情報通信研究部 チーフコンサルタント
井上 敬介
際のベースマップとして幅広く利用できる。
そして、国土地理院が公開している日本国土 に関する画像タイルが、地理院タイルである。
URL
が公開されており、利用規約に従えば誰 でも無料で利用することができる。電子国土基 本図と呼ばれる基盤データから作成された地図 のほか、白地図、土地利用図、衛星写真など多 様な画像タイルが公開されている。また、大雨 や火山噴火などの災害発生直後の現場付近の画 像なども、領域を限定したデータとして公開さ れている。国土地理院が運営する地理院地図(5)を利用すれば、地理院タイルとしてどのような データが公開されているか実際に見ることがで きる。なお、国土地理院は、地理院タイルの利 用に関連する技術仕様やサンプルコード、ツー ルなどを技術者向け
SNS「GitHub」を通じて
提供(6)している。ここまで述べてきたように、地理院タイルに 2. 標高タイルとベクトルタイル
限らずウェブ上で地理空間情報を扱う「タイル」
といえば、「画像タイル」のことであった。し かし、近年国土地理院は、全国の標高データと、
基盤地図情報のうち道路中心線、鉄道中心線な どのデータを、画像タイルと同じ正方形領域ご とに分割したファイルとしてウェブ上で公開す る試みを行っている。これらのことを、標高タ イル・ベクトルタイルと呼んでいる。標高タイ ルは
GeoJSON
(7)形式とCSV形式で、ベクト
ルタイルはGeoJSON
形式で配信されている。画像タイルが画像であるのに対し、標高タ イルとベクトルタイルは数値データ(ラスター データ、ベクトルデータ)であり、分析・加工・
表示方法の変更などが容易に行える。それが、
タイル状のデータとしていつでもインターネッ トから入手できるようになった。
(1)標高タイルやベクトルタイル配布の意義 標高タイルやベクトルタイルに含まれる標高 データ、道路中心線、鉄道中心線などの情報は
(資料)国土地理院のウェブページ (http://maps.gsi.go.jp/development/siyou.html) より引用 図表1 画像タイルとズームレベルの関係
初めて公開されるものではなく、従来から基盤 地図情報ダウンロードサービス(8)で誰でも無 料で入手できた情報である。しかし、標高タイ ル・ベクトルタイルという形で利用できるよう になったことには、以下の意義があると筆者は 考えている。
① データの取得範囲、解像度に関する高い自 由度の提供
標高データは基盤地図情報ダウンロードサー ビスでは、5mメッシュと10mメッシュの二種 類の解像度で配布されている。データを取得 する時は、領域を選択して
zip
形式で圧縮した ファイルとしてダウンロードするのだが、ファ イルごとに含まれる領域が比較的大きいため、ダウンロードするファイルは数メガバイト単位 と大きなものとなる。また、データはオリジナ ルの解像度のみで公開されているため、広範な 範囲についてラフな分析を行いたいなど、詳細 なデータが必要ない場合は、ユーザが自らデー タ加工を行い、必要な解像度にする必要がある。
一方標高タイルでは、データは256ピクセル
×
256
ピクセル、ファイルサイズでは数十キロ バイトと比較的小さい単位に分割されており、ユーザは本当に必要な範囲のデータだけをダウ ンロードすることができる。またズームレベ
ルが0〜
14と多くの解像度で用意されている。
そのため、狭い領域の詳細なデータを取得した い場合は高いズームレベル、広い領域の大まか なデータを取得したい時は低いズームレベルの データをダウンロードすることで、ユーザが自 ら加工せずともニーズに合った解像度のデータ を取得することができる。
ベクトルタイルについても状況は類似してい る。基盤地図情報ダウンロードサービスでは 比較的大きな領域単位で
zip
ファイルでダウン ロードするのに対し、ベクトルタイルでは、ズームレベル15で定義される正方形の領域別に分 割されており、小さい領域単位でデータをダウ ンロードできる。なお、ベクトルデータの場合 は、ラスターデータのように単純なデータ量の 削減は行えないため、ズームレベルは1種類し か用意されていない。
②マッシュアップが可能なサービスの提供 ウェブブラウザ上で動作する
Javascript言
語で簡単に処理できる形式でデータが公開され たこと、またログインなどを必要とせずにデー タをダウンロードできるようになったことか ら、ベクトルタイルをベースマップとしたウェ ブ地図を作成するなど、マッシュアップでの利 用が可能になった。画像タイルはそのまま表示する以外の使い方 は困難であるが、標高タイルやベクトルタイル であれば色や線の太さをユーザが変更するな ど、より高い自由度で活用できる。
