2.7 臨床概要
2.7.3 臨床的有効性の概要
2.7.3.4 推奨用法・用量に関する臨床情報の解析
吸入された
NO
は血管内に入ると、速やかにヘモグロビンと結合してNOHb
を形成し、酸化に より亜硝酸塩及び硝酸塩に代謝される。したがって、NO の全身的な曝露は効果的に制限され、全身血圧を低下させずに肺動脈圧を選択的に低下させる。一方、NOHb を形成したヘモグロビン は酸化により
MetHb
に変換される。このように吸入されたNO
は速やかに代謝されるためNO
の 血中動態を検討することは困難であり、NO の血中濃度測定は実施しなかった。しかし、血中MetHb
濃度は、定量的ではないものの、NO 曝露を間接的に表すものと考えられることから、血中
MetHb
濃度を測定し、臨床薬物動態を検討した。INO-01/02試験においてNO
吸入濃度と相関して血中
MetHb
濃度は増加した(図2.7.3.4-1、表 2.7.3.4-1)ことから、吸収された NO
量は吸入 濃度と相関するものと推測された。0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0
0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48
Time (hours)
Met hem o gl o b in Lev el (%)
NO 80 ppm NO 20 ppm NO 5 ppm Placebo
図
2.7.3.4-1
血中MetHb
濃度の推移(平均±SE)-INO-01/02試験-一酸化窒素
2.7
臨床概要- 60 -
表
2.7.3.4-1
血中MetHb
濃度の推移(平均±SD)-INO-01/02試験-NO吸入開始後時間(時間)
前 1 2 3 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48
N 36a 35 36 35 34 33 24 23 20 19 18 17 16 16 14 12
平均 0.38 1.79 2.79 3.43 4.22 5.04 5.08 4.33 4.22 4.07 4.09 3.46 3.24 3.22 3.29 3.23 SD 0.28 0.94 1.32 1.88 2.46 2.75 2.32 1.65 1.54 1.53 1.65 1.56 1.81 1.99 1.91 2.20 最小値 0.0 0.0 0.5 0.0 0.0 0.0 1.9 1.2 1.7 1.5 1.5 1.1 0.4 0.5 0.9 1.1 80 ppm
吸入群
最大値 1.0 3.8 5.7 7.8 10.8 11.9 11.4 7.3 6.8 6.7 7.3 6.6 6.9 7.2 6.7 7.6 N 36 35 34 33 33 30 27 26 25 23 22 20 20 18 18 16 平均 0.51 0.69 0.81 0.88 0.96 1.05 0.89 0.97 0.98 0.94 0.97 0.95 0.95 0.87 0.91 0.89
SD 0.38 0.39 0.43 0.51 0.56 0.65 0.50 0.54 0.53 0.57 0.51 0.50 0.52 0.50 0.44 0.44 最小値 0.0 0.1 0.1 0.1 0.3 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.2 0.1 0.1 0.1 0.3 0.1 20 ppm
吸入群
最大値 1.5 1.6 1.8 2.2 2.6 3.5 2.0 2.8 2.5 2.3 2.2 2.1 2.2 2.1 1.9 1.9 N 41 37 39 39 38 37 33 30 28 26 24 23 24 22 21 20 平均 0.40 0.50 0.52 0.56 0.57 0.64 0.62 0.68 0.64 0.67 0.68 0.73 0.69 0.55 0.56 0.64
SD 0.30 0.53 0.61 0.56 0.54 0.64 0.71 0.75 0.83 0.76 0.83 0.91 1.10 0.38 0.32 0.45 最小値 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 5 ppm
吸入群
最大値 1.1 3.0 3.4 3.2 3.0 3.5 4.1 4.2 4.4 4.0 4.2 4.6 5.6 1.4 1.4 1.7
N 39b 39 35 33 31 31 27 26 23 22 22 21 19 19 17 18
