第4章 地方政府
第2節 地方政府組織
1 地方政府の機関
(1)官房局(Sekretariat Daerah)
官房局は、地方政府の主要なスタッフ機関であり官房長(Sekretaris Daerah)によっ て率いられる。官房長の役割及び義務は、政策の立案及び実施において地方首長を補佐 し 事 業 局 及 び 技 術 機 関 と の 調 整 を 行 う こ と で あ る 。 官 房 長 の 下 に は 複 数 の 補 佐 官
(Assisten)が置かれ、州の場合はさらに局(Biro)、部(Bagian)、課(Sub-Bagian) が、県・市の場合は部、課が置かれる。
官房長の任命については、州官房長は、州知事が当該地方政府の公務員の中から 3 名 の候補者を選出して内務大臣を通じて大統領に提案し、内務大臣はそのうち最も適した 者を大統領に推薦して大統領によって任命される。一方で、県・市官房長は、県知事・
市長が同様に3名の候補者を選出して州知事に提案し、州知事は内務大臣との協議の上 で内務大臣の同意を得た者を任命する(法第 122 条)。このように官房長は、上位政府
32 組織令では地方政府の機関を、「官房長」、「地方議会事務局」、「監査庁」、「地方開発企画庁」、「事業局」、
「技術機関」、「郡」、「区」としている。このうち監査庁及び地方開発企画庁については必置規制のために特に 規定されているものであり、技術機関の一部局と位置づけられる、そのため本稿では監査庁については第7 章第1節で、地方開発企画庁については第8章第7節で紹介し、本節では扱わないこととする。
からの任命を受けるわけであるが、官房長は当該地方首長に対して直接責任を有してお り、上位政府の指揮系統下にあるわけではない。地方首長と共に副首長も公選で選ばれ るインドネシアの地方政府にあって、官房長は当該地方政府の全ての公務員を統率する 事務方のトップであり、地方政府の全ての公務員は、監査庁等の一部のケース除いて全 て官房長を通じて地方首長に対して責任を負い、各事業局や技術機関の意思決定は、官 房局の担当部局長、補佐官、官房長を経て地方首長まで上げられる(組織令第 3 条,第 24条(1),第 28条(1))。
官房局は以下の機能を有している。
a. 地方政府の政策立案
b. 事業局及び技術機関との調整
c. 地方政府の政策実施全般に対する監督及び評価 d. 地方行政運営及び地方政府組織の管理
e. その他地方首長が定める事務の実施 (組織令第3条(3))
(2)議会事務局(Sekretariat DPRD)
議会事務局は、地方議会に関することを所管する機関である。議会事務局の機能は地 方議会の秘書事務、会計処理、地方議会の開催・運営、及び必要な専門スタッフを配置 し地方議会をサポートすることである。議会事務局の長は議会事務局長(Sekretaris) であり、議会事務局長の下に部、課が置かれている。議会事務局長は、議会運営上は地 方議会議長に対してその責任を有し、行政運営上は官房長を通じて地方首長に責任を有 している(組織令第4条,第24条(2) ,第28条(2))。
(3)事業局(Dinas Daerah)
事業局は、地方自治の実施に係る事務を処理する主要な機関であり、地方自治原則に 基づく自治事務及び上位政府から委任を受ける補佐任務を処理する実行部隊である。住 民登録、ゴミ収集サービス、消防、保健等の対住民サービスや中小企業対策や投資相談 等の対民間事業者サービスを主に担当する機関と理解することができる。事業局の長は
局長(Kepala Dinas)であり、官房長を通じて地方首長に責任を有する。局長の下には
事務長(Sekretariat)及び課、及び領域(Bidang)及び室(Seksi)を有する。また、
事業局内に特定の行政課題を担当し、または特定の下位政府の行政区域を活動範囲とす る技術実行ユニット(Unit Pelaksana Teknis)を設置することができる(組織令第 7 条,第25条,第 29条)。
事業局の機能は以下のとおりである。
a. 所管分野の政策立案
b. 公共サービスに関する事務等の実施 c. 所管分野の管理及び運営
d. その他地方首長が定める事務の実施 (組織令第7条(3))
(4)技術機関(Lembaga Teknis Daerah)
