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ものづくりへの HPCの適用事例

ドキュメント内 みずほ情報総研レポート vol.11 (ページ 70-76)

ハイパフォーマンスコンピューティング技術が切り開く ものづくり

2. ものづくりへの HPCの適用事例

めに、設計段階で車室内騒音を予測することお よびこれにより音源と伝搬経路を特定すること が重要であり、そのための予測技術の確立が求 められている。車室内騒音の音源としては、エ ンジンノイズ、ロードノイズ、空力騒音等があ げられるが、高速走行時には空力騒音が主音源 となる。本節では、スパコンの製品への適用事 例として車室内騒音の空力騒音の予測について 紹介する。

空力騒音の音源は車体まわりの非定常な空気 の流れであるため、これを流体解析により精度 良く予測することが求められる。時速100 km 程度で高速走行する車の表面にはミリオーダー の小さな渦が無数に存在する。通常、自動車 メーカ等では数千万グリッドから数億グリッド 程度の計算格子を用いた流体解析が実行されて おり、この規模の計算では上記のような小さな 渦の効果を車体全体にわたって全て取り込むこ とは困難である。一方、現在のスーパーコン ピュータ京を用いれば最大数百億グリッドの計 算格子での計算が実行できる。図表

3

に車両表 面近傍の微細渦構造の可視化結果を示す。この 計算では

50

億グリッド(この分野では世界最大 規模)の計算格子を使用しており、この計算で はミリオーダーの小さい渦の挙動まで計算に取 り込むに成功している。微細な渦の動きを捉 えることができるということは、速い(高周波

左:全体、中央:サイドウインド近傍、右:ルーフ 図表3 車体表面近傍の微細渦構造の可視化結果

の)流体加振を精度良く計算できることを意味 している。図表

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(a)にサイドウインドにおけ る圧力の変動パワースペクトル(各周波数にお ける圧力変動の分布)の風洞試験との比較を示 す。図表

4

(a)の予測結果のうち、赤色で示す データは比較的小規模の計算であり高周波側で 計測結果との不一致が確認できるが、青色で示 すデータでは試験結果とほぼ一致することが確 認されている。このような流体加振の高精度予 測は大規模な計算を実行して初めて実現できる

ものであり、まさにスパコンの性能向上により もたらされた成果である。

車室内の騒音を予測するためには、流体解析 で予測した車体表面の流体加振データを用い て、車体ボディの振動および車室内の音響場を 計算する必要がある。この振動・音響の計算に 関してもコンピュータの性能向上が重要な役割 を担っている。振動・音響の計算に関しては従 来では、統計的エネルギー解析手法(Statistical

Energy Analysis Method、SEA

法)が適用され てきた。SEA法は解析対象をパーツに分割し、

パーツごとに入力パワー、散逸パワー、伝達パ ワーの平衡を仮定することにより振動・音響の 計算を行う。本手法は計算コストが低いことも あり、車室内騒音の予測ツールとして有効であ るが、解析対象を比較的大きなパーツに分割す るため、車体表面の流体加振がどのように車室 内に伝播するかを詳細に調べるには限界があ る。本解析事例では、車体ボディの振動および 車室内の音場を直接的に計算する振動・音響連 成解析を実施した。上記の計算手法で予測した 車室内騒音は風洞試験により計測データと数

dB

の誤差で一致することを確認している(図 表

5)。

(資料)図表中のLESとラベルされたデータが計算結果、

Coarseは8千万グリッド、Fineは50億グリッドを使用 図表4 サイドミラーにおける圧力変動スペクトルの比較

図表5 車室内騒音の比較(SAE Technical Paper 2016-01-1616, 2016)

(2)風車の性能予測

風力発電システムにおける風車の設計では、

通常時、故障時、始動時、停止時などの様々な 運転状況に対し、風車の構造的、機械的、電気 的および制御システムを考慮して、安全性およ び発電量などの性能を確保することが要求され る。風車の設計や性能予測にはこれまで翼素運 動量理論(BEM:Blade Element Momentum

theory)が広く用いられてきた。BEM

2

次元 翼型の性能データを利用して設計点付近の性能 を精度良く簡易に予測できるため、実用的にも 用いられている。しかしながら、BEMは2次 元理論であるため、翼の曲面形状の考慮は勿 論、本来、3次元の複雑かつ非定常挙動である 風況の影響を風車に的確に取り入れることはで きず、特に非設計点の性能評価に用いることは 難しい。また、通常翼に流入する風速はブレー ドの断面位置により変化するため、様々なレイ ノルズにおける

2

次元翼型の性能データが必要 となるが、実験データからこれら全てを補うの は困難であるため、実際には代表的なレイノル ズ数を用いて計算が行われている。このような ことから、

BEM

に基づく風力発電の予測量と 実際の発電量には差異があると考えられるが、

明確な比較は存在していないと思われる。風力 発電量を高精度に予測するには風況(風速、流 入乱れ、地形の影響)、ピッチおよびヨー制御、

翼の曲面形状など様々な複雑な条件を考慮する 必要があるため、流体解析が有効なツールに成 り得ると考えられており、近年、流体解析によ る性能予測の検討が多く行われている。これら を踏まえ、当社ではこれまで培った流体解析の 技術を風力発電の性能予測に活かすことを目的 として、

