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インドネシア REDD+ 国家戦略報告書の概要

第 2 章 開発地の森林・植生回復に適用可能な技術の分析

3) インドネシア REDD+ 国家戦略報告書の概要

インドネシアREDD+制度準備タスクフォースが編纂した、REDD+国家戦略(2012年)

はインドネシアにおけるREDD+の取り組みについて、その基本的考え方、進め方、および いくつかの留意事項について述べたものであり、インドネシアにおけるREDD+活動の憲法 といえるものである。この要約では全体の流れに沿って、重要な部分のみを取り上げ説明 する。

なお、本インドネシアREDD+国家戦略報告書の全訳を巻末の添付資料に記載する。

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第1章 は序論であり、インドネシアにおけるREDD+の重要性に触れている。つまり、

国土の70%に当たる1億3千万haを森林が占めるインドネシアにおいては、REDD+を実 施する大きなメリットがあり、インドネシア政府は2020年までに26%(自国資金のみの場 合)あるいは41%(海外からの援助を受けた場合)の排出削減を達成すると公約している。

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第2章は本REDD+国家戦略のコアであり、REDD+国家戦略の詳細、つまり、REDD+の ビジョン・任務・目的・原則、対象範囲、およびREDD+を進める上での5つの柱について の解説である。

まず、REDD+のビジョンは、国民の繁栄のために最大限に活用されうる国家財産として

の持続可能な森林・泥炭地における天然資源管理であり、REDD+の任務は、森林・泥炭地 の管理システムの機能強化、法令の整備、法令順守の強化等により達成される持続可能な 森林・泥炭地管理の実現である。

REDD+の目標としては、以下の短期、中期および長期目標を設定している。

(1) 短期目標(2012-2014):

経済成長を保ちながら温室効果ガスを削減するインドネシアの公約が実現されるよう、

空間規則、投資環境、制度および管理システムの戦略的向上が図られる。

(2) 中期目標(2012-2020):

2020年までに26-41%の排出削減目標を達成するため、森林・泥炭地管理システムと、

それまでのステップですでに達成・開発された財政確保とメカニズムにおいて、構築さ れた政策・プロセスに従いガバナンスが実現される。

(3) 長期目標(2012-2030):

森林の経済的機能および生態系サービス機能を持続させるための適切な政策実施の結 果として、2030年までにインドネシアの森林・原野が最終的なカーボンシンクとなる。

REDD+の原則について、インドネシアにおけるREDD+は、有効性・効率性・公平性・透

明性・説明責任の5つの基準に基づき実施される。また、REDD+の対象範囲は、(1) 森林・

泥炭地の減少・劣化に起因する排出の削減、(2)森林保全、持続可能な森林管理、および荒 廃地の復旧・回復による炭素ストックの増大、(3)排出削減に伴う住民の福祉向上、生物多 様性保全の向上、その他生態系サービス保護の向上など追加的便益の創出である。

つぎに、REDD+国家戦略の最重要部分である以下の5つの柱について詳しい解説がなさ

れている。

(1) REDD+制度システムの構築

REDD+の制度については、国家レベルではREDD+の規制枠組み作りやREDD+プログラ

ムの開発を担当するREDD+エージェンシー、REDD+プロジェクト等への資金投入を担当

するREDD+基金および排出削減に係る計測、報告、検証を担当するMRV機関の3つの組

織を設立するとし、それら3機関の任務、権限あるいは3組織の相互関係について述べて いる。

REDD+エージェンシーは法に則り設立され、大統領への直接報告義務を負い、その代表

は政府大臣と同等の立場である。その主な任務はREDD+スキーム実施のための規制枠組み

の立案、REDD+プログラム開発の促進、森林・泥炭地の管理規則システムの改善促進の規

制、などREDD+制度や関係省庁間の調整である。

REDD+基金はREDD+エージェンシーにより設立される機関で、その任務は、世界的に

認証されたセーフガードと説明責任の基準に基づき、政府の財政システムとは別に自主的、

専門的かつ確実にREDD+基金を管理すること、制度的・計画的・専門的な資金調達を通じ た国内外の公的および民間部門からのさまざまなREDD+資金の運用、などである。

MRV機関は、REDD+エージェンシーにより組織編成される機関で、その任務はREDD+

の実施による温室効果ガスの排出削減および蓄積の維持・増加についての計測、報告およ び検証を定期的に行うものである。

また、サブ国家レベルとして州政府が国に準じた制度を設けるとしている。

(2) 政策・規則の見直しと強化

政策・規則の見直しと強化で注目されるのは、REDD+に最も関係の深い政策である空間 規則(土地利用についての規則)と土地所有規則の見直しである。特に、土地所有規則につい

ては、REDD+実施が成功するために重要な必要条件のひとつであり、そのため政府から内

務省および国土庁に対し、先住民やその他の地元コミュニティーの存在についての調査を 行うよう指示が出される。また、法定外の紛争解決メカニズムを通じて実施可能な土地所 有の紛争の解決を国土庁が行うよう支援する。

