表4.3 観測したν1バンドP ブランチとν2+ 2ν62バンドPP ブランチ.
ν1P(J, K) ν2+ 2ν62PP(J, K) (17, 7) (17, 9) (18, 8) (19, 6) (21, 4) (19, 8) (20, 7) (21, 3) (21, 4) (22, 4) (21, 6) (22, 4) (22, 5) (22, 6) (23, 4) (23, 4) (23, 5) (24, 2) (24, 4) (24, 4) (25, 0) (25, 1) (25, 2) (25, 4) (25, 4)
(26, 4) (27, 4) (28, 2) (26, 4)
4.3 局所的コリオリ相互作用によるスペクトルの変化と分子
- 10 - 5 0 5 Relative frequency / MHz P (24, 3)
P (23, 4)
2958.6 2958.7 2958.8 2958.9
Wave number / cm-1
Transmission / arb. unit
(25, 1) (25, 0)
(17, 9) (20, 7)
(21, 6) (22, 5)
図4.7 CH3Iν1バンドP ブランチの飽和吸収スペクトル(上図)と線形吸収スペクト ル(下図).括弧内は吸収線のアサインメントを(J, K)で表す.上図は下図の四角で囲 まれた部分のサブドップラー分解能スペクトルである.P(24,3)とP(23,4)の遷移周
波数が10 MHz程度に接近しており,ドップラー限界分解能では分解できない.上図
下の棒線は,コリオリ相互作用を考慮せず電気四重極相互作用だけで計算した,超微細 構造で分裂したスペクトルを表す.
局所的コリオリ相互作用を考慮するために,特定のF についての2×2ハミルトニアン 行列を考える.
( E(v1 = 1, J, K, F) WC
√J(J + 1)−K(K −1) WC
√J(J + 1)−K(K −1) E(v2 = 1, v6l = 22, J, K−1, F) )
. (4.25)
ここで,WC はコリオリ結合定数である.対角成分はコリオリ相互作用がないときの振動
回転エネルギーを表しており,
E(v1 = 1, J, K, F)
=Tv1=1+Bv1=1J(J + 1) + (Av1=1−Bv1=1)K2−DvJ
1=1J2(J + 1)2
−DJ Kv
1=1J(J + 1)K2−DvK
1=1K4+EvQ
1=1(I = 5/2, J, K, F), (4.26a) E(v2 = 1, v6l = 2l, J, K, F)
=Tv2=1,v6=2+Bv2=1,v6=2J(J + 1) + (Av2=1,v6=2−Bv2=1,v6=2)K2
−2Av2=1,v6=2ζv2=1,v6=2Kl−DJv
2=1,v6=2J2(J + 1)2
−DJ Kv2=1,v6=2J(J + 1)K2−DKv2=1,v6=2K4+EvQ
2=1,v6=2(I = 5/2, J, K, F) (4.26b) で与えられる.ここで,T は電子エネルギーと振動エネルギーを含めた項,AとB は対 称コマ分子の回転定数,DJ,DJ K,DK は遠心力歪定数,lは振動誘起の角運動量,ζ は コリオリ定数(振動誘起角運動量定数),EQは電気四重極相互作用を表す項である.下付 きの添え字は,振動状態を表す.式(4.26a),(4.26b)中の分子定数はすべてPasoらによっ て与えられた値[95]に固定し,電気四重極相互作用定数を最小自乗法で決定した.Paso らの定数は,不確かさ120 MHzで遷移周波数の観測値を再現できる[95].
