第 7 章 転移を克服する指導法の提案と実践
7.4 実践授業における指導内容
7.4.3 主題化型の日本語文に関する指導
ここまでの実践授業をとおして、学生に学ばせたことは、日本語文の起点が「話したいこ と(主題)」であり、その日本語の文構造が英語の文構造と異なることと、その違いを踏まえ て、日本語文を意味順に依拠した日本語文にパラフレーズする過程を経て英語で表現するこ とであった。最後に、日本語文の文頭の名詞句である主題Xが英語における主語と一致しな い主題化型の文を扱った。第4章~第6章の調査を踏まえ、多くの学生が誤って理解してい る「文頭の名詞句Xが主語にあたる」ということを修正していくことを目指した。
ここでは、改めて日本語の「話したいこと(主題)から文を作る」という特徴を示し、「『X は』のXは必ずしも『誰が』の部分(主語)とは限らない」・「『は』はさまざまな助詞が成り 代わっているものである」と指導した。そのうえで、非主語である主題と主語を区別するた めに、主題をマークする「は」が主格を示す「が」に置き換えられるかどうかを考えさせるよ うに指導した。また、別のアプローチとして、「する・です」(動作・状態)は「誰が」してい るのか(動作・状態の主体)を考えさせた。また、提題助詞「は」について、主格の「が」が 交替したものか、あるいは、その他の格助詞が交替したものかを指導するうえで、「が」など
主要な格助詞がどのような意味を示すのかを理解してもらうことも学生の文産出を促進する 一助となるよう考慮した。
以上に鑑み、「~が」・「~を」・「~に」・「~で」などの名詞句と助詞の組み合わせが、意味 順における「誰が」、「誰・何」、「どこ」、「いつ」、「どうやって」のどの意味役割と対応するの かについてを以下の図27のフレームワークの中で指導した。
誰が する・です 誰・何 どこ いつ
「~が」 「~が」
「~を」 「~を」
「~に」 「~に」 「~に」 「~に」
「~で」 「~で」
オプション どうやって
「~で」
図27 「名詞句X+格助詞」の意味順における位置
例えば、英語における「誰が」を示すのは「~が」・「~に」・「~で」であり、意味順におけ る「誰・何」を示すのは「~が」・「~を」・「~に」である。また、「~を」・「~に」・「~で」
は「どこ」にあたり、「~に」は「いつ」にあたる。意味順指導法でオプションとして扱われ ている「どうやって」を意味する手段・道具(田地野 2012b 参照)を示すのは「~で」にな る。授業実践で取り上げる助詞とそれぞれの用法については、益岡・田窪(1992)で紹介され ている用法のうち、初級レベルの学習者が英語で表すことが可能であると考えられる用法、
すなわち、本論文で実施した2つの調査で対象にした用法のみに限定した。
図28 格助詞×意味順指導法のイメージ
また、図28のように、筆者が授業を行う際に、黒板・ホワイトボードで意味順の主語・動 詞・相手・対象・場所・時間を示しているマグネットには「誰が(~が/~に/~で)」や「ど こ(~を/~に/~で)」などと記されており、学習者に、毎回主語を示すのが「~が」・「~
に」・「~で」などといったことを意識させることに留意した。また、文産出の指導を行う際 は、図28のような提示を行うことで、日本語文の文頭の名詞句が必ずしも英語の主語と一致 しないことや日本語には空主語の文が存在し、英語では原則空主語の文が見られないことに 関する気づきを学生に促すようにした。
≪「で」の用法について≫
① 動作の主体(「誰が」)…組織や団体などが中心
② 場所(「どこ」)
③ 手段・方法・道具(「どうやって」)⇒特に表れる場所が決まっていないので注意!!
【イメージ】
誰が する・です 誰・何 どこ いつ
~で
~で
どうやって
~で
Q1. 次の日本語文の下線部が「誰が」・「どこ」・「どうやって」のどれを示しているのかに気をつけ ながら、【 】内の語句を並び替えて英文を完成させる。
(1) 図書館でたくさんの学生が勉強をしています。【are studying / at the library / many students】.
