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光検出器 Avalanche photo diode (APD)

ドキュメント内 学位論文 Experimental Particle Physicsyushu University (ページ 38-42)

4.3 電磁カロリメータの基本デザイン

4.3.3 光検出器 Avalanche photo diode (APD)

APDの構造及び光検出の原理は通常のフォトダイオードと同じである。フォトダイオード の半導体バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光が入射すると、電子正孔対が生成される。

*6GSOLYSOには、光量を増加させるためにCeが添加されているが、本論文では簡単のためGSOLYSO と表記する。

第4. COMET実験用電磁カロリメータ 4.3. 電磁カロリメータの基本デザイン

表4.1: 結晶の特性一覧(sと f はそれぞれ、遅い成分と速い成分を示す。)

結晶 GSO(Ce) LYSO PWO CsI(Pure)

密度(g/cm3) 6.71 7.4 8.3 4.51

放射長(cm) 1.38 1.14 0.89 1.86 モリエール半径(cm) 2.23 2.07 2 3.57 崩壊時定数(ns) 600s, 56f 40 30s, 10f 35s, 6f 波長(mm) 430 420 425s, 420f 420s, 310f 屈折率 1.85 1.82 2.2 1.95 光量(NaI(Tl)=100) 3s, 30f 83 0.083s, 0.29f 3.6s, 1.1f

1光子あたりに電子正孔対が1つ生成される比率を量子効率と呼ぶ。電子正孔対は通常その まま再結合するが、ここでダイオードの両端電極間に逆電圧を印加すると、電子と正孔それ ぞれが電極側にドリフトされ、電極に電気信号として現れる。

APD及びMPPCはフォトダイオードの応用である。APDは発生した電子正孔対を積極的 に増幅させる点でフォトダイオードと異なる。APDを用いた光検出と、信号増幅の原理を図 4.4に示す。フォトダイオードに印加する逆電圧を高くしていくと、その強電場は電子のドリ フト速度を大きくする。それは半導体中で、電子のさらなる相互作用を誘起し、二次三次の 電子正孔対が生成される。これが連続的に生じることで電子なだれ(アバランシェ)が発生 し、電極に至る電子数が増大する。これがAPDによる増幅作用である。そのゲインは通常 50〜100程度であり、入力光子に対する線形性は一般的に良い。また広い有感面積と高い量 子効率を持つ。一方、MPPC*7は低光量にも感度があり、ゲインは105〜106 と高い。しかし、

その微細な構造のため、APDに比べ中性子によって半導体が格子損傷を受けやすい。シミュ レーションによる見積もりによると、COMET実験施設内の中性子量は、現在知られている MPPCの中性子耐性を上回っており、使用は困難であると考えられる。現在COMET用電磁 カロリメータには、浜松ホトニクス社製の S8664-55[24]を使用する予定である。S8664-55 の写真を図4.5、特性を表4.2に示す。

*7電場をさらに強くすることで、増幅過程はガイガーモードに至る。ガイガーモードでは入力光子数に関わらず 一定の信号が出力され、単体ではエネルギー測定には使えない。MPPCは、これを微小な1つのセルとして、

100〜 数1000個敷き詰めた構造をもつことで、複数の光子を同時に計数可能にする。

第4. COMET実験用電磁カロリメータ 4.3. 電磁カロリメータの基本デザイン

3

Si 

AP

D MP PC

Si APD

 APDは、所定の逆電圧を印加することにより光電流が 増倍される高速・高感度のフォトダイオードです。

 素子内部に信号の増倍機能をもつため、PINフォトダイ オードに比べ高いS/Nを得られ、高精度な光波距離計や シンチレータを用いた微弱光検出など幅広い用途で利用 されます。PINフォトダイオードに比べ微弱な光を検出でき る反面、高い逆電圧が必要なことや増倍率が温度に依存 するなど、注意が必要な点もあります。

 ここでは、Si  APDの性能が十分引き出せるように、Si  APDの特長などを解説していきます。

 特長

 高感度: 内部増倍機能をもつ

 高速応答

 高信頼性

 個別仕様でセレクト納入が可能

 アバランシェ増倍の原理

 APDの光電流の発生機構は、通常のフォトダイオードと 同じです。フォトダイオードに、バンドギャップ以上のエネル ギーをもつ光が入射すると、その光エネルギーにより電子−