平均 0.51 0.46 0.40 0.43 0.45 0.38 0.46 0.47 0.47 0.45 0.48 0.45 0.46 0.49 0.46 0.57 SD 0.41 0.39 0.36 0.40 0.39 0.37 0.40 0.36 0.48 0.44 0.38 0.42 0.36 0.41 0.37 0.46 最小値 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.1 0.0 プラセボ
吸入群
最大値 1.6 1.6 1.5 1.9 1.9 1.7 1.6 1.7 1.7 1.7 1.6 1.7 1.4 1.6 1.6 1.6 a:80 ppm吸入群の症例数は37例であったが、血中MetHb濃度の検討可能な例は36例であった。
b:プラセボ吸入群の症例数は41例であったが、MetHbの検討可能な例は39例であった。
また、INO-01/02試験では、動脈血の酸素化の改善は
5 ppm
からみられ、80 ppmまでNO
吸入 濃度と比例しており、吸入濃度が高いほど酸素化の改善が大きいことが示唆された(図2.7.3.4-2、
2.7.3.4-3)。
図
2.7.3.4-2
試験薬吸入開始前からのPaO
2の変動(平均±SE)-INO-01/02試験-一酸化窒素
2.7
臨床概要- 61 -
図
2.7.3.4-3
試験薬吸入開始前からのA-aDO
2の変動(平均±SE)-INO-01/02試験-本剤の有効性を検証した試験である
CINRGI
試験では、開始吸入濃度を効果が十分得られ、か つ最大耐用量と考えられる20 ppm
とした。吸入開始後4
時間以降24
時間までにPaO
2≧60 mmHg かつpH 7.35〜7.55
であれば濃度を5 ppm
に減量し、FiO2が0.7
未満となるか、最大96
時間又は 生後7
日までのいずれか早い時期まで吸入を継続した。その結果、ECMO適用率などの有効性主 要評価項目でプラセボ吸入群とNO
吸入群との間に有意差が認められ、NO吸入の有効性が確認 された。また、INOT12試験においても、20 ppm(FiO2=1.0)で吸入を開始し、吸入開始後4
時 間以降にPaO
2>60 mmHg又はSpO
2>92%を満たした場合に5 ppm
に減量するという投与方法が 用いられ、OI等の著しい酸素化の改善が得られた。これらの結果から、20 ppmで吸入を開始す ることで十分な酸素化の改善が期待できるものと考えられた。一方、NINOS試験では、20 ppmで反応が得られなかった患者に対し、吸入濃度を
80 ppm
に増 量できることとしたが、増量した被験者55
例中41
例は改善を示さなかった。また、Cornfieldら が行った試験11)においても低濃度(2 ppm)のNO
に反応を示さなかった被験者に濃度を20 ppm
に増量しても、最初から高濃度(20 ppm)を吸入した被験者に比べ良好な反応を示すとは考えに くいことが示唆された。これらのことから、肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全に対するNO
吸入 は、低濃度から治療を開始するのではなく、安全性を保つことができる可能な限り高い濃度で開 始し、早期に酸素化の改善を図る必要があると考えられた。安全性の面からの本剤の吸入濃度設定で吸入濃度の制限因子となる要因は、血中
MetHb
濃度及 び吸気中NO
2濃度の増加である。血中MetHb
濃度の増加により、血液の酸素運搬能が低下する。一酸化窒素
2.7
臨床概要- 62 -
また、高濃度の
NO
2を吸入すると細気管支炎、気管支炎、肺気腫を引き起こすおそれがあり、一 般的にNO
2の短期曝露限界は5 ppm
とされている。MetHb
はメトヘモグロビン還元酵素によりヘモグロビンに変換されるが、新生児における酵素活性は成人と比較して低いことが知られており 5)、新生児ではメトヘモグロビン血症発生の危険 性が高いと考えられる。
血中
MetHb
濃度の許容レベルについては一定した見解は得られていないが、臨床試験における血中
MetHb
濃度増加に基づく投与中止の規定をCINRGI
試験では>4%、INO-01/02及びOhmeda NO-03
試験では>7%及びINOT12
試験では>5%としていた。INO-01/02 試験では、血中MetHb
濃度が
7%以上を示した場合をメトヘモグロビン血症と規定していた。
INO-01/02
試験において血中MetHb
濃度の平均値は吸入濃度に依存して増加した。20 ppm
以下 の吸入群では平均血中MetHb
濃度は1%を大きく越えることはなかった。80 ppm
吸入群では5%
まで平均血中
MetHb
濃度が増加した。また、あらかじめメトヘモグロビン血症と規定していた7%を超える血中 MetHb