③ 地理空間情報の数値情報をウェブで配信す る新しい仕様の試行
国土地理院の標高タイルとベクトルタイルの 公開という取り組みには、地理空間情報の数値 情報をウェブで配信する新しい仕様を提案し、
有用性の実証実験を行うという意義があるよう に思う。
これまで地理空間情報の数値情報を、ウェ ブ上で取り扱いやすい共通した仕様で配信する サービスは、十分普及していない。例えば、イ ンターネットで公開されている地球全体の標 高データとしては、GEBCO(9)、ETOPO(10)、
SRTM
(11)などがあるが、配信の仕方はまちまち である。それぞれ独自のウェブページで公開さ れており、ダウンロードしたい範囲の指定方法 やファイルフォーマットの指定方法は異なる。ダ ウンロード可能なファイルの形式も、GeoTiff(12)だ っ た りNetCDF(13)だ っ た り と、 標 準 的 な フォーマットを採用してはいても、サービスに よって異なる状況になっている。
地理空間情報の数値情報をウェブで配信す る標準仕様は、存在しないわけではない。地 理空間情報の仕様に関する標準化団体である
OGC
(14)が、ラスターデータの配信用にWCS
(Web Coverage Service)、ベクトルデータの配 信用に
WFS
(Web Feature Service)という仕様 を策定し、公開している。しかし、これらの仕 様でデータを配信するサービスはそれほど普及 していないように思う。これはWCS
やWFSが サーバの負荷が比較的高く、多くのクライアン トにデータを配信するには課題があることが原 因ではないかと考える。WCS
やWFSでは、デー
タを取得したい範囲やファイルフォーマットを クライアントが指定できる。これらはクライア ントからすれば便利な機能ではあるが、サーバ で動的処理を行うことが必要になるため、サー バの負荷につながってしまう。また仕様が比較 的複雑で、学習に時間がかかることも普及を妨 げる要因ではないかと思われる。このような状況を踏まえ、国土地理院は既 に普及している画像タイルの仕様や
GeoJSON
ファイルフォーマットなどを組み合わせてシン プルな仕様を作り、ウェブでの利用に適した新 たな配信仕様を提案し、試行しているように思 える。(2)標高タイルとベクトルタイルの活用方法 次に、標高タイルとベクトルタイルの活用方 法について考えてみたい。
①ウェブサイトでの活用
まず容易に思いつくのは、ウェブサイトでの 活用である。標高タイルを利用すれば、ウェブ 地図上でマウスカーソル位置の標高をリアルタ
イムに表示することも簡単に実現できるし、ま た標高によって地面を色分けしたいわゆる「色 別標高図」を生成することもできる。標準的な 色別標高図は地理院タイルでも既に公開されて いるが、グレースケールなどに色を変えたいこ ともあれば、特定の高さの範囲(例えば海岸付 近)での標高の変化を強調して表示するために 標準とは異なるカラーマップで色別標高図を作 りたいこともあるだろう。標高タイルを活用す れば、クライアント側で簡単に実現できる。
ウェブ地図が普及している今、これらの使い 方が当面主要な活用方法となるだろう。
②数値計算や設計での活用
発展的な活用方法として、数値計算や設計な どの場面での活用が期待できる。
標高データは、もともと数値計算で広く使わ れている。例えば、河川で氾濫が発生した際の 浸水範囲や津波発生時の津波到達範囲を予測す る場合など、枚挙にいとまがない。ベクトルタ イルで公開されているデータは、例えば渋滞予 測には道路中心線が使われるし、都市計画など で重要になる情報が多く含まれている。
現在はこれらのデータを利用したい場合は、
事前にダウンロードするなどしてデータを入手 することが一般的である。しかし、デスクトッ プ
GISや CAD
などが標高タイル、ベクトルタ イルに対応すれば、ユーザが解析対象の領域を 選んだ時点で瞬時に必要なデータを入手できる ようになり、データ準備の手間を著しく軽減で きる。また、事前にダウンロードするなどして 準備した場合と異なり、国土地理院が現在公開 している最新のデータを利用できることにな る、というメリットもある。標高タイルが様々なズームレベルで公開され ていることのメリットは、数値計算で利用され る場合にも大きい。例えば津波発生時の解析を