のか記述されているか。
○ 当時 日本人であった朝鮮人・台湾人軍属がどのようにBC級 戦犯裁判で裁かれ、どのような刑を受けたのか記述されているか。
以下で各視点について述べていく。
【視点①】BC級戦犯裁判の根拠法令
視点①では、どのような法令を根拠として裁判が実施されたか。
また、根拠法令がどのように明記されているのかを見ていく。軍事 法廷とは言え、裁判形式を取っているため、曲がりなりにも根拠と なる法令が存在しているからだ。それが事後法という批判はあるが、
裁判を見る上では、まずは法令の記述を見る必要があるからだ。
【視点②】犯罪事実
視点②では、どのような犯罪事実が存在し、それによって裁かれ たかを見ていく。どのような犯罪行為があり、それをどのように論 点で裁判が行われ、どのような裁判になったのかということを記述
されているか見ていく必要があるからだ。
【視点③】逮捕者・起訴人数・刑執行者の人数
視点③では、逮捕者・起訴人数・刑執行者の人数を見ていく。教 科書会社各社がどのように逮捕者・起訴人数・刑執行者の人数を明 記しているのか。また、それらの根拠となる史資料は何を用いてい
るのかを見ていく必要があるからだ。
それら根拠となる史資料については、何を根拠としているのか、
何に依拠しているのかによって逮捕者・起訴人数・刑執行者の人数 には差が出てきてしまう。それら理由としては、日本側が独自に収 集したもの(アンケートや実地見聞方式)や、各裁判主催国が資料 を保存し、開示された内容などがあるからだ。それら様々な要素が あるため、この視点③では、逮捕者・起訴人数・刑執行者の人数を 見ていく必要がある。
【視点④】裁判地域の特色
視点④では、裁判地域の特色を見ていく。広大なアジア・太平洋 地域の各地で行われたBC級戦犯裁判であるが、これは市ヶ谷で行 われたA級戦犯裁判とは違い、各裁判地で性格が大きく異なってい た。それらを戦犯裁判という大きな括、りにしてしまうと地域ごとの 違いや、背景、各地域における主催国の思惑などが絡んでいたこと が理解できなくなるからだ。1つの大きな括りとして戦犯裁判を見 るのではなく、もう1っ小さな地域にして見ることでBC級戦犯裁 判の実態を知ることが可能となる。そのため、地域という視線で見
ているかどうかという記述にも注目する必要がある。
【視点⑤】徴用軍属
視点⑤では、徴用された軍属をどのように記述しているかという ことを見ていく。地域という視線で見ると、 日本国内 をどこまで とするのか、ということも問題となってくる。当時の大日本帝国は、
現在の日本国とは違いいわゆる外地と呼ばれていた、南樺太、満州、
朝鮮半島、台湾、国際連盟委任統治領の南洋諸島も含まれていたか らだ。そのような状況であるため、当時 日本人 であった軍属と して徴用された朝鮮人・台湾人の人々がどのようにBC級戦犯裁判 で裁かれ、そのような刑を受けたのかにも触れる必要性があるから だ。そのため、これら徴用軍属の記述を見る必要もある。
以上、5点を分析視点として設定し、教科書分析を行っていく。
第2項 分析の範囲
教科書分析の範囲を、以下のように限定して行った。
【分析の範囲】
O分析対象の教科書は、平成19年検定済教科書(現行)の日本史A と日本史Bとする。
○分析対象の教科書は、現時点(平成24年)で発行されている教 科書会社各社のものとする。1社で複数の教科書を発行している場 合でも、全てを対象とする。そうすると、日本史Aは6社(7冊)、
日本史Bでは5社(9冊)ある。
○分析対象となる記述内容は、BC級戦犯裁判に関するものに限定
する。
【対象となる教科書一覧】(表3−1)
日本史A 日本史B
出版社名 教科書番号 出版社名 教科書番号
山川出版社 日 AO10 冝@AO13
山川出版社 日 BO12
冝@BO17 冝@BO18 東京書籍 日AO11 東京書籍 日 BOO3 冝@BOO4 三省堂 日AO12 三省堂 日 BO15
実教出版 日 AOO8 実教出版 日 BO13
冝@BO14
清水書院 日 AOO9 清水書院 日 BO16
第一学習社 日 AO14 第一学習社
(筆者作成)
第3項 分析の方法
教科書記述を分析するにあたって、第1項で挙げた5点の分析視 点を元に高等学校地理歴史科日本史(日本史A及び日本史B)の戦 犯裁判における記述内容分析フレームワークの作成を行った。
分析フレームワーク(表3−2)
検定年 出版社 教科書題名
平成 年
