1.当社の歴史
当社の創業開始は1995年(設立は1993年)、大連の有力国営企業との合弁であった。
当時の大連は国営企業が幅を利かせていた時代で、大連経済技術開発区には、今では600 社強といわれるほど多くの日系企業が進出しているが、当時はそれほど多くなかった。出 資構成は、日本酸素(現在の大陽日酸)の現金出資に対し、合弁相手の国営企業は現物出 資(工場、事務所、倉庫等)である。必然的に相手先出資の建物を一部増改築して会社の 体裁を整え、国営企業から転じてきた社員が現地スタッフの中心となったことから、当社 の社風の基礎は国営企業の流れを汲んでいると言える。
当社は設立から 15年が経過し、私は 4 代目総経理だが、歴代の総経理、駐在員は古い 習慣を改め、時代に即した社内規則や社風に変えようとしてきた努力が随所に見られる。
(当社事務所) (空気分離装置)
当社の主要製品は、自社プラントから生産される、酸素、窒素、アルゴン、水素等であ り、その他にも、産業には欠かせないガス(炭酸、ヘリウム、アセチレン)等は、製品純 度の良いものを国内で仕入れてユーザーに提供している。輸送形態は、タンクローリー(液 体)及びトラック(ガス)であり、日本への輸出機能はなく、100%中国国内販売の企業で ある。
当社の親会社である大陽日酸は、工業ガスという危険物を取り扱う企業として、「世界中 どこでも同じ品質・安全」を提供することを掲げ、中国を含む世界各国で事業を展開して おり、当社はそのグループの一つである。
1995年の国営企業との合弁時、空気分離装置等の主要機器は日本から輸入し、それ以外 の設備は中国産品を配備した。また、総経理、営業部長、工場長は日本から派遣していた が、工場設備のオペレーション、営業担当の実務は現地スタッフが長年にわたり担ってき ている。
2.大連での外資系企業 ~共存共栄の時代~
かつては、蜃気楼の向こう側に西洋を夢見て、技術先進国の模倣からスタートし、得意 の勤勉から世界を席巻する独自の技術を生み出すまで、日本製品は粗悪品の代名詞であっ
たと聞く。そして、いまや世界の工場といわれる中国からの製品を抜きにして生活するこ とすら難しい。
純然たる中国メーカーの製品と外資系メーカーの製品を分けて考える必要はあるが、
「中国製=信頼性に欠ける」と図式化されているのも事実である。
その一方、優秀な若者、富裕層の師弟の多くが欧米各国へ留学しており、中国では得ら れない「自由闊達」な環境の中で、最先端の技術を、そしてリベラルな思想を学んでいる。
それらの無形財産はこれまで中国に戻ってくることは無かったが、自国の繁栄に伴い、
中国に還元されつつあるのも周知の事実である。
このことからすれば、間もなく優秀な中国の若手により、中国発の最先端技術が開花す ることは間違いなく、一方、信頼性に欠けると言われる製造業も、身近にある外資系企業 の管理手法を貪欲に学ぶ姿勢を見せており、近い将来、必ずや世界水準に達するであろう と個人的には期待している。昨今の中国の経営層は大変若く、それ故、経営判断は極めて 早い。中国企業はトップダウンが徹底されており、嗅覚の優れた経営者がいる企業は、よ り早期に世界市場での存在感を高めてくるであろう。中国人は、一度手中に収めたその栄 光は簡単には手放さない執念と緻密さを持ち合わせている。
さて、「日系企業は欧米系企業と比較して働く魅力が乏しい。」と言われて久しい。その 理由を我々駐在員はもちろん、日本の本社も充分に理解しているにもかかわらず、性急に 変えることは難しいのが現状である。
「中国・大連における人づくり」とは、企業側から考察した「現地スタッフの育成」と いう意味合いと、今後、世界中の企業が集まる中国での事業を通じて、我々駐在員や海外 ビジネスに携わる「日本人の人づくり」という意味も含んで考えていくべき時代となった。
一つの「共存共栄」である。
3.旧態依然の産業ガス業界
一般的な中国事情を少し大げさに格好付けて論じたものの、実は私が身を置く「東北の 産業ガス業界」は前述のような昨今の中国事情とは異なり、かなりドメスティックな環境 である。もともとガスという製品は供給エリアが極めて狭いという特異性と、次に説明す る歴史的な背景により、外部の刺激から守られてきたと考えられる。
