自分の考えとの比較やどちらが正しいのかという判断を放棄してその考えに追 従してしまうという場面が見られるはずである。
この点、同じ考えを持った生徒で話し合いをさせれば、班全体の考えが、あ る一つの考えに収束されることは少なくなるはずである。たとえその考え方が 正しくなくても、班の中ではその考え方の根拠が示され、またその考えを補強 する他の考えが導入されたりするであろう。最終的には話し合いが行き詰まっ てしまうこともあるだろうが、この授業ではそれがねらいなのである。話し合 いがすんなりまとまるよりも、矛盾を抱え込み、どうしょうもなくなるまで、
とことん話し合いを続けさせたいと考えているのである。
2 授業の基本型
等質グループによるコミュニケーション活動を位置付けた授業の基本型を次 のように考えた。
… 繕
個人の予想
竃巽
擁蒸i韓昏乱
全体討論
1…懸1;
T、瀬
繊繋1;礎・i継:論i
全体婁身冊
嚢嘆≡= 擁驚尉鍮
ll・i〆
驚 驚
班驚・漁騨論
全体討論 σ晒
図6 授業の基本型
まず授業の導入として、課題となる事象を提示する。その際、簡単な演示実 験を行う場合もある。つついて提示された事象について個人で予想を立てさせ る。次の班での討論に際して自分の考えをしっかりっかませるためにも、この 段階には十分に時間をかける。その後教師の指示により班分けを行い、その班 で与えられた事象について討論を行う。討論の内容は全体で発表し、それに対 する質疑応答も全体の場で行う。
全体の考えが把握できたところで、班ごとで実験を行う。実験後その結果に ついてさらに班で討論を行い、結果を含めて討論の内容を全体で発表する。
導入で提示された課題は、生徒が持つ素朴概念と矛盾しやすいようなものを 配置してある。このため実験の結果が明確になっても生徒の多くはまだ「のり こえ」には至っておらず、むしろ矛盾を明確に感じることで「のりこえ」の前 段階に達すると考えられる。そこで、さらに発展課題となる事象を提示し、同
じ様に班での討論・実験を行わせる。この過程を通じて生徒は「のりこえ」を起 こすと考えられる。
3 授業の全体計画
授業の全体計画は、 「磁石の性質に関する調査」から抽出された素朴概念が 授業で顕在化されることを念頭において立案した。立案に当たっては経験豊か
な理科教員3名の協力・助言・確認を得た。
授業の全体計画を巻末資料5に示す。また、以下に各授業の計画の要点を示
す。
【第1時】磁石のまわりの世界
小単元の導入として、この授業では磁界、磁力の定義を行い、 「磁界とは磁 力のはたらく空間である」ことを理解させる。ところが「磁石の性質に関する 調査」から、生徒の半数近くは、磁力のはたらく範囲を空間として捉えていな いことが明らかになった。
例えば、図7の「AとBの空間で違いがあ
るか」という問いに対して、34.8%の生徒が
「違いがない」と回答した。その理由は、
「鉄やくぎをAの場所にもってくればくっ
潮懸蹴鵬灘∴(:::1:二lll二:::::目::::〔回1〕::)
ので、空間には関係がないと考えているよ
うである。 図7「AとBで違いはあるか?」
一56一
また、 「無重量状態や真空中では磁力ははたらくか」という問いに対しても、
無重量状態では36.8%、真空中では37.5%の生徒が「磁力ははたらかない」と回
答した。
そこでこの授業では、棒磁石の極付近だけでなく、磁石の周辺のかなり広い 範囲に鉄粉をまき、そこにできる模様を観察させることで、磁石のまわりの空
間は何も無い空間と性質が違うことを理解させる。
また、授業の最後の段階では、真空中でも磁力が伝わることを演示実験で示 し、磁力がはたらく範囲は空間に広がっていることを認識させる。
【第2時】電流による磁界(その1)
本研究で作成した授業計画の第2時から第4時までは、これまでの授業計画 では1時問で学習が終了していた。1時間で学習する内容は、①電流を流すと 導線のまわりには磁界ができること、その磁界は導線に対して垂直な方向から 見ると同心円状をしており、②磁界の方向は電流が流れていく方向を背にする と右回りであること、さらに③導線をコイルにするとコイルの中心付近に直線 状の磁界ができ、磁界の強さはコイルの巻数や電流の強さと関係していること、
と多岐にわたっている。
このように多くの内容を従来のように1時間で学習することは、学習内容の 単なる暗記で終わってしまう可能性が高い。授業の進行に磁界の概念が形成が 追いつかないという問題は学習時
