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VME Controller CAEN V2718

8.2 今後の課題

第8. 議論 8.2. 今後の課題

以上から、ノイズ項の概算として以下が見積もられる。ただし、デッドチャンネルは総和か ら除く。

c

E = Enoise

E = 3.3

105 ≈ 3.1% (8.6)

8.1.5 まとめ

前述の通り、今回の解析結果には統計項とノイズ項が含まれていると考えられる。よって 以上の2つについて足し合わせると、

2.1%⊕3.1%= 3.8% (8.7)

となり、今回の105 MeV/cのデータに対する結果と誤差の範囲でほぼ同等の値が得られる。

85 MeV/cのデータに対しても同等の計算を行うと、4.5%の見積もり結果が得られ、1%程度

と比較的大きい開きはあるが、こちらも誤差の範囲で一致している。見積もりの不定性が大 きいこと、ビーム運動量幅が105 MeV/cと85 MeV/cの時に異なっていた可能性なども考慮 すると、これ以上精度の高い議論はできない。

最終的には、GSOの統計項、カロリメータの構造による電磁シャワーの漏れ、読み出し チェーン上の電気ノイズや解析が生む不定性など、COMET実験においても必然的に起きう る項目を全て考慮した上で、要求性能を満たす必要がある。今回の解析結果には電磁シャ ワーの漏れの効果が入っていないが、以上で求めた 2.8% の漏れの影響が直接加わるとす る*3なら、105 MeV/cデータの場合、

3.4%⊕2.8%= 4.4% (8.8)

となり、依然目標の 5% 以下である。これはつまり、COMET 実験用電磁カロリメータに GSOを用いても、要求性能を達成しうる可能性を示している。

第8. 議論 8.2. 今後の課題

8.2.1 広い運動量領域での GSO LYSO の比較

今回は 85 MeV/c 及び105 MeV/c の電子ビームを用いて GSO の測定を行った。エネル

ギー分解能は一般的に(8.1)で与えられるが、これらのパラメータを測定するためには、単純 にフィッティングで求める場合は少なくとも3点以上のデータが必要となる。そのため105

MeV/c周りの複数の運動量で測定するべきである。またGSOとLYSOの比較が最優先事項

であるため、次回のビームテストでは各結晶につき、最低でも105 MeV/cを含んだ5点程度 のデータを取る予定である。

8.2.2 ビーム入射位置の測定

ファイバー検出器によるビーム入射位置測定がかなわなかったため、MCで仮定するビー ムの設定からの不定性が増大した。次回もファイバー検出器を設置する予定であるが、新規 開発が行われている。シンチレーションファイバーの光量は少ないため、低光量の読み出し に最適なMPPCを使用する。これにより現在、100%に近い検出効率が得られている。また、

主に大阪大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)により開発されたMPPC用汎用読み出 しモジュールをDAQに用いる。このモジュールは読み出しプロトコルが TCP及び UDPを 併用するイーサネットであり、またその転送は、同様にKEK回路室が開発した SiTCP*4に より高速になされる。このモジュールは64個のMPPCを同時に測定、操作でき、電圧も各 MPPCごとに調整可能である。さらに温度計も接続可能であるため、このモジュールにより MPPCのモニター及び、ゲインの調整も可能である。これらを用いたファイバーカウンタに は、十分高い性能が期待できる。

8.2.3 読み出し回路の安定性

今回の実験で用いたプリアンプボードには、いろいろと不安定な部分が多く、実験では不 安定な物も含め49チャンネルのうち16チャンネルが解析に使用不能であった。ビームの径 や入射位置が測定できなかった点も影響し、デッドチャンネルは最終的に得られるスペクト ルの幅を太くする。現在開発元であるロシアのBINP研究所が安定動作のための改良に従事 している。

さらに、九州大学素粒子実験室独自での読み出し回路の開発を行った。今回用いた、BINP 研究所によって開発されたプリアンプボード及びその他の増幅チェーンの代替品である。プ リアンプは、欧州合同原子核研究機構CERNで行われているALICE実験の、PHOS検出器 で用いられているプリアンプ回路(図8.4)を採用する。PHOS検出器は鉛タングステン結晶

*4イーサネットプロトコルに従う転送処理を全てハードウェアで行うことができる集積チップ。CPUやソフト ウェアによる演算処理の制限を受けないため、高速かつ低電力でのイーサネット通信を実現する。

第8. 議論 8.2. 今後の課題

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図8.4: ALICE実験のPHOS検出器のためのプリア ンプボード

図8.5: PHOSプリアンプのため 新たに開発した読み出し回路

を用いたカロリメータであり、結晶の断面は2×2 cm2 とCOMET実験に用いるものと同じ である。そのため、プリアンプボードはその結晶の末端に直接接続できる形状を成しており、

APDも我々の使用するS8664-55が実装できる。プリアンプのゲインは0.8 V/pCで、時定数 は100µsだったが50 nsに変更した。

このプリアンプからの信号を読み出し、外部に伝送するケーブルとのインタフェースとな る読み出しボードが必要であるため、新たに開発した(図8.5)。その形状や接続ケーブルは BINP製のプリアンプボードと互換になるように工夫した。また GSOとLYSOを入れ替え た際に生じるゲインの差を補正するため、アンプを兼ねるバッファを搭載しており、簡素な がらも、BINPによるプリアンプボードを代替し、次回の実験時のバックアップとなるよう準 備を進めている。

