• 検索結果がありません。

史料と科学の方法を媒介とした出来事の解釈学習:ホルト・データ バンク・システム 単元「誰がアメリカを発見したのか」の場合 バンク・システム 単元「誰がアメリカを発見したのか」の場合

第3章 出来事の解釈に基づく歴史学習の論理

第2節 史料と科学の方法を媒介とした出来事の解釈学習:ホルト・データ バンク・システム 単元「誰がアメリカを発見したのか」の場合 バンク・システム 単元「誰がアメリカを発見したのか」の場合

本節では、史料と社会科学の方法を媒介として出来事を解釈する歴史学習として、ホル ト・データバンク・システム(Holt Databank System)の単元「誰がアメリカを発見し たのか」を分析する。第1節は「史料を媒介とした」出来事の解釈学習であったが、本節 は「史料と社会科学の方法を媒介とした」学習である。社会科学の方法とは、仮説を立て てこれを史料などの証拠を用いて検証していく中で社会 事象を規定している原理や傾向性 を明らかにしていく方法である。つまり本節の出来事学習は、史料を用いてアメリカの発 見者は誰であったかについての仮説を立ててそれを検証していくものであり、仮説・検証 を行わない第1節の出来事学習とは異なっている。

1.歴史学習の目標

ホルト・データバンク・システム(Holt Databank System)は1960年代から1970年

代にかけてにアメリカ合衆国で開発された「新社会科」の代表的なカリキュラムである1 )。 この社会科カリキュラムは次のような考え方に立脚している。①学習者 の概念の習得は、

成長と共に自然になされるわけではないため、系統的に経験を組織して概念を習得させる 必要がある、②人や社会を理解する際には事実についての知識よりも概念の方が役立つ。

なぜなら事実は時とともにその重要性・意義・有用性が変化するが、概念は時が変化して も基本的な指標として役立つからである。

ホルト・データバンク・システムの目標は2つある。①社会科学(政治学・経済学・社 会学・歴史学・地理学など)についての基本概念の習得と、②社会科学の方法の習得であ る。社会科学の方法の習得とは、学習者があたかも社会科学者の ように研究をしていくこ と、つまり教師の指導の下で社会科学の方法を用いて学習問題を科学的に解決させ、法則 や概念を一般化して獲得することである。このホルト・データバンク・システムのカリキ ュラムは、上記の 2つの目標が幼稚園から小学校段階にわたって達成されるように組織さ れている。

歴史学習は、カリキュラムの全体計画の中では第5学年で行われるようになっており、

歴史学習で中心となるのは歴史学と政治学の研究である。歴史学は分析的社会科学として、

政治学は総合的社会科学として選択されている(池野、2000b:p.218)。学習の展開とし ては、教師が提供する写真やスライド、サウンド・ストリップ、地図などの多様な教材を もとにして、提示される社会事象がなぜそうなっているのかという疑問を問題として見つ けさせ、教師の指導の下で社会科学の方法を用いてそれらの問題を科学的に解決させ、法 則や概念を一般化して獲得するようになっている。

2.授業構成原理

(1)カリキュラムの全体計画とその論理-歴史による政治学研究

表1 ホルト・データバンク・システムの全体計画

学年 テーマ 学習の中心となる社会科学 分析的社会科学 総合的社会科学 幼稚園 私自身

小1 人々についての探求 小2 共同体についての探求

小3 都市の探求 地理学 経済学 小4 文化の探求 人類学 社会学 小5 アメリカ史の探求 歴史学 政治学 小6 技術の探求 経済学 人類学

表2 各学年で習得される概念

学年 テーマ 学問領域 概念

幼稚園 私自身 自分、家族、学校、集団、ルール、時間、言 語、季節、変化

小1 人 々 に つ い て の探求

人々、地球、役割、社会的相互作用、仕事、

時間、資源、言語、季節、変化 小2 共 同 体 に つ い

ての探求

人々、コミュニティ、社会的相互作用、コミ ュニケーション、特殊化、相互依存、人的資 源と資本財、道具、土地利用、変化

小3 都市の探求

地理学 都市化、地図、都市の立地と一、中央商業地 区、都市近郊、後背地、メガロポリス、人口 経済学 生産者と消費者、商品とサービス、組み立て

ラインによる生産、校外、資源、都市計画

小4 文化の探求

人類学 文化、文化的多様性、文化的接触、文化的変 化

社会学 伝統、役割、社会、集団、マイノリティ、社 会的移動性

小5 ア メ リ カ 史 の 探求

歴史学 史的証拠、衝突、工業化、独立、移民、移住、

都市化、国民 政治学

価値観、意思決定、政府、ルールと法、権威 と権力、革命、政府の支部、政府のレベル、

代議制、衝突

小6 技術の探求 経済学

道具とテクノロジー、現代的な人々と現代的 でない人々、市場、生産、価格、供給と需要、

資源、エコロジー

人類学 物質文化、文化的変容、貧困、相互依存

表3 『アメリカ史』の全体計画 単 元 テ ー マ 単元1

単元2 単元3 単元4 単元5 単元6 単元7 単元8 単元9 単元 10 単元 11 単元 12

誰がアメリカを発見したか アメリカインディアン

コロンブス以前のヨーロッパ人 西アフリカ人

新しい人々の到来 新しい国

西漸運動

リンカーンは奴隷解放宣言を出すべきだったのか 産業革命

都市の人々

民主主義を機能させる 問題と決定

ホルト・データバンク・システムの全体計画は表1のようである。幼稚園から小学校第 2学年までは社会集団がテーマとなり、その社会集団の規模にそって学習するようになっ ている。この学習の際に用いられる社会科学の方法は、基礎的な社会科学の方法と基本的 な概念(表2の「概念」の欄を参照)である。また小学校第3学年から第6学年までは、

