ICTを活用した効果的で効率的な医療の輸出
5. ベトナムの医療の現状と課題
(1)ベトナムの概要
ベトナムは、
GDP
は1853.5
億ドル(2014
年)とまだ低いものの、政府発表によれば、
2015年
の成長率は6.68%(推定値)で過去5
年間で最 高の伸びとなるなど、今後の経済成長が期待さ れる。また、人口規模も89,708.9千人と比較的 大きく、短気予測でも2019年には95,473千人 に達することが予想されている。政治体制は社会主義であるが、市場の対外開 放を方針とするドイモイ政策をとり、外資の受 け入れには積極的で、医療分野でも、税制優遇 を行っている。対日関係も友好であることから、
次の市場として期待の高い国となっている。
(2)ベトナムの医療制度
総医療費の対
GDP
比はASEANの主要国の 中で最も高く、医療分野に対する投資意識は高 いと考えられる。また、医師数や病床数といっ たインフラについても、マレーシアと同程度と なっている。ただし、医療機関は公立がほとん どであり、私立医療機関はまだ少ない。このこ とから、ベトナムは、最低限の医療水準は確保(資料)「ベトナム国における保健医療の現状」国際医療研究センター よりみずほ情報総研作成 図表8 ベトナムの医療インフラの階層構造
されつつ、今後、医療インフラの高度化が求め られるフェーズにあるのではないかと考えられる。
また、ベトナムの医療は下記のような階層構 造になっている。一次医療施設では、プライマ リーケア(軽症治療、分娩、栄養教育など)を 提供している。保険診療として扱われるために は、下位の医療機関から順に上位医療機関に進 むという、地域ごとに管轄医療機関が定まるレ ファラルシステムに従う必要があるが、下位の 医療機関への信頼が低いため、保険外診療とし
てでも直接上位の医療機関を訪れる患者が増加 している状況である。
ベトナム保険制度の、日本の保険制度との比 較した際の違いは、下記の通りである。
(3)ベトナムの医療における課題
ベトナムの医療における大きな課題として は、上述の一次医療施設の信頼の低さによる、
上位医療インフラの逼迫状態が挙げられる。
ベトナム現地からの情報によれば、一次医療
(資料)各種資料よりみずほ情報総研作成
項目 日本 ベトナム
医療 保険
制度 基本思想 ・国民皆保険
・フリーアクセス
・皆保険を目指している(2020年に公的 医療保険加入率80%を目標とする)
・強制保険対象者と任意保険対象者が 混在している
骨格 ・所得再分配方式 ・所得再分配方式 患者のアクセス ・フリーアクセス ・レファラルシステム
拠出方式 ・社会保険方式 ・税方式・社会保険方式の混合(被保 険者カテゴリにより異なる)
( 部 一
・ て
べ す
・ 関 機 療 医 用
適 2012年時点で約2割)
財政維持手段 ・保険料引き上げが中心 ・現在は保険料の引き上げが中心。今 後は税負担を増やす。
保険料算定 ・所得額に応じた定率算定
・被用者・雇用者で負担を按分
・所得額もしくは最低賃金に応じた定 率算定
・被用者・雇用者で負担を按分
保険適用対象 ・国民全体
・(強制加入)被用者/社会保障受給者/
子供/学生等
・(任意加入)被用者の被扶養者 / 農業 従事者/自営業者/組合員
薬剤の
保険適用範囲 ・ほぼ全ての薬剤 ・基本的な薬剤が対象 請求業務 ・医療機関が実施 ・社会保障機関が実施
支払方式 ・出来高払い、包括払い(DPC)
・出来高払い(主に中央病院、省病院)
・人頭払い(主にCHC。県病院に適 用される可能性も)
保険単位 ・世帯単位/個人単位 ・世帯単位
高額医療費 ・高額療養費制度により、本人 負担額が制限されている
・保険支払に上限。最低月額給与の40 か月分を超えた分は自己負担となる 運用
実態 制度の実効性 ・あり ・強制加入対象者の未加入など、実態 とは乖離もみられる
標準化情報 ・審査制度及び制度の周知によ
り標準化されている ・制度周知や審査制度等により標準化
医療情報システム の活用
・病院情報システム(電子カル テシステム、医事会計システム など)
・保険者業務に携わるシステム、
保険者業務に関するシステム
・審査支払に関するシステム
・地域医療連携システム など
・医療情報システムは未整備
※外資系病院等での活用、日本の ODA活用(実証実験段階)など
図表9 ベトナムと日本の保険制度比較
