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-「子の福祉」 から観た日本家族法の諸問題
奥田 昌道
日本學士院會員
はじめに
子の福祉 の観点から日本の家族法を観るとき、取り上げなければならない問題の一つ は、子の出生における父子関係
、
母子関係の定め方の問題であり、もう一つは、親権・監護 権の所在とそれにまつわる諸問題である。前者については、(1)生殖補助医療により出生した 子の 福祉 をどのようにして守るか、(2)嫡出子と非嫡出子に関して生ずる諸問題への対応 の在り方、を
取り上げる。後者については、(1)子に対する虐待と親権の剥奪ないし制限の制 度、
(1)別居中の夫婦間での子の奪い合い、(3)離婚後の子との面会交流をめぐる問題、
(4)子 の引渡しの強制方法、
(5)ハーグ条約 ( 国際的な子の奪取の民事面に関する条約 ) 及び国内 関連法、を
取り上げる。よる懐胎と出産の方法
、
すなわち、
夫婦(依頼者) の夫の精子を用いて代理母の卵子に受精させ、
代理 母が懐胎、
出産するタイプ、
④ホストマザー(host mother) の子宮を借りて(借り腹) 出産を図るタイ プ、
すなわち、
夫の精子と妻の卵子を体外受精させて、
その受精卵をホストマザーの子宮に移植し、
懐 胎、
出産する方法、
の4形態が基本的に考えられるが、
その他に、
⑤妻以外の女性の卵子と夫の精 子とを体外受精させて妻の子宮に移植し、
または、
⑥ホストマザーの子宮に移植して出産を図るタイプ、
などのバリエーションもありうる。
これらの諸形態につき
、
(a)「どのような諸条件の下で、
どこまでのことが法的に許されるか」という「行 為規制ルール」の問題と、
(b)行為規制ルールに即して適法に実施され出生した子の法律上の父・母 は誰か、
遺伝上の父又は母と子の関係をどのように扱うか、
などの「親子法制ルール」をどのように構築 するかの問題、
及び、
(c)行為規制ルールに反して実施された生殖補助医療により出生した子と父又は 母との関係を法的にどう扱うかの問題が生ずる。
この問題に関して
、
法律による規制はなされておらず、
行為規制ルールという観点からは、
学会によっ て公表されてきたガイドライン等が専門家集団における自主的な規制として機能してきた。
そして、
旧厚生 省の厚生科学審議会の専門委員会による 精子․卵子․胚の提供等による生殖補助医療のあり方に ついての報告書 (2000年12月)、
厚生労働省の生殖補助医療部会による「精子․卵子․胚の提供 等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書 (2003年4月) は、
行為規制ルールとして、
(a)AID を不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る、
(b)代理懐胎の禁止、
(c)精子、
卵 子、
胚の提供に関わる金銭の授受の禁止等を提案するとともに、
それに対応した親子関係の確定ルール を法律に規定することを提案している。
法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会による「精子․卵 子․胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中 間試案」(2003年7月) においては、
(a)女性が自己以外の女性の卵子 (その卵子に由来する胚を含む) を用いた生殖補助医療により子を懐胎し、
出産したときは、
その出産した女性を子の母とする、
(b)妻が夫 の同意を得て、
夫以外の男性の精子 (その精子に由来する胚を含む。
以下、
同じ) を用いた生殖補助 医療により子を懐胎したときは、
その夫を子の父とする、
(c)生殖補助医療のために第三者提供の精子が 用いられた場合の精子提供者による認知、
精子提供者に対する認知の訴えができないこと、
を提案している。
日本学術会議は2008年4月に 対外報告 代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題―社会的合 意に向けて を公表し
、
(a)代理懐胎の禁止、
(b)代理懐胎者を母とすること、
等を提言している。
父子関係․母子関係の定め方についての現在の法状況は
、
次のようである。
父子関係については、
民法772条は次のような規定を置いている。
(1)妻が婚姻中に懐胎した子は
、
夫の子と推定する(1項)。
(2)婚姻成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300以内に生まれ た子は
、
