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史料を媒介とした出来事の解釈学習:アマースト・プロジェクト単元

第3章 出来事の解釈に基づく歴史学習の論理

第1節 史料を媒介とした出来事の解釈学習:アマースト・プロジェクト単元

「レキシントン・グリーンで何が起こったのか」の場合

本節では、史料を媒介にして「出来事」を解釈する歴史学習として、アマースト・プロ ジェクトの単元「レキシントン・グリーンで何が起こったのか」を分析する。この単元は、

アメリカ独立戦争の発端となった出来事(レキシントンの共有緑地広場で起こった英国軍 とアメリカ殖民地民兵の間の戦闘)を扱ったものである。そしてレキシントンでの戦闘と いう「出来事」が、独立戦争とその拡大にどのような影響を及ぼしたのか、そして英国か らの独立という社会の大きな動き、つまり「時代像」をどのように作り出していったのか について、史料の解釈を媒介として理解させる単元である。

1.歴史学習の目標-歴史の探求方法と方法と歴史理解の特性の理解

アマースト・プロジェクトで開発された歴史カリキュラムの目標については第2章第1 節の単元「リンカーンと奴隷解放」の分析で示した。それらを再確認すると、中心目標は (a)歴史研究の方法(能力・技能)の習得、(b)歴史研究の方法の理解、(c)歴史研究や歴史 の意義の理解の 3つであった(Brown, 1966; Committee on the Study of History, 1969;

Brown, 1970; Brown, 1996)。

目標の(a)は歴史の探求技能を獲得させることであり、探求のために問いを立て批判する 能力や概念的を実際に応用する能力を発展させることである。(b)は、歴史の知識(概念)

を含む歴史学の構造の理解や、事実の特性や一般化の限界、仮説、証拠、証明の間の関係 といった歴史学の研究方法に関する知識を習得させること、そして(c)は事実とは何か、事 実はどの様にして事実となるのか、記憶としての事実よりも実用としての事実の方がなぜ 意義があるのか、歴史とは何かといった問いを追求することで事実の社会的意味や歴史の 意義について理解させることである。

2.授業構成原理

(1) アマースト・プロジェクトの全体計画とその論理

本節で取り上げる単元「レキシントン・グリーンで何が起こったのか」は、1960年代の 米国で開発された新社会科のひとつであったアマースト・プロジェクトで開発されたもの である。このアマースト・プロジェクトの全体計画とその論理については第2章で既に説 明したが、改めてその要点を示すと、このプロジェクトは①社会における人間関係(原理 1)、②歴史的に構築されてきた現代的課題(原理2)、③歴史のわかり方の特性(原理3)

の 3つの原理をそなえたものであった。単元「レキシントン・グリーンで何が起こった の

か」はアメリカ独立革命を題材としたものであり、独立戦争の正当性を追求することによ って、植民地アメリカと英国の関係(社会における人間関係:原理1)を理解する単元で ある。またこの単元は、史料を手がかりとしてレキシントン・グリーンの戦闘を解釈する ことにより、植民地アメリカと英国の立場によって事実の理解の仕方が異なることに気づ かせて歴史の理解の仕方をメタ認知する(歴史のわかり方の特性: 原理3)ものになって いる。

(2)単元構成とその論理

・ 1)単元計画

(a)目標

単元「レキシントン・グリーンで何が起こったのか」の目標は、第一に学習者に歴史学 の方法の技能を習得させること、第二に歴史学の方法の特質を理解させること、第三に人々 の歴史理解の特性を理解させることである(Bennet, 1967; Brown, 1970)。

表4 教師用指導書に示された単元の構成

セクション サブセクション 配当時間

導入

1965 年 の ロ サ ン ゼ ル ス暴動の真実

1

セクション1

レキシントン事件

A 場面設定

B 一発の銃声が響く:目撃者の説明 C 一発の銃声が響く:同時代人からの証拠

2 1 1 セクション2

歴史と銃撃

A 歴史家が研究するレキシントン B 教科書は歴史なのだろうか

1~2 1 セクション3

す べ て の 人 が 歴 史 家 なのではなかろうか

A 事実とは何か B 科学・芸術・現実 C 歴史家・創造性・現実性

1 1~2

1

(Peter S. Bennet t(1970). What happened on Lexington Green? An Inquiry into the Nature and Methods of History. Teacher’s Manual. Menlo Park, CA: Addison

Wesley をもとに筆者作成。)