間を増やし、段階を追って概念形 成を図っていくことで解決される と考え、前記の①②③の内容をそ れぞれ第2時、3時、4時に割り
当てて授業の計画を行った。
第2時ではエルステッドが電流 が流れている導線のまわりには磁 界があることを確かめた実験をも
口 ス
イ ッ
チ
□Fb
←
嚢 凡
導線
図8エルステッドが行った実験
とにして図8のような実験を課題提示した。実験を行うと方位磁針の針が触れ ることは容易に確認できるが、ではなぜ針が触れるのかということから、磁力 が働いている→磁界がある→どんな磁界があるのだろう→確かめる方法を考え よう、という流れで授業を展開する。この思考の流れは1820年のエルステッド の発見にはじまった電磁気学の黎明期のアンペールやファラデーらの考え方を 再現するものでもある。
【第3時】電流による磁界(その2)
第2時の最後の段階では鉄粉を用いて、
導線の回りの磁界が導線を中心とした同 心円状であることを確かめている。この 授業では、方位磁針を使って磁界の方向 を確かめていくが、前述した素朴概念が 生徒に矛盾を引き起こすのではないかと
予想される。
生徒は導体と磁性体の概念が未分化で
あり、さらに電流が直接・直線的に磁気作 図9
図10 図11
用を及ぼすと考えているので図9のような導線に矢印の方向に電流を流すと 方位磁針は図10か図11のような方向を指すと考えるのではないだろうか。た
一58一
とえ前時で導線の回りの磁界が導線を中心とした同心円田であることを確かめ ていても、この素朴概念が障壁となって生徒の予想段階での思考に影響が出て
くると考えられる。
【第4時】電流による磁界(その3)
第3時では第1・2時で扱った直線の導線をU字型に曲げたら磁界はどのよ うになるかという課題提示を行う。従来の授業では、ここで直ちにコイルを導 入し、コイルに電流を流すとどんな磁界ができるかを考察させたり、実験で確 かめさせたりしている。しかし、生徒にとって導線を直線から円形にすること は大きな思考の飛躍が必要である。また、コイルは導線が幾重にも巻かれてい るので、その影響を考える生徒も存在する。
そこで、課題提示では単純に1本の導線で考えさせ、直線から円形ヘスムー ズに移行できるようにした。できれば、実験も1本の導線で行えるとよいが、
観察可能な磁界にするためには1本の導線ではかなり強い電流を流す必要があ り危険である。そこで、生徒実験ではコイルを使用した。
【第5時】電流が磁界の中で受ける力 この内容を扱う際、従来の方法では図 12のような実験から入って電流を流す とコイルが動き、電流の方向によってコ イルの動く方向が違うということを確 認していく。しかし、生徒は電流が直接・
直線的に磁気作用を及ぼすと考えてい るので、このような実験を行っても導線 が磁石に対してどう動くかということ に視点がいってしまう。しかも、導線の 実際の動きは、磁石から出たり入ったり
塒鵬
A ♂
↑
纂 男
1囎1向
耽
図12
B
という二方向しかないので、「導線は磁石に押し出された」「導線は磁石に引き込 まれた」という見方しかできない。結局この実験では電流が直接・直線的に磁気
作用を及ぼすという概念を変化させるのは困難であり、生徒は電流磁界・力の 方向を知識的に覚えるだけで終わってしまうのではないだろうか。
本研究ではそれを克服するため、先に 図の実験を行った。この実験装置では導
く一一細い導線 線がいろいろな方向に動くことが可能
導線は、つるしてある部分を中心にして 灘離二二難難 磁石に対してねじれるように動くので、
実験後の話し合いにおいて、電流の方向 図13 に対してねじれの位置に磁力が発生す
ることや磁界の向きによって力の方向が違うことを導き出させ、電流・磁界・力 の関係を考察させることができる。
【第6時】モータのしくみ
この授業は、これまで学習した磁界中の電流にはたらく力を用いてモータの 回る原理を考察するものである。電流・磁界・力の向きの関係は前時までに学習
しているので、この授業のポイントとなる所は、整流子とブラシが回転するコ イルに電流を供給し、さらにその回転に合わせて電流の向きを切り換えるはた
らきを持っていることを理解させることである。つまり、整流子・ブラシの機構 の理解になるわけで、これは科学概念の形成とは大きく性質の異なる授業であ る。したがって、この授業は従来どおりの授業とした。
一60一