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第 3 章 競合依存性と再生固有性の問題点に関する実験的検討 43

3.2 実験 2 :再認課題を用いた検索経験

実験1では,語尾再生課題を検索経験として用いたところ,検索誘導性忘却はみられな かった。このことから,抑制が作用するためには,再生のようなターゲット情報を出力し

*7厳密には,手がかりの量が異なるので同じ情報量が与えられているとは言えないが,検索成功によって項 目が呈示されたことと同じと考える。

*8Yamada, Tsukimoto, & Kawaguchi2011)お よ び Yamada, Tsukimoto, Schilling, Storm, &

Kawaguchi(投稿中)による。

なければならない状況かつ競合が生じていなければならないことが示唆される。語尾再生 課題は再生に近い形式で競合を操作をしたわけであるが,実験2では再呈示に近い形式と して再認課題を用いて検討する。本実験では,典型的な再呈示の条件(e.g., Bäuml, 2002 に対応させるため,項目を一つずつ呈示するYes-No再認課題(Yes-No recognition*9 を用いた。

再認課題では学習したターゲット情報が呈示され(e.g.,果物-バナナ),それが学習した ものであるか否かを判断し回答を出力しなければならない。呈示されるターゲット情報が 不完全であり,その不完全な部分を補完しなければならない再生課題とはやや違いはある が,学習したターゲット情報を思い出し,回答しなければならない点では共通している。

それゆえに,抑制が作用するためには,出力の要請があれば十分であるとすれば,再認課 題でも検索誘導性忘却が生じるはずである。

一方で,再認課題は学習したターゲット情報が全て呈示される。これは表面的には,再 呈示と全く同じ状況といえる。そのような呈示されるターゲット情報の量の多さゆえ,

ターゲット痕跡の活性化量が高くなり,非ターゲットとの活性化量の差は大きくなる。す なわち,競合が小さくなる。また,素朴に考えれば,実験1の語尾再生課題よりも競合は 小さくなるはずである。したがって,抑制が作用するためには,競合が重要であるとすれ ば,語尾再生課題と同様,再認課題では検索誘導性忘却が生じないだろう。

また,本実験の再認課題による検討は検索誘導性忘却研究においては非常に興味深いと 考えられる。なぜなら,再認課題を用いた検索経験で検索誘導性忘却が生じるかどうかは ほとんど検討されていないからである。再認課題を用いた検索経験(以降,再認経験とす る)の研究はVerde2004, Experiment 2)が唯一のものである。Verdeでは検索経験と して連合再認課題(associative recognition)を用いている。連合再認課題では,項目そ のものを再認判断するのではなく,項目の 対 (項目A と項目Bはペアであったか否 か)の再認判断を求められる。実験の結果,事前にターゲット対(e.g., beard-grain)の連 合再認を行うことによって非ターゲット対(e.g., beard-plate)の連合再認の正確性が低 下した。これは,再認経験によって検索誘導性忘却が生じることを示しているが,その実 験手続きは標準的な検索経験パラダイムではなく,二つの問題を含んでいた。一つは,検 索経験段階を設定していなかったことである。もう一つは,テスト段階でターゲット対の

*9項目再認(item recognition)とも呼ばれる。

連合再認が非ターゲット対よりも常に先行して行われたことである。このような違いは手 がかり再生を用いた多くの先行研究との比較を困難にすると考えられる。さらに,非ター ゲット対の比較対象がターゲット対であったことは,抑制に基づいて説明する場合には大 きな問題となる。すなわち,非ターゲット対の連合再認成績が悪くなったのは,抑制が作 用したというよりも,比較対象より後にテストされたことによる出力干渉(e.g., Roediger

& Schmidt, 1980)であった可能性を排除することができない。そのため,Verdeの結果 からは,再認経験による検索誘導性忘却が抑制によって生じていると結論づけることはで きない。このような問題が生じないように,実験2では,典型的な検索経験パラダイムと 同様に検索経験段階を設定し,かつ検索経験を受けないカテゴリ項目を比較対象とする。

また,テスト段階では出力順を偏らせないためにカテゴリと語幹手がかり再生テストを用 いる。

3.2.1 方法

実験参加者 大学生24名(男性11名,女性13名,平均年齢18.9歳)が実験に参加 した。

実験計画 本実験は1要因実験参加者内計画であった。カテゴリの3分の 2を再認経 験カテゴリとし,各カテゴリの一方の項目は再認経験を受け,Rp+とした。もう一方の 項目は再認経験を受けず,Rp−とした。カテゴリの残りの3分の1は再認経験を受けな かった。再認経験を受けなかったカテゴリの項目はNrp(ベースライン)とした。テスト 段階における項目タイプごとの再生率を算出し,検索誘導性忘却はRp−Nrpの再生率 を比較した。

実験材料 記銘材料は36のカテゴリと事例の対を用いた。小川(1972)のカテゴリ出 現頻度表より18 カテゴリ,2項目ずつを抽出した。事例の平均カテゴリ出現頻度は5.4

