それでは、 特別講演に入らせていただきますが、
今回の特別講演をお願いいたしました郷原信郎先生 の御紹介を簡単に申し上げさせていただきたいと思 います。 郷原先生は島根県松江市の御出身で、 松江 南高校を卒業されてから東京大学の理学部に進まれ たということでございます。 その後は、 いろいろお 考えがあって司法の領域に変わられて検事に任官さ れ、 東京、 広島、 あるいは有名な長崎地検などで御 活躍をされております。 その後、 桐蔭横浜大学法科 大学院、 そして現在は名城大学の方で教鞭をとって おられますが、 現在、 日本の総務省の顧問もされて いる方でございます。
また、 郷原先生は、 テレビなどでも時々お見かけ いたしますし、 たくさんの著書を書いておられまし て、 プログラムの中に幾つかの著書が書いてありま すが、 いろんな本屋さんに売っております。 「思考 停止社会」 とか 「コンプライアンス」 をキーワード になされておりまして、 その中で今回 「社会が医療 に求めるもの」 という本を先生御自身の御厚意で皆
さんに配らせていただきましたので、 帰りの飛行機 の中でも読んでいただければというふうに思います。
それでは、 今回の郷原先生の御講演のテーマは、
「社会が医療に求めるもの 〜 チームの力 が医療 を救う〜」 というタイトルでお願いしております。
それでは、 郷原先生、 よろしくお願いいたします。
を考えるということです。 そういう観点から我々、
医療の世界におけるコンプライアンスの問題をコン プライアンス研究センターでもいろいろ対象にして きました。 お手元にお配りしておりますこの本は、
昨年の春、 我々の機関誌で医療の問題を取り上げた ときにつくった本です。 今日もこの本に書いている ことを中心に、 コンプライアンスを基本的にどう考 えるのか、 そしてそういうコンプライアンスの考え 方を医療の世界にどう適用、 応用していくのか、 そ れから最近医療の世界で起きている具体的な問題を どう考えていくのかというような点を中心にお話を していきたいと思います。
まず、 コンプライアンスをある意味で生業にして いる私の方からこういうことを申し上げるのもはば かられるのですが、 最近、 この世の中、 決して良い 方向に向かっていない、 どうもおかしいと感じられ ている方が多いのではないかと思います。 私は、 そ ういう今の日本のこの世の中をおかしくしている最 大の原因は、 コンプライアンスだと思っています。
コンプライアンスを誤ってとらえて、 誤ったコンプ ライアンスを押しつけていく、 そういう今の日本の 社会が、 私はある意味では病んでいるというふうに 思っています。
その根本にあるのが、 この言葉です。 「コンプラ イアンス=法令遵守」。 この2つがイコールだとい う考え方、 これがそもそも誤っているのだというこ とを私はずっと以前から言い続けてきました。
このように言うと、 そんなことは言われなくても わかっている、 コンプライアンスは法令遵守とイコー ルではないということを言われる人が多いのですが、
多くの人が言っているこの2つがイコールではない ということの意味は、 このイコールが、 イコールで はなくて不等号だ、 大なりだという意味です。 コン プライアンスは法令遵守よりも大きい、 法令だけを 遵守しているのでは足りないのだと、 法令以外のも のも、 規則も規範も基準も倫理も、 あらゆるものを 遵守しないといけないのに、 それを法令だけ遵守し ていれば良いというようなしみったれたことを考え ているからだめなのだと言われる場合がほとんどで す。
私が言いたいのはそういうことではなくて、 むし ろこっちに問題がある。 「遵守」 という言葉の方に 問題があるということです。 この言葉、 大体どうい う意味で受け取られるかというと、 いいから守れ、
つべこべ言わずに守れ、 こういう意味です。 この言 葉が出てくると、 なぜそれを守らなくてはいけない のですかと質問をする動きが封じられます。 なぜ守 らなくてはいけないのかを考えることも、 それをめ ぐって議論をすることもやめてしまいます。 そうい う作用を持ったこの 「遵守」 という言葉の方にこそ、
思考停止という大きな弊害が生じているということ です。
