4.4 「フラウンホーファー」モデルに見る産学連携型のドイツ
5.1 国内企業による推進事例 (以下、五十音順)
5.1.9 トヨタ自動車
概要
トヨタ自動車(以下、トヨタ)では、「トヨタ環境チャレンジ2050」の6つのチャレンジや、知能化技 術、ロボティクス、水素社会実現に資する技術の3つの中核技術を投資・育成対象とする「未来創 生ファンド」の設立など、持続可能な未来の社会づくりのため国内外の産学と広く連携している。
共同研究や技術募集のみならず、自社特許の開放や開発コミュニティの形成、ファンド設立など 幅広い取り組みを行っている。
また、2016年4月には大規模な組織改正が行われ、オープンイノベーションによって将来の技 術やビジネスを「社会視点」および「長期視点」から創造することを目的に「未来創生センター」が 新設された。
課題・背景
トヨタは創業以来、「クルマづくりを通して社会に貢献する」、「技術と創造で変革をリードする」こ とに取り組んでおり、企業の存続にとって重要なことは社会的な意義、持続可能な社会づくりへの 貢献であると考えている。技術革新により、今後、モビリティのエネルギー源は電気や水素など化 石燃料以外のエネルギーにさらに多様化していき、それも分散化されていくと捉えている。また、
自動車単体からソフトウェア、データ、社会システムに一層目を向けていくことが必要と考えてい る。
このような考えから同社では、持続可能な社会に向けた中長期の戦略である「トヨタ環境チャレ ンジ2050」を打ち出し、1社単独では難しい将来のモビリティや社会システムの開発に、同じ志を 持つすべてのステークホルダーとともにオープンイノベーションで取り組もうとしている。
取り組み
持続可能な社会の実現に向けて、2015年10月に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表した。この 中では、トヨタが成し遂げるべきチャレンジとして、「もっといいクルマ」「もっといいモノづくり」「いい 町・いい社会」の3つの領域で6つのチャレンジが掲げられている。3つの領域におけるチャレンジ
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(1) 「もっといいクルマ」
2050年にグローバル新車平均走行時CO2排出量を2010年比で90%削減するという「新車 CO2ゼロチャレンジ」と、ライフサイクル視点で、材料・部品・モノづくりを含めたトータルでのCO2排 出ゼロを目指す「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」が掲げられている。
(2) 「もっといいモノづくり」
製造技術の改善と利用エネルギー変更の2本柱で2050年にグローバルの工場でCO2排出ゼ ロを目指す「工場CO2ゼロチャレンジ」と、各国地域事情に応じた水使用量の最小化と排水の管 理を目指す「水環境インパクト最小化チャレンジ」が掲げられている。
(3) 「いい町・いい社会」
日本で培った「適正処理」やリサイクルの技術・システムのグローバル展開を目指す「循環型社 会・システム構築チャレンジ」と、自然保全活動を、グループ・関係会社から地域・世界へつなぎ、
そして未来へつないでいく「人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ」が掲げられている。
図表 5-27 トヨタ環境チャレンジ2050における6つのチャレンジ
出所: トヨタ自動車127
127 http://www.toyota.co.jp/jpn/sustainability/features/environment/
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図表5-27 トヨタ環境チャレンジ2050における6つのチャレンジ
また、2015年11月、未来社会に向けたイノベーションの加速を目的とする「未来創生ファンド」を 設立・運用開始している。同ファンドはスパークス・グループをファンド運営者とし、トヨタ自動車お よび三井住友銀行を加えた3社で総額およそ135億円を出資している。また、2016年3月までに趣 旨に賛同する投資家からの追加出資を募り、最終的には総額500億円規模のファンドを目指して いる。同ファンドの設立・運用にあたっては、未来社会に向けたイノベーションの中核技術を「知能 化技術」「ロボティクス」「水素社会実現に資する技術」の3つに位置づけており、それらの分野の 革新技術を有する企業、またはプロジェクトを対象に投資を行う方針である。
上記で述べた3つの技術領域については、未来創生ファンドを通じた投資以外にも多くの取り 組みが行われてきた。近年の代表的な取り組みを以下に整理する。
図表 5-28 「未来創生ファンド」の主力領域における主な取り組み
知能化技術 ロボティクス 水素社会実現に資する技術
スタンフォード大学、マサ チューセッツ工科大学と AIの連携研究、約30のプ ロジェクト(2015年9月)
東京大学発ベンチャーで あるPreferred Networks と資本・業務提携し、モビ リティ事業分野における AIを 共 同 研 究 ・ 開 発
(2015年12月)
生活支援ロボット「HSR」 の早期実用化を目指し、
複数の研究機関等と連携 した技術開発を推進、コミ ュニティの公募やHSRハ ッカソンも企画
(2015年7月)
燃料電池車の早期普及 のために業界の垣根を超 え た 開 発 競 争 を 促 す た め、燃料電池車の関連特 許およそ5680件の無償 提供(2015年1月)
環境や安全 技術分野を 軸に、「クルマの新たな価 値創造」に向けた中長期 的な相互協力を目指すた め、マツダと包括提携、ト ヨタの燃料電池車(FCV) 技術、マツダのガソリンや ディーゼルエンジンの高 出力・低燃費技術を相互 供与(2015年5月)
米国に人工知能の研究のための新会社であるToyota Research Institute, Inc.(TRI)を設立。5年間で約10億ド ルの予算の下、主に以下4つの目標を設定(2016年1月)
①クルマの安全性の向上
②クルマをより利用しやすいものへ
③モビリティ技術を活用した屋内用ロボットの開発
④AIや機械学習の知見を利用し科学的・原理的な研究を 加速
さらに、その他の取り組みとしては現在までに15回実施されている「トヨタ先端技術共同研究公 募」や、2014年および2015年と開催された「Toyota Onramp」などが挙げられる。前者は、トヨタ
