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全国規模の「共同管理」

第 4 章 投資主体としての「実業家」と経済変動

4.3 経済変動への処方箋(1)――「共同管理」体制

4.3.3 全国規模の「共同管理」

以上のように,ロバートソンは,労働者と「実業家」の対立を,各企業内で調和すること は困難だと考えた.それは,労働者側の要求を認めると,その企業は他企業に後れをとり,

競争力を失ってしまうからである.そこでロバートソンは(2)全国規模の「共同管理」へと 議論を移した.

全国規模の「共同管理」は,具体的には「ホイットレー体制 Whitley Scheme」を指す

(COI, 161).この体制は,全国の「実業家」と労働者の共同委員会を産業ごとに設置し,当

該産業における生産方針について話し合い,合意する場を設ける,というものである.当時,

実際に,一部の産業において,このような全国規模の「共同産業委員会 joint industrial

council」が組織されていた(COI, 163).しかし,実際のところ,その委員会は,労働組合

による賃上げ要求の場にすぎなくなっており,上手く機能していなかった.しかし,ロバー

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トソンは,この試みは否定されるべきではないと主張し(COI, 162)83,全国規模の「共同産 業委員会」について,次のような期待をかけた.

「このような会議〔共同産業委員会〕がとくに取り扱うに適する,あるいは,適するかもし れないと思われる2つの問題がある.第一は景気循環trade cycleの問題である」(COI, 162)

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すなわち,ロバートソンは,経済変動の解決策として「共同産業委員会」の意義を大いに認 めた.というのは,「ブーム時において,個別企業の即時の利益は,その産業の恒久的な利 益に反することがよくある」(COI, 162)が,労資の双方による「共同管理」を当該の産業 全体 で行えば,産業全体の利益を維持しうるからである.実際に,印刷業や羊毛業は,全国 的な共同会議を開催することで経済変動の対策を議論していた.

確かに,このような試みを,他の産業にも普及させていくことは「いまだ不可能」(COI, 163)ではあった.しかし,ロバートソンは次のように述べている.

「……資本主義の最たる害悪〔経済変動〕に対処するために,〔労働者と「実業家」が〕と もに協力して真剣に努力することは,上手く組織化された各産業にできないことではない」

(COI, 163,〔 〕内は引用者).

83 ロバートソンは,G. D. H. コールが自著Chaos and Order in Industry (1920) において「ホイットレー体制」を痛烈に批判し たことについて,「〔その批判は〕ホイットレー主義が建設的な協定を発展させる能力がないという確信ではなく,コール 氏が目を離したすきに,それが運悪く同じようになる〔失敗する〕といけない,という恐れを示しているようにみえる」

(Robertson, 1920b, 540, 〔 〕内は引用者)と述べており,ここにも「ホイットレー体制」へのロバートソンの期待が表 れている.

84 解決しうる第二の問題は,機械打ちこわし運動のように,社会全体の経済活動を停滞させるほどの労資闘争である(COI,

163).

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このように,ロバートソンは,あくまでも展望としてではあるが,労働者と「実業家」の意 思決定を調和し,著しい経済変動の原因となる過剰投資を軽減する方策として,全国規模の

「共同管理」に期待を寄せた.

本章でみてきたように,ロバートソンは,資本主義経済における投資決定の特徴が,経済 変動をより深刻化させると考えた.彼はその原因を「資本主義の黄金律」が破られることと

「実業家」による投資活動の特徴とに見出した.そして,彼らの経済活動を可能なかぎりで 最適な範囲内にとどめるための方策として,ロバートソンは全国規模の「共同管理」に期待 をかけた.

全国規模の「共同管理」は,「実業家」と労働者における意思決定の調和を目指すという 意味で,SIFの「生産者協同組合」への回帰とみることができる.SIFの仮定では,「実業家」

と労働者の意思決定は対立せず調和するとされていた.しかし,そのような仮定においてさ え,経済変動は不可避的に生じてしまうのであった.そして,「実業家」と労働者の対立を 考慮に入れたのが COI であり,このような対立によって,経済変動がさらに深刻化するメカ ニズムが解明された.すなわち,COIの議論において,ロバートソンは,SIFからの発展とし て,労資対立というより複雑な現象を分析した.そして,経済変動を増幅させるこのような 要因は,労資における意思決定の調和というSIFの世界,すなわち,「生産者協同組合」が成 立する世界へと回帰することによって最小限にまで抑制しうる,と考えたのである.

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