第6章 港湾・鉄道を主体とした広域物流回廊インフラ整備支援の 方向性
6.2 広域物流回廊の役割と優先整備課題の考え方
本研究では、サブサハラアフリカの広域物流インフラのうち、特に鉄道・港湾分野の整 備課題が多いことを踏まえ、鉄道・港湾インフラ及び関連する貿易円滑化に焦点を当て、
広域物流インフラの現状・課題を整理してきた。しかし、広域物流回廊は、輸送する貨物 の特性によって整備すべき輸送モードや貿易円滑化施策が異なる。また、各回廊上の物資 の流動は、沿線地域の産業特性や、産業開発のポテンシャル、および都市等の経済集積地 の消費特性に依存する。
本節では、サブサハラアフリカの経済成長のために必要とされる広域物流回廊の役割を 整理する。また、これに基づき、回廊の産業ポテンシャルと消費特性別に、広域物流回廊 上の整備対象輸送モードと貿易円滑化施策を検討する。
6.2.1 広域物流回廊の役割と整備課題
(1) 広域物流回廊の役割
広域物流回廊の役割は、物流の時間及び費用を低減することにより、最終的に地域経済 を活性化することである。物流時間・費用の低減は、生産に必要とされる原材料・機材の 輸送にかかる時間・費用を削減し、原材料・機材の投入を容易にする。このことにより、
産品の生産性が向上し、生産にかかる間接費が減少する。結果的には、産品の価格・品質 の競争力が強化され、収益が増加する。例えば、農業では、肥料や農業機器の輸入費用が 低減することにより、農業生産性や農産品の品質が向上し、さらに消費地までの産品輸送 価格が減少することで産品価格が低減され、収益増加や輸出競争力強化につながる。また、
産品の輸送費用が低減されることで、消費地における商品の価格が低下し、物価や人件費 が下がる。物価・人件費の低減・適正化は生産費用低減と産品の国際競争力強化につなが り、経済活性化の原動力となる。このような回廊整備のもたらす地域活性化シナリオを図 6-1に示す。
沿岸国 内陸国
広域物流回廊
農業
ポテンシャル 重鉱物資源
ポテンシャル
工業 ポテンシャル
原材料・機材輸入費用低減
⇒生産性向上・生産費用削減
⇒収益増加・輸出競争力強化 消費地
(都市)
生産品輸送価格低下
⇒物価・人件費低減
⇒国際生産競争力強化
資源・農産品の地域内 輸送時間・費用低減
⇒原材料費低下
輸出品輸送時間・費用低減
⇒輸出競争力強化
図 6-1 回廊整備のもたらす地域活性化シナリオ
(2) 域内貿易と域外貿易
広域物流回廊の整備課題を整理する前に、サブサハラアフリカの広域物流回廊を媒介し て行われる貿易を「域内貿易」と「域外貿易」の 2 つに分類して定義する。これは、輸出 または輸入の対象国が域内・域外のいずれであるかによって、広域物流回廊の整備対象と なる輸送モード・貿易円滑化施策が大きく異なるためである。本研究では、「域内貿易」及 び「域外貿易」を以下のように定義する。また、図 6-2 及び図 6-3 は「域内貿易」と「域 外貿易」のイメージ図である。
域内貿易:サブサハラアフリカ域内の 2 カ国間の輸出入であり、通過国を跨がない隣国同 士の貿易及び、通過国が 1~2 カ国以内の貿易と定義する。「域内輸入」と「域内輸出」に 分類される。通常は港湾を跨がずに内陸輸送のみで交易がなされる。
域外貿易:サブサハラアフリカ諸国と大陸外の国の貿易及び、サブサハラアフリカ諸国内 の2カ国間の輸出入のうち通過国が3カ国以上に跨る貿易と定義する。「域外輸入」と「域 外輸出」に分類される。大陸内の輸送ではなく、港湾を経由する交易または航空機による 輸送が一般的である。
域内
沿岸国沿岸国 内陸国内陸国
広域物流回廊
産地 消費地
産品(輸出)
消費地 産地
産品(輸入)
域内
沿岸国沿岸国 内陸国内陸国
広域物流回廊
産地 消費地
産品(輸出)
消費地 産地
産品(輸入)
図 6-2 域内貿易のイメージ図(内陸輸送による交易)
域内
沿岸国沿岸国 内陸国内陸国
広域物流回廊
産品(輸出)
産地 消費地
産品(輸入)
域外貿易(内陸国)
域内
沿岸国沿岸国 内陸国内陸国
広域物流回廊
産品(輸出)
産地 消費地
産品(輸入)
域外貿易(内陸国)
域内
域外
沿岸国沿岸国 内陸国内陸国
広域物流回廊
産品(輸出品)
産地 消費地
産品(輸入品)
域外貿易(沿岸国)
域内
域外
沿岸国沿岸国 内陸国内陸国
広域物流回廊
産品(輸出品)
産地 消費地
産品(輸入品)
域内
域外
沿岸国沿岸国 内陸国内陸国
広域物流回廊
産品(輸出品)
産地 消費地
産品(輸入品)
域外貿易(沿岸国)
図 6-3 域外貿易のイメージ図(港湾を経由する交易)
(3) 広域物流回廊の整備課題
