第 7 章 まとめ 110
A.3 位相整合
波長変換効率があまり高くなく,A1,A2が非線形結晶中を通過しても変化しないと仮 定すると,(A.10c)式から差周波光の電場振幅E3 は
E3 =−iε0µ0χ(2)ω32 2k3
A1A∗2
∫ L 0
e−i∆kzdz
= χ(2)ω3
2∆kn3cA1A∗2(e−i∆kL−1) (A.11) となる.ここでn3 は差周波光に対する非線形結晶の屈折率,Lは非線形結晶の長さであ る.したがって,差周波光のパワーは
W3 = (χ(2))2ω32L2
2ε0c3n1n2n3W1W2sinc2
(∆kL 2
)
(A.12)
となる.ここで,W1,W2,W3 は,それぞれポンプ光,シグナル光,アイドラー光のパ ワーである.
(A.12)式より,差周波光のパワーは位相整合条件∆k = 0を満たすときL2 に比例して
大きくなる.また,非線形光学結晶に入射するポンプ光とシグナル光のパワーの積にも比 例する.したがって,差周波光への変換効率ηは
η= W3
W1W2 (A.13)
で定義する.
位相整合の方法には,角度位相整合,温度位相整合,擬似位相整合などがある[A1].角 度位相整合では,結晶の複屈折性を使うことで位相整合条件を満たす.しかし,屈折率分 散のために常光線と異常光線は異なる方向に進行するため(walk off),位相整合条件を満 たす距離が短い.温度位相整合では,結晶の温度を変えて屈折率を変化させ,walk offを 補正する.
■擬似位相整合 本研究で差周波発生に使用した PPLNは,擬似位相整合によって位相 整合条件を満たす.擬似位相整合はArmstrongらによって提案され[A2],分極が周期的 に反転する非線形光学結晶を用いて位相整合を達成する.図A.1は,周期反転分極構造を 持った非線形光学結晶を示す.χ(2) の符号がz 方向に周期Λで反転すると,χ(2) はz の 関数として
χ(2)(z) =χ(2)0
∑∞ q=−∞
cqei2πqz/Λ (A.14)
と表される.ここで,χ(2)0 は定数,cqは展開係数である.これを(A.10c)式に代入すると,
dA3(z)
dz =−iε0µ0χ(2)ω23 2k3
A1(z)A∗2(z)
∑∞ q=−∞
cqei(2πq/Λ−∆k)z (A.15)
となる.q次の項に対する位相整合条件は
∆k = 2πq
Λ (A.16)
となり,それ以外の次数を無視すると,
dA3(z)
dz =−iε0µ0χ(2)0 ω32 2k3
A1(z)A∗2(z)cq (A.17)
図A.1 分極が周期的に反転する非線形光学結晶.
となる.したがって,結晶の屈折率を温度で調節すると広い波長領域で位相整合を達成で きる.
本研究で使用したPPLNモジュール(NTT Electronics; WD-3360-000-A-B-C)は,内 部のPPLN結晶が導波路構造を持っているため,導波路内に光パワーが集中し,バルクの PPLNに比べて変換効率は100倍以上となる.また,あらかじめ光ファイバーと結合され ており光学系の調整も不要である.モジュール内に取り付けられたペルチェ素子によって 温度をコントロールし,位相整合を達成する.
付録 B
位相比較器の種類と特徴
位相比較器には,DBMのほかにXOR(Exclusive-OR)回路や位相周波数比較器(PFC:
phase frequency comparator)がある.以下にそれぞれ特徴をまとめる[A3].
■DBM型位相比較器 アナログ乗算器を使った位相比較器である.検出できる位相差の 範囲は0 < ∆φ < πで,位相雑音が小さい.基準信号に方形波を使用する場合,デュー ティー比が50%でない場合は検出信号が歪む.基準信号には十分大きなレベルの信号を,
比較信号(ビート信号)には検出信号に歪みが生じない適切なレベルの信号を用意する必 要がある.
■XOR 型位相比較器 ロジック回路の排他的論理和を用いた位相比較器である.デ ジタル回路なので,信号レベルによる歪みは生じない.検出できる位相差の範囲は 0 < ∆φ < π で,位相雑音はDBM より大きく,後述のPFC より小さい.基準信号の デューティー比が50%でないと検出信号が歪む.
