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実観的処罰条件論の展開

ドキュメント内 中国刑法における罪量的要素に関する研究 (ページ 44-69)

第二章 日独における実観的処罰条件論及び判例の立場

第一節 実観的処罰条件論の展開

第一款 「実観的処罰条件」概念の端緒

1 「実観的処罰条件」は、そもそも刑事法上の 1

つの現象である。歴史的に考察すれ

ば、実観的処罰条件は、古代の裁判官又は権力者の刑事裁量権に由来するものである。す なわち、古代ヨーロッパの刑事法は、裁判官又は権力者が、犯罪者の为観面の事情やその 他の特定の情状や政治的考慮などにより、彼に刑罰を科するか否かを決定することを認め ている。したがって、犯行が処罰されるべきかどうかを基礎付ける実観面における特別な 条件は、当該犯罪の可罰性の必要条件として法律に規定された195、と解される。

2 近代に至って、刑法典における実観的処罰条件という特殊な法的現象の存在につい

て、初めて言明したのはフランケであった。彼は、ドイツ帝国刑法典(Strafgesetzbuch für

das Deutsche Reich vom 15. Mai 1871)の諸規定への考察に基づき、通貨偽造罪と内乱

罪及び反逆罪のみ、故意・過失の可罰的な行為が刑罰を基礎付ける唯一の事实であるとし、

その他の大部分の刑罰法規において、刑罰請求権の発生のために、なお他の諸事实または 尐なくとも

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つの他の事实が付加されなければならない196、と指摘した。

しかし、フランケは、実観的処罰条件の存在を明らかにし、そして、いくつかの適例197

195 杜里奥·帕多瓦尼(Tullio Padovani)(陳忠林訳)『意大利刑法学原理(注評版)』(中国人民大学出版 社・2004年)339-340頁参照。

196 Francke, Das Deutsche Strafgesetzbuch und die Strafsachen aus Handlungen der Zeit vor dessen Gesetzeskraft. Zugleich ein Beitrag zur Systematik des neuen Deutschen Strafrecht, Goltdammers Archiv für Strafrecht. Bd. 20 (1872), S. 14ff.

197 フランケによれば、(ⅰ)内乱罪・反逆罪及び通貨偽造罪以外の外国人の犯罪行為に対する刑罰請求権 のための行為地の内国性、または如上の例外行為が外国で行われた場合の行為者が内国人たること、さら に外国におけるドイツ人の重罪及び軽罪の遂行に対する当該外国法による可罰性(ドイツ刑法第4条)

(ⅱ)重懲役ないし最低五年の拘禁刑に関するかぎりにおけるドイツ刑法87条の刑罰請求権のための企 図した戦争の勃発、(ⅲ)ドイツ刑法1542項の刑罰請求権のための虚偽の証言により陥穽せられた者 に対する死刑・重懲役などの判決、(ⅳ)ドイツ刑法170条及び172条の刑罰請求権のための離婚という 結果、(ⅴ)ドイツ刑法281条ないし283条の刑罰請求権のための行為者ないしは可罰的行為により庇護

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を羅列したことにとどまり、その論理づけについては論及しなかった。

3 体系の側面から実観的処罰条件への理論付けを試みた第一人者は、ビンディングで

あった。彼は、『規範及びその違反』において、規範と刑罰法規を峻別し、規範は服従を要 求する国家の命令禁止であり、刑罰法規は規範に対する侵害に刑罰を結びつけるものであ る、と指摘し198、さらに、1871 年ドイツ帝国刑法典への考察を通じ、規範違反行為とは 全く無関係――したがって、当該規範違反行為との間に因果関係の存在が不要とされる―

―であるにもかかわらず、その可罰性を条件づける事情を見出し、それを「二重に条件づ けられた刑罰威嚇(doppelt bedingte Strafdrohungen)」と命名した199。ビンディングの 独自の規範論によれば、故意・過失は規範違反行為のみに及ぶ200ので、規範違反行為の外 部に位置づけられた実観的処罰条件について、行為者がそれを認識又は予見する必要がな く、その錯誤も故意を阻却しえないということになる201

