第3章 社会参加とアンラーニングのサイクルによる社会科学習評価の開発
第2節 アンラーニングとしての社会科学習評価の開発
6 小 括
本節では、アンラーニングによる社会科学習評価の開発を目的とした。その社会科学習評価の原理 を参加に求めた。さらに、参加すべき共同体は市民社会とした。したがって、社会科においても参加 を原理として授業及び学習評価を実施すべきなのである。これらの問題意識から具体的に問いを市民 的課題とした。一方、評価方法については教師以外の第三者による評価法に求めた。そうすることで、
個人の内面を超えて知識や技能が形成されるという可能性について考察してきた。以上をもとに、市 民社会への参加に注目した社会科学習評価の意義について確認したい。
本節の学習評価では市民社会の新参者として学習者を考える。一方、一般的な市民を古参者である と考える。すると、学習者が市民社会へ周辺的に参加することで、古参者である一般的な市民との間 で対立と葛藤が生じることが明らかとなった。今回の授業で言えば、学習者が市民社会の新参者とし てまちづくりの提案をしたとしても、古参者としてのまちづくりの専門家が新参者である学習者の前 に大きく立ちはだかるのである。
このような、対立や葛藤は古参者へと役割を変化させる契機となるものである。市民社会の新参者 と考えられる学習者は、参加の過程で古参者と考えられる市民から評価される。その評価内容は、新 参者にとって、必ずしも受け入れられる内容とは限らない。そこに学習者に対立や葛藤が生じるので ある。この対立や葛藤から逃れることも考えられる。しかし、新たな自己を形成する契機を失うこと になる。対立と葛藤を受け入れ、それを乗り越えようとする行為こそが重要となるのである。そのこ ことで、周辺的な参加を回復させるというアンラーニングを達成させていくこととなる。それらが、
学習者Aのナラティヴより明らかとなった。
この対立や葛藤に向き合うことで学習者は、リソースとの関係性を変容させていく。そのことは学 校にととまらず、その外部に広がる市民社会とのアクセスを可能にし、市民として変容していく過程 となっていこう。それは学習を学校と市民社会との関係の中でとらえ直すこととなる。このことが、
本節の意義となろう。
179 7 トランスクリプト
以下にトランスクリプトのすべてを示す。
日時:2015 年 7 月 11 日(土)
場所:インフォーマント宅
インタビューアー:田本 正一、以下では「*」と記載。
インフォーマント:佐賀市立高木瀬小学校第 3 学年児童・女、以下では「A」と記載。
語りのシークエンス( )内は発言番号
1) 1学期における社会科学習の確認(101~115)
2) 新しい視点から考えるということ(201~225)
3) 討論の内容と論点の確認(301~330)
4) 第三者による評価についての応答(401~433)
5) 佐賀市まちづくりについての意見の再構成(501~533)
6) 第三者評価について(601~622)
1) 1学期における社会科学習の確認
101*:今日はいろいろお話を聞かせてもらいます。よろしくお願いします。
102A:よろしくお願いします。
103*:3年生から社会科が新しく始まりましたね。2年生までは確か・・・
104A:生活科を勉強していたよ。
105*:そうそう。生活科だったね。じゃあ、1学期社会科を学習してみてどうだったかな。何か、違 うようなことはあったかな?
106A:社会科の学習では答えがないから、自分でいっぱいかんがえないといけなかった。それが楽し かったです。
107*:考えられるのが楽しかった。たとえばどんなことかな?教科書やノートをみていいよ。
(教科書やノートを出して確認する)
108A:うーんと、日本では人口が減っているから、それをどうやって増やしたらいいのかとかを考え るのが楽しかった。
109*:確かにどうやって人口を増やしていくのかを考えていくのには答えはないね。そのようなこと を考えるのが楽しかったんだね。先生も現実の社会の中で答えがないことを考えていくことが 社会科の学習だと思っています。
110A:うん。ほかにもいろいろしたいな。
111*:どんなこと?
112A:佐賀県のこと、えっと、先生がよく言っているオスプレイのこととか。
113*:なるほどいいかもね。
180 114A:うん、絶対 2 学期しようね。
115*:じゃあ、1学期の佐賀市の商店街の学習についていろいろ聞いていきます。いいかな?まず、
佐賀市の様子をいろいろ調べていったね。その中で、みんなが商店街が佐賀市にはほとんどな いことに気付いたね。そして、それを詳しく調べていくと白山商店街は毎年買い物客数が減っ ているということが分かったね。それでじゃあ、商店街を活性化させる方法について考えよう としたね。
2) 新しい視点から考えるということ 201*:そのことについてどう思う?
202A:すぐ思いつく方法を考えたよ。
203*:どんな方法だっけ
204A:ポスターをつくるとか・・・でもあんまり使えない・・・
205*:なんでだっけ?
206A:だって同じことしても同じ結果になるから・・・。
207*:そっかあ。今までの方法ではうまくいかないから、それを一回すてて新たに考えていくことが 重要ではないかって説明したね。
208A:そうそう、えっと・・・
209*:それを・・
210A:アンラーニング!
211*:そうそうアンラーニング。今までの考え方に縛られない新しい考え方を生み出す必要があるみ たいだね。それでみんなは、佐賀市の状況について調べていくようになったね。どんな状況が あったかな。
212A:佐賀市の周りに大きなショッピングセンターができていること、人口が減っていることとか、
高齢者が増えていることとか、私が考えていたまちとは大きく違っていました。
213*:どんなところがちがっていた?