■PFC J-KフリップフロップとNAND回路を組み合わせた位相周波数比較器である.
1周期以内の位相差に対しては位相比較器として働き,位相差に比例したデューティー比 の信号を出力する.一方,1周期以上の位相差に対しては周波数比較器として働き,入力 信号と基準信号の周波数の大小によってハイレベルかローレベルの電圧を出力する.その ため,キャプチャーレンジは無限大で,周波数差に関わらず比較信号の周波数を基準信号 に引き込める*1.また,信号の立ち上がりで比較するため,デューティー比に影響されな い.しかし,ICを構成するゲート回路の遅延によって,位相差0付近に不感帯が発生す る.このため,PFCの位相雑音はDBM,XORに比べて大きい.
*1実際には,レーザー光源,検出器,フィードバック回路などで制限される.
付録 C
製作した回路
■PDH法に使用したフィードバック回路 図C.1は,4章においてPDH法で中赤外光の 周波数を光共振器のモードに安定化するために使用したフィードバック回路を示す.中赤 外光に位相変調を加えるためにEOMに印加する10 MHzの変調信号生成部分と,検出 信号を復調して誤差信号を得るためのミキサ部分,および誤差信号がECLDにフィード バックする際に通過するループフィルタ部分から構成される.水晶発振器(XO)からの
10 MHzの信号をModulation端子から出力し,EOMに入力して変調を加える.光共振器
からの反射光の検出信号をSignal input 端子に入力し,10 MHzで復調することで誤差信 号を生成する.誤差信号はフィルタやPI回路を通してECLDの電流変調入力(高速およ び低速),PZT電圧変調入力にフィードバックされる.
図C.2は,5章で用いたPDH用フィードバック回路である.4章で用いたフィードバッ ク回路を改良したもので,局部発振器の位相反転部分にMOSスイッチを使用し,位相 調節部分にはフェイズシフタ素子を使用した.また,誤差信号に時間変化するオフセッ ト電圧が加わりPDH法による周波数のロックポイントがずれるのを補償するため,ロッ クインアンプで検出した1f 信号を補償用信号としてフィードバックできるようにした.
External offset端子にはロックインアンプからの1f 信号を入力し,これをPI回路を通し
てPDH法の誤差信号に加えてロックポイントのずれを補償する.
6章では,光周波数コムに同期した中赤外光に光共振器のモード周波数を安定化するた めに,図C.2の回路を使用した.PZT端子の出力を光共振器のPZT1に,LD current (low
speed)端子の出力を光共振器のPZT2に印加して安定化を達成した.
1 2 3 4
ABCDEF 1 2 3 4 ABCDEF
22nF2.2k
2.2k 13.8k
2.2k 13.8k
2.2k 100nF 20k
2.2k
10k 1.5k
47LM6361N LM6361N 2.2k 1.5k 47pF3k2.2k
10k
270 33k 5k 33k
10k
10k 220
LM6364N LM6364N
+15V -15V
220nF
100 2k
200pF LM6361N
10k 47 220nF OP77G
100k500k 1.5k
47 5k
91k 10k 471000pF
51 51
47 47
LM6364N 47 10kOP27GP
100k
47
100k OP27GP20k
10k Monitor
LD current (low speed)
LD current (high speed) 470pF Signal input
PZT
Modulation 3,4 8
8
1
2 3,4,5,6 7 1
XO: 10MHz 2,5,6,7
R&K M7
R&K HYB-2 SRS SIM960 PID controller Mini Circuit PLP-10.7 図C.1PDH法に使用したフィードバック回路(4章).R&KHYB-2:90◦ 位相分配/結合器,MiniCircuitPLP-10:10MHz ローパスフィルタ,R&KM7:ダブルバランスドミキサ.
図C.2PDH法に使用したフィードバック回路(5章).G3VM-61B1:MOSスイッチ,JSPHS-12+:フェイズシフタ.
■分周器 図C.3はレーザー光と光周波数コムのビート信号の周波数を分周する分周器の 回路図である.オフセットロックのキャプチャーレンジを広げるために使用した.基本 構成は文献[A3]を参考にした.初段のトランジスタはベース接地の電圧増幅器を構成し ており,入力信号をTTLレベルに変換する.周波数の分周には74HC4040(12bitカウン ター)を用い,出力部分のコンデンサによって出力をAC結合にしている.また,DIPス イッチによって256, 512, 1024, 2048分周を選択できる.21.4 MHz の正弦波を入力した 場合に,入力信号レベル−17dBmから8 dBmの範囲で正常に動作することを確認して いる.
