4)要
保護児童対策地域協議会 での援助展開実際の援助の展開は、個別ケース検討会議を中心に行われていることが多い。個別ケー ス検討会議は、子 どもと親のそれぞれの関係機関の担当者か ら構成され、この会議におい て参加者は互いが持つ情報を交換・共有 し、「何が問題になつているのか」、「課題は何か」
をアセスメン トする。そ してその結果を基に援助計画が立て られ、役割分担が話 し合われ る。そ して、ケースロ標 と援助課題が提示され、共有される
(加
藤,2004)。
理想的な個別 ケース検討会議における手順およびケースマネージメン トの内容について、加藤(2005)
および「要保護児童対策地域協議会
(子
どもを守るネッ トワーク)ス
ター トアップマニュア ル」(厚
生労働省,2007)を
参考に図 1‑2に まとめた。図 1‑2 個別ケース検討会議におけるケースマネージメン トプロセス
[加藤
(2∞5)・厚生労働省
(2∞7)を参考に筆者が作劇
個別ケース検討会議には、「該当要保護児童に対 して直接関わ りを有 している担当者や今
背 長 理 解 アセスメント
〔 危跛度・緊急 度 の判断〕
1主担 当機 関・主 たる直脚 薇 籠)・キーバーリン 覇輛l・とり書と
nln 第 1回 個別ケース検討会議
第 涸 以降の
f□別ケース検討会議
22
第1章
日本の児童虐待施策について
後関わ りを有する可能性がある担当者」が出席 し、「具体的な援助の内容」を検討する。こ のケースマネージメン トプロセスの内容にはソーシャルワークのケースマネージメン トの プロセスである情報収集、アセスメン ト、援助計画作成、評価が含まれている。このプロ セスはソーシャルワークの専門的な直接援助技術 (Direct Practice)に あた り、
NASWが
発行 したガイ ドラインにおいても「ケースマネージメン トはソーシャルワークの専門性に おいて価値、知識、技術の基礎に当たるものである」と記 されてお り、
(NASW Case Management
丁ask Force,1984,p.3)本
来は、高いソーシャルワークの専門性を必要 とするはずであ る。 しか し、実際には、先述 したように、地域協議会におけるソーシャルワークの専門性 はあま り期待できるものではない。個別ケース会議でケースマネージャー機能を担 うこと の多い市町村の児童福祉主管課においても、ソーシャルワークの専門性は高いとは言えな い。加藤 (2004,2011)も 調整機関の不在または機能が不十分なために、ケースに対する マネージメン トカやアセスメン トカが不足 していることが課題であると指摘 している。ま た児童相談の中心的窓口になることが多い家庭児童相談室でも決 してソーシャルワークの 専門性は高いものではな く、教育・保育などの周辺領域のバ ックグラウン ドを持つ相談員 が相談業務を行 つているところも多い。これまでの市町村児童相談担当の実態調査結果で も、児童相談担当者の3割が一般事務職であること(加
藤,2007)、
社会福祉士・精神保健 福祉士などの社会福祉の専門資格保持者は大変少な く(加
藤,2007;芝
野 口板野,2007)、
最 も多い専門資格が保健師
(加
藤,2007)や
教員免許(芝
野 口板野ヮ2007)というソーシ ヤルワークの専門性の低さが指摘されていた。平成20年度児童福祉法改正により、調整機 関に児童福祉司たる資格を有する職員や保健師、助産師、看護師等の専門職を配置する努 力義務が課せ られたが、平成21年度の厚生労働省の調査では全体の資格所有者は前年度の 調査結果に比べ、1.7%増加 したに過ぎず、社会福祉士 日精神保健福祉士資格所有者に至っ ては 0。1%増
加 したに過ぎない(厚
生労働省,2009c)。
調整機関におけるソーシャルワー ク専門性確保については、ソーシャルワーク周辺の対人援助領域の専門性を持つ者で補填しようとしているが、それ さえもまだまだ乏 しい状況である。
佐藤 と柏女 (2009)の 市町村に対する調査においては、市町村が感 じている地域協議会 設置のメリッ トとして「情報提供・情報収集が しやす くなつた」
(91.7%)、
「関係機関相互 の信頼関係」(69。8%)が
上位 としてあがつているが、実際の家族に対する援助実践におい て重要な「役害1分
担の明確化」(32.2%)、
「地域への子育て資源検討につながつたJ(11.5%) などの援助機能に直接関するものに対 しては実感が薄いことがわかる。地域協議会は関係者の結びつきを高め、情報提供・収集の場 とな り、情緒的なサポー トとなっているが、援 助の展開についてはまだまだその機能が実感されに くいようである。学校・保育所・保健 所などの各関係機関が本来もつ機能
(例
:学校ならば教育)に
加えて、地域協議会にて与 えられた役割 として、直接、家族に対 して積極的に変化をもたらすような援助を行 うのは かな りの負担を強いるかもしれない。地域協議会で割 り振 られる役割だけでは、関係機関 が実際に家族に変化のきつかけをもたらす「チェンジエージェン ト」となることは大変難しい。
地域協議会の大きな機能 として「情報収集・情報共有」と「役割分担」があげられるが、
その基盤となる関係機関間の連携はいつもスムーズにいっているとは限 らない。特に教育 関係および民生児童委員との連携には困難が生 じることも多い
(山
野,2009)。