婚姻中に懐胎したものと推定する(2項)。
この規定との関係では
、
①のAIHについては、
夫の生存中に実施された場合には、
特段の問題は生 じない。
しかし
、
夫の死後、
その凍結精子を利用して受精がなされた場合、
夫と出生子との間に父子関係を認 めることができるかにつき、
最高裁2006年9月4日判決 (最高裁判所民事判例集 (以下、
民集 と略 す) 60巻7号2563頁) は、
現行法制は死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは 明らかであると述べ、
親権、
扶養、
相続、
代襲相続のいずれについても問題となりえないものであるか ら、
両者の間の法律上の親子関係の形成に関する問題は、
本来的には、
死亡した者の保存精子を用 いる人工生殖に関する生命倫理、
生まれてくる子の福祉、
親子関係や親族関係を形成されることになる 関係者の意識、
更にはこれらに関する社会一般の考え方等多角的観点からの検討を行った上、
親子関 係を認めるか否か、
認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわ なければならず、
そのような立法がない以上、
死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形 成は認められないというべきである と判示した。
これを承けて日弁連による 生殖医療技術の利用に対す る法的規制に関する提言 (2000年3月) に続く補充提言(2007年1月)では、
死亡した配偶者の精 子又は卵子はこれを使用してはならない とするとともに、
凍結保存された精子、
卵子、
胚の預託者又は 提供者が死亡したときは、
その意思にかかわらずこれを廃棄することを提言している。
次に上記②のAIDの場合
、
遺伝学上の父は第三者である精子の提供者である。
依頼者夫婦のう ち、
夫は生まれた子との間に遺伝的なつながりを有していない。
しかし、
民法上は夫の子であるとの推定の 効果として、
夫の子として扱われる。
そして、
夫がAIDに同意しているのであるから、
夫が出生子との間の 父子関係を否定するような事態は生じないと考えられる。
しかし、
夫が嫡出否認の訴えにより父子関係の 不存在を主張することができるかについては、
これを許さないというのが一般的見解である。
AIDにおける法律上の父子関係は以上のようであるが
、
それで問題が片付くわけではない。
子の福 祉 の観点から観るとき、
看過し得ない重要な問題が残されている。
それは、
AIHを除くすべての生殖補 助医療において共通するところであるが、
生殖補助医療の主眼は常に、
何らかの理由により自己の子を 持つことができない夫婦や女性の 子を持ちたい との切なる願望にひたすら応えることにあり、
そのような 生殖補助医療により生まれてくる子供の幸福、
子供の立場への配慮はほとんど無視されてきたことである。
我が国では1948年に慶應義塾大学病院において初めてAIDによる人工生殖が実施されたのであるが
、
その際、
精子提供者(ドナー)は複数であり、
かつその氏名などは一切秘密とすることが当然の前提とさ れた。
その後も同様である。
この方法によって出生した子の数は1万人を超えると言われているが、
思春期 あるいは成人した後に、
何らかの機会に自分がこのような方法により出生したことを知るに至った子の精神 的打撃が絶大であることが、
近時、
報じられるようになった。
そこで、
現在は、
出自を知る権利 をどの ように保障するかが、
生殖補助医療一般について、
重要な問題として取り上げられるようになった。
次に
、
上記の③代理母(surrogate mother)による懐胎と出産の方法による場合、
すなわち、
妻が 何らかの理由により懐胎․出産ができないので、
夫の精子を用いて代理母の卵子に受精させ、
代理母 が懐胎․出産した場合、
遺伝学的な観点からも、
懐胎と分娩という観点からも、
代理母が母親だという ことになる。
この場合、
遺伝学上の父は依頼者夫婦の夫であるが、
法律上の父は依頼者夫婦の夫であ ると言えるのであろうか。
我が国では、
このような代理懐胎は各種の提言において禁止されているので、
法律的にも空白部分である。
もし代理懐胎者が婚姻中であれば
、
民法772条の推定規定により代理母の夫が父親だという扱いがさ れることになるであろう。
上記の④のホストマザー(host mother)の子宮を借りて出産を図るタイプ
、
すなわち、
夫の精子と 妻の卵子を体外受精させて、
その受精卵をホストマザーの子宮に移植し、
懐胎․出産するタイプ(借り 腹)においては、
遺伝学上の父と母は、