施設は閉まっていることも多く、医療機関の入 り口に、その一次医療施設に配属されている医 師が経営している個人クリニックへ患者の斡旋 を行う看板が掲げられているようなケースもあ るという。
ベトナムにおける一次医療施設がうまく機能 していない理由としては、上位の医療機関の医 療費請求の仕組みが出来高払いとなっているの に対し、一次医療施設の医療費請求システムが 地域の人口によって医療費が割り当てられる
「人頭割り」となっているため、“サービスは提 供すればするほど損になる”という構造になっ ていることが起因しているのではないかと考え る。一次医療施設の提供する医療サービスの水 準を向上させるためには、一次医療施設にも、
「出来高払い」の仕組みを導入する必要があり、
その下地として、医療現場において診療情報を 記録し、適切に把握できる仕組みを導入する必 要があるであろう(「人頭割り」では、診療行 為に基づく請求の要請がないため、診療がまと もに行われず、当然診療情報もまともに記録さ れていない)。
また、ベトナムで、
2013
年に発令された首相決定において、(1)公的保険率を2015年まで にベトナム国民の70%、2020年までに80%以 上とすること、という目標が掲げられているが、
上述のように、保険診療として扱われるために は、下位の医療機関から順に上位医療機関に進 むというレファラルシステムに従う必要がある ため、実際には保険を使わずに医療サービスを 受ける国民も多く、一次医療施設のレベルの低 さが保険加入率向上の妨げにもなっている。
(1)ベトナム医療の改善策としてのパッケージ の評価
上記のような課題をふまえ、ベトナム有識者 に対し、現状として、上位医療機関に患者が殺 到し慢性的な逼迫状態が続いていることから、
病床が不足しているという状況に対し、新たに 上位医療機関の増設をするという対症療法的な 打ち手になっているという問題点を指摘した。
その方法では、人材育成スピードはハードの建 設スピードに必ずしも対応しない上、政府の医 療費負担も上がってしまう。そこで、医療イン フラの整備のあり方の一例として、下記のアイ 6. ベトナムにおける日本式医療の展開
~ベトナム有識者の反応~
(資料)みずほ情報総研作成 図表10 提案内容
的には、問診段階の患者情報を把握できれば、
医療機関を訪れる患者の個人データやその症状 等の統計データを正確に収集することができる と考える。その後、段階的に検査データや処方 等に関する情報項目を増やしていくことで、診 療行為における全プロセスの
ICT化及び医療
情報の収集・利活用が可能になると考える。これらの取組みを通じて、将来的には、医療 の
ICT化を通じた世界的な Universal Health Coverage
の実現と新たな医療産業モデルの創 出・展開を目指すことができれば幸いである。ディアを提示した。
具体的には、一次医療施設において適切な診 療行為が行われ、軽症患者のスクリーニングが 行われる仕組みを提供する必要があると考え た。そこで、一次医療施設の診療に対するイン センティブ付けは別途政策的に行うとして、医 師の診療レベルに関しては、プライマリケアの 診療支援を行う次世代診療支援システムパッ ケージを導入することで、患者の信頼性を向上 することができるのではないかと考えた。これ により、上位医療機関は本来の二次医療・三次 医療を必要としている患者の診療に集中するこ とができ、上位医療機関のハードへの過剰投資 をせずとも、適切な医療インフラ整備が行える 可能性がある。
一次医療施設に次世代診療支援システムパッ ケージを導入することは、患者スクリーニング だけでなく、医療現場における診療情報を正確 に捕捉する仕組みを提供することにも寄与する と考える。
具体的には、次世代診療支援システムパッ ケージから得られる標準化された診療情報を通 じて、医療現場の診療行為及び実績をシステム 的に把握することができるようになれば、請求 業務が飛躍的に簡便になるため、国全体の仕組 みとして出来高払い制を導入し、結果的に国民 の保険加入率向上にもつなげてていくことがで きるのではないだろうか。
そこで、我々は次世代診療支援システムパッ ケージの現場導入にあたり、2015年度は、デ モシステムのユーザビリティ評価を行うことと した。特に、問診、画像診断、臨床検査、治療 という診療行為の一連のプロセスのうち、患者 との最初の接点となる「問診」の部分における システム導入が重要になると考えている。具体