(範囲:2.1-8.3,中央値 = 5.2)であった。各事例は2から6文字の長さであり,一つのカ テゴリで同じ頭文字をもつ項目はなかった。18カテゴリは三つのセット(ABC)に 分け,2セット,12カテゴリ(e.g., AB)は再認経験を受け,残りの1セット,6カテ

ゴリ(e.g., C )は再認経験を受けなかった。初頭効果と新近性効果による影響をなくす

ために三つのフィラーカテゴリを用いた。本実験ではYes-No再認課題を検索経験として 用いるため,記銘材料に加えて36のカテゴリと事例の対を再認経験時のディストラクタ として用いた。ディストラクタはデジタル類語辞典第4版(言語工学研究所, 2005)を参

考に,記銘材料(ターゲット)と意味的あるいは知覚的に似ているものを選んだ。カテゴ リ名は漢字(スポーツを除く),事例はカタカナで呈示した。

学習リスト 学習リストは42のカテゴリと事例対(36の実験対と6のフィラー対)で 構成した。呈示順はランダムであり,同じカテゴリの事例が連続して呈示されないように した。

再認経験リスト 18カテゴリの内の12カテゴリが再認経験を受けた。再認経験を受 けるカテゴリは実験参加者間でカウンタバランスした。再認経験カテゴリにおいて,二つ の学習事例の一方が再認経験を受け,もう一方は受けなかった。これらの事例も同様にカ ウンタバランスした。再認経験リストは12のターゲット対(e.g., 衣服-キモノ),12 ディストラクタ対(e.g., 衣服-ワフク),12のフィラー対で構成した。各対はカテゴリと 事例対の形式で,一つずつランダムな順で呈示した。各対に対して再認経験は2回行われ た。フィラー対はリストの最初と最後に呈示した。再認経験リストはフィラー項目を含め た72試行で構成した。

テストリスト テスト段階では全ての学習対がテストされた。カテゴリと語幹手がかり

(衣服-キ_)を一つずつランダムな順で呈示した。同じカテゴリの事例が連続して呈示さ れないようにした。6つのフィラー対はテストリストのはじめに呈示した。

実験手続き 実験刺激の呈示ソフトはSuperlab 4.0Cedrus社製)を用いた。実験参 加者は個別に実験を行った。本実験は主に三つの段階(学習,再認経験,テスト)で構成 された。実験の流れをFigure 3.2に示す。学習段階では,実験参加者はカテゴリと事例

Figure 3.2 Schematic of the recognition practice paradigm in Experiment 2.

の対を覚えるよう求められた。42のカテゴリと事例対は一つずつ3秒間隔で呈示された。

その後,実験参加者は無関連な課題を約10分間行った。再認経験段階では,実験参加者

はYes-No再認テストを与えられた。実験参加者は画面にカテゴリと事例対が一つずつ呈

示されるので,学習段階で覚えた対であるなら Yes ボタンを押し,この実験では見てい ない対であるなら No ボタンを押すよう求められた。 Yes No ボタンの位置は 実験参加者間でカウンタバランスした。各対は5秒間呈示され,実験参加者はその間にで きるだけ速く正確に再認判断をするよう求められた。ただし,反応ボタンを押しても5 経過するまでは次の対は呈示されなかった。また,5秒以内に反応しなかった場合でも次 の対が呈示された。その後,別の無関連な課題を10分間行った。テスト段階では,実験 参加者はカテゴリ名と語幹が与えられ,学習段階で覚えた対を全て思い出すよう求められ た。手がかりは5秒間呈示され,実験参加者は口頭で回答し,実験者が用紙に記録した。

3.2.2 結果

再認経験の成績 再認経験段階におけるターゲットに対する正再認率は79.0%SE = 2.5,ディストラクタに対する虚再認率は14.1%SE = 2.0)であった。全試行における 無反応の割合は0.3%SE = 0.1)であった。

テストの成績 テスト段階における項目タイプごとの再生率をFigure 3.3に示す。図 の縦軸は再生率(%),横軸は項目タイプを表す。Nrp に比べて Rp+は再生率が高く,

Rp−は低い。再生率に関して 1 要因の分散分析を行ったところ,要因の効果が有意で あった,F (2, 46) = 77.68, MSE = 0.01, p < .001。多重比較の結果,Rp+項目の再生 率はNrp項目よりも有意に高かった,t(46) = 9.22, p < .001。これは,再認経験による 促進効果がみられたことを示している。一方で,Rp−項目の再生率はNrp項目よりも有 意に低かった,t(46) = 2.65, p < .001。これは,再認経験によって検索誘導性忘却が生 じたということを示している。

3.2.3 考察

実験2では,検索経験に再認課題を用いることで,検索誘導性忘却はターゲット情報の 出力があれば生じるのか,競合も必要であるのかを検討した。その結果,再認経験は検索 誘導性忘却を引き起こした。このことから,抑制が作用するにはターゲット情報を出力す る必要があればよく,競合は必要ないと考えられる。このような解釈は,再認課題では競