濃度を示した症例は36
例中13
例(36%)であった(80 ppm吸入群の症 例数は37
例であったが、血中MetHb
濃度の検討可能な例は36
例であった)。吸気中NO
2濃度に ついても、80 ppm吸入群において約2 ppm
のNO
2濃度が検出されたのに対し、20 ppm以下の吸 入群では吸入期間を通して0.5 ppm
未満であった。したがって、開始吸入濃度は
80 ppm
より少ない濃度とする必要があると考えられた。CINRGI及び
INOT12
試験では、本剤の効果がより大きく得られ、かつ最大耐用量であると考えられる20
ppm
から吸入を開始したところ、いずれの試験においても平均血中MetHb
濃度は2%未満であり、
吸気中
NO
2濃度は概ね0.5 ppm
未満であった。一方、研究会臨床研究では、開始濃度を
10 ppm
と設定し、増量した例もあった。その結果、在胎期間
34
週未満の未熟児を除く45
例中32
例が有効であり、その内9
例は20 ppm
まで増量し た結果有効となった症例であった。(研究会臨床研究では、出生体重2,500 g
以上を正期産児、2,500 g
未満を未熟児として集計を行っていた。そこで、□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□、在胎期間
34
以上及び34
週未満で再解析を行ったところ、34週以上の症例数は45
例であった。)このことから、開始濃度は10 ppm
では不十分な場合があると考えられた。以上のことから、血中
MetHb
濃度や吸気中NO
2濃度増加による危険が少なく、本剤の効果が 十分得られる20 ppm
が推奨開始吸入濃度であり、吸入開始後4
時間までは20 ppm
を維持し、MetHb
濃度や吸気中NO
2濃度の増加の危険性をより確実に回避するために、酸素化の改善状況をみながら効果が得られた症例では
4
時間以降に5 ppm
に吸入濃度を減量することが推奨されると 考えられた。CINRGI
試験では5 ppm
で維持する期間について、FiO
2<0.7で酸素化を維持できるまで継続す ることとしていた。一方、研究会臨床研究ではFiO
2=0.4 で酸素化を維持できるまで継続するこ ととしていた。実際の医療現場では、患者の酸素化が維持された際の本剤吸入を終了する判断に ついては患者毎の臨床症状により判断される。このため、INOT12
試験では、CINRGI
験及び研究 会臨床研究の方法に基づき、本剤吸入を終了する基準に幅を持たせ、FiO2=0.4〜0.6でPaO
2>70mmHg
になるまで本剤の吸入濃度は5 ppm
で維持する方法がとられた。その結果、CINRGI試験 と同様の結果が示された。これらのことから、本剤は酸素化の改善に従い、5 ppmに減量し、安一酸化窒素
2.7
臨床概要- 63 -
全に離脱できる状態になるまで吸入を継続するべきと考えられた。
投与時期及び期間については、CINRGI試験では、出生後
96
時間以内に開始し、最長96
時間 又は生後7
日までのいずれか早い時期まで、INO-01/02
では、出生後72
時間以内に開始し最長14
日間、NINOS試験では、出生後14
日以内に開始し最長14
日であった。INOT12試験では出生後7
日未満に開始し最長14
日間と規定し、有効性及び安全性が確認された。各試験のNO
群の投与 期間を表2.7.3.4-2
に示す。表
2.7.3.4-2
試験ごとの投与期間(NO群)試験名 例数 投与期間
(平均±SD、時間)
CINRGI(5.3.5.1-1) 93 40.1±31.65
5ppm
吸入群22 111.3±64.9
INO-01/02(5.3.5.1-2)
20ppm
吸入群19 82.5±47.1
NINOS(5.3.5.4-1) 113
a71.3±79.0
INOT12(5.3.5.2-1) 10 83.6±2.6
a: NO
が投与された症例数CINRGI
及びINO-01/02
試験の対象疾患である新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)は、胎児循環から出生後の肺循環に適切に移行しない状態である。PPHN 患者では、胎児循環と同様に肺血管 が収縮し、抵抗が高く、卵円孔及び動脈管でのシャントが多くなっている。新生児の肺血管系は、
生後
7
日までは肺疾患などにより再収縮を起こしやすいが、生後7
日以降は肺血管系の収縮反応 は減り、肺高血圧がみられても他の原因によることが多いことから、本剤の適用とはならないと 考えられた。これらのことから、出生後7
日以内に吸入を開始すべきと考えられた。投与期間については、試験ごとに投与条件が異なるものの、