第 2 章 各種試験方法および解析方法
2.4 解析方法
2.4.1 有限要素解析
2.4.1.2 弾塑性モデル
金属材料の繰返し応力-ひずみ挙動を特徴づけるもので特に重要なのは,①バウシンガ効 果[10]と②繰返し硬化および軟化挙動[11]の二つである.ここではまず,バウシンガ効果と 繰返し効果および軟化挙動について説明する.
①バウシンガ効果
多くの金属材料は降伏応力を超えるような大きな変形が生じた後,除荷や負荷方向が変 わるとバウシンガ効果を生じる.バウシンガ効果の模式図をFig. 2. 6に示す.初期降伏状態 を通過したのち,1 回目の最大引張応力ten.に達したところで荷方向を圧縮側に転じさせ,
圧縮側の降伏応力comp.に到達したとき,
|𝜎𝑡𝑒𝑛.| ≠ |𝜎𝑐𝑜𝑚𝑝.| (2-5)
となる現象がバウシンガ効果である.また, Fig. 2. 6 のように初期サイクルの引張応力で 塑性変形をさせた場合,
|𝜎𝑡𝑒𝑛.| > |𝜎𝑐𝑜𝑚𝑝.| (2-6)
となることが知られている.繰返し負荷中の切欠き底の応力-ひずみ挙動を定量化して評価 するにあたり,弾性および塑性ひずみ成分の割合に及ぼすバウシンガ効果の影響は大きい と考えられる.従って,本研究で用いる弾塑性モデルの一つ目の条件として,バウシンガ効 果を表現できるものが適切であると考えられる.
Fig. 2. 6 Schematic illustration of Bauchinger effect.
ten.
comp.Re-early yielding
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②繰返し硬化および軟化挙動
金属材料が塑性変形を伴う繰返し変形を受けたとき,サイクル初期段階において繰返し 硬化または軟化挙動を示す.例えば,繰返し硬化する材料に対して応力範囲およびひずみ範 囲を制御した疲労試験を行った場合における応力-ひずみ挙動をFig. 2. 7に模式的に示す.
Fig. 2. 7 (a) に示すとおり,荷重制御においては,繰返し数の増加に伴い1サイクル中のひ
ずみ範囲は次第に減少するが,同時に一方向変形すなわちラチェット変形が進行する.一方,
Fig. 2. 7 (b) に示すように,ひずみ制御においては繰返し数の増加に伴い応力範囲が次第に
増加する.これらの現象は繰返し変形過程の初期に生じ,それぞれの現象および増加割合は 繰返し変形の進行について減少し,最終的には定常状態となる.加工軟化する材料について は,繰返し数の増加に伴い応力範囲が次第に減少することになる.
上述のように,荷重制御においては繰返し変形中に平均ひずみが増大して最終的に準静 的な延性破壊を生じ,疲労固有の破壊機構以外の機構が介入する.このため,一定応力振幅 試験では低サイクル疲労特性の評価が困難になるため,一般にはひずみ範囲を制御した低 サイクル疲労試験が行われる[12].
本研究で用いた環状切欠き試験片の切欠き底は,長寿命領域であっても降伏応力を超え た繰返し変形を受けている可能性が高い.従って,本研究に用いる弾塑性モデルの2つ目の 条件として,繰返し硬化もしくは軟化の挙動を表現できるものが適切であると考えられる.
Fig. 2. 7 Schematic illustrations of stress-strain response under stress or strain controlled condition.
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上述のバウシンガ効果と繰返し硬化および軟化挙動を有限要素解析の中で表現するため には,材料モデルとして,等方硬化則(IH model : Isotropic hardening model)と移動硬化則(KH model : Kinematic hardening model)を組み合わせた複合硬化則を用いる必要がある.
ここでは等方硬化則および移動硬化則について説明する.等方硬化則とは,弾塑性変形中 に降伏曲面の中心点は動かずに降伏曲面が等方的に膨張するモデルのことである.一方,移 動硬化則とは,弾塑性変形中に降伏曲面の中心位置が移動するモデルのことである.Fig. 2.
8 (a) ~ (e)は,無負荷状態から引張の弾塑性変形を経て負荷を圧縮に反転させ,圧縮の弾塑性 変形に至る過程を,等方硬化則および移動硬化則を用いて表現した場合の両者の差を示し たものである.①は単軸引張圧縮負荷時の材料の挙動を模式的に示したものである.②は弾 塑性モデルとして等方硬化則を用いた場合,③は移動硬化則を用いた場合である.ここでは 説明を簡単にするために,平面応力状態において主応力1,2が作用する場合を想定し,負 荷方向は1のみとする.また,各図の黄色の点はその時の応力状態を示したものである.こ の黄色点が降伏曲面の内側に位置する場合,その応力状態において材料は弾性挙動を示す.
Fig. 2. 8 (a) に無負荷時の状態を示す.無負荷状態であるので,黄色点は原点に位置する.