214A:高齢者がこんなにも増えているとは思いませんでした。
215*:高齢者が多いと、違う考えをする必要があるの?
216A:うん。高齢者の人達は、若い人たちと違って、近いところや行きやすいところで買い物 をすると思います。
217*:うん、そうだね。
218A:だから、佐賀市が高齢者が多くなっているならば、今までとはちがう方法を考えていく必要が あると思いました。
217*:すると、やはり「ちらしを配る」などの方法は役立たない?
218A:「ちらしを配る」などの方法は、今までやってきました。でも、ほとんど変わっていないと思い ます。だから、思い切って今までとはちがう方法を考えていくほうがいいと思いました。
181 219*:たとえばどんなことをしようか?
220A:うーんと・・・
221*:すぐには出ないかな。
222A:うん、でも高齢者が多くなるのは是って意だから何かそれにあうことをする必要があると思う よ。
223*:そうだね。先生も前、日本が少子高齢化になるという本を読んで大変なことが起きるかもしれ ないって思ったんだ。
224:A:そうだね。何とかしないとね。私もそう思う。
225*:3 年生だけど高齢化が大きな問題だと感じているんだね。
3) 討論の内容と論点の確認
301*:だからみんなは、このことを大切なことだと思ってテーマを決めていったんだね。討論のテー マはなんだっけ?
302A:「佐賀市は高齢者に対応したまちづくりをすすめるべきである。賛成か、反対か。」です。
303*:このテーマについてはどう思った?
304A:うーん、少し難しいと思った。
305*:どんなところが?
306A:佐賀市は多分だけど、市や町がなくなる可能性があるからどんな風にまちづくりをすればよい かを考えるのが難しかった。
307*:あーやっぱりこれからのまちづくりを考えていくのは難しいことなんだね。A さんは、どっち の立場だったのかな?
308A:反対。
309*:なんで反対だと思ったの?
310A:うーん、今は高齢者は増えているけど、未来は増えるとは限らないから。あと今に合ったまち づくりをすると、将来ちがう状況になったら今やっていることが無駄になるかもしれないから。
311*:なるほど、じゃあ A さんは今という状況に合わせるのではなく、未来を想定してまちづくりを 進めていくことが重要だと考えているんだね。具体的には、どのように主張をしていますか?
312A:(主張文を読む)反対の立場。
313*:なるほどこれがAさんが始めに作った意見文なんだね。1 つ目の理由が、高齢者に合ったまち づくりをすすめると、若者が住みにくくなるということだね。2 つ目の理由が、生活しにくく なる。Aさんは、高齢者よりも若者にとっても住みやすいまちづくりを進めていくべきではな いかと考えたんだね。討論ではどのようになったのかな?
314A:相手からは弱いたちの人に合わせることが大切だという反論を受けました。あと、高齢者はこ れから減るか分からないから今にあったまちづくりをすすめていくべきという反論がありまし た。
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315*:そうだったね。じゃあ、どのように応答したのかな?
316A:うーんと、弱い人に合わせるのはとても大切だけど、どっちに合わせるかはバランスが大事と 思います。そして、これから高齢者が増えるか減るのかはわからないからどちらにもあわせて いくことができるようにすべきだと思いました。
317*:なるほど。Aさんは、賛成側の反論についてどのように思った?
318A:弱い立場の人に合わせるだけでなく、どっちもあわせることが大切と思いました。
319*:じゃあ、どうすればいいのかな?
320A:うーん。・・・
321*:少し難しいね。今回のAさんの立場では、弱い立場の人をどのようにしていくのか、今の状況 に合わせるのか、将来のことを予想してまちづくりをすすめていくのか、ということが今回 のポイントみたいだね。そして、最後に意見文を作り直しているよね、理由は何個になって いますか。
322A:2つ。1 つ目は、高齢者に合わせすぎると若者にとってよくないです。2 つ目は、高齢者に合わ せると、若者が他の場所に出て行ってしまうです。
323*:1 つ目の理由について今どう思う?
324A:高齢者にとって合わせるのはよくないと思います。だって、なんかいやだな。だって、何か得 若者がいやになると思うから。
325*:うーん、2 つ目については?
326A:だって、さっきの意見と似ているけど、若者がそのまちが嫌になって外に出て行くんじゃない かな。
327*:確かにそうかもね。先生と反対どっちのほうが討論が勝ったと思っている?
328A:もちろん、反対派。
329*:じゃあ、いろいろな人の意見を聞いてみようね。
330A:いいよ!
4) 第三者による評価についての応答
401*:それでAさんたちの意見を、先生ではない、第三者の立場の人から評価してもらいました。そ こで、このような意見をもらいましたね。1 つ目の意見は、「この意見文は3年生なのによく考 えて書くことができています。とても感心しました。でも、次のことがよく分かりません。高 齢者に合わせてまちづくりをすると、若者が住みにくくなると書いてありました。本当に住み にくくなるのかなと思いました。例えば、バリアフリーが充実したまちは若者にとっても住み やすいものになっているのではないかと思われます。2つ目は、高齢者に合わせすぎると若者 が他の県に行ってしまうと書かれてありました。確かに、あわせすぎると、若者にとって住み にくくなると思います。でも、バランスよくまちづくりを進めれば、高齢者も若者も住みやす くなるのではないかと思いました。3つ目は、高齢者や若者という視点も大切だと思いますが、