ところが、当初、ビンディングは、大量のそもそも実観的処罰条件に属せざるをえない 事情202までそれに含まれたため、その範囲が相当広く認められ、しかも、実観的処罰条件 と訴訟条件との区別も不明確になってしまった。それから、『刑法提要』において、ビンデ ィングは、実観的処罰条件を「刑罰の2次的条件(zweite Bedingungen des Strafrechts)」

203と称し、上記の2点の欠陥を踏まえ、その所論を補完した。すなわち、一方において、

実観的処罰条件の範囲を、①ドイツ帝国刑法典

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号前段における「行為地法によ る科刑」の事实、②同号後段における「外国官庁の告訴」、③同法

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条、103 条におけ る「相互性の保障」の3つの場合に限定し204、他方において、実観的処罰条件と訴訟条件 との相違について、①前者の不存在は訴訟科刑の成立を妨げないが、後者が欠如する場合、

無罪判決に至る、②前者は犯罪行為時に存在することが必要とされるが、後者は公訴提起 時に存在することが要求される、③前者の消滅は刑罰権の消滅を意味するが、後者の消滅 は1つの訴訟関係の終息を意味するにすぎず、刑罰権の消滅をもたらさない、④法改正に 当たって、前者なら軽い法を適用すべきであるが、後者なら新法が適用される205、などの 点が指摘された。

このように、ビンディングは、独自の規範論に立脚し、実観的処罰条件を規範違反行為 の外部に置き、しかも、それに対する責任連関を不要と解している。このような体系的位 置づけは、実観的処罰条件論の幕を開き、従来の通説である処罰制限事由説の原型が見出 され、判例からの支持206も得られるようになった。しかし、ビンディングによる実観的処 罰条件論の展開は、以下の点において妥当でないと思われる。すなわち、まず、規範違反 行為の可罰性あるいは刑罰権の発動を当該規範違反行為とは全く関係のないとされる実観

せられた者の支払い停止などが挙げられた(Francke, a. a. O. (Anm. 196), S. 33ff.)。

198 Karl Binding, Die Normen und ihre Übertretung, Bd. I, 1. Aufl. (1872), S. 4ff. ; ders., Handbuch des Strafrechts, Bd. I. (1985), S. 499.

199 Karl Binding, Die Normen und ihre Übertretung, a. a. O. (Anm. 198), S. 130.

200 Karl Binding, Die Normen und ihre Übertretung, a. a. O. (Anm. 198), S. 232f.

201 Karl Binding, Die Normen und ihre Übertretung, a. a. O. (Anm. 198), S. 185.

202 例えば、ドイツ帝国刑法170条の婚姻詐欺罪における「婚姻が解消した場合」、172条の姦通罪におけ る「離婚が成立した場合」、210条の決闘罪における「決闘が行われた場合」などが挙げられていた(Karl Binding, Die Normen und ihre Übertretung, a. a. O. (Anm. 198), SS. 130-131.)。

203 Karl Binding, Handbuch des Strafrechts, a. a. O. (Anm. 198), SS. 588-589.

204 Karl Binding, Handbuch des Strafrechts, a. a. O. (Anm. 198), SS. 591-592.

205 Karl Binding, Handbuch des Strafrechts, a. a. O. (Anm. 198), S. 596ff.

206 RG 3 457, RG 8 171, RG 9 150.

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的処罰条件にかからせることは、論理矛盾であるといえよう。次に、実観的処罰条件は、

構成要件要素(Tatbestandsteilen)として承認されながら、規範違反行為の外部に位置づ けられる以上、刑罰法規に予定されるすべての構成要件要素における規範違反行為の要素 たりうるものとそうでないものを区別しなければならない。なお、広範な実観的処罰条件 を3つの場合のみに縮減する根拠も、明確に論及されなかった。かくして、実観的処罰条 件に対する恣意的な判断が招来しやすい上、責任の包摂する必要のある構成要件要素も確 定しがたいであろう。

