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実観的処罰条件に関する中国の司法实務の立場

ドキュメント内 中国刑法における罪量的要素に関する研究 (ページ 30-44)

第一章 中国における実観的処罰条件論

第三節 実観的処罰条件に関する中国の司法实務の立場

前述のように、現在、日本やドイツに比べ、中国においては実観的処罰条件に関する学 説が様々に为張されているが、それらは論理上の検討にとどまり、判例研究は一切見られ ない。

しかし、実観的処罰条件にあたるとされる諸事情について、中国の司法实務に如何に取 り扱われているかについて整理を行っておくことは有意義であると思われる。そこで、本 稿は、中国刑法

129

条の銃器紛失不報告罪(または同法

128

条の銃器不法貸出貸与罪141) における「重大な結果」、同法

186

条の違法融資罪における「重大な損失」及び同法

264

条の窃盗罪における「比較的大きい数額」と「数回の窃盗」など広汎に実観的処罰条件の 典型例としてに掲げられたものを素材にし、中国の司法实務の立場を整理したい。

なお、本題に入る前に、まず背景として紹介する必要があるのは、中国において、最高 人民法院の判例には拘束性をもたず、単なる指導意見または参考資料としての意義を有す るにすぎないことである142。これに対して、むしろ裁判または検察の实務における法律・

法令の適用に関する具体的な問題に対する最高司法機関(最高人民法院及び最高人民検察

140 松原・前掲注(7)43頁以下、北野「実観的処罰条件(四)~(七・完)・前掲注(6)261号(1995 年)1頁以下、262号(1996年)79頁以下、271号(1996年)1頁以下、272号(1997年)

41頁以下参照。

141 中国の司法实務において、刑法129条の銃器紛失不報告罪は極めて稀な犯罪であって、尐なくとも 1997年新刑法が公布されてから2004年まで、『刑事審判参考』や『人民法院案例選』や『最高人民法院 公報』など権威のある公刊物に掲載されている判例は1つもなかった(趙秉志編『中国刑法案例與学理研 究[第二巻]』(法律出版社・2004年)194頁参照)。そのため、本論文は、銃器紛失不報告罪と表現も意味 もほぼ同じである「重大な結果」といった要素を予定する刑法1283項の銃器不法貸出貸与罪に関する 判例を補足として挙げ、实務の立場の分析に資したい。

142 1985年から、中国の最高人民法院は定期的に「最高人法院公報」を公布し、典型的な意義を有する裁

判例を「モデルケース」として掲載することにした。その中には、本件判決は「法律の適用が正しく、審 理手続きが合法であって、各級人民法院の参考に資する」という説明が常に用いられている(孫国華=朱 景文編『法理学(第三版)』(中国人民大学出版社・2010年)239頁参照)

なお、中国において、「判例」は、将来の事件を裁判する際先例として依拠しうる判決であると解され ているので認められないのに対し、ただの典型例の意義を有する「案例」という表現が一般的に用いられ ている。この点を含め、中国の案例制度について、伹見亮「『案例指導』の現状と機能――『中国刑事事 案研究』の始にあたり」比較法学433号(2010年)1頁以下、小口彦太「最高人民法院指導性案例 1~8」比較法学463号(2013年)340頁以下参照。

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院)による司法解釈あるいは他のガイドラインたる規定が、普遍的な拘束性と適用性を有 する。これに鑑みれば、各犯罪類型に関する判例を紹介するのに先立って、関連する法規 や司法解釈を列挙・分析することが有益であろう。

第一款 銃器不法貸出貸与罪及び銃器紛失不報告罪におけ る「重大な結果」

一 刑法及び関連規定の内容とその帰結

中国刑法

128

3

項(銃器不法貸出貸与罪)は、「法により銃器を装備する者が、銃 器を不法に貸出し又は貸与し、重大な結果を生じさせたとき、第

1

項により処罰する。」 と規定する。

本犯罪について、「最高人民検察院、公安部による公安機関の管轄する刑事案件の立件・

追訴の標準に関する規定(一)」(2008年)5条

2

項は、「法により民用銃器を装備する者 又は組織体は、銃器を不法に貸出し又は貸与し、次に掲げるいずれかの事情を生じさせた とき、立件・訴追する。①人を軽傷以上に死傷させる事故を起こした場合。②銃器を紛失 し、又は盗まれ、又は奪われた場合。③銃器が他人に自らの違法・犯罪活動のために使用 された場合。④その他の重大な結果を生じさせた場合。」と規定する。

また、中国刑法

129

条(銃器紛失不報告罪)は、「法により公務用の銃器を装備する者 が、銃器を紛失して即時に報告せず、重大な結果を生じさせたとき、3 年以下の有期懲役 又は拘役に処する。」と規定する。

本犯罪について、上記規定

6

条は、「法により公務用の銃器を装備する者が、銃器を紛 失して即時に報告せず、次に掲げるいずれかの事情を生じさせたとき、立件・訴追する。

①紛失した銃器が他人に使用され、人を軽傷以上に死傷させた場合、②紛失した銃器が他 人に自らの違法・犯罪活動のために使用された場合、③その他の重大な結果を生じさせた 場合。」と規定する。