初期降伏曲面の大きさは材料の初期降伏応力で決定されるため,等方硬化則および移動硬 化則は同一のものとなる.Fig. 2. 8 (b) は引張負荷をかけ,初期降伏に至った状態を示して いる.このとき,応力状態を示す黄色点は降伏曲面上に位置する.Fig. 2. 8 (c) はさらに引 張負荷を大きくし,塑性変形を進行させた状態を示している.初期降伏後,材料は加工硬化 するが,その挙動の表現の仕方が等方硬化則と移動硬化則では異なる.等方硬化則の場合,
その中心位置は移動せず,降伏曲面が等方的に膨張することで加工硬化挙動を表現してい る.一方,移動硬化則では,降伏曲面の形状は変化せず,その中心位置が負荷に応じて移動 することで加工硬化挙動を表現している.Fig. 2. 8 (d), (e) は引張から除荷を経てさらに変形 が進行し,バウシンガ効果によって E 点で早期に再降伏した状態を示している.等方硬化 則の場合,引張負荷時に降伏曲面が膨張しているため,この時点で黄色点は降伏曲面内部に 位置するため弾性状態にあると判断される.一方,移動硬化則の場合,降伏曲面は引張負荷 時に形状を保ったまま負荷方向(ここでは1方向)に移動しているため,黄色点は降伏曲面に 達し,圧縮側の早期降伏,すなわちバウシンガ効果を表現できる.
以上の説明から,バウシンガ効果を考慮した有限要素解析を行う場合,硬化則として移動 硬化則を用いることが適していることがわかる.一方,繰返し硬化および軟化を表現するに は,繰返し塑性変形によって降伏曲面が膨張もしくは縮小すれば可能となる.そのためには 等方硬化則を用いる必要がある.上記の理由から,本研究では,移動硬化則によってバウシ ンガ効果を,等方硬化則によって繰返し硬化および軟化を表現するために,両者を組み合わ せた複合硬化則を用いることとした.模式図をFig. 2. 9に示す.
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49 (a) Initial state
(b) Initial yielding state
(c) Work hardening stage
Fig. 2. 8 Schematic illustrations of stress-strain behavior under cyclic loading.
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(d) Re-yielding state under compression loading
(e) Work hardening stage under compression loading
Fig. 2. 8 Schematic illustrations of stress-strain behavior under cyclic loading. (Continued)
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Fig. 2. 9 Schematic illustration of combined hardening model.
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本研究では,等方硬化則としてVoceの式[13]を,移動硬化則としてChaboche モデル[14]
を用いた.これらのモデルは,既存の有限要素解析ソフトウェアに標準装備されている.降 伏判定には,多くの金属材料の降伏条件式として使用されているVon Misesの降伏条件[15]
を使用した.
前述のとおり,等方硬化則とは弾塑性変形中に降伏曲面の中心点は動かずに降伏曲面が 等方的に膨張するモデルのことを示す.Voce の等方硬化則は式(2-7)で表され,塑性ひずみ が加わることで降伏曲面の大きさが増減する,すなわち繰返し硬化もしくは軟化を非線形 で表現することができる.Voceの等方硬化則を用いた場合の応力-ひずみ関係の模式図をFig.
2. 10 (a)に示す.y は最新の降伏応力,0 は初期降伏応力, R∞は初期降伏応力と飽和降伏応
力との差を意味する.R0は飽和応力の傾きで,𝜀̂𝑝𝑙は累積塑性ひずみである.R0≠0の場合,
繰返し塑性変形により累積塑性ひずみが増加するにしたがって降伏曲面は膨張を続ける設 定となる.
2.4.1.3に詳述するが,本研究の有限要素解析においてはSUS304の繰返し塑性変形挙動と
して「繰返し軟化」に特化して設定を行う方針とした.Voce の等方硬化則では繰返し塑性 変形が加わることで累積塑性ひずみが増加し,降伏曲面が縮小していく様子を表現できる.
Fig. 2. 10 (b)に示すようにR∞に負の値を設定することで繰返し軟化現象を表現し,さらに
R0 = 0とすることで累積塑性ひずみの量が増加するにつれ飽和に向かうように設定した.
𝜎y= 𝜎0+ 𝑅0𝜀̂𝑝𝑙+ 𝑅∞(1 − 𝑒−𝑏𝜀̂𝑝𝑙) (2-7)
(a) R∞> 0, R0 > 0 (b) R∞< 0, R0 = 0
Fig. 2. 10 Stress vs. plastic strain for voce hardening law. [13]
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次にChabocheの移動硬化則について説明する.移動硬化則とは前述のとおり弾塑性変
形に伴って降伏曲面の中心点が移動する硬化モデルのことを指し,その移動は背応力を用 いて表現される.Chabocheらによって提案されたモデルは,複数の分解背応力の式を重ね 合わせ全体背応力を表現する.全体背応力は分解背応力iを用いて以下の式(2-8)で表さ れる.ここで,nは分解背応力の数である.本研究では,実験データで取得されたヒステ リシスループの形状の再現性と有限要素解析の計算負荷を考慮し,n = 3とした.
𝛼 = ∑ 𝛼i
n
i=1
(2-8)
また,分解背応力増分 𝛼̇iは非線形の背応力挙動を表現する Armstrong-Frederick 則は式(2-9) で表される.Ciおよびiは材料定数である.𝜀̇𝑝𝑙は塑性ひずみ増分,𝜀̅̇𝑝𝑙は塑性ひずみ増分の 絶対値である.
𝛼̇i=2
3𝐶i𝜀̇𝑝𝑙− 𝛾i𝜀̅̇𝑝𝑙𝛼i (2-9)
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