4.4 「フラウンホーファー」モデルに見る産学連携型のドイツ
5.1 国内企業による推進事例 (以下、五十音順)
5.1.4 小松製作所
概要
小松製作所(以下、コマツ)は、建設鉱山機械事業を発展・成長させていくためには、自社で培 ってきたコア技術に社外の最新技術の短期融合が必要であることを認識し、2014年4月にCTO
(Chief Technology Officer)室を設置した。会社として目指す方向性・ビジョンを示し、最新技術の 情報収集を行うCTO室を通じて産産・産学の外部連携を国内外にて迅速に推進する体制を整え ている。
課題・背景
(1) ダントツ経営への方針転換による業績V字回復
コマツは、2001年度に創業以来初の赤字に転落した後、坂根正弘前会長(当時社長)が事業 の選択と集中を進めて経営構造改革を断行し、同社の持つ強みに徹底的に磨きをかける方針へ と転換した。「環境、安全、ICT」をキーワードに、他社の追随を数年は許さない特長を持つ「ダント ツ商品」の開発を進めてきた。建設機械にGPS機能を搭載し「稼働の見える化」により革新的なサ ービス性向上を実現した機械稼働管理システム「KOMTRAX」に関しては、建機1台あたり20万円 のコストを自社負担により標準装備するという、短期的な利益を後回しとした成長優先の決断をし ており、このような姿勢が結果的にV字回復の原動力となったといえる。
野路國夫前社長も、坂根前会長の方針を踏襲し、主要コンポーネントの自社生産・自社開発と いう強みを活かした技術優位性と開発・生産・サプライヤーが一体となった商品の作り込みを通じ て、2008年には同社の「ダントツ商品」の代表となる量産ハイブリッド油圧ショベルを世界で初め て市場導入した他、最新のICTを活用し顧客の現場を「見える化」することで課題解決につなげる ことに努めてきた。その最たるものが世界初の鉱山向け「無人ダンプトラック運行システム
(AHS)」であり、「ダントツ」の概念を顧客に対するトータルサービスやソリューション提供にも拡充 してきた。
(2) オープンイノベーションの必要性の認識
コマツは、2013年4月に発表した新たな3ヵ年(2013~2015年度)の中期経営計画「Together We Innovate GEMBA Worldwide」において、①イノベーションによる成長戦略、②既存事業の成 長戦略、③企業体質強化のための構造改革を3本柱に据えて、パートナー企業を含めて顧客の 現場において顧客とともに新しい価値を創造するイノベーションの実現を目指すとしている。特に
①に関して、ダントツ商品・ダントツサービス・ダントツソリューションの開発をさらに進めるために
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コマツでは、坂根前会長、野路前社長(現会長)をはじめとして、トップ層が同社において目指す べき将来ビジョンやイノベーションによる成長戦略を明確に打ち出している。コマツにおけるイノベ ーションの定義と位置づけは以下のとおりである。
図表 5-12 コマツにおける成長戦略の概要
前提
① 建設機械という主力事業 で、自社のコア技術をしっ かりと持つ
② 経営陣が技術のトレンド を 把 握 、 数 十 年 先 の 市 場・技術開発を見通す
③ 経営陣も 現場( 自社、顧 客、パートナー企業の生 産現場を含む)に足を運ぶ
技術革新 新たな顧客価値創造
主要コンポーネントの自社開発・自社生産 という強みを活かした技術優位性
自社のコア技術以外の最新技術は、技術 を保有する外部組織と連携して早期に取 り込み、自社の既存技術と融合させる
「顧客の現場により深く関わり、販売代理店 やサプライヤーなどのパートナーと協力して、
商品・サービスの領域に加え、工事(施工)な ど顧客事業そのものを効率化するソリューシ ョンの領域で新しい価値を創造し、お客様に 提供」
出所: コマツ119
119 http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/ir/annual/html/2015/strategies/message/
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図表5-12 コマツにおける成長戦略の概要
このようにトップダウンで示されたビジョン・方針に従い、事業領域の拡大や同社としてやるべき 行動施策を実現するにあたり、自社で保有しない技術については、技術を持つ外部と上手く協業 しなければならないという意識で、自社技術の公開から、外部技術の取り込みと既存のコア技術 との融合へと段階的に進めてきたことが、自然とオープンイノベーションの取り組みに結び付いて いたと認識している。実際に、同社は主力領域である建設機械とICTの融合を2000年代半ばより 米国で進めており、外部協業先とWin-Win関係を構築することを意識しながら、徐々に外部連携 の知見を蓄積し、良好な協業関係を築けるようになった。
