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地球社会共同体への参加としての社会科授業の開発

第2章 社会参加とアンラーニングのサイクルによる社会科授業の開発

第6節 地球社会共同体への参加としての社会科授業の開発

1 社会科論争問題授業におけるコンテクスト生成の必要性

本節の目的は、社会参加を原理とした地球共同体への参加としての社会科授業の開発である。本研 究以外にも、地域共同体への参加としての社会科授業、及び国家共同体への参加としての社会科授業 の開発を行った。いずれの社会科授業においても正統的周辺参加を開発原理としている。本研究は、

それらの延長上として位置づけられる。

正統的周辺参加によれば、社会科授業は市民社会への参加とするべきである。しかし、いわゆる「暗 記社会科」と揶揄される学習は、市民社会への参加とはならない。すなわち、学校共同体への参加に とどまるのである。なぜ学校共同体への参加を自覚できないのであろうか。本節の問題意識はそこに ある。それの原因の1つをコンテクスト(context)の概念に求めたい。コンテクストとは、言葉や行 為などに意味や価値を与える情報である。例えば、雨の場合を考えよう。雨の場合、人は傘を持って 出かけよう、あるいは出かけるのを中止しようなどの行為を決定する。この場合、雨天というコンテ クストが行為を決定していくのである。このように行為を考察するにはコンテクストの理解が欠かせ ないのである。

社会科授業においても学習行為がなされる。その考察にはコンテクストの理解が欠かせない。次の ような例がある。社会科歴史授業の場合である。教師は学習者に「1603年、征夷大将軍になって江戸 幕府を開いた人は誰ですか」と問う。それに対して学習者は、「江戸幕府を開いた人は徳川家康である」

と応答する。この場合も学習者はコンテクストを理解している。それは教師の問いには応答すべきで ある、テストに対応するために覚えるべきなどのコンテクストである。これらのコンテクストを理解 することで学習行為が決定される。さらにこのようなコンテクストを強化することでテストのための 学習などの行為も強化されていく。いわゆる受験という行為の強化である。このようなコンテクスト は学校的・教室的状況においてのみ意味や価値を見出すものである。

しかし、社会科授業でこのようなコンテクストを生成してよいのかと問いたい。答えは否である。

よって、社会科論争問題授業で生成すべきコンテクストは何か。それは学習者に討論や判断をするこ とに意味や価値を与える情報である。このようなコンテクストを生成していくことができるならば、

学校共同体を越えて市民社会、本研究でいえば、地球共同体への参加へと転換できるのではなかろう か。

以上の問題意識から、本小論は次のことについて論じていくこととする。第1は、従来の社会科論 争問題授業におけるコンテクストの生成が不十分であることを明らかにすることである。第2は、社 会科論争問題授業におけるコンテクストを生成する方法について明らかにすることである。第3は、

コンテクストを生成する方法を組み込んだ中等前期単元「地球温暖化問題」を具体的に提案すること とする。そのことによって、社会科論争問題授業の新たな展開を示したい。

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2 社会科論争問題授業におけるコンテクスト生成の批判的検討

前述したように一般的な社会科授業におけるコンテクストの不十分さの場合は示した。さらに現実 社会に参加することを目的とした社会科論争問題授業であってもコンテクストは不十分であることを 示したい。

対象授業は永田成文、「地球温暖化対策について考える」1)である。この授業では地球温暖化問題 の地球規模の解決策として考えられる京都議定書を取り上げている。さらに京都議定書を遵守するた めの具体的な行動案としてサマータイム制度の是非を取り上げる。そうすることで地球温暖化問題を 解決する知識や行動力を育成していく授業を構成している。つまり、社会的論争について討論するこ とで学習者の社会参加を促すことを目的としているのである2)

この授業において生成すべきコンテクストは何であろうか。それは、社会的論争について討論した り、解決したりすることに意味や価値を与えることであろう。永田も自覚的ではないが、討論や判断 を行わせることでコンテクストを生成しようとしている。しかし、それは失敗に終わっている。例え ば、地球温暖化そのものについてである。地球温暖化については問題であるという立場がある。一方、