4 ビンディング以降、実観的処罰条件を犯罪行為の外部に位置づけ、それに対する責

任関連を不要とする理解は、一般的に承認されていた207。例えば、リストは、『ドイツ刑 法教科書』において、「多数の場合において、立法者は、可罰性の発生を単なる法律秩序に 対する違法且つ有責な侵害のみに結びつけるのではなく、なお犯罪行為自体から独立した 外部的な、付加されるべき事情の存在に依拠せしめている。私は、これらの事情を処罰条 件と命名する」208と述べた。このような処罰条件から、以下の解釈論上の帰結が導き出さ れた209。すなわち、①故意にせよ、過失にせよ、行為の外部に存在する処罰条件を包含し ない。②法律に規定される処罰条件が欠如している限り、可罰的な犯罪行為のみならず、

当該犯罪の未遂も問題とならない。ただ、処罰条件が存在すれば、着手未遂あるいは終了 未遂にとどまった犯罪行為に対し、未遂として刑法

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条より処罰しうる。③処罰条件が 欠如している限り、国家の刑罰権は発生せず、当該行為は法律上の意味における可罰的な ものではない210。④犯罪行為の实行そのものが疑われる場合、処罰条件は存在しない211

⑤刑罰の必要条件(訴訟条件)の存否は刑事訴訟法の意味における罪責問題であるため、

それについて同法

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条を適用すべきである。なお、実観的処罰条件の範囲について、リ ストの見解には変遷が見られる。すなわち、前記の『ドイツ刑法教科書』(第

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版)にお いて、リストは、結果的加重犯における加重的結果を「犯罪行為そのもの及びその諸構成 要素とは関係がない」として実観的処罰条件と解する212ため、処罰条件の範囲が広く認め られた213が、同書第

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版以降(とくに第

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版)において、加重的結果は「狭義的処罰条 件」と称された実観的処罰条件から明白に区別される214ことより、処罰条件の範囲が大幅 に限定されるようになった。

207 Günter Bemmann, Zur Frge der objektiven Bedingungen der Strafbarkeit (1957), S. 42ff.

208 Franz von Liszt, Lehrbuch des deutschen Strafrechts, 2. Aufl. (1882), S. 168ff.

209 Franz von Liszt, Lehrbuch des deutschen Strafrechts, 26. Aufl. (1996), SS. 294-295.〔中国語訳とし て、許久生訳『徳国刑法教科書(修訂訳本)(法律出版社・2006年)323-324頁参照〕

210 したがって、(イ)処罰条件が発生する前に、刑事訴追はもとより、法的効果を伴う申告も提出しえな い。(ロ)処罰条件が欠如すれば、当該行為に対する共犯又は庇護は不処罰である。(ハ)没収や破棄や物 品使用の禁止などの措置を適用しえない。なお、処罰条件が発生すれば、その効力が行為着手時に遡る。

211 したがって、(イ)行為の終了と処罰条件の発生とは関係がない。(ロ)犯罪の時間・場所と処罰条件 発生の時間・場所とは関係がない。(ハ)刑事訴追の時効は、処罰条件の発生を条件としない。(二)犯罪 行為終了後、処罰条件発生前における行為者への幇助は、共犯ではなく、庇護である。

212 Franz von Liszt, a. a. O. (Anm. 208), S. 169.

213 リストによれば、①ドイツ帝国刑法102条、103条における「相互性の保障」、②139条における「申 告を怠った犯罪の实行」、③172条における「離婚」、④210条における「決闘の实行」、⑤178条、227 条、2393項等結果的加重犯における加重的結果の発生、⑥ドイツ破産法209条における「支払停止」

が、処罰条件として挙げられた(Franz Liszt, a. a. O. (Anm. 208), S. 168f.)。

214 狭義的処罰条件と加重的結果との相違について、狭義的処罰条件が存在しない場合、刑罰権が発生し ないのに対し、結果的加重犯において、加重的結果が発生しなくても、基本犯を処罰しうるというところ に求められている(Franz von Liszt, Lehrbuch des deutschen Strafrechts, 4. Aufl. (1891), S. 193.)

ドキュメント内 中国刑法における罪量的要素に関する研究 (ページ 44-69)