CTO室設置
コマツでは、前出の中期経営計画「Together We Innovate GEMBA Worldwide」に合わせて、
より新しい取り組みを推進するため、2014年4月にCTO室を設置した。同室は、産学連携・産産 連携により最新の知識・技術をいち早く取り込み、既存技術と融合させるオープンイノベーション の取り組みを加速する目的で、国内外の情報収集と外部との連携強化を図っている。
(1) CTO室の特徴
CTO直下の組織であり、連携可能性がある場合、迅速な意思決定ができる体制(定期的に 報告場を持つ以外に、事業化の可能性が高い場合には社長含めたトップ、社内関連部門に 声掛けし関係者全員で議論する場を設定)
コマツは「研究開発の現場」も重視するため、CTO室の担当者は、開発出身の人材である。
また実際の開発現場から離れて距離が発生しないよう、一部のメンバーは現場責任者と同 室の役割を兼任している
(2) CTO室の役割
将来像の提示とイメージ共有を行う。「実際に何をするべきか」「ビジョンを実現するために、
どのような技術が必要か」という段階まで落とし込み、全社で推進できるようにする
国内外の最新技術に関する情報収集が主な活動で、CTO室メンバーは米シリコンバレー、
東海岸、イスラエル、欧州にネットワークを張り、世界中を飛び回りながら探索に努める
(3) CTO室に巻き込む人材
「目利き」ができるようコマツのビジネス、技術、現場を知り尽くし、多様な開発経験を有する 人材
また、実際に外部連携を進める際には、CTO室と各開発事業部間で密な情報交換が必要 となるため、社内にネットワークがあり信頼されている人材
最新の技術や新たな取り組みに対する感度が高い旬な人材、また社内外の関係先間で上 手く立ち回ることができる小回りの利く人材
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さらに、CTO室は人材育成としての機能も持つ。CTO室で情報収集・評価した技術に関して は、最終的に開発現場に導入される可能性があり、CTO室に身を置くことで有望技術がコマツの 中期経営計画や将来ビジョンに合致しているかなど、経営マインドを養成する意味合いがある。ま た、同室の兼務期間は短期に設定しており、CTO室で学んだことを現場に還元、兼任者が現場に 戻りさらに開発現場の人材育成につなげる目的がある。
成果
上記のとおり、コマツではCTO室を中心にオープンイノベーションによる成長戦略を実現するた めの取り組みを加速させており、2015年には相次いで国内外のベンチャー企業等との資本・業務 提携を発表している。
図表 5-13 コマツにおける最近のベンチャー企業との提携実績
2015年 提携先企業 具体的な内容
2月 ZMP 建設・鉱山機械の無人化・自動運転化などで協業(資本提携)
5月 オプティム リアルタイムの映像を遠隔地の専門家などとつなぎ現場サポー ト(業務提携)
9月 GE ビッグデータ活用で連携。次世代の鉱山機械の開発と稼働効 率を最適化するソリューション提供
9月 Skycatch ドローンを用いた測量・施工計画の効率化、ICT機との連携によ る施工の効率化(資本提携)
コマツでは、海外での情報収集とネットワーク構築を目的に、2013年頃より米VCに出資を開始 し、VCのシリコンバレーオフィスのデスクを借りて1ヶ月に1度駐在員を派遣している。VCの投資 対象領域における調査の中で、コマツのビジョン・戦略に合致するベンチャー企業の紹介を受け る。上表のSkycatchは、コマツが出資する米VCの紹介により、スマートコンストラクションにおけ る連携可能性が高いとの判断から業務連携関係を締結したケースである。同社との業務提携は 紹介・面談から約4-5月で発表しており、特に海外のベンチャー企業との連携を進める上で意思決 定スピードを向上させることで、現地ネットワークに入り込み、さらなるオープンイノベーションへの 加速につなげていくことを目指す。
成功要因の分析
コマツにおけるイノベーションの取り組みで成果が出始めている背景には、以下の要因がある と考えられる。
トップダウンによる戦略・ビジョンが明確
最大の特徴といえるのが、コマツとして目指すビジョン、やりたいことが明確であり、トップダウン で示された戦略・ビジョンが対内外的に発信されるメッセージにも反映され一貫性がある点であ
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図表5-13 コマツにおける最近のベンチャー企業との提携実績