HPCI

利用研究課題(課題名:風況デー タを用いた実機風車の性能評価シミュレーショ ン、実施期間:2012年9月~

2014年3月)とし

て風車性能予測のためのベンチマークテストの

実施を申請しこれが採択された。この利用研究 課題では、風況および風車まわりの流れに対し て大規模流体解析を実施した。

①風況計算

国内に風車を設置する場合、地形の影響を含 む風況が風車に与える影響を把握しておく必要 がある。ここでは、風況予測の精度検証とし て積丹半島を対象とした地形周りの流れ解析 を実施した。計算は積丹半島北部の1 / 2000ス ケールモデルの風洞試験と同じ条件において行 い、平均速度分布や変動速度分布を計測データ と比較した。地形モデルは図表

6

に示すように 直径

8 km

の円形領域であり、国土地理院が発 行する地形データから積丹半島の部分を抽出し た。計算に使用した計算格子のグリッド数は約

3000万である。図表中の点 A

~Gは計測点で ある。石原・山口らによる風洞試験では地形モ デルをターンテーブルに設置し、45度ずつ回 転させることにより

8

方向からの流入条件にお いて流れを測定している。風洞試験との比較と してここでは風向が北東(NE)のケースの検証 結果を示す。計測点(A、B、F、G)における平

(資料)土木学会論文集、No731/1-63195-211,2003より引用 図表6 積丹半島地形

均速度の鉛直分布を実験値と比較した結果を図 表

7

に示す。点

Gのように急峻な地形の背後に

位置する点では予測誤差が大きいがその他の点 の速度分布は風洞試験と概ね一致しており、本 ベンチマークテストにより地形の効果を概ね再 現できることが確認できた。

②風車まわり流れ計算

アメリカ国立再生可能エネルギー研究所

(NREL)が

NASA

の超大型風洞で行った実験 に用いた

2

枚翼のモデル風車(NREL S809)を 対象にして、風車周り流れの検証解析を実施 した。対象とする風車モデルを図表

8

(a)に示 す。計算に使用した計算格子のグリッド数は約

3

億である。

NRELによる実験では風速や風向、

ピッチやヨーを変化させた様々な条件下におい て計測が行われており、得られたデータは数値 計算のベンチマークとしても用いられている。

本研究では、ピッチおよびヨー制御が無い場合 において風速として

7 m / s

および10 m / sを与 えたベンチマーク計算を行った。図表

8

(b)に 流れ場の可視化の例として風車に向かう方向の 風速の分布を示す。精度検証として翼面の圧力 分布を風洞試験結果と比較した結果を図表9に 示す。風速

7 m / s

のケースの誤差は比較的小さ いが、10m / sの場合は試験結果との誤差が大 きい。本ベンチマークテストでは格子点数が不 足しているため十分な精度が出ていない課題が

図表中のLESとラベルされたデータが計算結果 図表7 計測点における平均速度の比較

図表8 風車形状および風車回り流れ場の可視化

確認された。

本節では風力発電の性能予測への流体解析の 事例として風況計算および風車まわり流れのベ ンチマークテスト結果を紹介した。これらのベ ンチマークテストでは予測精度に関して課題が あることも確認されたが、前述のとおり、大規 模解析技術は風車の性能予測に貢献できる技術 であると考えており、今後も風車の性能予測向 上に取組んでいきたい。

本稿ではスパコンの性能向上およびこれが流 体解析技術にあたえるインパクトについて示す とともに、具体的な適用事例として車室内騒音 の予測および風車性能の予測について紹介し た。スパコンを利用した大規模な流体解析技術 のものづくり分野への適用は他の製品に対して も成果をあげその有用性が実証されつつある。

今後はこれらの技術の実用化が重要な課題であ り、筆者も各分野の方々と連携しその実現に貢 献したい。

参考文献

1. Gordon E. Moore, “Cramming more components onto integrated circuits”, Electronics Magazine

3. まとめ

19 April 1965.

2. Kato, C., Kaiho, M. and Manabe, A., "An overset Finite-Element Large-Eddy-Simulation method with application to Turbomachinery and Aeroacoustics," Trans. ASME, Journal of Applied Mechanics, 70, 32-43, 2003.

3. Kato, C., Yamade, Y., Wang, H., Guo, Y., et al.,

"Numerical prediction of sound generated from flows with a low Mach number," Computers &

Fluids, 36 (1), 53-68. 2005.

4. Yamade, Y., Kato, C., Iida, K, Iida, A, Yoshimura, S., Onda, K., Hashizume, Y. and Guo, Y.,

“Prediction of aeroacoustical interior noise of a car, part-1 prediction of pressure fluctuations on external surfaces of a car”, SAE Technical Paper 2016-01-1617, 2016.

5. Nishikawa, T., Yamade, Y., Sakuma, M., and Kato, C, "Fully resolved large eddy simulation as an alternative to towing tank resistance tests - 3 2 billion cells computation on K computer,"

16th Numerical Towing Tank Symp. (NuTTS), Munich.

6. Makihara, T., Kitamura, T., Yamashita, T., Maeda, K., er al., "Identification of Vortical Structure that Drastically Worsens Aerodynamic Drag on a 2 -Box Vehicle using Large-scale Simulations," SAE Technical Paper 2 0 1 6 0 1 -1585, 2016.

7. Yamade, Y., Kato, C., Nagahara, T., and Matsui, J., "Large Eddy Sumulation of Unsteady Vortices in a Pump Sump," presented at AJK2015, AJK2015-FED140753, 2015, Seuol 8. Guo, Y., Kato, C., Yamade, Y., Ohta, Y., et al.,

"Computation of Noise from the Internal Flow 左:風速7m/s右:風速10m/s

図表中のLESとラベルされたデータが計算結果 図表9 翼面上の圧力分布の比較

ドキュメント内 みずほ情報総研レポート vol.11 (ページ 70-76)