第 4 章 中間的考察 1 :語尾再生と再認の結果の違いに関する理論的考察 60
5.1 実験 3 :ターゲットのみを用いた再認経験
再認経験による検索誘導性忘却は,従来の活性化および競合の考え方ではうまく説明で きない。すなわち,項目とカテゴリ情報に基づいて活性化量が決まり,ターゲット情報が 不完全なために非ターゲットとの活性化量の差が小さくなり競合が生じるとすれば,再認 では項目とカテゴリ情報が全て呈示されるため,非ターゲットとの活性化量の差は大きく なり,競合は小さい。ゆえに,抑制が作用しないと予測される。しかし,実験2の結果 は,再認経験によって検索誘導性忘却が生じた。この結果を実験1および先行研究の知見 と整合するように説明するためには,活性化および競合の仮定を見直すか,抑制以外のメ カニズムによって検索誘導性忘却が生じていると考える必要があることが示された。そこ では,再生と再認の違いから,再認課題の特徴を分析することで具体化された。
再生と再認の違いの一つは処理過程である。再生課題では学習した項目情報の復元が要 求されており,再認課題では学習エピソードのような文脈情報の特定が要求されていると いう違いがある。つまり,再生の目的は項目情報の復元であり,再認の目的は文脈情報の 復元であるといえる。したがって,再生ではあまり考慮されない文脈情報が再認では大き
*1Yamada et al.(2011)およびYamada et al.(投稿中)による。
な意味をもつと考えられる。このことから,記憶痕跡に含まれている文脈情報が,再認時 の各記憶痕跡の活性化に貢献していると考えることは自然である。それゆえに,ターゲッ ト痕跡であるRp+項目と非ターゲット痕跡であるRp−項目はカテゴリと文脈を共有す るため,文脈だけを共有するNrp 項目よりも活性化が大きくなり,ターゲットとの活性 化量の差が小さい。いわば,再認でも競合が生じることが説明できるわけである。
もう一つの違いは,ディストラクタの有無である。すなわち,再認課題では未学習項目 であるディストラクタが呈示されるが,再生では未学習項目(の手がかり)が呈示される ことはほとんどない。そのため,再生では考慮されないディストラクタが再認経験による 検索誘導性忘却の原因になる可能性がある。Watkins & Watkins(1975)によると,記 憶の検索可能性は,検索手がかりとの連合強度だけで決まるのではなく,手がかりが連合 している記憶の数にも影響を受ける。すなわち,手がかりが多くの記憶痕跡と連合してい るほど,その手がかりと連合した一つの記憶を思い出すことは困難になる。Watkins &
Watkins(1976)では逆向干渉パラダイムを用いて,手がかり過重負荷仮説を検討してい
る。この実験では,はじめに同じカテゴリ(動物)である六つの項目を覚え,その後,も とのカテゴリの別の項目覚えるか,別のカテゴリ(野菜)項目を覚えるかを操作した。再 生テストでははじめに覚えたカテゴリの項目を思い出すよう求め,逆向干渉(retroactive
interference)の大きさを比較した。その結果,別のカテゴリ項目を追加で覚えるときよ
りも,同じカテゴリ項目を覚えるときの方が逆向干渉は大きかった。このことから,手が かりを共有する項目が増えたことによって,その手がかりが過重負荷を受け,検索手がか りとしての機能が低下したと考えられている。
Watkins & Watkins(1976)が用いた逆向干渉パラダイムは,追加項目を検索するわけ ではなく学習をさせている。この点で,再認を用いた実験2とは異なるが,再認経験段階 でのディストラクタの出現が手がかり過重負荷の原因になるとすれば,再認経験による検 索誘導性忘却は連合干渉で説明することができる。すなわち,再認経験段階でディストラ クタが新たに呈示されることによって,再認経験カテゴリの手がかりとディストラクタの 連合が作られる。この追加の連合が手がかりの過重負荷となって,検索手がかりが効果的 に働かなくなり,後のテスト段階でRp−の再生失敗の原因になったのではないかと考え ることができる。
このように,再認経験による検索誘導性忘却は,抑制と連合干渉のどちらでも説明する ことができる。実験3では,ディストラクタによる手がかり過重負荷が再認経験による
検索誘導性忘却の原因であるかどうかを検討する。この目的のため,再認経験カテゴリの 半分はターゲットとディストラクタを呈示するが,もう半分はディストラクタを呈示しな い。ディストラクタが手がかりの過重負荷となり連合干渉を引き起こすのであれば,ディ ストラクタが呈示されない再認経験カテゴリにおいては検索誘導性忘却がみられないだろ う。一方,ターゲットの再認時に競合が生じ,抑制が作用するのであれば,ディストラク タが呈示されるか否かに関わらず検索誘導性忘却はみられるだろう。
5.1.1 方法
実験参加者 大学生24名(男性10名,女性14名,平均年齢18.3歳)が実験に参加 した。
実験計画 本実験は1要因実験参加者内計画であった。カテゴリの3分の 2を再認経 験カテゴリとし,各カテゴリの一方の項目は再認経験を受け,もう一方の項目は再認経験 を受けなかった。再認経験カテゴリの半分はターゲットとディストラクタを呈示し(TD カテゴリ),もう半分はターゲットだけを呈示した(Tカテゴリ)。残りの3分の1のカテ ゴリは再認経験を受けなかった。再認経験を受けなかったカテゴリの項目はNrpとした。
TDカテゴリに関して,再認経験を受けた項目をRptd+,再認経験を受けなかった項目