もちろん法令、 規則、 ルール、 決めた以上は守ら ないといけない、 当たり前のことです。 しかし、 ルー ルを守らないといけない、 守ることによるメリット と、 その一方で、 ルールを守ることが自己目的化す ることによるデメリットの関係が問題です。 そこで 問題になるのが社会の変化の激しさです。 変化に乏 しい安定した世の中であれば、 一旦ある場面で決め たことを、 そのまま守っていれば済むという考え方 でも、 そんなに大きな不都合はありません。 しかし、
変化が激しくなればなるほど、 単純に一度決めたも のを守っているということだけでは、 さまざまな問 題に対して適切な対応ができません。
そして、 そういう単純に守れ、 遵守しろというよ 䉮䊮䊒䊤䉟䉝䊮䉴
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◆特別講演2
うな考え方の弊害が、 実は法令とか規則とかという もの以外のところ、 何でもかんでも守ればいいとい う遵守の対象の拡大によって、 一層弊害が大きくなっ ているのではないかというのが、 最近、 私が痛切に 感じていることです。
それが典型的に表れるのがこういう言葉です。
「偽装」、 「隠蔽」、 「改ざん」、 「捏造」。 こういった言 葉が出てくると、 そういうことをやった組織、 官庁 も企業も病院も、 すべて徹底的にたたかれるという のが最近の風潮です。 しかし、 よく考えてみると、
これらの言葉は必ずしも法令違反を意味していませ ん。 しかし、 無条件にこういうことをやったとされ ると、 マスコミがそういうことをやったと決めつけ ると、 全く言いわけができない、 弁解ができない、
頭を下げているしかないという状態になってしまう わけです。
私が今年の2月に出した 「思考停止社会」 という 本の中で、 その状況を水戸黄門の印籠にひれ伏す人々 というのに例えてみました。 印籠はなぜそういう、
出てくるとひれ伏さないといけない、 ははあと頭を 下げないといけないということになるのかと。 そこ のところは突き詰めて考えたらいけないのです。 と にかく印籠が出てきた以上は頭を下げないといけな いというのが、 まさに遵守の世界、 遵守の効果その ものです。
私は、 この本の中で、 世の中の風潮がいかに大き な問題を生じさせているかということを、 いろんな 具体的な例を挙げて説明してきました。 もし何かマ スコミの連中と議論することがあったら、 この郷原 の 「思考停止社会」 を読んだかということを聞いて いただきたいと思います。 逆印籠として使っていた だきたいというのが私の願いです。
こういった世の中の状況の中で、 人が仕事をする ときに、 どこに注意を向けるのかということについ ても大きな 「遵守」 という言葉による弊害が生じて います。
この黄色い三角形は、 人が仕事をするときに注意 をしなければいけないことの全体像を示しています。
上の方が基本的なこと、 根本的なこと、 下の方が具 体的なこと、 細かいことです。 正常な状態だと、 人 の注意は、 この上の方、 基本的なところ、 根本的な ところに向けられているはずです。 その注意が具体 的なところ、 細かいところ、 下の方にまで広がって いるというのが正常な状態です。
ところが、 最近のようにコンプライアンスだ法令 遵守だということばかりうるさく言われると、 どう してもその注意が下の方に下の方に向いていってし まいます。 何々法令、 何々規則を守ったか守らなかっ たか、 そちらの方にばかり関心が向いてしまう、 注 意が向いてしまう。 そして、 人が注意できる範囲と いうのは幾ら頑張ったところでそう変わりませんか ら、 その結果、 一番肝心な、 この根本的なところ、
基本的なところから注意が抜け落ちてしまいます。
こういう状態で何か問題が起きる。 そうすると、
どうしてもその問題を基本的、 根本的なところにさ かのぼって考えることができません。 その場しのぎ、
小手先で対応してしまう。 それが結局、 問題が何一 つ解決していないのに解決したことにしてしまって いるということに繋がっています。 改めて今自分達 がやっていることはそもそも何を目指しているのか、
何をしようとしていたのか、 それが今、 目の前で起 きたこととの関係でどうなっていくのかということ を根本的に考え直し、 そういったところに基づいて それ以降の対応を考えていかなければ、 発生した問 題に対する適切な対応はできません。
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(スライド2)