1
2
A B C
1
2
A B C
INPUT
OUTPUT 5V
47uF 0.1uF 2.2kΩ
5kΩ
SC1907
11 RST
Q1 9 Q2 7 Q3 6 Q4 5 Q5 3 Q6 2 Q7 4 Q8 13 Q9 12 Q10 14 Q11 15 Q12 1 10 CLK
74HC4040
51Ω 0.01uF 2.2kΩ
300Ω 0.01uF 20Ω
1kΩ
0.01uF
図C.3 分周器の回路図.
■デジタル位相周波数比較器 DBMがアナログの位相比較器として動作するのに対し,
PFCはデジタルの位相周波数比較器である[A3].基準信号と比較信号(ビート信号)の 位相差を∆φとすると,DBMの動作範囲は0 < ∆φ < πである.これに対し,PFCは 周波数の比較もできるためオフセットロックのキャプチャーレンジが広い.本研究では,
ECLDとNd:YAGレーザーを光周波数コムにオフセットロックするために使用した.図
C.4は,PFCを使った位相周波数比較器の回路図を示す.基本的な構成は文献[A4]を参 考にした.初段に配置した高速コンパレータ(AD96687)で入力信号をECLレベルに変
換する.2段目のIC(MCH12140)はデジタル位相周波数比較器で,V入力信号とR入
力信号の位相差,周波数差によってU出力信号とD出力信号のデューティー比が変化す
る.3段目のOPアンプ(AD797)でU出力とD出力を差動増幅し,同時に約1 MHzの
ローパスフィルタで高周波成分をカットして位相および周波数の弁別信号を生成する.
1
2
3
A B C D E
1
2
3
A B C D E
-5V
+5V
-2V
1kΩ OUT
1kΩ
1kΩ 150pF
1kΩ
3 2
1
AD797 150pF
51Ω
7 R D4
Vcc8
D3 U2 U1
Vee5
6V
MCH12140
-2V
51Ω 51Ω
Q1Q16
Q2
G3
LE4
LE5
-Vs6
-IN7
+IN8+IN9 -IN10 +Vs11 LE12 LE13 G14 Q15
AD96687
51Ω 51Ω 0.1uF
0.1uF 51Ω
51Ω 0.01uF RF
LO
0.01uF
図C.4 デジタル位相周波数比較器.
■ECLD用フィードバック回路 図C.5は,ECLDを光周波数コムにオフセットロック する際に使用したフィードバック回路を示している.初段のOPアンプはローパスフィル タ,2段目は極性反転回路であり,その後のループフィルタは概ね図 C.1,C.2と同じ構 成である.LD current (high speed)側には位相進み回路が加えられており,フィードバッ クループの高周波数域における位相遅れを補償している [A5].また,LD current(low
speed)出力にはオフセット電圧を印加できるようになっており,オフセットロックの際
にECLDの周波数をあらかじめ調整できる.
■Nd:YAG レーザー用フィードバック回路 図C.6 は,Nd:YAGレーザーを光周波数コ ムにオフセットロックする際に使用したフィードバック回路を示している.1 Hz以下の 低周波成分は PI回路を介して Nd:YAG レーザーの結晶温度制御にフィードバックし,
100 kHz程度までの高周波成分はPI回路を介してPZTにフィードバックする.ECLDの
フィードバック回路と同様にPZT側に位相進み回路が加えられている.
1
2
3
4
A B C D E
1
2
3
4
A B C D E
10k
10k PZT
10k
5 6
7
OPA4277
3 2
1
OPA4277 10nF
20k 100k
1uF 10k
100k
100k 150pF
10k
10k 0.1uF 10k
10k
10k 10k
5k +15V
12 13
14
OPA4277
-15V Monitor
10 9
8 OPA4277 10k
10k
SW1
10k 220pF
10k
Input
1k
OP27
OP27
20k 20k
10pF OP27
10pF
1nF
LD current (low speed) LD current (high speed)
図C.5 ECLD用フィードバック回路.