問題ではないという立場も存在している3)。しかし、授業では一方を取り上げる。次のようにある。

「京都議定書を守る行動案となるサマータイム制度の導入」、「行動案となるサマータイム制度の導入 による効果の検討」4)である。この授業では京都議定書を守ることは前提とされているのである。

しかし、それでは現実のシステムとしての社会を十分に構成することができない。地球温暖化が問題 であるか、あるいは問題ではないかの立場の違いは見方によって変化する。現実社会は人間、もの、

言葉など様々なことが関係しあってできている1つのシステムである。そのシステムをどのように切 り取って考察するかによって構成される主張は全く異なる。システムをAという切り取り方で考察す れば、Cという主張が述べられる。Bという切り取り方で考察すれば、Dという主張が述べられるの である。

このように、この授業においてはシステムの構成が不十分である。不十分ならば、実際はシステム として循環している情報や機能は切断され、現実社会を作り出すことにならない。結果としてそのこ とは社会的論争につて討論したり、判断したりすることの必然性を失わせる。すなわち、コンテクス トを十分に生成することができていないのである。

以上のことから、一見、「地球温暖化対策について考える」と題し、討論したり、判断したりする社 会科論争問題授業であってもコンテクストの生成の程度によって明らかな違いがでるのは首肯できる。

よって、学習のコンテクストは無自覚に放置するべきではない。教師が自覚的、意図的に指導し、望 ましいコンテクストを社会科論争問題授業において生成すべきものである。

3 社会科論争問題授業におけるコンテクストの生成

(1)コンテクストの概念

社会科授業における望ましい学習のコンテストは如何にして生成するかを明らかにしていく。まず はコンテクストの概念について明確にしていく。

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コンテクストの概念を理論化しているのはG.ベイトソン(Gregory Bateson)である5)。ベイトソ ンはコミュニケーション・システムにおけるコンテクストについて説明する。2 人の人間が会話をし ている場面である。この2人(主体)はメッセージ(言葉)を媒介し、互いにコミュニケーションを している。しかし、この場合、2 人の中で交換されているのはメッセージだけではない。例えば、身 振り、手振り、言葉が帯びる様々な情報などである。それらはメッセージと切り離すことはできない。

それらをメタ・メッセージと言う。さらに、それらはコンテクストを生成する。具体的には、会話と いうコンテクストである。そのコンテクストによって話す内容、話し方などが決定されていく(図1)。 このようにメッセージやメタ・メッセージとの関係の中でコンテクストが生成されていく。一方、

コンテクストによってメッセージやメタ・メッセージの意味や価値が明らかとなる、つまり、それら は相互構成的な関係なのである。さらにこれらは1つのシステムとして機能していくのである。

このようであれば、コンテクストの生成にはメッセージ、メタ・メッセージ、主体さらにそれらか ら成るシステムを構成していくこととなる(図1)。

(2)社会科論争問題授業におけるコンテクスト生成の方法

社会科論争問題授業における望ましいコンテクストは学習者に討論や判断をすることに意味や価値 を与える情報である。その情報を濃密に生成するには現実社会の構成が欠かせない。なぜなら、現実 社会には社会的論争について討論したり、よりよい判断を下したりする必然性があるからである。現 実社会は様々な要素が関係しあうシステムである6)。システムとは、様々な要素によって情報や機能 が循環する1つのまとまりである。そのため、本小論は現実的なシステムとしての社会を構成してい くことでコンテクストを生成する。システムとしての社会を構成するには、前述したコンテクストの 概念を援用する。すなわち、システム、メッセージ、メタ・メッセージ、主体の構成ある。これらを 構成することでコンテクストが生成されるのである。

コンテクスト(会話)

メタ・メッセージ(身振り、手振り、言葉の様々な情報)

メッセージ(言葉)

主体 主体 図1 コミュニケーション・システム