1.はじめに
大連は、中国遼東半島の南端に位置(図-1)し、三方を海に囲まれた風光明媚な港湾都 市として、1984年以降、中国の代表的な外資導入窓口として発展し続けている。特に大連 港は、中国東北部最大規模の国際港で不凍港でもあり、160余の国と地域との貿易を行って いる国内では最大級の対外貿易量を誇っている。
また、大連は中国東北部におけるビジネス、金融、観光などの中心的な位置にある。
1984 年以降、国家級の開発区の建設をいち早く開始し、保税区、ソフトウェアパークを 含め 5 つの開発区が稼動し、現在では、日本をはじめとする外資企業が数多く進出してき ている。また、教育面では、大連市内にある大学22校のうち、日本語学科を設置している 大学が11校を数え、毎年2,000人規模の日本語人材を輩出していることも、この地域の大 きな特長の一つである。
東 北 3 省
中 華 人 民 共 和 国 北 京 ◎
大 連 市 遼 寧 省 東 北 3 省
中 華 人 民 共 和 国 北 京 ◎
大 連 市 遼 寧 省
(図-1)大連市の位置
2.会社概要
キヤノン大連(当社)は、1989 年に日系企業の先駆けとして遼寧省大連市経済技術開発 区に登記、設立した。当時の中国は天安門事件の後遺症があり、投資意欲がそがれ、延期、
中止の企業が続出する中で、キヤノン本社は計画通りの投資を行った。
1991年に複写機、プリンタ用カートリッジの生産と回収カートリッジの事業をスタートさ せ、2001 年からレーザビームプリンタ本体の生産を開始し、今日に至っている。また、環 境面では地球環境との共生を考え、業界に先駆けて使用済みのトナーカートリッジの回収を 行うなど、リサイクル事業として再資源化率100%を達成している。
1997年にISO14001環境認証、ISO9002品質認証を取得し、キヤノングループの一員と して、日本と同一基準の資格認証のもと、生産活動を行っている。
現在、約7,000名の従業員が働いているが、日本人出向者は、32名である。2002年前後 の事業拡大の一時期、50 名弱の日本人出向者がいたが、その後、一層の現地化を進めるべ く現在に至っている。
東北3省
(表-1)会社概要
名 称 キヤノン大連事務機有限公司
所 在 地 中華人民共和国遼寧省大連市・経済技術開発区遼河西路23号 会 社 設 立 1989年9月9日
登 録 資 本 135.75億円
出 資 元 キヤノン株式会社、キヤノン(中国)有限公司 投 資 額 400.09億円
事 業 ・ 生 産 品 目 レーザビームプリンタ、複写機・プリンタ用トナーカートリッ ジ、リサイクル事業(使用済みトナーカートリッジ回収、再生)
敷 地 面 積 170,008㎡ 建 物 面 積 115,276㎡
従 業 員 数 7,165人 (内訳)男性:1,043人、女性:6,122人
(2008年7月末現在)
3.当社における人材育成の留意点
3.1 人づくりの位置付け
当社は、2009年に創立20 周年を迎え、1990年に入社した第一期生を中心にキヤノン大 連の幹部を構成している。現在では、副工場長1名、部長10名、副部長4名、課長34名 の幹部が育っている。当時、外資である当社に入社した彼らの動機は給与水準もさること ながら、日本へ行っての技術、技能研修が大きな魅力となっていた。事実、彼らはそこで 新しい技術を身につけ、設立時の日本人赴任者の献身的な努力もあって、人づくりがなさ れてきた。現在、幹部クラスの流動性は極めて低く、ほとんどの幹部が「定年までの生活 設計を当社で」と考えている。それが会社としての安定性の基盤を作っているとも言える。
当社の経営理念は、一言で言えば「人を大切にする会社でありたい」ということである。
昨今、中国でも新労働契約法の施行を契機として、労働者保護の観点から諸施策が打ち 出されているが、私はまず何よりも仕事を通じて、個人が成長できるような仕組みを企業 の中に、しっかり根付かせることではないか、と考えている。個人の成長の集大成が、結 果として会社の成長に結び付くこと、これが私の目指す姿である。
3.2 人づくりのための教育、研修の考え方
企業では社員の一人ひとりが、その企業の発展の原動力となる。企業は広く人材を求め、
教育・研修の機会をより多く社員に提供することにより、その育成につとめていかなけれ ばならない。
しかしながら、人材育成は、会社にとって良い面と悪い面が表裏一体である。これはど この国、会社でも同じであると思うが、会社が人材の育成、指導に力を入れ、社員が成長 していくと、その知識や技術・技能をもって転職してしまうことが多々ある。当然、当社 でも過去にこのようなことは事実として発生している。会社のため、本人のために時間と 費用をかけて育成しても残念な結果となってしまうケースは、読者の方々も経験されたこ
とがあるかと思う。企業にとって良い方策はないかを考え人材育成に取組んでいきたいと 考えている。人材が流出してしまう現状においては、処遇面など別の観点からのアプロー チが必要と思われる。