社会科学の学問領域(地理学や文化人類学など)に関するものがテーマとされ、個別の社 会科学(分析的社会科学と総合的社会科学)を組み合わせた研究を行って学習するように なっている。

また、幼稚園から小学校第6学年までに習得される概念は次の表2に示すようなものに なっている。歴史学習は第5学年で行われることになっており、その全体計画を示すと 表 3のようになる。

わが国におけるホルト・データバンク・システムの研究では、『アメリカ史』の全体計画 を大きく 2 つに分ける試みがなされてきた。第1単元~第5単元までと第6単元~第 12 単元までである(藤井、1975,1976;山田、1999,2001)。第 1単元~第5単元の位置づ けについて、藤井は歴史学の探求方法習得する単元として、また山田は多民族・多文化研

究を行う単元として位置づけている。しかし筆者は、「探求方法」や「民族・文化」など、

目標として焦点を当てる方法技能や概念を変えながらも 、基本的には社会科学の方法につ いてはすべての単元で、また社会科学の概念に関しては表2に示されているような学問領 域を割り振って育成しようとしているといえる。特に本節で取り上げた第5単元「アメリ カ史の探求」の学習では、「アメリカの主権者は誰か」という「主権者概念」に焦点を当て ており、政治学の概念を中心に学習する単元となっている。

(2)単元構成とその論理-アメリカ民主主義実現過程としての合衆国史

・ 1)単元の目標

単元「誰がアメリカを発見したのか」は、伝説や学説を含め、アメリカに定住してきた とされる 5つのグループ(コロンブスとその後継者たち、インディアン、バイキング、中 国人、エジプト人)のアメリカ到来を調べ、誰がアメリカの主権者としての資格を持って いるかを検討する単元である。

本単元の中心的な目標は2つある。ひとつはアメリカのオリジナルな主権者が誰かを明 確にすること、もうひとつは、さまざまなタイプの史的証拠を処理する技能と手続き的知 識を習得し、歴史学の方法についての理解を深めることである。

ホルト・データバンク・システムの教師用指導書では、この2つの目標はさらに細かく 4 つに類型化されている。①知識目標、②技能目標、③探求プロセス目標、④情意目標で ある。これらの 4つの目標についてのより詳細な内容を示すと次頁のようになっている。

①知識目標 ( 1)事実

1.コロンブスが1492年 にアメリカを探検したことを示す十分な証拠が存在する。

2.コロンブスがアメリカに到達するよりもずっと以前に、以下のような集団がアメリカに 到達したという主張を支持する証拠が存在する。

3.歴史研究に役立つさまざまな種類の史的証拠(航海日誌、目撃者の証言、地 図、冒険談 あるいは口頭伝承、考古学的発見)が存在する。

( 2)観念 : 史的 証拠 ②技能目標

1.読解に関して:教科書やデータバンクにある史料の中で、アメリカを発見したという5 つのグループの主張を読み、内容を評価するためにデータを収集することができる。

2.地図の作成に関して:学習者は、地図記号の読み取りや作成、様々な地図からの情報を 解釈することによって、あるいは地図からの情報と他の情報(他の絵や言葉による表現 で 提供されている情報)とを比較することによって、地図作成の基本的な技能を発展させる。

3.学習者はバイキングの冒険談(サガ)や賛歌(ヒ ム)のレコード を聴くことで、バイキ ングがアメリカに到達したという主張に関するデータを集める。

③探求プロセス目標 ( 1)デー タ収集に 関し て

1.観察する:史的証拠についてのさまざまな種類の視覚的資料を提供されることで、学習 者はコロンブスなど5つのグループによるアメリカ発見の主張に関するデータを集め る。

( 2)デー タ組織に 関して

1.分類する:学習者はアメリカを発見したと言われる集団についての主張に関する史的証 拠を提供され、それらを分類する。この場合の史的証拠は、それぞれの集団について研 究者の主張を支えるのに役立つものである。

2.比較する:学習者はアメリカを発見したとする5つのグループの主張に関する様々な史 的証拠を提供され、それらを比較することでそれぞれの主張の妥当性を判断する。

( 3)デー タの活用 に関して

1.推論する:学習者はさまざまなタイプの史的証拠を提供されて、5つのグループの中の 1つあるいはそれ以上のグループについて研究した、アメリカでの探検および定住の可 能性や蓋然性について推論するようになる。

2.仮説をつくる:学習者は「誰がアメリカを発見したのか」という問いに試験的に 答える 仮説を作ってこれを検証する。

3.一般化を行う:学習者は、アメリカを発見したという5つのグループの主張を支持する 証拠を提供されて、誰がアメリカを発見したかについて一般化された答えを作り、主張す る。

④情意目標

1.学習者は、アメリカを発見したと都主張している5つのグループに対する自分の態度を 明確にする。

2.学習者は、いくつかの異なるタイプの史的証拠を上手に処理できるようになるに従って 積極的な自己概念を発展するようになる。

3.学習者は、十分でない証拠をもとにした一般化に基づく仮説を吟味したいという自分の

意思を示すようになる。

(A.O.Kownslar,W.R.Fielder,K.G.Hogle,1976, p.1-2)