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また、これらに限らず日本国内のResearch University 11 の構成大学をはじめとする大学機 関、民間企業、NEDOをはじめとする公的機関や、海外の産学機関との連携によるイノベーション 創出に幅広く取り組んでいる。
成果
トヨタは持続可能な社会づくりに向けた中長期的な取り組みを続けている最中であるが、具体 例では、前述の「トヨタ先端技術共同研究公募」は2015年10月の公募で累計15回目であり、
「Toyota Onramp」の参加企業は2014年20社から2015年40社へと倍増しているなど、より多くの 外部企業・機関を巻き込んだ継続的な活動ができているといえる。
また、135億円で創設され最終的には総額500億円を目指す「未来創生ファンド」の運用が開始 されたことや、米国に2015年9月設立したTRIによってスタンフォード大学やマサチューセッツ工科 大学などとのAIの共同研究開発の取り組みがさらに強化されようとしていることなども取り組みの 成果として指摘できる。
成功要因の分析
このように同社がオープンイノベーションに係る取り組みを推進できている背景には、以下の4 つの要因があると考えられる。
トップ層のコミットメント
内山田竹志会長が先導する形で中長期の方針である「トヨタ環境チャレンジ2050」が策定され るなど、世界の優れたアイデアや知恵を取り入れて新しいビジネス、産業、社会づくりを目指すこ とを同社のトップ層が宣言している。また、実際に予算規模が10億ドルのTRIの設立や、総額500 億円を目指す「未来創生ファンド」の設立といった予算措置が講じられている。
中核技術の明確化
未来創生ファンドの設立発表時に明示されたように、中長期のイノベーション創出のための中 核技術を「知能化技術」「ロボティクス」「水素社会実現に資する技術」の3つと明確化しており、こ れらに力点を置いた取り組みを継続している。
社内における持続的な取り組み
同社では持続的な研究の意味、実装までやり続けることの重要性を社内で共有できており、イ ノベーション創出に向けて、短期的には注目されず評価されないような多数の取り組みが社内で 継続されて進められている。トヨタでは、これらの取り組みが時代とマッチングしたときに日の目を 見て、イノベーション創出につながっている。
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外部との幅広い連携
国内外の様々な企業や大学との共同研究開発、業務提携、資本提携を行っており、大学・研究 機関、起業家や企業からのアイデアや技術の公募にも取り組んでいる。
<参考情報>
トヨタ自動車関係者へのインタビュー結果
トヨタ自動車、新体制を公表
http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/11234112/
TOYOTA Global Newsroom、「トヨタ自動車、『トヨタ環境チャレンジ2050』を発表」(2015年10 月)、http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/9886860
特集2015 04 「トヨタ環境チャレンジ2050 人とクルマと自然が共生する未来づくりへのチャ レンジ」、http://www.toyota.co.jp/jpn/sustainability/report/er/pdf/er15_01.pdf
TOYOTA Global Newsroom、「スパークス・グループ、『未来創生ファンド』を設立 トヨタ自動 車、三井住友銀行が出資者として参画」(2015年11月)
http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/10140379
TOYOTA Global Newsroom、「人工知能研究新会社Toyota Research Institute, Inc.(TRI) の体制および進捗状況を公表」(2016年1月)
http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/10866787
走りたい トヨタIT開発センター HP http://www.toyota-itc.com/activities/structures.html
ビジネス+IT、「トヨタ、Preferred Networksに出資 IoT向けAI技術を共同研究」(2015年12 月)、http://www.sbbit.jp/article/cont1/30561
日本経済新聞、「トヨタ、燃料電池車の特許5680件を全公開」(2015年1月)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK05H88_V00C15A1000000/
日本経済新聞、「トヨタ・マツダ、包括提携発表 環境・安全対策で先手」(2015年5月)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ13HOL_T10C15A5MM8000/
TOYOTA Global Newsroom、「トヨタ自動車、生活支援ロボットの実用化に向けて研究機関等 と技術開発を推進するコミュニティを発足」(2015年7月)
http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/8709536/
マツダプレスリリース、「トヨタとマツダ、業務提携に向け基本合意」(2015年5月)
http://www2.mazda.com/ja/publicity/release/2015/201505/150513a.pdf
TOYOTA Global Newsroom、「トヨタ、米国シリコンバレーで「つながる」クルマのアプリ開発イ ベントを開催」(2014年12月)、http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/4270172/
ビジネス+IT、「トヨタ、ビジネスプラン競う「Toyota Onramp 2015」開催 優勝者のアイデアと
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