(28b)の「荷物」

という名詞に着目してみると、(28a)では、文頭に置かれ、提題助詞「は」が後続しているた め、主題であると考えられる。また、(28b)からもわかるように、(28a)の「荷物は」の「は」

は、主格を示す「が」が交替したものである。したがって、(28a)の「荷物」は主題かつ主格 にあたり、一方で、(28b)の「荷物」は非主題かつ主格にあたる。

(28) a.荷物は明日、届く予定です。

b.明日、荷物が届く予定です。(野田2007:3)

したがって、提題助詞「は」が後続する主題Xの指し示す意味を分析する際に、どの格助 詞が交替したものであるかを考慮することは極めて重要であると主張する。このことと英語 学習との関連に関しても、本論文で強調していく。

最後に、日本語において、主題になりやすい格成分についてまとめておく。主題になりや すい名詞句に関しては、2.2.1でまとめたとおりであるが、野田(2007)は、後続する格助詞 が示す意味に応じて、名詞句Xと後続する格助詞から構成される各成分において、主題にな りやすいものとなりにくいものの分析を行っており、まとめると、表14のとおりになる。

表14 主題になりやすい格成分と主題になりにくい格成分(野田2007)

主題になりやすい格成分 主題になりにくい格成分

 動作の主体を表す「Xが」

 所有や可能の主体を表す「Xに」

 能力や感情の対象を表す「Xが」

 出発点や通過点を表す「Xを」

 結果や原因を表す「Xに」

 手段や材料を表す「Xで」

表14に関しては、具体的な検討は野田(2007)ではなされていないが、実際、(29a)のよ うに、「太郎に」と表すよりも、(29b)や(29c)のように、「太郎には」や「太郎は」と表す ことの方が、文脈にもよるものの、幾分多いように読み取ることができる。

(29) a.太郎に弟が一人いる。

b.太郎には弟が一人いる。

c.太郎は弟が一人いる。

また、野田(2007)において重要なことは、格助詞の示す意味に応じて、主題になりやすい 格成分になるかそうでないかが変わってくるということにある。実際に、表14によると、動 作の主体を表す「X が」が主題になりやすい格成分であるのに対し、能力や感情の対象を表 す「Xが」は主題になりにくい格成分である。このことも主題Xの指し示す意味を分析する 際に留意すべき点であり、ほとんどの格助詞が複数の意味を示すことができることは認識さ れるべきである。格助詞が示す意味に関しては、本論文では、益岡・田窪(1992)の分類を参 照し、第5章において検討する。

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