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第 9

結論

ミューオン・電子転換過程は、BSM探索にとって良いプローブである。現在我々が準備中

のCOMET実験は、茨城県東海村にあるJ-PARC加速器を用いて、この転換過程を探索する。

到達目標感度として、現在最新であるSINDRUM II実験の結果を1万倍改善する、1017を 目指している。我々九州大学素粒子実験研究室は電磁カロリメータの研究開発を担当してお り、現在重要な開発項目は、電磁カロリメータに用いる結晶の選定である。高いエネルギー分 解能、位置分解能、時間分解能という要求性能を考え、GSOとLYSOの2つが候補である。

GSOとLYSOの性能比較のため、平成25年度5月、J-PARCハドロン実験施設の K1.1BR ビームラインにおいて、電子ビームを用いた結晶のビームテスト実験を行った。本論文では、

この実験及び実験結果について、エネルギー分解能に焦点をあてて紹介した。

実験では、運動量85 MeV/cと105 MeV/cの電子ビームを用いて、GSOの測定を行った。

その他の運動量での測定や、LYSOの測定は、実験が中断し遂行できなかった。用意した電磁 カロリメータプロトタイプは、断面積が2×2 cm2 のGSO結晶を7×7個積載した構造を持っ ている。中央の3×3は実機で使用予定のものと同じで奥行きが15 cmあり、その周り40個

は12 cmである。光検出器にはAPDを使用し、その読み出しと信号増幅には、ロシアBINP

研究所が新規開発したプロトタイプ回路を用いた。得られる全ての波形はWFDを用いて記 録した。

モンテカルロシミュレーション(MC)から得られるエネルギースペクトルと、実験デー タから得られるスペクトルの差異を、ガウス関数による分散で補正し、その最適なσをエネ ルギー分解能として定義する。MCには100 mmのビーム半径、1.5%の運動量幅を仮定し た。結果として、105 MeV/cのデータについて3.4+0.3

0.2(stat)+0.8

1.2(syst)%、85 MeV/cについて 5.4+0.3

0.2(stat)+0.8

1.2(syst)%のエネルギー分解能を得た。結論として、GSO固有のエネルギー分解

能が5%以下であることを確認した。

エネルギー分解能に含まれる統計項、定数項、ノイズ項の見積もりを行った。105 MeVに ついて、統計項は2.1%、定数項は2.8%、ノイズ項は3.1%程度であると見積もられた。解 析で得られた3.4 %には主に、統計項及びノイズ項が含まれていると考えられ、この見積も

第9. 結論

り量はその結果を支持する。また定数項と併せて評価しても、その値は 4.4%であった。以 上の議論から、電磁カロリメータへGSOが適用可能であると考えられる。

GSOとLYSOの、より正確な比較を完了するため、平成26年3月に東北大学電子光理学 研究センターのビームラインを用いて再実験を行う。今回のビームテスト実験で問題となっ た、ビームのパラメータ及び入射位置が測定できなかったこと、読み出し回路の不安定性な どを改善し、次回はより広い運動量範囲での測定を行う。エネルギー分解能の各項目を正確 に理解し、GSOとLYSOを比較する事で、COMET実験用電磁カロリメータに用いる結晶を 選定する。

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謝辞

学部4年生から修士までの 3年間を通してお世話になった皆様に、この場をお借りして厚 く御礼申し上げます。

主指導教員の東城順治准教授には、自身のCOMET実験参加以前、国際リニアコライダー

(ILC)計画に携わっていた折から大変お世話になりました。今回のビームテスト実験では、

私にとって初めてのビーム使用実験だったため、分からないことばかりでしたが、実験で慌 ただしい中でも、丁寧な指導をしていただきました。実験データの解析では、私が実験の不 備から来る不定性に絶望しかけていた中でも、論理的かつ科学的な見地で助言をいただきま した。この実験を通して、自らが研究者として見習うべき点を、その姿勢をもって示してい ただき、今後の研究生活に多いに役立つ経験をさせて頂きました。改めて、感謝の意を申し 上げますと共に、今後ともご指導の程よろしくお願い致します。

川越清以教授と吉岡瑞樹准教授には、当研究室新設時から大変お世話になり、当時は二人 掛かりでゼミの面倒を見て頂くなど大変恵まれた時間を過ごす事ができました。川越教授は ILC関連の仕事で大変お忙しい中、我々学生の快適な研究環境づくりにご尽力頂きました。

また学部4年、修士1年の身にはもったいないほど、外部行事に参加させていただきました。

吉岡准教授には、居室が同じということもあり、はじめから一番近くで指導して頂きました。

ILC計画に参加していた際は、初めての国際学会なども終始引率いただき、有意義で楽しい 経験ができました。織田助教及び音野助教からも、研究面だけでなく様々なサポートを頂き ました。特に私がCERN夏の学校に参加している間、CERN駐在のお二人には、当時研究の 切り替えを悩んでいた私の相談にのって頂きました。そのときの助言が今の有意義な研究生 活につながっており、大変感謝しております。末原大幹助教にも、赴任された昨年末からの 短い時間の中でも、研究室ミーティングでは質問、助言など頂きました。

COMET実験という国際規模の研究にあたり、当九州大学素粒子実験研究室だけでなく、

国内の高エネルギー加速器研究機構(KEK)及び大阪大学の皆様には大変お世話になりまし た。KEKの三原智氏には、私がCOMET実験に参加した当初から、その大変お忙しい身の上 にも関わらず、KEKで作業中の私の様子をよく見に来ていただき、当時理解が不充分であっ た私は非常に助かりました。また、九州大学大学院フロントリサーチャープログラムの外部 指導教員としてもお世話頂きまして、ありがとうございました。同じくKEKの上野一樹氏、

深尾祥紀氏、西口創氏には、ビームテスト実験の準備などで大変お世話になりました。上野

ドキュメント内 学位論文 Experimental Particle Physicsyushu University (ページ 89-98)

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