技術機関は、地方政府の特定の政策立案と、地方政府の政策運営を補佐する主要な機 関である。技術機関の多くは 1999 年以降の分権改革で中央省庁の地方出先機関(地方 支局(Kantor Wilayah)や地方事務所(Kantor Departmen))が廃止され地方政府に 移管されたものや、地方政府内でそれらと調整を行なっていた機関に由来している。
技術機関の各機関は、庁(Badan)、事務所(Kantor)、病院(Rumah Sakit)の 3 種類の形態をとり、それぞれ長は長官(Kepala Badan)、事務所長(Kepala Kantor)、
病院長(Direktur)であり、官房長を通じて地方首長に責任を有している。庁長官の下
には事務長(Sekretariat)及び課、及び領域(Bidang)及び細領域(Sub-Bidang)が、
事務所長の下には課、室が置かれる。病院については保健大臣からの病院指定(一般病 院、特別病院及びそれぞれの格付け)によって異なるが、基本的に副院長、部、領域、
課、室で構成する。また、上記の組織と別に、庁には特定の行政課題を担当し、または 特 定 の 下 位 政 府 の 行 政 区 域 を 活 動 範 囲 と す る 技 術 実 行 ユ ニ ッ ト (Unit Pelaksana Teknis)を設置することができる(組織令第8条,第26条~第27条,第30条~第31条)。
技術機関の機能は以下のとおりである。
a. 所管分野の政策立案
b. 地方政府の政策運営の補佐 c. 所管分野の管理及び運営
d. その他地方首長が定める事務の実施 (組織令第8条(3))
(5)郡(Kecamatan)
クチャマタン(郡)は、県・市内に置かれる行政区であり、県・市行政機構の一部で ある。日本における市町村の支所のような位置付けと考えればよい。郡長(Camat)は、
県・市の官房長の提案を受けて当該県・市の公務員の中から県知事・市長によって任命 され、官房長を通じて県知事・市長に責任を有し、郡の組織として郡長の下に事務長及 び課、及び室が置かれている(組織令第17条,第32条(1))。
郡長は以下の機能を果たしており、県知事・市長から権限の一部を付与された自治事 務を処理する。
a. 郡レベルの行政施策の実施
b. 住民のコミュニティ活動の強化に関する活動の調整
c. 治安・風紀の維持に関する活動の調整 d. 公共サービス施設・設備の維持管理の調整 e. 法令の適用及び法令遵守の確保
f. 区・村の行政運営の指導
g. その他区・村で実施できない行政サービスの提供 (法第126条(3))
(6)区(Kelurahan)
クルラハン(区)は、郡の下に置かれる行政区であり県・市行政機構の一部である。
一定程度のコミュニティ単位に設置される日本における市町村の出張所のような位置 づけであり、住民にとって最も身近な行政単位である。区長(Lurah)は郡長の提案を 受け、県・市職員の中から県知事・市長によって任命され、郡長及び官房長を通じて県 知事・市長に責任を有し、区の組織として区長の下に事務長及び室が置かれている(組 織令第 18条,第32条(2))。
区長は以下の機能を果たしており、県知事・市長から権限の一部を付与された自治事 務を処理する。
a. 区レベルの行政施策の実施
b. 住民のコミュニティ活動の強化に関する活動
c. 治安・風紀の維持に関する活動
d. 公共サービス施設・設備の維持管理
e. 社会扶助サービスの実施 (法第127条(3))
(7)風紀取締隊(Satpol.PP:Satuan Polisi Pamong Praja)
風紀取締隊は、組織令に基づいて設置される機関ではなく、地方行政法第148条に基 づき、地方首長が地方条例を実施し、または地方首長が行なう公共秩序及び社会的安定 の維持を補佐するために任意で設置される取締部隊である。警察(Polisi)と名がつい ているが、国家警察の体系下に置かれる組織ではなく、犯罪捜査を行なう組織でもない。
主に地方条例違反を取り締まる組織であり、例えばスラバヤ市の場合では、違法露店営 業や広告税を納付せずに設置している違法看板の取締り等を行なっている(法第148条, 第 149条)。
(8)専門スタッフ(Staf Ahli)
上記の様な組織とは別に、地方首長はその事務執行を補佐させるために、公務員の中 から 5名を上限とする専門スタッフを任命することができる。専門スタッフは事業局の 局長や技術機関の長官級の幹部クラスの地位であり、その事務処理は行政運営上官房長
の指揮下に置かれる(組織令第36条,第37条)。