解析は以下の手順で行った.図 4.6 と同様の方法で最小自乗フィットを行い,観測し たスペクトルの6本の超微細成分の相対的遷移周波数を決定した.表4.4 は,超微細成 分のうち遷移周波数が最小の吸収線とその他の吸収線との遷移周波数間隔を示す.次に,
(4.25)式で与えられるハミルトニアン行列を対角化して振動励起状態の固有エネルギーを
計算する.固有関数にv1 = 1状態の基底関数を多く含む固有状態を新しいv1 = 1状態,
(v2, v6l) = (1,22)状態の基底関数を多く含む固有状態を新しい(v2, v6l) = (1,22)状態と し,振動回転遷移周波数を計算する.そして,29本の遷移から得られた145の周波数間 隔の実験値を計算から得られる遷移周波数間隔に最小自乗フィットし,3つの分子定数,
(eqQ)v1=1,(eqQ)v2=1,vl
6=22,WC を決定した.表4.5に決定した分子定数とその標準不 確かさ,最小自乗フィットの標準偏差,先行研究で与えられた分子定数とその標準不確 かさを示す.図4.8はν1 P(23,4)遷移の観測されたスペクトルと,得られた分子定数を 使って再計算したスペクトルを表している.さらに,超微細分裂の周波数間隔の観測値,
コリオリ相互作用を考慮しない場合と考慮した場合の計算値および両者の差を表4.6に示 す.表4.6と図4.8から,スペクトルの観測値とコリオリ相互作用を考慮した計算値は良 く一致している.
表4.4 超微細成分の遷移周波数間隔(1/8).6本の超微細成分のうち遷移周波数が最 小の遷移を基準とした相対周波数を示す.各吸収線について測定回数と,相対周波数の 平均値および標準偏差を示す.括弧に囲まれた数値は最小桁を単位とした標準偏差を 表す.
吸収線 測定回数 F00 →F0 遷移周波数間隔/ MHz ν1 P(17,7) 4 292 → 272 0
39
2 → 372 1.236(13)
31
2 → 292 17.01(6)
37
2 → 352 19.35(8)
33
2 → 312 26.32(9)
35
2 → 332 27.36(9)
ν1 P(17,9) 3 292 → 272 0
39
2 → 372 3.82(9)
31
2 → 292 27.42(5)
37
2 → 352 34.21(6)
33
2 → 312 43.29(13)
35
2 → 332 46.32(8)
ν1 P(18,8) 1 312 → 292 0
41
2 → 392 1.674
33
2 → 312 18.47
39
2 → 372 21.50
35
2 → 332 28.66
37
2 → 352 29.98
ν1 P(19,6) 4 432 → 412 0
33
2 → 312 0.350(15)
41
2 → 392 8.87(3)
35
2 → 332 9.31(3)
39
2 → 372 13.41(4)
37
2 → 352 13.63(5)
表4.4 超微細成分の遷移周波数間隔(2/8).
吸収線 測定回数 F00 →F0 遷移周波数間隔/ MHz ν1 P(19,8) 4 332 → 312 0
43
2 → 412 1.109(10)
35
2 → 332 15.75(6)
41
2 → 392 17.87(6)
37
2 → 352 24.32(7)
39
2 → 372 25.27(7)
ν1 P(20,7) 4 352 → 332 0
45
2 → 432 0.15(2)
43
2 → 412 10.58(18)
37
2 → 352 10.59(13)
39
2 → 372 15.677(10)
41
2 → 392 15.87(3)
ν1 P(21,3) 3 472 → 452 0
45
2 → 432 0.794(12)
37
2 → 352 1.46(2)
43
2 → 412 2.208(8)
39
2 → 372 3.254(8)
41
2 → 392 3.39(2)
ν1 P(21,4) 3 452 → 432 0
47
2 → 452 0.477(12)
43
2 → 412 0.837(12)
41
2 → 392 1.93(9)
37
2 → 352 2.12(10)
39
2 → 372 2.679(10)
表4.4 超微細成分の遷移周波数間隔(3/8).
吸収線 測定回数 F00 →F0 遷移周波数間隔/ MHz ν1 P(21,6) 4 472 → 452 0
37
2 → 352 0.598(7)
45
2 → 432 6.452(16)
39
2 → 372 7.33(3)
43
2 → 412 9.92(5)
41
2 → 392 10.31(3)
ν1 P(22,4) 3 472 → 452 0
45
2 → 432 0.11(2)
43
2 → 412 1.337(7)
49
2 → 472 2.13(3)
41
2 → 392 2.85(4)
39
2 → 372 3.71(3)
ν1 P(22,5) 4 492 → 472 0
39
2 → 372 0.96(4)
47
2 → 452 3.461(13)
41
2 → 392 5.033(18)
45
2 → 432 5.80(3)
43
2 → 412 6.485(15)
ν1 P(22,6) 4 492 → 472 0
39
2 → 372 0.654(5)
47
2 → 452 5.469(16)
41
2 → 392 6.468(11)
45
2 → 432 8.56(3)
43
2 → 412 8.99(2)
表4.4 超微細成分の遷移周波数間隔(4/8).