もう一つの注目すべき政策は、新規伐採許可の発行の2年間の停止措置である。さらに、

森林および泥炭地の組織的かつ持続可能な管理を実現するためには、地域の行政的管理の みではなく生態系のアプローチを取らなければならない、と強調している。

(3) 戦略プログラムの開始

戦略プログラムの開始は、森林・泥炭地の持続可能な管理、保全・復旧等REDD+の活動 内容に関することである。具体的には、持続可能な景観管理、持続可能な天然資源利用経 済システムの実施、および保全・復旧・回復がプログラムの内容として提示されており、

持続可能な景観管理の一手法として、森林・原野火災のコントロールと予防などが強調さ れている。

さらに復旧戦略プログラムは、効果的に復旧プログラムを進めるための現場における条 件整備あるいは問題の解決に重点を置くとして、以下の3点を指摘している。

a. 森林地域およびその他用途地における泥炭地の条件調査、それらの利用許可の調 査、水利の復旧、ローカル樹種の植林および火災対策による泥炭地管理・復旧の 強化。

b. エンリッチメント植林、マングローブ林復旧、都市林の整備、および住民管理地 域の拡大など、森林・泥炭地の造林/再造林活動のためのインセンティブ供与。

c. REDD+と森林地域における生態系サービスのコベネフィットに貢献する高い可能

性を持つ生態系の回復。

(4) パラダイムおよびワーキング文化の変革

パラダイムとワーキング文化の変革では、REDD+の取り組みにおけるジェンダー・バラ ンス(男女の役割分担の明確化)やガバナンスの強化、情報公開と透明性の増大について 述べている。具体的には、透明性を高め、参加者へ正確な情報を保証する2008年の情報公 開法の実施プログラムを開発すること、法令制定プロセスや森林セクターにおける許可付 与プロセスの透明性を高めること、貧困層や女性・子供など弱者グループの参加の拡大推 進などである。

(5) ステークホルダーの参加

ステークホルダー(利害関係者)の参加については、REDD+への住民参加の拡大方策とし て、プライアー・コンセント(強制なしの事前同意)、セーフガード(危機回避手段)、および 利益配分について詳細を述べている。

プライアー・コンセントとは、地元住民等関係者がREDD+プログラム/プロジェクト/活 動を強制されることなく受け入れるかどうかという事前の確認プロセスであり、地元関係 者の意向を最大限に重視する姿勢である。プライアー・コンセントのプロセスは、住民と RDD+の実施者との間で、継続的あるいは定期的に協議および対話の形で行われ、REDD+

の様々な段階での拒否表明および紛争解決のメカニズム/プロトコールを含むものである。

また、セーフガードはREDD+を実施することにより、他の予期しないマイナスが生じな いよう配慮すべきであるという考え方にもとづくもので、REDD+の実施により地元住民の 福祉が阻害されたり、地域の生物多様性の保全に障害が出てはならないとする配慮である。

特に女性、子供、先住民等の弱者グループは様々な活動の影響を受けやすく、これらグル ープに対する配慮が優先されている。

社会分野のセーフガードは弱者住民グループにとって特に必要となる。このグループは、

生存を森林資源に依存している森林内部および周辺の先住民/地元住民や、家族の生計資源 の様々な変容の影響を頻繁にこうむる女性グループ、社会・経済・政治的な地位や権利の 維持について弱いポジションにある住民グループを含む。

また、環境分野のセーフガードにおいては森林・泥炭地における排出削減の取り組みと、

生物多様性やその他の生態系サービス機能の保全の取り組みの調和を確実にするための地 域の特性に応じた原則、基準、環境指標の策定を行う。また、REDD+が生物多様性の保全 の取り組みと持続的環境基準に反しないことの保証が求められる。

最後にREDD+から得られる報酬の配分について、個人としてあるいは集団として、資源

所有およびサービス提供の役割に応じた支払いを受ける、と参加住民のインセンティブを 強調している。

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第3章では、新設予定の3つの機関と制度(REDD+エージェンシー、REDD+基金、

REDD+MRV機関)のREDD+戦略実施に対する方向性に言及する。表3.1.REDD+の効果的

な実施への戦略ステップ、では上記の5つの柱について、第一段階(2011-2012年)、第二段

階(2012-2014年)および第三段階(2014年以降)における実施スケジュールをまとめている。

インドネシアでは2014年にREDD+完全実施が期待されているが、パイロット州におけ

るREDD+の実施について2014年から全インドネシアにおいて、よりシステマティックに

展開されるとしている。

さらに州などサブ国家レベルの取り組みについての記述がある。つまり、サブREDD+実 施の第一段階として、どの取り組みおよび活動が国家ベルの活動に適用可能かを見極める

ためにREDD+をフルで実施するパイロット州を決定する。パイロット州の選定は、REDD+

の実施を満足させる生物・物理的条件が整っていること、住民の森林資源への依存度、

REDD+実施に関連するデータと人材の確保、REDD+に関するガバナンスならびに効果的、

効率的かつ透明性のある行政機関などある。パイロット州においては、REDD+を実施する ための州の戦略とアクションプランが、REDD+国家戦略を参考とし、地方中期開発計画と 同調しつつ策定される。

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最終章である第4章では、REDD+実施の各段階におけるアプローチの必要性について強 調している。REDD+は単に気候変動緩和や炭素排出削減からの便益を目的とするのではな く、さらに重要なのは生物多様性や水文システムなどの環境サービスの持続性が向上する という総体的な森林管理の向上である、と結んでいる。