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第 8 章 記憶における抑制機能の一般性の問題の検討 98

8.2 実験 9 :符号化方略がリスト内手がかり効果に及ぼす影響

8.2.2 結果と考察

操作チェック テストの結果の分析の前に,学習段階における相違点および類似点判断 の成功数を分析する。学習段階の15対に対する平均判断成功数は,相違点判断群が13.58

(SD = 1.10)対であり,類似点判断群が14.79SD = 0.41)対であった。平均判断成功 数に対してt 検定を行ったところ,有意な差がみられた,t(46) = 5.04, p < .001。この 結果から,類似点判断の方が簡単な課題であったといえる。ただし,相違点判断および類 似点判断群のそれぞれにおいて,手がかり群と統制群の比較では成功数に違いはなかっ た,相違点判断: t(22) = 1.12, p = .28,類似点判断: t(22) = 1.52, p = .14。よって,

統制群との比較という点からは問題ないと考えられる。しかし,わずかではあるものの,

判断できなかった項目に関しては実験操作ができていないものとし,分析から除外した。

従って,再生テストの分析は判断できた項目に対してのみ行った。

再生テストの成績 再生テストにおける非手がかり項目の再生率をFigure 8.3に示す。

図の縦軸は再生率(%),横軸は各群を表す。相違点判断,類似点判断ともに,統制群に 比べて手がかり群の再生率が低い。再生率に関して,判断タイプ×手がかりの有無の 2 因分散分析を行った結果,手がかりの有無の主効果,F (1,44) = 8.68, MSE = 0.01, p = .005,および交互作用,F (1,44) = 4.47, MSE = 0.01, p = .04,が有意であった。交互 作用における単純主効果検定を行ったところ,相違点判断で手がかりの有無の単純主効果 が有意であった,F (1,44) = 12.81, MSE = 0.01, p < .001。一方,類似点判断における 手がかりの有無の単純主効果は有意でなかった,F (1,44) = 0.35, MSE = 0.01, p = .56 これらの結果は,相違点判断でのみリスト内手がかり効果が生じたことを示している。

Figure 8.3 Mean percentage of noncued items recalled and standard errors on a recall test as a function of type of judgment and type of cues in Experiment 9.

符号化時に相違点判断を行ってもリスト内手がかり効果はみられたが,類似点判断を 行った場合にリスト内手がかり効果はみられなかった。このようなパターンの違いは,抑 制の影響で説明できる。すなわち,手がかり項目が検索され,その際の手がかり項目の検 索処理によって非手がかり項目は抑制を受ける。符号化時に類似点判断を行うことは,手 がかり項目と非手がかり項目が共有する特徴を表象する。それゆえ,手がかり項目の検索 によって活性化される特徴は,抑制を受ける非手がかり項目独自の特徴よりも多くなり,

リスト内手がかり効果が消失したと考えられる。一方,符号化時に相違点判断を行うこと は,手がかり項目と非手がかり項目それぞれ独自の特徴を表象する。それゆえ,手がかり

項目の検索によって,抑制を受ける非手がかり項目独自の特徴が多くなり,リスト内手が かり効果が生じたと考えられる。加えて,この結果のパターンは検索誘導性忘却において 類似性の影響を検討した結果とも類似している(Anderson, Green, et al., 2000)。

しかし,本実験およびAnderson, Green, et al.2000)の結果は,競合依存性の考えと は一致していないようにも思われる。すなわち,ターゲットと非ターゲット間の類似性が 高くなるほど,あるいは統合されるほど,ターゲットの検索に対して非ターゲットは競合 すると考えられる。したがって,抑制も大きく受けることになり,検索誘導性忘却は生じ るはずである。この点について,Anderson, Green, et al.は,競合および抑制が生じるた めにはターゲット(orange)と非ターゲット(banana)間にある程度の類似性が必要では あるが,非常に類似する(tangerine)場合はターゲットとともに活性化してしまうため に,抑制の影響が相殺されてしまうと述べている。この解釈はやや恣意的であり,これは パターン抑制モデルの解決しなければならない問題である。