吸収線 測定回数 F00 →F0 遷移周波数間隔/ MHz ν1 P(23,4) 2 472 → 452 0
49
2 → 472 0.862(13)
45
2 → 432 1.35(3)
43
2 → 412 3.83(6)
51
2 → 492 4.90(3)
41
2 → 392 6.51(5)
ν1 P(23,5) 4 512 → 492 0
41
2 → 392 0.924(10)
49
2 → 472 2.967(14)
43
2 → 412 4.50(2)
47
2 → 452 5.05(2)
45
2 → 432 5.73(3)
ν1 P(24,2) 4 512 → 492 0
53
2 → 512 0.34(5)
49
2 → 472 0.73(2)
43
2 → 412 1.61(2)
47
2 → 452 1.76(4)
45
2 → 432 2.27(2)
ν1 P(24,4) 3 492 → 472 0
47
2 → 452 1.21(3)
51
2 → 492 1.366(14)
45
2 → 432 4.202(12)
53
2 → 512 6.183(2)
43
2 → 412 7.774(17)
表4.4 超微細成分の遷移周波数間隔(5/8).
吸収線 測定回数 F00 →F0 遷移周波数間隔/ MHz ν1 P(25,0) 4 532 → 512 0
51
2 → 492 0.460(5)
55
2 → 532 0.873(9)
49
2 → 472 1.423(8)
45
2 → 432 2.102(16)
47
2 → 452 2.234(8)
ν1 P(25,1) 4 532 → 512 0
51
2 → 492 0.515(12)
55
2 → 532 0.746(10)
49
2 → 472 1.447(8)
45
2 → 432 1.984(9)
47
2 → 452 2.180(13)
ν1 P(25,2) 4 532 → 512 0
55
2 → 532 0.32(3)
51
2 → 492 0.70(2)
49
2 → 472 1.631(11)
45
2 → 432 1.806(11)
47
2 → 452 2.257(8)
ν1 P(25,4) 2 512 → 492 0
53
2 → 512 0.48(4)
49
2 → 472 1.10(2)
47
2 → 452 2.95(5)
55
2 → 532 3.47(7)
45
2 → 432 4.81(6)
表4.4 超微細成分の遷移周波数間隔(6/8).
吸収線 測定回数 F00 →F0 遷移周波数間隔/ MHz ν1 P(26,4) 3 552 → 532 0
53
2 → 512 0.139(16)
51
2 → 492 1.005(10)
57
2 → 552 1.72(2)
49
2 → 472 2.15(3)
47
2 → 452 2.886(7)
ν1 P(27,4) 3 572 → 552 0
55
2 → 532 0.2727(11)
59
2 → 572 0.921(5)
53
2 → 512 1.091(6)
51
2 → 492 1.848(12)
49
2 → 472 1.990(8) ν1 P(28,2) 2 592 → 572 0
57
2 → 552 0.406(19)
61
2 → 592 0.544(12)
55
2 → 532 1.230(10)
51
2 → 492 1.4288(3)
53
2 → 512 1.738(4)
ν2+ 2ν6l=2PP(21,4) 2 432 → 412 0
41
2 → 392 2.36(8)
45
2 → 432 4.23(10)
39
2 → 372 9.41(4)
47
2 → 452 16.67(9)
37
2 → 352 19.35(3)
表4.4 超微細成分の遷移周波数間隔(7/8).
吸収線 測定回数 F00 →F0 遷移周波数間隔/ MHz ν2+ 2ν6l=2PP(22,4) 3 452 → 432 0
43
2 → 412 1.98(6)
47
2 → 452 3.34(4)
41
2 → 392 7.768(7)
49
2 → 472 13.441(15)
39
2 → 372 15.77(3)
ν2+ 2ν6l=2PP(23,4) 4 472 → 452 0
45
2 → 432 1.67(2)
49
2 → 472 2.38(2)
43
2 → 412 6.10(5)
51
2 → 492 10.05(5)
41
2 → 392 12.02(7)
ν2+ 2ν6l=2PP(24,4) 2 492 → 472 0
47
2 → 452 1.47(5)
51
2 → 492 1.82(3)
45
2 → 432 5.07(6)
53
2 → 512 8.06(7)
43
2 → 412 9.78(7)
ν2+ 2ν6l=2PP(25,4) 3 512 → 492 0
49
2 → 472 1.50(4)
53
2 → 512 2.60(4)
47
2 → 452 5.90(2)
55
2 → 532 10.33(5)
45
2 → 432 12.04(3)
表4.4 超微細成分の遷移周波数間隔(8/8).
