A. 国際的な制度調和を推進する必要性
○「仮想的な世界特許庁」を支えるひとつの要素として、各国間の特許実体法の内 容面での調和が求められる。これにより、グローバルな知財保護を行う際に、特許取 得の予見性が高まり、手続コストが低減される。
○制度調和は、ワークシェアリングの基盤となるため、急増するグローバル出願に対 応する観点からも重要である。
B. 制度調和の現状
○特許制度の国際的な実体調和は、1985年にWIPOで議論が開始されて以降、20 年以上にわたり議論されているが、1991年の外交会議では、米国が先願主義への 移行を拒否したため、成果が得られなかった。
○また、2004年にWIPOにおいて、日米欧三極が議論項目を主要な4項目(新規性、
進歩性、先行技術の定義(先願主義等)、グレースピリオド)に限定し議論を促進し たいと提案したことに対して、途上国から遺伝資源等が議論されなくなるとの反対が あり、その後議論が進んでいない。
○2005年以降、日米欧を中心とした先進国会合において上述の4項目を検討してい るが、米国が発明者の利益を重視する一方、欧州が第三者の法的安定性を重視す る立場から、グレースピリオドや18か月公開制度を巡って対立が続いている。
C. 制度調和の推進に向けて
○日本は米欧間の中庸な制度を有しているという特徴を最大限活用し、米国の先願 主義移行の動きを後押しするとともに、欧州に柔軟性を示すよう働きかけを継続し、
制度調和の議論をリードしていくことが求められる。
○先進国において議論されている実体規定(特許性に関する規定など)の調和に加 え、途上国の知財制度の環境整備など、グローバルな制度調和に向けたWIPOに よる貢献を促すことも重要である。
○また、制度調和を進めるにあたって、各国特許庁は産業界の意見・ニーズに耳を 傾け、意見の統一が図られるよう、調和を進めていくことが必要である。
米国と欧州の制度面の歩み寄りに向けて日本が働きかける 国際的な制度調和の推進
D. 日本国内法の対応
○日本は米欧間の中庸な制度を有しているが、先進国間での特許制度調和の合意 を実現するためには、交渉の進展に応じて、我が国も所要の法改正を行う必要が出 てくる。法改正の必要となる可能性のある項目として、例えば、①グレースピリオド、
②PCT秘密先願、③第三者の権利(先使用権)があるが、いずれにせよ、制度調和 を進めるため、柔軟な対応が求められよう。
米国と欧州の制度面の歩み寄りに向けて日本が働きかける 国際的な制度調和の推進
「仮想的な世界特許庁」を支えるひとつの要素として、各国間の特許実体法の内容面での調 和が求められる。しかし、日米欧の間でも実体的な調和は実現されておらず、ひとつの発明に ついてグローバルな知財としての保護を求める場合の効率性を阻害している。
日本の特許法は、米国と欧州の制度のちょうど中間に位置している。そこで、この利点を活 かし、日本が積極的に世界の制度調和の議論をリードすることで、米国と欧州の制度面での 歩み寄りを促すことを目指す。
<概要>
中庸な制度を有する日本の特長を生かし、日本が制度調和の議論をリードすることによる
国際的な制度調和の推進
<現在の構図>
(1) 先願主義への統一
日本から、欧州内の意見統一を促し、グ レースピリオド緩和について柔軟な姿勢を引 き出す。これにより、米国の「先願主義」への 移行を後押しする。
米国
いかなる公表であっても、12か月以 内であれば、特許出願が可能(特段 の申請は不要)
日本
学会・学術誌等での発表に限り、公 表から6か月以内であれば、特許出 願が可能(ただし申請が必要)
欧州
万国博覧会など限定的な発表に限 り、公表から6か月以内であれば、特 許出願が可能(ただし申請が必要)
②PCT秘密先願の導入(PCT出願であっても自国の言語で公開されていないものは、その技術の内容を知り得ない
(秘密)が、これに「先願」としての地位を与えて後願を拒絶することにするか)
米国・日本・欧州
自国の言語で公開されていない PCT出願は、審査において考慮しな い。したがって、後願でも特許になる。
(あるべき姿)
自国にとって秘密状態にあるPCT出 願であっても、秘密先願としての地位 を与え、後願を拒絶する。
③特許の権利者以外の第三者への先使用権
米国