単元名
学習指導要領の位
uづけ
平成 年掛 地理歴史科 日本史
BC級戦犯裁判の根拠法令
視点
i1)
視点
i2)
犯罪事実 視点
i3)
①逮捕者数 ②起訴人数 ③刑執行人数
裁判地域の特色
視点
i4)
徴用軍属 視点
i5)
本文 考察
(筆者作成)
この分析フレームワークにより、教科書記述分析を通して、BC 級戦犯裁判に関する内容記述が教科書でどのようになされているの かを考察していく。また、各分析視点について高等学校地理歴史科 日本史におけるBC級戦犯裁判の授業の問題点や課題、有効性を考 察していく。それらを踏まえた上で、高等学校地理歴史科日本史に おけるBC級戦犯裁判を用いた授業開発を行っていく。
第2節 現行日本史教科書における取り扱い
ここでは、各視点の分析結果を明らかにする。
【視点①】BC級戦犯裁判の根拠法令
【視点①】の分析結果(表3−3−1)
根拠法令記載事項 結果(単位 冊)
戦時国際法 2!16
通例の戦争犯罪 5!16
各国の法令 1!16
交戦法違反 1116
人道に対する罪 2116
国際法違反 1116
ポツダム宣言 1!16
記載なし 7116
(筆者作成)
分析結果を見ても分かるとおり、どの根拠法令に拠って裁判が行 われたのかという記述がバラバラである。根拠法令だけで6種類も ある。単に国際法違反としているものから、内容に迫っているもの まで様々であるが、これでは逆に分かりにくくなってしまう。同じ 根拠法令であっても、様々な呼称を用いているためである。
また、根拠法令の記載がない教科書もある。そのため、何を根拠 として裁判が行われていったのかということを掴むことは困難であ る。BC級戦犯裁判については、裁判主催国の国内法令や、その開 催国が独自に制定した法令でも裁かれている。しかし、教科書にそ のような記述が見られたものは、1社のみであった。BC級戦犯裁判 を考えて行く上で、この各国が制定した法令という内容は、重要な 意味を持っているが、他社にはそのような記述は見当たらなかった。
以上の分析結果から、授業者がBC級戦犯裁判の授業を行う際に は、学習者に対してBC級戦犯裁判の根拠法令の提示を行っていく
必要がある。
【視点②】犯罪事実
【視点②】の分析結果(表3−3−2)
犯罪事実記載事項 結果(単位:冊)
戦時中に捕虜や住民を虐待 4116
戦争中の日本軍による侵略行
ラ・残虐行為1/16
戦争中に非人道的行為を働いた 2!16
民間人の殺鐵 1116
記載なし 8116
(筆者作成)
分析結果を見て分かるとおり、BC級戦犯裁判で裁かれた犯罪事 実記載事項は多岐に渡っている。犯罪事実記載事項のみで4種類あ るが、基本的には捕虜虐待や住民虐待などの非人道的行為を働き、
BC級戦犯裁判で裁かれたというように記述内容の違いであって、
内容については、どの教科書会社でも方向性は同じとなっている。
犯罪事実記載事項の記載がない教科書会社も8116事例と半数を占 めているが、この理由として筆者が教科書会社各社に犯罪事実記載 事項の記載方法についての問い合わせを行った。問い合わせ方法は、
電話やメールで質問を各社に照会し、実際に回答を得たのは1社(三 省堂)のみである。質問内容は、犯罪事実記載事項を教科書記述の ように決定したか理由を問い合わせた。回答としては、限られた時 間内で行うため内容が細かすぎると難しくなってしまうため、BC 級戦犯裁判がどんなものか分かれば良いので、その程度に留めたと いう内容であった。
しかし、どのような犯罪事実があり、どのような裁判で裁かれた という内容がなければ、A級戦犯裁判とBC級戦犯裁判を区別する ことは出来ない。A級戦犯裁判とBC級戦犯裁判とでは対象は違う。
確かに、.残虐行為を働いて裁かれたという事項でも理解が出来ると は思われるが、A級戦犯裁判とBC級戦犯裁判との明確な区別には ならないだろう。これでは、単にA級戦犯裁判が国家・軍の最高指 導者として残虐行為や侵略行為を指示し、現地部隊が実際に行動を 行い、それによって裁かれたという図式でしか見ることができなく
なってしまう。BC級戦犯裁判で裁かれた犯罪行為には、現地部隊 が主体的に行った犯罪存在するためである。
以上の分析の結果から、授業を行う際には、授業者が学習者に対 して戦犯裁判で裁かれた犯罪事実の提示を行って行く必要がある。
【視点③】逮捕者・起訴人数・刑執行者の人数 【視点③】の分析結果(表3−3−3)
教科書 逮捕者