をRptd−とした。Tカテゴリに関して,再認経験を受けた項目をRpt+,再認経験を受
けなかった項目をRpt−とした。テスト段階における項目タイプごとの再生率を算出し,
検索誘導性忘却はRptd−とNrp,Rpt−とNrpの再生率を比較した。
実験材料 ターゲット項目およびディストラクタ項目は実験2と同様であった。
実験手続き 実験手続きは次の点を除いて実験2と同様であった。実験3の手続きを
Figure 5.1 に示す。再認経験は12のターゲット対,6のディストラクタ対,12のフィ
ラー対で構成した。ゆえに,再認経験リストは60試行であった。
5.1.2 結果と考察
再認経験の成績 再認経験段階において,TDカテゴリのターゲットに対する正再認率 は78.1%(SE = 3.5),ディストラクタに対する虚再認率は12.5%(SE = 3.2)であっ た。Tカテゴリのターゲットに対する正再認率は81.6%(SE = 4.2)であった。TDカテ ゴリとTカテゴリの正再認率には有意な差はみられなかった,t(23) = 0.78, p = .441。 全試行における無反応の割合は0.3%(SE = 0.3)であった。
Figure 5.1 Schematic of the recognition practice paradigm in Experiment 3.
テストの成績 テスト段階における項目タイプごとの再生率をFigure 5.2に示す。図 の縦軸は再生率(%),横軸は項目タイプを表す。Nrpに比べてRptd+,Rpt+は再生率
が高く,Rptd−,Rpt−は低い。再生率に関して1要因の分散分析を行ったところ,要
因の効果が有意であった,F (4, 92) = 27.14, MSE = 0.02, p < .001。多重比較の結果,
Rptd+項目の再生率はNrp項目よりも高かった,t(92) = 4.43, p < .001。一方,Rptd−
項目の再生率はNrp項目よりも低かった,t(92) = 2.41, p = .002。これは,ターゲット とディストラクタを含むTDカテゴリにおいて,再認経験による検索誘導性忘却がみられ たことを示しており,実験2の結果が再現できたといえる。
Tカテゴリの結果のパターンは TDカテゴリと類似しており,Rpt+ 項目の再生率は Nrp項目よりも高かった,t(92) = 4.91, p < .001。一方で,Rpt−項目の再生率はNrp 項目よりも低かった,t(92) = 2.85, p < .001。つまり,TDカテゴリと同様,Tカテゴ リにおいても検索誘導性忘却がみられた。
実験 3では,再認経験カテゴリにディストラクタを含むか否かを操作した。その結果,
ディストラクタを含むカテゴリだけでなく,ディストラクタを含まないカテゴリにおいて も検索誘導性忘却がみられた。これは,手がかり過重負荷が起こりえない場合でも検索誘
Figure 5.2 Mean percentage of items recalled during the nal test for each item type in Experiment 3. Rptd+ = practiced items from categories that received recognition practice including the target and distractor items. Rptd−= unprac-ticed items from pracunprac-ticed categories including the target and distractor items.
Rpt+ = practiced items from categories that received recognition practice only including the target items. Rpt−= unpracticed items from practiced categories only including the target items. Nrp = items from categories that did not receive recognition practice. Error bars represent standard errors.
導性忘却が生じるということを示唆している。したがって,再認経験による検索誘導性忘 却は手がかり過重負荷で説明することは難しいと考えられる。一方で,ターゲットの再認 時の競合とその解消のための抑制によって検索誘導性忘却が生じていると考えるなら説明 することができる。
さらなる分析として,Rptd− 項目とRpt−項目の比較をすることは,再認経験によ る検索誘導性忘却の原因をより正確に解釈するためには重要であると考えられる。も
しRptd−項目の検索誘導性忘却が,抑制と手がかり過重負荷の両方の影響であるなら,
Rptd−項目(M = 59.0%)はRpt−項目(M = 56.9%)よりも再生率が低くなるはず である。しかし,その差は有意でなく,t(92) = 0.44, p = .662,また,数値上ではむし ろRpt−項目の方が低かった。ゆえに,Rptd−項目の検索誘導性忘却は,抑制と手がか り過重負荷の両方による影響というよりも抑制によって引き起こされたと考えられる。実 験3ではターゲットのみの再認を行うカテゴリを設定したが,実験4ではディストラクタ のみの再認を行うカテゴリを設定し,実験3とは異なる方法で手がかり過重負荷の可能性 を検討する。