第 4 章 中間的考察 1 :語尾再生と再認の結果の違いに関する理論的考察 60
5.3 実験 5 :再学習・追加学習の経験
よる影響を検討しておくことは,再認経験の結果と直接比較するためにも有効であると考 えられる。実験5では,ターゲットの再認経験を再学習に代えた場合にも非ターゲットの 忘却が生じるのかどうかを検討する*6 。
再認経験による検索誘導性忘却がターゲットの連合強化による連合干渉によって生じて いるのなら,ターゲットの再学習でも非ターゲットの忘却が生じるだろう。この予測は,
強度モデルでは,検索経験と再学習による連合強化を区別することができないため,ター ゲットの検索と学習のどちらでも非ターゲットの忘却が生じると予測することに基づく。
一方,ターゲットの再認時に働く抑制によって検索誘導性忘却が生じているのなら,再学 習では非ターゲットの忘却は生じないだろう。
5.3.1 方法
実験参加者 大学生36名(男性23名,女性13名,平均年齢18.4歳)が実験に参加 した。
実験計画 本実験は1要因実験参加者内計画であった。カテゴリの3分の 2を学習経 験カテゴリとし,各カテゴリの一方の項目は再学習を受け,もう一方の項目は再学習を 受けなかった。学習経験カテゴリの半分は旧項目と新項目を呈示し(TDカテゴリ),も う半分は旧項目だけを呈示した(Tカテゴリ)*7 。残りの3分の1のカテゴリは再学習 を受けなかった。再学習を受けなかったカテゴリの項目はNsp(No study practice)と し,ベースラインとした。TDカテゴリに関して,再学習を受けた項目をSptd+(Study practice+),再学習を受けなかった項目をSptd−(Study practice−)とした。Tカテゴ リに関して,再学習を受けた項目をSpt+,再学習を受けなかった項目をSpt−とした。
テスト段階における項目タイプごとの再生率を算出し,非ターゲットの忘却はSptd−と Nsp,Spt−とNspの再生率を比較した。
実験材料 記銘材料は実験2,3と同様であった。
実験手続き 実験手続きは,再認経験を学習経験に代えたことを除いて実験3と同様で あった。本実験は主に三つの段階(学習1,学習2,テスト)で構成された。実験の流れ
をFigure 5.5に示す。学習1の後,学習2では旧項目を再学習し,新項目を追加学習し
*6ターゲットの再学習による非ターゲットの再生率の低下は検索誘導性忘却ではないため,本実験では非 ターゲットの忘却と呼ぶ。
*7旧項目とは学習項目のことであり,新項目とは未学習項目である。
Figure 5.5 Schematic of the study practice paradigm in Experiment 5.
た。学習2は12の旧項目,6の新項目,12のフィラー対で構成した。
5.3.2 結果と考察
テストの成績 テスト段階における項目タイプごとの再生率をFigure 5.6に示す。図 の縦軸は再生率(%),横軸は項目タイプを表す。ベースラインのNspに比べてSptd+,
Sptd−,Spt+,Spt−はいずれも再生率が高い。再生率に関して1要因の分散分析を行っ
たところ,要因の効果が有意であった,F (4, 140) = 54.27,MSE = 0.03, p < .001。多 重比較の結果,Sptd+項目の再生率は Nsp 項目よりも高かった,t(140) = 9.64, p <
.001。一方,Sptd− 項目と Nsp 項目の再生率に有意な差はみられなかった,t(140) =
0.09, p = .925。再認経験の結果とは異なり,TDカテゴリにおいてターゲットの再学習
およびディストラクタの追加学習では非ターゲットの忘却は生じなかった。
T カテゴリの結果のパターンはTDカテゴリと類似しており,Spt+項目の再生率は Nsp項目よりも高かったが,t(140) = 9.88, p < .001,Spt−項目と Nrp項目に違いは みられなかった,t(140) = 0.70, p = .487。これは,ターゲットの再学習だけでも非ター ゲットの忘却は生じなかったことを示している。
Figure 5.6 Mean percentage of items recalled during the nal test for each item type in Experiment 5. Sptd+ = practiced items from categories that received study practice including one studied item and one new item. Sptd− = unprac-ticed items from pracunprac-ticed categories including one studied item and one new item. Spt+ = practiced items from categories that received study practice only including one studied items. Spt−= unpracticed items from practiced categories only including one studied item. Nsp = items from categories that did not receive study practice. Error bars represent standard errors.
ターゲットの再学習では非ターゲットの忘却が生じないのに対して,ターゲットの再認 では検索誘導性忘却が生じるという一連の実験結果は,連合干渉では説明することができ ない。なぜなら,強度モデルでは再認と再学習による強化の違いを区別することができ ず,いずれの方法でも連合強度が増加するなら連合干渉が生じると予測するからである。
実験5のSptd+項目およびSpt+項目の促進量はそれぞれ37.5%と38.4%であり,実 験2(Rp+: 31.3%),実験3(Rptd+: 19.4%,Rpt+: 21.5%),実験4(Rptd+: 40.0%) と同程度あるいはそれ以上の促進量である。したがって,連合干渉が再認経験による検索 誘導性忘却の原因であるとすれば,再学習でも非ターゲットの忘却は生じるはずである が,そのような結果は示されなかった。このことから,再認経験による検索誘導性忘却が ターゲット自体の連合強化による連合干渉で生じている可能性は棄却される。