1905年の「ポーツマス条約」により日本はロシアから旅順及び大連租借権を引き継ぐと ともに、長春までの鉄道とその沿線の権益を手中にしたことは誰もが知っていることであ る。日本は南満州鉄道(満鉄)により得られた利益で、鋼鉄、炭鉱、石油、造船の工業基 盤を築いた。その基盤は国営化された後、一時的な経済の停滞を招いた時期もあったが、
結果的には、重厚長大産業によって支えられてきたのである。
実際に大連・瀋陽間の2大経済都市を結ぶラインの代表的企業といえば、大連石化、大 連造船、鞍山鋼鉄集団、撫順鋼鉄等、かつて日本人が基礎を築いた重厚長大産業であり、
その企業を頂点にピラミッド型に関係会社が無数に存在する。
それらをメインユーザーとして産業ガス業界の市場も成長してきたと言えよう。
「産業用ガス」とは、酸素、窒素、アルゴンが代表的なガスであり、大気中の空気を冷 却して沸点の相違を利用して分離・製造される。昔から東北地区ではその産業構造に起因 し、切断用の酸素、溶接用アルゴンの需要が多いのが特徴であり、その主たる製造業者は
いわゆる、産業ガスメーカーではなく、自社で大量の酸素を必要とするため、大型の空気 分離装置を所有する大手製鉄会社であった。
要するに、これまでの産業用ガス業界というのは、鉄鋼会社の余剰ガスを仕入れ、ユー ザーに運ぶ機能だけと言っても過言ではなかった。また、本来、産業用ガスの純度管理に は細心の注意を払う必要があるが、この地では極端な表現をすれば「鉄板を切れれば良い。」
程度の要求であったため、輸送用のタンクローリーを購入する資金さえあれば「誰でもで きる仕事」であった。酸素を安く引き取るために、鉄鋼会社との付き合いの宴会や贈り物 が欠かせず、ユーザーに買ってもらうために、付き合いが欠かせず、「財力、体力、そして
強靭な胃袋と肝臓。これらがガス産業に必要不可欠な条件だ。」という時代であったのだ。
以上の事から、大資本にとっては参入しにくいと同時に、あまり魅力ある市場ではなか ったのである。
しかし、時代は変わり、東北地区にも世界レベルの企業が参集してきた。その影響はこ の業界も例外ではなく、酸素以外にも、厳格な純度管理が要求される窒素需要も増加して おり、今後は東北人気質である「義理と人情」を踏襲した上で、ビジネスライクな発想が できる力を養い、社員のフィールドを更に拡大させる事が必然となっている。
当社の目標は現地スタッフにとって、働く意義を感じられる職場、そして彼らによって 支えられる会社である。
4.人材管理における留意点
(1)中国人・東北人の性格
当社は、東北人気質丸出しの社員が多く、かつ「義理と人情」を重視して仕事をして いる
社員が多い。恐らく大連企業の多くの社員の基本は現在でも「東北人気質」だと思われ る。
「社員を教育する」という前提条件として、彼らを理解しなければならない。
次に私の経験から中国の東北人を観察してみたい。
1)请客チ ン コ ウという文化
中国には请客(招く、ご馳走する)という文化が根付いている。この精神、特に東 北人はこの文化を重要視しており、友人同士は勿論、取引先との付き合いや、社員た ちとの交流にも活かされる。例えば、大切な取引先を訪ねた場合、どちらが客か?と いう事は一切関係なく地元側が必ずご馳走する習慣がある。
私は赴任当初、このルール(文化)が理解できず、同行したスタッフに対してお客 様に払わせるのはどうか?と言ったものだが、今ではその土地の料理を遠慮なくいた だいている。彼らが大連に来たときにお返しの宴を開けばよいのだ。
1 回目の乾杯は「朋友ポ ン ユ ウ」になった証に、2 回目の宴会では「好朋友ハ オ ポ ン ユ ウ
」のために、3 回目の宴会ともなれば、既に「老朋友ラ オ ポ ン ユ ウ
」(古い友達)であり、商売上スムーズに交渉で きる土壌が出来上がる。
一方、大連では現地スタッフとのコミュニケーションにも宴会は重要な要素である。
例えば、社員の風紀が乱れている、給与面で不満を抱いているなと感じたら、すぐ に彼らと食事を共にすることにしている。欠かせないのは「白酒パイチュウ」というアルコール