吸収線 測定回数 F00 →F0 遷移周波数間隔/ MHz ν2+ 2ν6l=2PP(26,4) 1 532 → 512 0
51
2 → 492 1.476
55
2 → 532 3.023
49
2 → 472 6.24
57
2 → 552 11.60
47
2 → 452 13.34
表4.5 決定した分子定数.括弧に囲まれた2桁の数値は最小桁を単位とした標準不確 かさを表す.WCはエネルギーの次元を持つが,これと等しいエネルギーの光子の周波 数で表記する.
本研究 先行研究 文献 (eqQ)v1=1/ MHz −1937.06(5) −1937.06(3) [28]
(eqQ)v
2=1,v6l=22 / MHz −1951.24(12) — —
WC / MHz 257.6(10) 261(30) [95]
最小自乗フィットの標準偏差:0.12MHz
表4.6 ν1P(23,4)遷移の超微細構造分裂のフィッティング.遷移周波数f は,下準 位と上準位の全角運動量F00とF0に依存する. 計算値 は文献[28, 108]で与えられ る(eqQ)Gと(eqQ)v1=1を使って計算した値, 再計算値 は文献[108]と表4.5で決 定された分子定数を使って得られた値である.
遷移周波数間隔:[
f(F00 →F0)−f(F00 = 412 →F0 = 392)]
/ MHz F00 →F0 測定値 計算値 再計算値 (測定値)−(再計算値)
43
2 → 412 −2.68 2.36 −2.81 0.13
45
2 → 432 −5.18 2.83 −5.34 0.16
47
2 → 452 −6.55 1.99 −6.66 0.11
49
2 → 472 −5.68 0.47 −5.79 0.11
51
2 → 492 −1.63 −1.05 −1.65 0.02
- 4 - 2 0 2 4 6 Relative frequency / MHz
図4.8 ν1P(23,4)遷移の観測されたスペクトル(上)と,コリオリ相互作用を考慮し て再計算したスペクトル(下).
表4.5に示したように,本章で決定した(eqQ)v1=1は先行研究の値と非常によく一致し ており,v1 = 1状態の超微細構造定数は回転状態依存性が小さいこと示唆している.ま た,本章で製作した分光計は,スペクトル分解能では先行研究[28]の100 kHzより悪い が,同調範囲が広いため多くの吸収線を観測できた.このため,不確かさは統計的に減少 し,その結果,先行研究と同程度の不確かさで(eqQ)v1=1を決定できた.コリオリ結合定 数WCの値はドップラー分解能赤外分光の文献[95]と不確かさの範囲内で一致しており,
分光計の分解能が高いため不確かさは1桁以上小さい.
電気四重極超微細構造定数の振動依存性は,マイクロ波分光により振動エネルギーEv
がEv . kBT の振動状態で調べられている [102, 108].しかし,(eqQ)v
2=1,v6l=22 を決 定したのは本研究が最初である.関連する振動状態の電気四重極超微細構造定数から,
(eqQ)v2=1,vl
6=22 は次のように予想される.
(eqQ)G+δ(eqQ)v2=1+ 2δ(eqQ)vl
6=11 =−1949.10(91)MHz, (4.27a) (eqQ)G+δ(eqQ)v2=1+δ(eqQ)vl
6=22 =−1949.13(95)MHz, (4.27b) (eqQ)G+δ(eqQ)v2=1,vl
6=11 +δ(eqQ)vl
6=11 =−1950.8(16)MHz. (4.27c) ここで,
δ(eqQ)v = (eqQ)v −(eqQ)G (4.28) である.式(4.27a),(4.27b)の値と本研究の結果との差は不確かさの範囲を超えているが,
式(4.27c)は一致している.