このように、以上の規定からは、2つの帰結が導かれる。すなわち、第

1

に、「重大な結 果」は、貸出・貸与したまたは紛失した銃器が第三者によって自らの他の違法行為や犯罪 に使用され、またはそれにより他人に死傷を負わせることを意味する143。ここから、「重 大な結果」は、尐なくとも行為者の实行行為との間に直接的な関連性がなく、第三者の介 在的行為またはそれによって惹起された結果であることが明らかである144。第

2

に、「重 大な結果」は、实体法上の犯罪構成要件(実観面)要素であって、それが発生しなければ 犯罪が成立しえないとともに、手続法上の訴追条件でもあって、それが発生しなければ立 件・訴追しえないことになる。

143 劉家琛編『刑法(分則)及配套規定新釈新解(上)(第四版)』(人民法院出版社・2006年)301頁、

郎勝編『中華人民共和国刑法釈義(第4版)』(法律出版社・2009年)133頁参照。

144 この点は、前述の故意必要説も認められる。黎・前掲注(4)88-89頁参照。

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二 实務の立場

1 事例の概要とその結果

事例ⅰ145:射撃場のマネージャーLは、1年に

1,000

元の報酬で拳銃を友人

H

に貸し出 した。その後、空港の検査の際、Hが拳銃を所持していることが発見された。但し、この 間、Hは他の違法行為や犯罪などを一切しなかった146

事例ⅱ147:被告人である警察官

X

は、拳銃と弾丸をホテルに置いたまま立ち去り、同ホ テルの清掃員

L

はそれらを用いて人を殺した。

法院は、被告人

X

に対して、刑法

129

条の銃器紛失不報告罪で

2

年の有期懲役(執行猶 予

3

年)を言渡した。

2 検討

上記

2

つの事案は公開されたものではないので、その判決書(事案ⅱも含め)が全く検 索不可能であるにもかかわらず、判例教材に示されている判決結果を見る限り、实務の立 場と前記の法規からの帰結に一致していると判断できよう。すなわち、事案ⅰは消極面か ら、事案ⅱは積極面から、貸出・貸与したまたは紛失した銃器が第三者に自らの違法行為 や犯罪に使用されたこと、あるいはそれにより人の死傷という危害結果を生じたことは、

銃器不法貸出貸与罪または銃器紛失不報告罪の成立要件であって、それが発生しなければ、

当該行為がそもそも犯罪として訴追しえないことを裏付けた148

この結論は、学説にも一般的に承認されている。すなわち、事案ⅰにおいて、被告人

L

は不法に銃器を貸出したものの、その行為により重大な結果を招かなかったため、結果要 件が満たされず、銃器不法貸出貸与罪は成立しないが、当該行為に対して公安機関により 行政罰に処されるべきであると解される149。事案ⅱにおいて、被告人

X

は「処分を受ける ことに心配するため、報告をせず、私的に探したが、第三者

L

がその拳銃と弾丸を持ち去 り、結果、一人の死亡の重大な結果を生じさせた。したがって、Xの行為は銃器紛失不報 告罪に成立する。被告人に対する検察院と法院の認定と処理は妥当である」150と指摘され た。

一方、「重大な結果」に対する責任連関の要否が、議論の焦点となっている。なぜならば、

145 趙・前掲注(141)185頁、王『刑法(第四版)・前掲注(17)194頁参照。

146 本件における友人Hの銃器不法所持行為自体が、中国刑法1281項の銃器弾薬不法所持罪を構成す る余地はあるが、この場合、上記規定52項(特に③における「使用」概念)に該当しないため、本犯 罪は成立しないと思われる。

147 劉方編『刑罰適用例説』(中国検察出版社・2000年)54-55頁、熊選国編『公検法刑事弁案重点難点 問題釈解』(中国方正出版社・2005年)529頁参照。

148 この点に関して、人民法院出版社に出版された『刑法(分則)及配套規定新釈新解(上)(第四版) 297頁において、銃器不法貸出貸与罪は、「本犯罪が成立するためには、法により民用銃器を装備する者 又は組織体が、銃器を不法に貸出し又は貸与した後、なお更重大な結果の発生も必要である。もし重大な 結果が発生しなかった場合、あるいは一定の結果が発生したが、重大な程度まで達さなかった場合、本犯 罪が成立しえず、他の関連する規定を以って処理するほかならない」と解されている。人民法院出版社の 特殊な地位に鑑みれば、この説明は法院の一般的な立場を代表しうると考えられよう。

149 王『刑法(第四版)』・前掲注(17)175頁、趙・前掲注(141)188頁参照。

150 劉・前掲注(147)54頁。熊・前掲注(147)529頁も同立場を採用している。

ドキュメント内 中国刑法における罪量的要素に関する研究 (ページ 30-44)