情報収集に ついては、2010年3月 に、すべての進行管理台帳に登録されている子どもについて、学校 等の子 どもの所属機関か らの定期的な報告が義務付けられた。わ ざわざ文部科学省と厚生 労働省の両省か らの通知によ り報告が義務付けられたことは、今まで学校等との情報の共 有が うまくできていない場合が多かつたことが起因 していると考えられる。また、個別ケース検討会議を中心に した援助の展開プロセスをみると、この援助の展開 が リスクアセスメン トを中心としたものとなっていることがわかる。児童虐待防止法、市 町村児童相談および地域協議会の運営指針でも早期発見に偏重 しているきらいがあり、地 域協議会自体が子 どもに対するリスクの発見・ リスクの見守 り等の リスクチエックに奔走 させ られている傾向が見 られる。山野による調査 (2009)で も、ネッ トワークがまだ初期 段階の市町村では、情報収集者 としての役割を持つマネージャーが家族の リスクチエック に偏重するあま りにリスクに振 り回され、臨機応変さや細やかな対応が見えにくくなつて しまっている様子が明 らかにされている。 リスクアセスメン トの開発に関 しては、上野 (1996)が分析 していたように、今までのいわゆる「ケースワーク的」な支援アプローチ か ら子 どもの安全を強調 した介入的アプローチヘの転換を図るために必要だつたのかもし れないが、今後も地域の中で暮 らす家族を支えていくような援助を在宅支援に求めるので あれば、子 どもの安全を確保するための リスクアセスメン トと並行 して、家族を中心 とし た包括的なニーズの把握は不可欠だと考える。
24
第 1章
日本の児童虐待施策について
3口 日本の児童虐待在宅支援ケースに対する課題
以上の点を鑑みると、市町村での児童虐待ケースに対する在宅支援について地域協議会 の役害
1は
大変大きいと考えられるが、1)家
族自身の援助過程への参加力ヽまとんど見 られな いこと、2)ソ
ーシャルワーク的な機能を期待される役割の分散、3)中
心 となる調整機関の ソーシヤルワーク専門性の低 さ、4)一部の関係機関に見 られる連携の難 しさ、5)包括的二 一ズの把握の不足などの点が課題として指摘できる。在宅支援を含めた児童相談体十Jが
市 町村に移譲 された大きな理由が家族の生活により近い支援体制が組める点であるのであれ ば、虐待という事象を越えて、子どもが安全にその地域 にこれか らも生活 していくために 家族の Wel卜beingの 向上を目的に置き、家族のよりよい生活のためにはイ可が必要なのか、そのために家族 自身が変化することをどのように援助できるのか、という視点を含めた在 宅支援を展開 していく必要がある。ゆえに、ソーシャルワークの視点を軸に積極的に家族 に働 きかけ、関係機関とともに変化を促す援助を展開 していける在宅支援体制が必要なの ではないだろうか
?児
相および市町村が自らの役割分担を相互に理解 しあい、児童虐待ケ ースとしてではな く、より長期的な、子どもにとってそ して家族にとっての最善の利益を 考えた上での在宅支援の実現が今こそ必要であると考える。そのためには、積極的に「家 族維持」を目的とした在宅支援体制を構築する必要がある。第2章
「家族維持」の具体化のための拠 つて立つ理論 第1節
子 どもの最善の利益
1994年に日本が子 どもの権利条約に批准 して以来、「子 どもの最善の利益
(the best intersts of the child)」
という言葉がよく聞かれるようになってきた。子 どもの権利条 約の第3条の「子 どもの最善の利益」は広義にわたるものであり、「子どもの最善の利益」の概念は実践に用いる時、個人の価値観や規範に基づ く様々な解釈に開かれたものとなつ ている(ノIヽ田倉
,2008)。
だか らこそ、子 どもに対する重要な判断を行 うときは、その判断に対する責任を委ね ら れた大人は「本当に最善のものを子 どもに与えているのか
?」
という質的基準を常に問わ な くてはならない。多 くの場合、第一義的にその判断を委ね られているのは子どもに対 し て親権をもつ親である。 しか し、その親がその責任を全 うできない場合、児童福祉法の第1条 2に
あるように「保護者 とともに」子 どもを育成する公的責任をもつ「国及び地方公 共団体」がその責任を負 う。才村 (2005a)が 指摘するように、この「保護者とともに」児 童を健全に育成する公的責任のあり方は、1997年 に、厚生省より児童虐待ケースに対する 児相による積極的関与の通知が出されて以降、社会的なコンセンサスが強+1的 な公的介入 の方向へ移行 しつつある。この「子どもの最善の利益」という言葉は、その判断を行 う主体がその質的保証を行 う ことを目的としてあえて曖昧に書かれているため、その義務を全 うするには、児童福祉施 策の使い手は必ず「本当に最善の利益を追求 した内容 となっているか」に留意 してお く必 要がある。しか しなが ら、「何が子どもの最善の利益か」の意思決定は、援助者の個人の価 値観に委ね られるにはあま りにも責任が重大な意思決定ではないだろうか
?
1994年に日本が子 どもの権利条約に批准 したことに伴い、この「子どもの最善の利益」
については、新たに法律が作 られることはなく、児童福祉法の運用により対応がなされ現 在に至 っている。未だ、児童福祉法のなかには「子 どもの最善の利益」という文言は含ま れておらず、様々な場でその言葉が多用されるのに、法的に位置付けのないままであり
(芝
野
,2005b)、
子 どもの最善の利益の判断基準に対するガイ ドラインなども、現在の子 ども 家庭福祉には設定されていない(柏
女,2008)。
実際に、厚生労働省の児童福祉に関わる審議会において、「子 どもの最善の利益」という 文言がどのような文脈で用いられたかを、審議会議事録より分析 してみた。
(表
2‑1参照)なお、この表の作成に当たっては、資料として、