依頼者である夫婦だということになる。
法律的にはどう扱うべき か。
このようなホストマザー型の代理懐胎における親子関係が問題となったのが、
最高裁2007年3月23 日決定(民集61巻2号619頁)の事件であった。
事案は次のようである
。
日本人の夫婦であるX1とX2は、
X1の精子と子宮摘出手術を受けたX2の卵 子を用いた受精卵を米国ネバダ州在住の女性Aに移植するとともに、
Aとその夫Bとの間で、
(a)Aは、
X らから提供された受精卵を自己の子宮内に受け容れ、
出産まで子供を妊娠すること、
(b)生まれた子につ いてはXらが法律上の父母であり、
ABは子に関するいかなる権利または責任も有さないこと等を内容とする 有償の代理出産契約を締結した。
Aが本件子らを出産した後、
Xらの申立てにより、
ネバダ州の裁判所 は、
Xらが本件子らの血縁上及び法律上の実父母であることを確認する等の判断をし、
ネバダ州は、
本 件子らについて、
X1を父、
X2を母と記載した出生証明書を発行した。
Xらは帰国後、
本件子らについて Xらを父母とする嫡出子としての出生届を提出したところ、
X2による分娩の事実がなく、
Xらと本件子らとの 間に嫡出親子関係が認められないとして、
出生届が受理されなかった。
これに対して、
XらはY(戸籍事 務管掌者たる区長)に出生届の受理を命ずるよう申し立てた。
申立てを受けた東京家裁は
、
我が国の民法解釈上、
子を出産した者が母であるとして、
申立てを却 下した(原々決定)。
これに対して、
抗告を受けた原審․東京高裁は、
出産した女性が母となるとしつ つ、
ネバダ州の裁判所の裁判の効力を承認すべきか否かにつき、
本件の諸事情を考慮すると本件子ら がXらに養育されることが最も子らの福祉に適うとして、
Yに本件出生届の受理を命じた(原決定)。
これ に対するYからの許可抗告の申立てに対し、
最高裁は、
次のように判示してXらの上記抗告を棄却する旨 の決定をした。
判旨① 民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外国裁判所の裁判 は
、
我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものであり、
民訴法118条3号にいう公の 秩序に反する。
判旨② 現行民法の解釈としては
、
出生した子を懐胎し出産した女性をその母と解さざるを得ず、
その 子を懐胎、
出産していない女性との間には、
その女性が卵子を提供した場合であっても、
母子関係の成 立を認めることはできない。
子の福祉 の観点から注目されるのは
、
この決定の中で、
出産と同時に出生した子と子を出産した 女性との間に母子関係を早期に一義的に確定させることが子の福祉にかなう としている点である。
ただ し、
ここで 子の福祉 とされるのは、
制度設計というレベルでの子の福祉であり、
一般的な子の福祉で ある。
これに対して、
原決定は、
個別․具体的な事情に即して公序良俗の判断をすべきだとし、
本件子 らがXらによって養育されることが最もその福祉にかなうとの判断を示した。
つまり、
そこでの 子の福祉 は、
本件子らの福祉 の問題として捉えられたのである。
ところで
、
最高裁の決定にしたがい生まれた子らの母は代理懐胎者Aであるとなると、
依頼者夫婦Xら と生まれた子らとの間にどのような関係が認められるのか、
どのような関係を形成することが可能なのかが問 題となる。
先述の学術会議の報告書は、
代理懐胎の原則禁止、
営利目的でなされる代理懐胎を処罰 の対象とすること、
代理懐胎者を母とすると提言するとともに、
依頼者と生まれた子については、
養子縁組 又は特別養子縁組によって親子関係を定立することを提言する。
なお、
上記の最高裁決定のケースで は、
その後、
Xらと子らとの間での特別養子縁組が認められたとの事である。
卵子提供支援のNPOについて
新聞報道によると
、
不妊治療クリニックの医師らが今年1月14日、
性染色体の異常などが原因で、
自 分の卵子で妊娠ができない女性を対象に、
第三者の卵子提供を仲介する 卵子提供登録支援団体 (OD-NET) (神戸市) を設立したと発表した。
同団体は非営利法人(NPO)として申請しており、
1月以 降、
すでに子どものいる35歳未満を対象に無償での卵子提供を募ったところ、
42人が申し込み、
血液検 査などを経て9人を提供者として登録した。
提供を受けられるのは、
ターナー症候群 (女性の性染色体が
ドキュメント内
제8회 한일학술포럼(선명) 수정0830.hwp
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