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土嚢造林試験

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第 4 章 現地調査の結果

5) 土嚢造林試験

早稲田大学 助手 田中一生

国際緑化推進センター 主任研究員 仲摩栄一郎、研究顧問 大角泰夫

5-1. はじめに

石炭採掘の廃土地における造林にとって、廃土対象地の埋め戻しの「丁寧さ」が植栽木 の生存・成長の大きな問題となる。つまり、採掘時に原植生下の表層土壌(A層)が取り分 けられ、廃土対象地に A 層が最上層になるよう埋め戻されるか否かで土壌の無機養分や有 機物に大きな差が生じる。また、それのみならず、採掘土の下層に含まれる重金属、とり わけここではパイライトを多く含むことによる酸性硫酸塩土壌が生成され植栽木の健全な 成長を妨げることがある。

こうした生育障害を緩和する有効な手段として、土嚢内に苗や種子を埋め込み、生存率 を高める土嚢造林があげられる。土嚢造林は日本の足尾鉱山の跡地の緑化に利用され(図 4-1; Akiyama 1992)、植生が回復したという実績がある(関東森林管理局 2007)。

この土嚢造林の利点としては、有機物や無機養分が高い土壌を用いることが可能である こと、急斜面でも設置が可能であること、地面のわずかな高低により湛水する箇所では、

マウンドとしての機能が付加されることなどがあげられる。一方、留意点としては、土嚢 から根が出ない、いわゆる寝巻きが生じる可能性があることや根が外に出てからの成長維 持が困難であるということが挙げられる。

これらのことから、石炭採掘の廃土地において、土嚢造林は活着率ならびに生育を促進 する可能性があるが、まだその効果などは明らかになっていない。

5-2. 方法

2012年11月28 日に土嚢袋に表土とコンポストを混ぜ、中央部に約15cm×15cm の穴 を開け、下部に水分過剰になることを防ぐために数箇所小さな穴を開けた (図 5-2D)(土嚢 区)。対照区として、同量の表土とコンポストを混ぜ通常の植え穴に満たした区(客土区)、 通常の植え穴の区(対照区)を設けた (図 5-2C)。これらにそれぞれ、マホガニー(Swietenia macrophylla)とアカシア(Acacia mangium)実生苗を1個体ずつ植えた。それぞれの植栽木の 配置図を図 5-1に示す。

植栽後、植栽木の樹高とクロロフィル濃度 (葉緑素計(SPAD)による相対値)計測した。

また、2回目は2013年3月18日に行った。それぞれの処理区の植栽木の樹高とSPAD値

はTukey HSD法で検定を行った。

A1C A1S A9C A9S A17C A17S

A1P A9P A17P

M1C M1S M9C M9S M17C M17S

M1P M9P M17P

A2C A2S A10C A10S A18C A18S

A2P A10P A18P

M2C M2S M10C M10S M18C M18S

M2P M10P M18P

A3C A3S A11C A11S A19C A19S

A3P A11P A19P

M3C M3S M11C M11S M19C M19S

M3P M11P M19P

A4C A4S A12C A12S A20C A20S

A4P A12P A20P

M4C M4S M12C M12S M20C M20S

M4P M12P M20P

A5C A5S A13C A13S A21C A21S

A5P A13P A21P

M5C M5S M13C M13S M21C M21S

M5P M13P M21P

A6C A6S A14C A14S A22C A22S

A6P A14P A22P

M6C M6S M14C M14S M22C M22S

M6P M14P M22P

A7C A7S A15C A15S A23C A23S

A7P A15P A23P

M7C M7S M15C M15S M23C M23S

M7P M15P M23P

A8C A8S A16C A16S A24C A24S

A8P A16P A24P

M8C M8S M16C M16S M24C M24S

M8P M16P M24P

M: Mahogani, A: Acacia C: Control, P: Potting, S: Soil Bag

図5-1. それぞれの植栽木の配置図。

5-3. 結果と考察

図5-3に土嚢造林施工後、約3ヶ月経過したA. mangiumS. macrophyllaの生存率、樹

A B

E F

土嚢区

表土区 表土区

C D

図4‐1 足尾銅山跡地において行われた土嚢による植生回復(Akiyama 1992より抜粋)。足尾銅山跡 地(A)と土嚢による植生回復処理の様子(B)。1区画のそれぞれの処理区の様子(C)。土嚢区に おいて土嚢に穴をあけ苗を植えている様子(D)。土嚢造林施行中の様子(E)。土嚢造林施工収 納時の様子(F)。

図5-2. 足尾銅山跡地において行われた土嚢による植生回復 (Akiyama 1992より抜粋)。

足尾銅山跡地(A)と土嚢による植生回復処理の様子(B)。1 区画のそれぞれの処理 区の様子(C)。土嚢区において土嚢に穴をあけ苗を植えている様子(D)。土嚢造林 施行中の様子(E)。土嚢造林施工収納時の様子(F)。

高、SPAD値を示す。A. mangiumでは、土嚢ではすべての個体が生存し、客土区では84%、 対照区では、65%の個体が生存した (図5-3A)。S. macrophyllaでは、すべての区で生存率 が低下し、土嚢区で61%、客土区で23%、対照区で17%の個体が生存した。(図5-3D)。 このことから、A. mangium、S. macrophyllaともに土嚢造林の有効性が確認された。

A. Mangium の 樹 高 は 、 客 土 区 と 土 嚢 区 で 有 意 に 高 く 、 対 照 は 差 が な か っ た 。S.

macrophyllaの樹高は、すべての処理区で差がなかった。

A. MangiumのSPAD値は、すべての処理区で差がなかった。S. macrophyllaのSPAD値 は、客土区で有意に低下し、対照と土嚢区は差がなかった。

0 10 20 30 40 50 60

Control Top soil Bag

0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100

Survival (%)Tree Height (cm)SPAD

A

B

C

11/28 3/18

a

a ab

b bc c

a a a

a a a

0 10 20 30 40

Control Top soil Bag

0 10 20 30 40 50 60 70 0 20 40 60 80

100

D

E

F

11/28 3/18

a a a

a a a

a a a a

ab

b

図5-3 土嚢造林施工後、約3ヶ月経過したAcasia mangiumの生存率(A)、樹高(B)、SPAD 値(C)。Swietenia mahoganiの生存率(D)、樹高(E)、SPAD値(F)。青;2012年11 月28日、赤;2013年3月18日。

A. mangium、S. macrophyllaともに土嚢造林によって活着・成長に好影響が確認された。

対照において、S. macrophyllaの生存率はA. mangiumと比較して低かった。このことから、

S. macrophyllaは、A. mangiumと比較して、石炭採掘跡地の土壌環境に対する適応性が低

いと考えられる。また、A. mangiumでは客土区でも好影響が確認されたが、S. macrophylla では確認されなかった。つまり、S. macrophyllaの生存率が低下する原因は、客土に含まれ る土壌養分や土壌の物理的性質によるもののではないと考えられる。生存率低下の原因の 一つとしては、雨季の降雨により雨水が土嚢内に湛水してしまい、根が酸欠状態に陥った 可能性が推測される。

5-4. 引用文献

Tomohide Akiyama (1992) A forest again: lessons from the Ashio Copper Mine and reforestation operations, Food and Agriculture Policy Research Center.

関東森林管理局 (2007) 足尾治山事業, 関東の森林から, 特別号, Feb., 3

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