もう一つの可能性として,競合依存性の文脈における競合の操作は出現頻度のように非 ターゲット自体に行われるが(Anderson et al., 1994; Williams & Zacks, 2001),類似 性や統合の操作はターゲットと非ターゲットの両方に行われる。そのため,ターゲットの 検索時に,カテゴリ名と語幹のようなターゲット情報の一部以外にも検索手がかりが存在 してしまい,それが非ターゲットの検索を促してしまうのかもしれない。つまり,検索時 に呈示される情報とは別の情報が手がかりとなって非ターゲットも検索されてしまうので はないかと考えられる。これが正しければ,検索時に非ターゲットが侵入しターゲット の検索を妨害するため,検索経験の成績が悪くなるはずである。Anderson, Green, et al.

(2000)の結果は,ターゲットと非ターゲットの類似性を高めた場合に77%の検索経験成 功率であり,非ターゲットと非ターゲットの類似性を高めた場合の81%よりもわずかに 低かったが,この差は統計的には有意ではなかった。この点については,さらなる検討が 必要であると考えられる。

本実験の目的は,リスト内手がかり効果のメカニズムとして抑制説が妥当であるかどう かを検討することであったため,他の仮説による予測には言及しなかった。しかし,方略 妨害説,連合干渉説ともに実験9の結果を説明することはできない。なぜなら,いずれの 説明も本実験で用いた符号化方略の操作によってリスト内手がかり効果の生起が左右され ることを説明できないからである。

方略妨害説によれば,手がかり項目の呈示によって学習時に体制化された検索方略が妨

害されるため,非手がかり項目の検索に失敗すると説明される(Basden & Basden, 1995;

Basden et al., 1977; Basden et al., 2002; Sloman et al., 1991)。これに従えば,項目特 定処理と関係処理によるリスト内手がかり効果は次のように予測することができる。項目 特定処理は手がかり項目と非手がかり項目の体制化を妨害する。その結果,手がかり項目 による検索方略の妨害を受けにくくなり,リスト内手がかり効果はみられないはずであ る。一方,関係処理は手がかり項目と非手がかり項目の体制化を促進する。その結果,手 がかり項目による検索方略の妨害を受けやすくなり,リスト内手がかり効果はみられるは ずである。しかしながら,実験9の結果はこの予測と一致していない。ただし,実験9 は手がかりと非手がかりの2項目間の関係を操作していたため,リスト全体の検索方略は 手がかりの呈示によって妨害されていたのかもしれない。そうであるならば,どちらの符 号化条件でもリスト内手がかり効果がみられるはずであるが,その予測とも一致しないた め,方略妨害説では単純に説明することができないと考えられる。

また,連合干渉説によれば,手がかり項目の呈示によって手がかり項目と上位概念の 連合が強化され,非手がかり項目の検索が阻止されると説明される(Kimball & Bjork, 2002; Marsh et al., 2004; Rundus, 1973)。したがって,符号化の種類にかかわらず,手 がかりを与えられたときには常にリスト内手がかり効果が生じるだろうと予測する。しか しながら,実験9では項目特定処理と関係処理の符号化操作によってリスト内手がかり効 果の生起が左右された。ゆえに,連合干渉でも実験9の結果は説明することができない。

本実験では,符号化方略の操作として,項目間の類似点および相違点判断を採用した。

これは,Anderson, Green, et al.2000)の手続きとほぼ同様であったが,彼らの手続き では制限時間内に相違点あるいは類似点判断できた数を3件法で回答するよう求めてい る。このような手続きでは,実際に正確な判断を行ったかどうかは分からないため,本実 験では,記銘項目を2項目呈示するごとに3秒間の判断時間を設け,その間に類似点また は相違点判断を口頭で行わせた。その結果,全15対の内,判断に失敗した試行がわずか にみられた(類似点判断群は0.21対,相違点判断群は1.42対)。その理由として,記銘 時間の統制として判断する時間を3秒間に設定したために,回答する時間がなくなったの ではないかと考えられる。よって,今後は意図学習課題ではなく偶発課題を用いることに よってこの問題を解消する必要があると考えられる。