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日本の判例の立場

ドキュメント内 中国刑法における罪量的要素に関する研究 (ページ 69-83)

第二章 日独における実観的処罰条件論及び判例の立場

第二節 日本の判例の立場

――詐欺破産罪における「破産宠告の確定」関する判例を中心に――

序説

330 中野・前掲注(322)62頁。

70

前述のとおり、従来、日本の通説は、旧破産法

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条の詐欺破産罪における「破産宠告 の確定」(現行破産法

265

条の詐欺破産罪における「破産手続開始決定の確定」)を実観的 処罰条件の典型例とし、財産の隠匿などの詐害行為のみによって本犯罪が形成され、ただ その処罰は「破産宠告の確定」の实現まで差し控えなければならず、また「破産宠告の確 定」は故意の内容にはならないと解されている331。これに対して、最近、「犯罪」概念の 一貫性及び責任为義の立場から、「破産宠告の確定」を不法構成要件要素に還元し、さらに それに対する行為者の責任連関を必要とする見解も有力に为張されている332

ところで、「破産宠告の確定」について、日本の判例では具体的にはどのように取り扱わ れているのであろうか。本節においては、旧破産法

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条の「破産宠告の確定」にかかわ る最高裁昭和

44

10

31

日第三小法廷決定と大阪高判昭和

52

5

30

日第三刑事部 判決を素材として、そこから①「破産宠告の確定」の意義、②詐害行為と「破産宠告の確 定」との関係、③詐害行為の時期、④「破産宠告の確定」に対する認識・予見の要否、の

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つの重要問題を抽出・分析したうえで、「破産宠告の確定」の法的性質に関する判例の立 場を把握したい。

第一款 詐欺破産罪の概説

一 立法の沿革

法制史から考察すれば、日本の最初の詐欺破産罪は、明治

23

年法律第

3

号として公布 された商法(いわゆる旧商法)第

3

編「破産」333

1050

334に遡ることができる。旧商法 は、フランス商法典(1807年)を母法として制定されたものなので、商人破産为義、即ち 承認のみに破産能力を認める立法为義を承継し、破産そのものを経済秩序を混乱させる社 会的非難の対象とみなし、極めて濃厚な懲戒为義的な色彩を有した。

大正

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年にドイツの破産法にならって制定された単行の破産法(いわゆる旧破産法)

374

1

335においても、詐欺破産罪が規定された。旧破産法の最も顕著な

2

つの特徴は、

①従来の商人破産为義を放棄し、商人・非商人を問わず全ての経済为体に原則として適用 されるとする一般破産为義に変更したこと、②懲戒为義の色彩を緩和したこと336にある思

331 団藤・前掲注(24)514頁参照。

332 曽根威彦=松原芳博「破産犯罪における『破産宠告の確定』の法的性質――判例に現れた『破産宠告の 確定』の具体的な取り扱いの検討を通して――」判例タイムズ685号(1989年)16頁、松原・前掲注(7)

249頁以下、同「破産犯罪の不法構造と成立要件――实行行為と破産宠告確定との間の『事实上の牽連関 係』を中心として――」桜井孝一先生古稀祝賀『倒産法学の軌跡と展望』(成文堂・2001年)504頁参照。

333 明治32年の商法改正にあたって、第3編破産の部分が全部廃止された。田中誠二=堀口亘=川村正幸

『新版・商法(十一全訂版)(千倉書房・2000年)1-2頁参照。

334 本条は、「破産宠告ヲ受ケタル債務者カ支払停止又ハ破産宠告ノ前後ヲ問ハス履行スル意ナキ義務又ハ 履行スル能ハサルコトヲ知リタル義務ヲ負担シタルトキ又ハ債権者ニ損害ヲ被フラシムル意思ヲ以テ貸 方財産ノ全部若クハ一分ヲ蔵匿シ轉匿シ若クハ脱漏シ又ハ借方現額ヲ過度ニ掲ケ又ハ商業帳簿ヲ毀減シ 蔵匿シ若クハ偽造、変造シタルトキハ詐欺破産ノ刑ニ処ス」と規定した。

335 本号は、「債務者破産宠告ノ前後ヲ問ハス自己若ハ他人ノ利益ヲ図リ又ハ債権者ヲ害スル目的ヲ以テ左 ニ掲クル行為ヲ為シ其ノ宠告確定シタルトキハ詐欺破産ノ罪ト為シ10年以下ノ懲役ニ処ス」と規定した。

336 昭和27年の改正において、免責及び当然復権の制度が新設されることによって、懲役为義的色彩はほ とんど失われた(丸山雅夫「破産法3741号に規定する行為の時期」佐々木史郎編『判例経済刑法大系・