原則、権利者が差止め可能。ただし、
ビジネス方法の特許に限り、独自に 発明した第三者に先使用権を認める。
日本
いかなる特許も、独自に発明して、
事業を実施している第三者には先使 用権を認める。
欧州
独自発明に限らず、単に公表され た発明を見聞きして事業を実施して いる第三者でも、先使用権を認める。
①グレースピリオドの程度(発明の公表から特許出願までに認められる猶予期間)
米国・・・特許法改正を審議中
「先発明主義」から「先願主義」への歴史的転換。
ただし、これは日欧のグレースピリオド緩和が条件。
欧州・・・意見が統一されていない グレースピリオド緩和については、ドイツ・
英国が消極的。
お互いに様子見の状態
(2) その他の論点についての検討
制度調和に向けて残された以下の3つの論点に ついて、日本はちょうど中庸に位置する。この利点 を活かし、日本が制度調和の議論をリードする(※)。
※ 交渉の進展に応じて速やかに特許法を改正するためにも、これらの論点に ついての国内法上の問題点について、あらかじめ検討を進めておく。
(1) 特許制度の調和を巡る議論の背景と現状
グローバル化が進む中で、一つの発明を効率的にグローバルな知財として保護できるようにするため、
特許取得の予見性を高め、手続コストを低減する観点から、制度調和が必要となる。また、急増するグロー バル出願と重複審査に対し、各特許庁間のワークシェアリングを進めていくことが喫緊の課題となる中、ワ ークシェアリングを推進するためのインフラとなる各国の実体的特許法の制度調和を早期に実現することが 重要な課題となる。制度調和の早期実現に向けては、米国が国内法改正において先願主義移行に柔軟 姿勢を見せているタイミングを捉え、議論を加速化していくことが必要と考えられる。
日本は米欧間の中庸な制度を有しているという特徴を最大限活用し、制度調和の議論をリードしていくこ とが求められる。
パリ条約における制度調和 〜 残された実体 面での制度調和 〜
知的財産に関する国際的な協定が存在する 前の 18 世紀においては、各国法の相違により 様々な国で権利を取得することは困難であった。
特に特許は、ある国での公開によって他の国で の新規性が阻害されないよう、ほぼ同時期に各 国に出願する必要があった。このような問題を回 避するため、1883 年に制定されたパリ条約では、
優先権や内国民待遇といった国際的な特許の 取得を可能とする仕組みが導入された。しかしな がら、国内法を拘束する実体規定は多く盛り込ま れなかったため、現在においても各国毎に異な る法律に基づいて出願、審査、権利付与すると いう枠組が基本的に維持されており、日米欧等 先進国間においても特許制度の実体面には大 きな相違が見られる。
欧米の特許制度の相違
米国は特許法を整備した初期から先発明主 義を採用し、現在では世界で唯一これを維持し ている。また、米国では先発明主義との関係で 広範なグレースピリオド規定を有している。一方、
欧州は 20 世紀中頃まで国毎に異なる制度を有 していたが、1977 年に発効した欧州特許条約に
整合するよう、各国の特許法が改正された。欧州 特許条約では、適法に付与された特許が締約国 で後に無効とならないよう厳格な新規性が採用さ れ、グレースピリオドも極めて限定的に規定され たことから、以前は一定程度のグレースピリオドを 認めていた(旧)西ドイツ等の国々もグレースピリ オドを極めて限定的とする法改正を行い、現在 に至っている。
特許制度調和を巡る最近の議論(WIPO/先進 国会合)
このように長年、国毎に異なる特許制度が維 持されてきたが、グローバル化が一層進展する 現代においては、企業等の国境を越えた活動を 支援するための国際的な制度設計が求められて いる。
特許制度の国際的な実体調和は、1985 年に WIPO で議論が開始されて以降、20 年以上にわ たり議論されている。しかしながら、1991 年の外 交会議では、米が先願主義への移行を拒否した ため、成果が得られなかった。また、2004 年に WIPO において、日米欧三極が議論項目を主要 な 4 項目(新規性、進歩性、先行技術の定義(先 願主義等)、グレースピリオド)に限定し議論を促 進したいと提案したことに対して、途上国から遺