第 7 章 強制選択再認課題を用いた検索経験による検索誘導性忘却 88
7.2 実験 7 :ターゲットとディストラクタの類似性の操作
再認課題におけるターゲットとディストラクタの関係性によって,その後の記憶成績に 違いがみられることが示されている。Whitten & Leonard(1979)では,事前の再認課 題でディストラクタの数を2,4,8と増やした場合(実験1),あるいはターゲットとディ ストラクタの意味的な関連性を操作した場合(実験2)に,その後の記憶成績がどう変化 するのかを検討している。その結果,ディストラクタの数が増加するほど後の再生成績は
*2山田・月元・川口(2008)による。
Figure 7.1 Mean percentage of items recalled during the nal test for each item type in Experiment 6. Rp+= items that did received recognition practice. Rp−
= unpracticed items of practiced categories. Nrp = items from categories that did not receive recognition practice. Error bars represent standard error.
向上した。また,ターゲットとディストラクタが意味的に関連している方が後の再生成績 は向上した。このことから,ターゲットとディストラクタの関係性の操作は後の記憶テス トに影響する可能性があると考えられる。ただし,Whitten & Leonardの実験2におい て,再認課題そのものの成績はターゲットとディストラクタの関連性によって差はみられ ていない(関連条件が79.4%,無関連条件が80.5%)。これは,無関連条件においては熟 知性だけで再認判断を正確に行えるが,関連条件では熟知性で判断できなくても回想性を 利用することで正確に再認判断を行えるためではないかと考えられる。しかし,再認成績
自体には違いがないため,後の記憶成績の違いからだけでは,熟知性と回想性の利用の程 度に違いがあるかどうかは分からない。
実験7では,2AFC再認におけるターゲットとディストラクタの意味的な類似性を操作 して検討する。また,再認時の熟知性と回想性の利用の程度の違いを検出するために,再 認判断までの反応時間を測定する。二過程モデルによれば,熟知性は回想性に比べて速く 利用される(e.g., Yonelinas, 2002)。すなわち,速い反応時間は熟知性の貢献度合いが高 いことを反映しているが,反応時間が遅くなるほど回想性が貢献していると考えられる。
したがって,もし,ターゲットとディストラクタが意味的に類似性していない場合は熟知 性だけで判断でき,意味的に類似している場合は回想性も利用する必要があるのなら,前 者の方が後者よりも再認判断までの反応時間が速くなると予測される。
7.2.1 方法
実験参加者 大学生 24名 (男性20名,女性4名,平均年齢20.2歳)が実験に参加 した。
実験計画 本実験は1要因実験参加者内計画であった。カテゴリの3分の 2を再認経 験カテゴリとし,各カテゴリの一方の項目は再認経験を受け,もう一方の項目は再認経 験を受けなかった。再認経験カテゴリの半分はターゲットとディストラクタが意味的に 類似しており(Similarカテゴリ),もう半分は意味的に類似していなかった(Dissimilar カテゴリ)。残りの3 分の1のカテゴリは再認経験を受けなかった。再認経験を受けな かったカテゴリの項目はNrp とした。Similarカテゴリに関して,再認経験を受けた項 目をRpS+(Retrieval practice Similar+),再認経験を受けなかった項目をRpS−とし た。Dissimilarカテゴリに関して,再認経験を受けた項目をRpD+(Retrieval practice
Dissimilar+),再認経験を受けなかった項目を RpD−とした。テスト段階における項目
タイプごとの再生率を算出し,検索誘導性忘却はRpS−とNrp,RpD−とNrpの再生率 を比較した。
実験材料 ターゲット項目およびターゲットと意味的に類似したディストラクタ項目は 実験6と同様であった。ターゲット項目と意味的に類似していないディストラクタ項目 は,ターゲットと同じカテゴリから36項目を抽出した。
実験手続き 実験手続きは,再認経験段階において呈示されるディストラクタがター ゲットと意味的に類似していない項目を含んでいたこと以外,実験6と同様であった。
7.2.2 結果と考察
再認経験の成績 再認経験段階におけるターゲットに対する正再認率は,Similarカテ ゴリで86.1%(SE = 3.4),Dissimilarカテゴリで90.6%(SE =2.1)であった。正再認 率に対してt検定を行ったところ,有意な差は認められなかった,t(23) = 1.08, p = .29。 これは,ターゲットとディストラクタの意味的な類似性が再認成績自体には影響しなかっ たことを示しており,Whitten & Leonard(1979)の結果と一致している。
また,Similar およびDissimilarカテゴリ別にターゲットに対する再認判断までの反
応時間を分析した。各カテゴリの平均反応時間より2標準偏差以上の時間を要した反応 は分析から除外した。その結果,ターゲットに対する反応時間は,Similarカテゴリでは 1743.56 ms(SE = 87.71),Dissimilarカテゴリでは1645.08 ms(SE = 102.94)であっ た。反応時間を対数変換し,t 検定を行った結果,SimilarカテゴリはDissimilarカテゴ リよりも反応時間が長かった,t(23) = 2.21, p = .037。このことから,ディストラクタ がターゲットと意味的に類似している場合には回想性を利用するために,再認判断までに 時間がかかったのではないかと考えられる。
テストの成績 テスト段階における各項目タイプの正再生率をFigure 7.2に示す。図 の縦軸は再生率(%),横軸は項目タイプを表す。Nrpに比べてRpS+,RpD+は再生率 が高く,RpS−,RpD−は低い。正再生率に対して1要因の分散分析を行った結果,要因 の効果が有意であった,F (4, 92) = 37.73, MSE = 0.02, p < .001。多重比較を行ったと ころ,Similarカテゴリでは,RpS+の再生率はNrpよりも高かった,t(92) = 5.79, p <
.001。一方,RpS−はNrpよりも再生率が低かった,t(92) = 2.43, p = .002。これは,
実験6の結果と同様であり,ターゲットとディストラクタが意味的に類似している場合に は検索誘導性忘却が生じたことを示している。
Dissimilarカテゴリでは,RpD+の再生率はNrpよりも高かった,t(92) = 5.80, p <
.001。一方,RpD− はNrp よりも再生率が低かった,t(92) = 3.13, p < .001。また,
RpS−とRpD−の間に有意な差はみられなかった,t(92) = 0.67, p = .49。これは,ター ゲットとディストラクタが意味的に類似していない場合にも,検索誘導性忘却が生じたこ とを示している。
ターゲットとディストラクタが意味的に類似している場合に比べて,類似していない場 合は再認判断までの時間が速かった。このことから,類似していない場合はより回想性を
Figure 7.2 Mean percentage of items recalled during the nal test for each item type in Experiment 7. RpS+ = items that were semantically related to the distractor items in the recognition practice categories. RpS−= unpracticed items that were semantically related to the distractor items in the recognition practice categories. RpD+ = items that were semantically unrelated to the distractor items in the recognition practice categories. RpD− = unpracticed items that were semantically unrelated to the distractor items in the recognition practice categories. Nrp = items from categories that did not receive recognition practice.
Error bars represent standard error.
利用する必要がなかったと考えられる。このような条件間の違いがあるにもかかわらず,
いずれの場合にも検索誘導性忘却がみられた。ゆえに,熟知性の過程において抑制が作用 しているのではないかと考えられる。