正孔対が発生します。このとき入射フォトン数に対して発生 した電子−正孔対の割合を量子効率 QE (単位: %)と定義 します。APDの内部でキャリアが発生する機構はフォトダイ オードと変わりませんが、APDは発生したキャリアを増倍す る機能をもっている点がフォトダイオードと異なります。

 PN接合に逆電圧を印加すると、空乏層内部で発生した 電子−正孔対のうち、電子はN+側に、正孔はP+側にそれぞ れ電界によってドリフトします。このときのキャリアのドリフト 速度は電界が高くなるほど速くなりますが、ある電界に達す ると結晶格子との散乱頻度が増して、ある一定の速度に飽 和するようになります。さらに電界が高くなると結晶格子との 衝突を免れたキャリアは非常に大きなエネルギーをもつよう になります。そして、このキャリアが結晶格子と衝突すると新 たな電子−正孔対を発生させる現象が起こります。この現 象をイオン化と呼びます。この電子−正孔対が新たに電子−

正孔対を発生させるというように、イオン化は連鎖的に発生 します。これがアバランシェ増倍といわれる現象です。

 1つのキャリアが単位距離を走行するときに発生する電 子−正孔対の数をイオン化率と呼び、電子のイオン化率  (α)と正孔のイオン化率 ( )が定義されます。このイオン化 率は、増倍機構を決定する重要なパラメータです。Siの場

合は、電子のイオン化率が正孔のイオン化率よりも大きく  (α> )、電子が増倍に寄与する割合が高くなります。この ため当社のAPDでは、入射光により発生した電子−正孔対 のうち、電子がアバランシェ層に入りやすい構造を採用し ています。なお、入射光の波長によってキャリアが発生する 深さは異なります。当社は、検出する波長に合わせて、異な る構造のAPDを用意しています。

[図1-1] アバランシェ増倍の模式図 (近赤外タイプ)

 暗電流

 APDの暗電流は、PN接合・酸化膜界面を流れる表面 リーク電流 (Ids)と基板内部の発生電流 (Idg)とに分かれ ます [図1-2]。

[図1-2] APDの暗電流

 表面リーク電流はアバランシェ領域を通過しないため増 倍されませんが、発生電流はアバランシェ領域を通過する ため増倍されます。このため、トータルの暗電流  (ID)は式  (1)のようになります。

増倍率

 増倍される暗電流成分であるIdgがノイズ特性に大きく 影響します。

1. Si APD

図4.4: APDによる光子検出と増幅の原理[24] 4.5: 浜 松 ホ ト ニ ク ス の APD S8664-55 [24]

表4.2: 浜松ホトニクスAPD S8664-55の特性[24]

有感領域(mm2) 5×5 パッケージサイズ(mm2) 9.0×10.6 有感波長領域(nm) 320−1000 最大感度波長(nm) 600

量子効率(420 nm) (%) 70

降伏電圧(V) 400

標準ゲイン 50

典型的暗電流(nA) 5 最大暗電流(nA) 50 容量(pF) 80

29

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第 5

ビームテスト実験

現在、COMET実験用電磁カロリメータの開発項目として一番重要視されている点は、結

晶の選定である。電磁カロリメータをPhase-I実験におけるビーム起源の背景事象測定に用 いるには、結晶の製造と電磁カロリメータの製作に必要な期間を考慮すると、その優先度は 高い。実際に、105 MeV/c付近の電子ビームを用いて、結晶の性能を測定するためのビーム テスト実験を行った。実験は、2013年5月19日から5月23日にかけて、J-PARCハドロン 実験施設のK1.1BRビームラインを用いた。実験目的は、105 MeV/cの電子ビームに対して、

GSOとLYSOが、要求性能である5%以下を満たすかどうかを測定する事である。GSOと LYSO共に、目標値を満足するならば、コストの低いGSOを採用する事が出来る。

実験では、GSOについて 85 MeV/cと105 MeV/cのデータを取得し、エネルギー分解能 を測定する事ができた。しかし2013年5月に発生したJ-PARCハドロン実験施設の事故に より実験は中断し、LYSOについて一切の測定を行う事ができず、GSOとLYSOについての 比較を行う事はできなかった。LYSOに劣るGSOを用いた場合でも、GSOが本質的に、目 標値を達成できるかどうかの見通しを得ることは、今後の研究のためには重要な指針となる。

以下で述べる分解能は、電磁カロリメータ全体ではなく*1、GSOが固有にもつ分解能に焦点 を当てて議論を行う。詳しくは第8章にて議論する。

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