誰が する・です 誰・何 どこ いつ
(2) 私たちでその仕事を今夜終わらせる予定です。【are going to finish / the work / tonight / we】.
誰が する・です 誰・何 どこ いつ
図29 助詞「で」を含む日本語文を扱った授業における授業資料の一部
図27を踏まえ、実践授業では、格助詞「が」・「を」・「に」・「で」の用法と英語で表現する 方法を指導した。なお、図29は、格助詞「で」の用法と「~で」の要素が、どの意味役割に 該当するのかを導入・指導するための授業資料の一部である。このように、まず、格助詞「で」
の示す 3 種類の意味を提示し、また、英語で表現する場合に意味順におけるどの位置に置か れるかを指導した。授業では、最初に「~で」にあたる部分が英語で表現する際にどこに置 かれるのかを示し、整序問題や英訳問題をとおして、助詞の意味の定着を図った。
さらに、「Xが」・「Xを」・「Xに」・「Xで」という要素は、文頭に置かれる場合、「Xは」な どという主題化された形で表示されることを指摘した。まず、文頭のXをマークする「は」
が、主格を示す「が」に置き換えられるかどうかをチェックした。もし、「が」への置き換え
が可能ならば、Xは英語における主語と考えてよいものとし、置き換えができない場合、「は」
がどの助詞と交替したかを指導した。授業では、図30の授業資料を使い、主題化されている 要素や日本語文中で表されていない「誰が」(主語)について解説を行っていくことで、学習 者に対して、「は」がどの助詞と交替したものなのかということと、また、英語における主語 の要素が日本語文中に表されていない場合にその要素を補足しなければならないということ を明示的に指導し、語句整序問題や和文英訳問題などで定着を図ることを目指した。
Q2. 次の日本語文の□部分を「が」に置き換えられる場合は〇、できない場合は×をつける。また、
< >の語句を用いて、英語で表現する。
Point:「は」が「が」に入れ替えて意味が通れば、その要素が「誰が」になる。
それ以外の場合は別の「誰が」の要素を探そう!
(1) [ ] その図書館は新しい催しを計画している。<a rare event / is planning / the library>
誰が する・です 誰・何 どこ いつ
(2) [ ] その図書館はWi-Fiを使うことができる。<the library>
誰が する・です 誰・何 どこ いつ
(3) [ ] インターネットはたくさんの情報が得られる。<a lot of infromation / the Internet>
誰が する・です 誰・何 どこ いつ
図30 主題化された日本語文を扱った授業における授業資料の一部
なお、「が」に置き換えが可能な場合であっても、「~が」が状態の対象(意味順における
「誰・何」にあたる部分)を示す場合があり、注意が必要である。したがって、授業実践にお いて、格助詞「を」・「に」・「で」を扱う前に、格助詞「が」の用法を最初に取り扱った。その 際は、図 31のような授業資料を用いて、「~が」が必ずしも主語になるわけではないという ことを示し、「~が」が「誰・何」に該当する際は「する・です」に入る動詞句がある程度決 まっていることも説明した。さらに、「する・です」(動作・状態)は「誰が」しているのか
(動作・状態の主体)を考えることで、「~が」の部分が「誰が」と「誰・何」のどちらに該 当するのかを判断することが可能になる余地が残るように指導した。ただし、第 2 章で示し たとおり、状態の対象を示す「~が」が主題化される場面は非常に限られるため、主題と主 語を区別するための「が」を用いたチェックを行うことは、動作主と述語の対応関係をきち んと身につけられていれば、さほど問題がないと考える。
≪「が」の用法について≫
① 動作の主体(「誰が」)…組織や団体などが中心
② 状態の対象(「誰・何」)⇒「する・です」の部分に何が置かれるかをチェック!!
【イメージ】
誰が する・です 誰・何 どこ いつ
~が
need, want,
like, can … ~が
図31 助詞「が」を含む日本語文を扱った授業における授業資料の一部