(b)活動(時間)の構成

教師用指導書に示されている本単元の活動の構成は前頁の表4のようである。

(c)学年や指導の留意点

この単元は中学校と高等学校用の歴史学習単元として開発されたものである。教師用指 導書によると、この単元はすべてのセクションやサブセクションを順番に取り上げる必要 はなく、生徒の学年レベルや能力レベル(特に読みの能力レベル)に適合するように複数 を選んで利用・指導することが推奨されている。また、表4には書かれていないが、各セ クションでは手紙・日記・証言記録・雑誌の記事・歴史書の抜粋など(以上、史料)や教 科書の抜粋・統計表・地図など(以上、資料)のさまざまな史資料が教材として提示され ている3 )。これらの教材もすべてを使う必要はなく、選択的に使用することが奨 励されて いる。これは、教材として示されている文書はかなりの数に上り 、時間的にも生徒の処理 能力から見てもこれらのすべてを利用することは実際的ではないからであると考えられる。

次にセクションごとに見ていく。セクション1は、出来事が起こったのと同じ時代に焦 点を当てた歴史理解の特性を理解させるものであり、セクション1のみ単独で学習しても

「過去」についての歴史理解の特性がわかるようになっている。また、より高い能力レベ ルにあり興味・関心も高い生徒には、セクション2の学習が推奨される。なぜなら、この セクションは出来事が起こった時代とは異なる時代の執筆者が取り組んでいる歴史理解の 特性を考えさせるものだからである。セクション3は問題の難易度が高いため、意欲的な 歴史教師によって利用されるものである。

この単元は独立革命の時代についての研究というよりも、歴史の本質と方法についての 学習に利用するのがもっとも有意義であると教師用指導書には述べられている。これは、

本単元がアマースト・プロジェクトのカリキュラムの原理のうち、歴史のわかり方の原理

に位置づけられることに由来していると筆者は考える。また 、この単元の指導は約1~2 週間で展開するものである。もっとも、教師がどれぐらいの数のセクションあるいはサブ セクションを利用するかによって学習期間は左右されることになる。

(d)単元の概要

本単元は表4 に示したような 4つの段階(導入とセクション1~4)から成っている。

はじめに学習への導入としてとりあげられるのは、現代の出来事としてのロサンゼルス 暴動(1965年)である4 )。暴動の原因については、暴動の参加者や目撃者の証言からは食 い違う解釈が出されており、現代の出来事でさえも実際の事実の確定は容易でないことを 学習者は知る。

続いてセクション1では、現代の出来事よりも事実の確定がさらに困難であると思われ る過去の出来事について学習する。取り上げられるのは、アメリカ独立革命の端緒となっ た戦いとして有名なレキシントン(ボストン近郊)の戦闘である。この戦闘は、現在もな お解釈が定まっていない米国史上の著名な出来事であり、事実が実際はどうであったのか をさまざまな人物の証言をもとに検討する。そして、事件の直接経験者(目撃者)や間接 経験者(直接経験者から伝え聞いた当時の人々)の事実理解の特性が明らかにされる。

セクション2ではレキシントンの戦闘について、レキシントンの戦闘よりも後の時代の歴 史家や教科書執筆者はどの様に理解していたかが2段階で検討される。第 1段階では歴史 家の出来事理解の特性(サブセクション A)が明らかにされ、次の段階では教科書執筆者 の出来事理解の特性(サブセクション B)が明らかにされる。

セクション3ではレキシントンの戦闘の事例から離れ、歴史の事実理解の一般的特性が 3つの段階で検討される。3段階とは、以下の①~③である。

・①歴史家の歴史理解の一般的特性(サブセクション A)

→ ②科学・芸術の専門家による事実理解の一般的特性(サブセクションB)

→ ③専門家と一般の人々に共通する事実理解の特性(サブセクションC)

単元の構成は以上のようになっている。

(e)パートの構成

前項の(d)では、導入からセクション3までの単元の概要を教師用指導書にそって述 べた。この教師用指導書で示されている単元構成(導入、セクション1~3)は、導入部 とセクション1~3とを切り離したかたちになっているが、実際の学習者の理解は、導入 部分と他のセクションで切り離されてはいない。連続したひと続きの認識過程がある。そ こで、筆者は教師用指導書とは異なり、全体をパート1、2、3、4として再構成し、学 習者の認識過程がより明らかになるようにした。これが後にあげる 表5であり、縦軸がパ ート1からパート4までの 4つのパートから成っている。

パート1はこの単元の中心的な問い「歴史とは何か」・「歴史家はどのように過去を理解 するのか」・「歴史を理解することはどのような意義があるのか」を問うものである 。そし てこれらの問いの答えを導き出すために出される例が、現代の出来事であるロサン ゼルス 暴動である。生徒に身近な現代の出来事を考えさせることで、3 つの問いへの関心を呼び 起こすように構成されている。

続くパート2~4はパート1で提起された3つの問いを追求する過程である。パート2 とパート3では、過去の出来事であるレキシントンの戦闘について歴史家と歴史教科書執 筆者がどのように理解していたかを史資料から読み取り、比較することで上記 3つの問い についての答えを考える。

最後のパート4は単元の中心的な問いの答えをまとめる段階であり、過去の出来事であ るレキシントンの戦闘については検討されない。このパートでは歴史理解の一般的特性を