当社における人材育成の考え方は、まずは職場でのOJT(On the Job Training=職場で の実践教育)を中心に、社員自らが主体的に能力開発を図ることができるよう、教育・研 修プログラムでより多くの研修参加や取り組みをサポートしていくことを目指している。
能力開発・人材育成に対して、社員と管理者(上司)の基本姿勢は、以下のとおりである。
【すべての社員は】
○ 「三自の精神」に基づき自己成長に努める
○ 仕事の場が最善の自己成長の場でもあることを理解する
【すべての管理・監督者(上司)は】
○ 部下を計画的に、かつ個性を活かし育成する
○ 部下の実力発揮を助長し、公平公正に評価する
特にキヤノングループには、企業理念の実現のための行動指針の一つである「三自(さん じ)の精神」(表-2)があり、その精神は創業当時から脈々と受け継がれてきている。
(表-2)三自の精神
三自の精神
自発 何事にも自ら進んで積極的に行います。
自治 自分自身を管理します。
自覚 自分が置かれている立場・役割・状況をよく認識します。
その行動指針を社員一人ひとりが理解し、行動していけることを究極の目標としている。
当社においてもその考え方は、全く同じである。人材育成の観点からも「三自の精神」
をベースに、社員自らの行動を促している。私が董事長に就任した2005年から教育、研修 体系化を目指し、重点施策として取り組んできた。まだまだ発展途上の段階ではあるが、
これまで取り組んできた活動の一部について、事例を中心に以下に紹介する。
4.当社における人材育成の具体的な事例
4.1 階層別研修、専門研修
役職層ごとにそれぞれの職務に必要な知識・スキル等を習得させ、自己の職務に活せるよ う、階層別の研修を実施してきている。当社の役職体系と階層別研修の受講対象は、図-2 の通りである。
(1) 部長研修、課長研修
まず、「研修のねらい」であるが、部長相当職においては、「革新を実現する推進者を育成 すること」、その要件として、「将来の方向を見極め、メンバーを感化し、新技術・新方式 等で新領域を築く」こととしている。課長相当職では、「業務遂行の責任者を育成すること」、
要件として、「職場の問題点を見極め、メンバーをまとめ、改革・改善を推進する」ことで ある。
研修のカリキュラムは、①経営トップの思い、②リーダーシップ、③財務知識、④コンプ ライアンス(法令遵守)、の主な4項目で構成されている。
特に重視した点としては、まず、第一に「未来永劫、会社が存在し続けること、そのよう
な会社にしていくこと。夢を実現させること。」「経営トップ(董事長)の思い」「経営トッ プの抱く危機感と夢」を、一人ひとりの部長(課長)と認識を一致させることから始めて いる。その上で、自社グループの認識(歴史、事業戦略、財務状況、文化風土など)を共 有し、部長(課長)一人ひとりに求められることや今後の具体的な行動について、個別に 考えさせている。
そして、具体的な行動については、実際の自己の役割(業務の範疇)について、計画を作 成させていることから、その結果については、期末の人事評価に反映させている。
次に財務に関する知識である。会社が利益を追求していくには、その会社組織の最小単位 からのアプローチが重要であり、基礎的な知識を習得し、自己の組織単位で常にコスト意 識をもって業務遂行を実践させることを、このテーマの目的としている。
コンプライアンスについては、まだまだ日本に比べ意識が薄いことは否定できない。この ことは現地の幹部社員にも言えることと思っている。日々の企業活動(当社においては生 産活動)と同様に重点施策の一つとしている。昨今、中国国内においても、環境問題、新 労働法の制定や税務・貿易関連の法整備などが行われ、法令に対する意識高揚、知識習得 の機会を拡大していくことで、企業不祥事を未然に防止していきたいと考えている。この ことは、会社幹部のみならず、全社員に対して、継続的、かつ定期的に教育していくつ もりである。
(部長研修) (部長研修講師:筆者)
(2) 副課長・係長・主任・班長研修
これらの研修は、会社の将来を担う次期の幹部候補生、中堅的存在の社員が対象である。
研修の実施に当たっては、それぞれの役職ごとに開催をしているが、研修カリキュラム としては、①管理知識習得、②会社規定の知識と実践、③コンプライアンス、④実務的研 修、⑤試験、を中心に編成している。その特徴について、いくつか触れてみたい。
管理知識習得の面では、すべての階層(役職)の研修で社外の講師(地元大学の専門講師)
を招いて合宿研修を実施している。共通のテーマとして、「管理技能」「目標管理」「時間管 理」「問題解決」の4つを中堅社員として、小単位組織のリーダーとして、それぞれの目線 にあわせた内容を学ばせている。
これまで社外講師による社内研修やマネジメントスキルを習得する研修が開催されてい なかったこと、同じ階層の社員との交流(グループ討議)ができたことについて、受講者 のほとんどが受講後の感想で良い評価をしている。
会社規定は、日々の業務遂行の中では知識として習得しにくいため、敢えて集中的に学ば