前述の広域物流回廊の役割と「域内貿易」「域外貿易」の定義に基づき、サブサハラアフ リカの産業・経済特性を踏まえ、同地域の広域物流回廊の整備課題を以下のように整理し た。
広域物流回廊の整備課題
1) 域内輸出入貿易の活性化:域内輸出産業活性化のための隣国諸国間の貿易障害の緩和 サブサハラアフリカには、人口・経済規模の小さい小国が集まっている。一方で、各国 の面積は人口・経済規模に対して大きい。これらの国々で産業を活性化し経済成長を促す ためには、域内諸国の地域分業を核とし、近隣諸国を市場として見据えた上で各国の比較 優位性の高い産業を育成する必要がある。
2) 域外輸出産業の活性化:域外輸出競争力強化のための輸送費用・時間削減
サブサハラアフリカでは、現状の技術力の不十分さゆえに。域外からの輸入に必要とさ れる外貨獲得のため、短期・中期的には資源・商品作物を軸とした輸出競争力の強化を図 る必要がある。
さらに、長期的には、域内貿易を通じて生産技術強化・品質向上を経た各国の産品を、
域外に輸出していくことが期待される。
3) 域外輸入工業製品・消耗品の低価格化:産品の生産性向上・国際競争力強化のための 域外輸入費用削減
サブサハラアフリカでは、重工業機械など未だ技術力が不十分であるがゆえに大半を大 陸外からの輸入に頼っている品目も多い。しかし、グローバル化された世界で国際競争力 を持つ産品を生産していくためには、大陸外から原材料・機材等を一部輸入することは必 要不可欠である。サブサハラアフリカ内の鉱工業・農業の生産性向上と生産費用低減のた めに、域外からの重工業製品輸入時間・費用の削減を図る必要がある。
さらに、現状において、首都などで消費される電化製品・衣料品・食料品・雑貨等の消 耗品の多くを域外からの輸入に頼っている。長期的には、大陸内の産業強化により大陸内 でこれらの産品の生産性を向上することが必要であるものの、生活の多様性や利便性の観 点から、域外からの消耗品輸入需要を阻害することは好ましいとは言えない。一方、これ ら消耗品の輸入・輸送費用が高価であることが、サブサハラアフリカの人件費を上げ、生 産費用にかかる国際競争力を吊り上げている。域外輸入消耗品の価格低減のため、域外か らの輸送費用を削減することが必要である。
(4) マルチセクターアプローチの重要性
前述の広域物流回廊の整備課題を解決し、広域物流回廊整備を通じた地域活性化を促進 するためには、交通インフラの整備のみではなく、関連したソフトインフラの整備や沿線 の産業開発が必要になる。このような、広域物流回廊開発を通じた地域活性化シナリオ達 成のためのマルチセクターアプローチの主要テーマについて、以下にまとめた。
広域物流回廊開発マルチセクターアプローチの主要テーマ
1) 総合的物流システム改善へのセクター横断的な取り組み
インフラ整備に加え、貿易手続き円滑化、人材育成、法制度整備、トラック業界の規制 緩和、整備財源の確保を含めた総合的な取り組み
2) 沿線産業開発等との連携
地域開発、鉱物資源、農業開発、工業開発等との連携(技術協力、資金協力などの多様 なスキームの組み合わせ)
3) 港湾・道路・鉄道の役割分担の明確化
回廊の貿易特性による港湾、道路・鉄道の役割分担の明確化
4) 健全な競争環境確保
道路輸送車両の過積載取締り強化などによる、鉄道との健全な競争環境の実現
5) ドナー、地域経済共同体との連携強化
広域物流回廊整備は多面的支援が必要なうえ、資金需要の規模が大きい
6.2.2 優先整備輸送モード
地域経済活性化のために必要とされる広域物流回廊の輸送モードは、地域の産業ポテン シャルに応じた貿易特性によって異なる。貿易特性別の優先輸送モードを以下のように検 討した。
(1) サブサハラアフリカの鉄道輸送貨物特性と内陸輸送手段
サブサハラアフリカの鉄道輸送貨物の特色は以下のとおりである1。
• 主にバルクであり、港湾を起点/終点とする域外貿易のための輸送貨物が大半で ある2。
• 内陸から港湾方面に輸送される輸出品の主流は、鉱物資源(銅、スズ、マンガン、
石材、石炭など)、木材、農産品(ココア、コーヒー、綿、穀物)である。
• 港湾方面から内陸に輸送される輸入貨物は、ほとんどが工業製品(セメント、石 油製品、一般貨物)である。一般貨物がコンテナ化されているシステムもある
(ウガンダのコーヒーのように、高額のものが国境を越えて港湾に輸送される場 合など)。
1 出典:AICD, 2009, Off Track: Railways in Sub-Saharan Africa
2 例外として、ボツワナの鉄道輸送は港湾を起点/終点としない貨物のシェアが大きい。南アフリカに輸 送される原料・原材料と、南アフリカから輸送される製品(セメント、石油など)が主な鉄道輸送貨物で ある。