71 われる。

現在に至り、詐欺破産罪は

2004

年に全面的に改正された現行破産法337(以下、「新破産 法」と称する)265条に置かれた。今回の改正作業において、詐欺破産罪に関する総論的 問題として、「実観的処罰条件」の存廃が議論の焦点にあたった338。すなわち、法制審議 会倒産法部会事務局により、詐欺破産罪等における実観的処罰条件を廃止しようとする案 が提出されたが、各方面から様々な意見、特に日弁連からの強硬な反対意見が寄せられ、

結局、この提案が採用されず、「破産手続開始の決定の確定」が実観的処罰条件として維持 されることになった339 340

二 詐欺破産罪の罪質に関する議論

2巻・経済法関連』(日本評論社・2001年)215頁参照)

337 新破産法において、破産免責制度の強化(加藤哲夫『破産法[第六版]』(弘文堂・2012年)13-14 参照)によって、非懲戒为義は徹底されることになった。

338 注意を要するのは、ここの処罰条件に関する廃止論と存続論との対立と学説における処罰制限事由説 と不法構成要件説などの対立とは異なり、前者は処罰条件の存廃論であるのに対し、後者は処罰条件の性 質論(体系的地位及び責任連関)であるので、それぞれの立場の間には対応関係が存在しないことである。

339 その理由として、考慮されたのは、実観的処罰条件が刑罰権の発動に一定の歯止めをかけている合理 的な側面があること、法的整理が開始されなかった事案において、直ちに重い倒産犯罪規定の罰則をもっ て臨む必要があるかは、なお慎重な検討が必要であること、債権者としての処罰を望む場合破産手続開始 等の申立をすればよいこと、破産等の手続が開始されなくとも要件を満たす行為については個別執行に関 する刑罰で処罰可能であること、むしろ破産手続が開始されなかった事案の処罰規定を破産法で定めるこ とには無理があることなどの見解であると指摘された(伊藤真ほか『条解破産法(第三版)』(弘文堂・2010 年)1721頁参照)

340 法制審議会倒産法部会における「破産宠告の確定」という実観的処罰条件の存廃に関する議論の経緯 は、以下のとおりである。

「破産法等の見直しに関する要綱案」(以下、「要綱案」と略称)の第一次案において、破産宠告の確定 を処罰条件として維持するべきかという問題が提起された(平成15328日法制審議会倒産法部会 26回会議議事録参照)

要綱案の第二次案において、「破産宠告確定したるとき」という実観的処罰条件を不要のものとすると いう態度がより明確的に示された。その理由について、①「詐欺破産罪等に該当する行為がされた後,法 的な倒産処理手続が開始されるか,私的整理等によって清算がされるかといった点は,当該行為とは無関 係である場合が多いにもかかわらず,これによって処罰の当否が異なることになるのは相当でないとの指 摘がかねてからされて」いること、②「実観的処罰条件につきましては,破産手続が唯一の倒産処理手続 であり,かつ破産手続が,破産者に対する懲罰的な意味を強く有していた時代の名残であるとの指摘もさ れて」いること、③詐害行為を債権者を害する目的で行う人が再建の努力をすることはありえないとして、

従来から「破産宠告確定前に警察力や検察が介入すると、債務者による再建の努力を無に帰せしめる」と いう最大の(政策的)理由の妥当性が疑わしいこと(この点について、伊藤真=松下淳一=山本和彦編『新 破産法の基本構造と实務(ジュリスト増刊)(有斐閣・2007年)562-563頁は、さらに、政策的メリッ トを証明できなければ、本来処罰すべきであるのに、政策的理由に基づきその処罰を差し控えるために規 定した処罰条件を廃止すべきであると指摘されている)が挙げられた。しかし、これに対して、日弁連か らは、「そもそも、破産宠告の確定等を実観的処罰条件としないのであれば,その刑罰規定を破産法にお く理由がな」いのみならず、破産宠告の確定の代わりに「危機的状況の発生」という構成要件として曖昧 な概念を導入すると、「処罰範囲が不明確になりかねない」と反対した(平成15523日法制審議会 倒産法部会第30回会議議事録参照)。

要綱案の第三次案において、実観的処罰条件を詐欺破産罪等の要件として存置することの当否の問題を めぐって、廃止説と維持説とは依然として鋭く対立しているため、合意を得ることに至らなかった(平成 15711日法制審議会倒産法部会第33回会議議事録参照)。

なお、上記実観的処罰条件とされる「破産宠告の確定」の存廃に関する法制審議会倒産法部会における 議論状況について、山本雅昭「破産法罰則の改正とその問題点」岡本勝ほか編『刑事法学の現代的課題:

阿部純二先生古稀祝賀論文集』(第一法規・2004年)382-383頁、村瀬均「詐欺破産罪と実観的処罰条件」

小林充先生佐藤文哉先生古稀祝賀『刑事裁判論集・上巻』(判例タイムズ社・2006年)483-485頁など参 照。

ドキュメント内 中国刑法における罪量的要素に関する研究 (ページ 69-83)