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個人 Will システム

ドキュメント内 2019 年度テーマ研究論文 (ページ 59-64)

第 3 章 イネーブリング・コントロールを用いた日本企業の管理会計システムの設計・

第 3 節 個人 Will システム

方針に素直に対応した。経営トップが方針や業績を現場に伝えることで,クライアントは 徐々に組織にコミットするように変化した。バーチャル組織を含め,製造が主役という意 識が醸成され,開発・生産技術の有能なスタッフは事業全体の採算や製造ラインを踏まえ た設計に取り組むようになった」(p.115)とあるように,京セラミタでもアメーバ経営に おいて全体透明性が観測されている。

イネーブリング・コントロールが活用する従業員の「知識や経験」は,①従業員の京セ ラフィロソフィの理解・納得及び②従業員のアメーバ経営の知識の定着である。京セラで は,従業員へのフィロソフィ及びアメーバ経営の教育を行っており(庵谷,2018,pp.42-43), フィロソフィの理解がアメーバ経営の理解を深めている。具体例として,京セラミタ株式 会社(以下,京セラミタ)のケーススタディ(谷・窪田,2012)28が挙げられる。谷・窪 田(2012)によると「叱咤激励を伴う山際氏の教育により,現場従業員はフィロソフィを 理解・納得し,それが次第に結びつくようになった」(p.114)や「京セラミタでも,三田 工業にいた有能な人物を発掘して,その者たちにフィロソフィやアメーバ経営の知識を移 転させていた」(p.115)とある。

最後に,イネーブリング・コントロールの4つのデザインの特徴と組織業績の関係は,「時 間当り採算」から観測された。「京セラのアメーバ経営をささえる管理会計のしくみは,時 間当り採算の計算である。これは,非常に簡単に付加価値を計算するしくみである。その 構造は,非常にシンプルなつくりになっている。そのシンプルさゆえに,時間当り採算は,

目標指標として機能する一方,最終的企業利益につながるものとして,結果指標としても 意味を持つ指標になりうるのである。アメーバの構成員は,時間当り採算をたかめようと 努力するが,そのためにどういう行動をとったらよいかが明確になっている。そしてその ように行動した結果が,予想通りの結果となって時間当り採算のなかにあらわれるのであ る」(尾畑,2005,p.61)とあるように,アメーバ経営におけるイネーブリング・コント ロールの4つのデザインの特徴が,従業員の「知識や経験」を活用し時間あたり採算を向 上させることで,組織業績に貢献している。

本節では,初めにディスコの企業概要と個人Willシステムの概要を説明し,イネーブリ ング・コントロールの4つのデザインの特徴を観測した上で,イネーブリング・コントロ ールが活用する従業員の「知識や経験」を指摘し,それらがどのように組織業績につなが っているかを分析する。

まず,ディスコの企業概要を述べた上で同社の管理会計システムである個人Willシステ ムの概要を説明する。ディスコは,日本を拠点として半導体製造などの精密加工装置やツ ールを製造しているメーカーである。同社は世界市場シェアの 70%を有しており,2011 年から2017年にかけて収益性を15%から30%に引き上げたという実績を持っている。代 表取締役社長である関家一馬氏によると,同社を成功に導いた秘密は「個人Will(P-Will:

Personal Will)システム」にあるという(Bernstein, Jinjo and Sakuma,2018)。 Bernstein, Jinjo & Sakuma(2018)によると「個人Willとは,社内で流通する通貨「Will

(ウィル)」を使用したディスコ独自の管理会計システムであり,同社においては,1分の 労働時間も1個の事務用品も,通貨単位「Will」で取引されている。従業員は個人事業主 のように行動することを期待され,個人Willシステムを使用して自分の収益貢献や事業経 費を管理した。そして年に4回,各人の個人Will口座の残高が実際の通貨(円)に換算さ れ,ボーナスとして支払われた」(p.1)とあるように,当該管理会計システムは個人別採 算経営であると思われる。また,個人Willシステムは以下のコンポーネントから構成され ているとBernstein, Jinjo & Sakuma(2018)は述べている。「個人Willシステムは,基 本的にはディスコの社員が各々による自己管理を可能にするための管理会計システムであ り,主に4つのコンポーネント,すなわち1.各人が使用する個人Will口座(Willの貯蓄・

会計用),2.時間に対する価格づけ(Will と時間の対価交換の基盤),3.社内マーケットプ レイス(Willと時間の対価交換を促進),4.ボーナス(社内通貨の実際の通貨への換算)で 構成されている」(p.4)。

次に分析枠組みを個人Willシステムに当てはめて,イネーブリング・コントロールの4 つのデザインの特徴を観測した上で,イネーブリング・コントロールが活用する従業員の

「知識や経験」を指摘し,それらがどのように組織業績につながっているかを分析する。

まず,個人Willシステムを分析枠組みに照らした結果を図表6に示しておく。

図表6:分析枠組みの個人Willシステムへの当てはめ

出所:筆者が作成。

修復能力と柔軟性は,「時間に対する価格づけ」及び「社内マーケットプレイス」から 観測された。Bernstein, Jinjo & Sakuma(2018)は以下のように述べている。「従業員の 時間はすべて有償であり,従業員は働いた時間の分だけWillを稼ぐことができた。…(中 略)…。従業員の時間対価を決める際には決まったやり方はなく,個人同士で互いに合意 すればそのレートが適用された」(p.5)とある。また,「ディスコの従業員は社内のどの案 件でも自由に選んで働くことができた。実際にどの部門に所属しているかは関係なく,直 属の上司の承諾を得る必要もなかった。…(中略)…。上司が部下に特定の作業やタスク をこなして欲しい場合は,上司はいくらのWillを対価として支払うかを提示しなければな らなかった。部下は,金額が十分でないと感じれば,あるいは単にその仕事をやりたくな いと思えば,上司から提示されたレートを断ることができた」(p.6)とも述べている。デ ィスコでは従業員の時間は有償であることから,自分のWillを稼ぐ場合にも他の従業員を 利用しWillを支払う場合にも,各従業員はどのような仕事を選ぶかの裁量が与えられてい る(柔軟性)。これにより,従業員は自分の仕事内容の組み合わせを考えることができるよ うになり,様々な仕事を通じて蓄積した「知識や経験」を基にさらなる仕事の効率化を測 ることもできる(修復能力)。Bernstein, Jinjo & Sakuma(2018)はこの点について以下

のように述べている。「個人 Willシステムを利用する大きなメリットの一つは,社員一人 ひとりが自分の時間の使い方を最適化しようとするインセンティブをもつようになること,

つまり,経済学者が言うところの最有効使用がなされるようになることであった。つまり,

作業工程が非効率な場合に,誰かが誰かに対して「何をすべきか」や「どうすべきか」を 指示することがないため,誰でもそれを変えることができる,ということを意味した」(p.8)。

内部透明性は,「個人Will口座」から観測された。Bernstein, Jinjo & Sakuma(2018)

は以下のように述べている。

「ディスコの従業員は,社外の顧客に製品を販売したり,特定のタスクやプロジェクト に割いた時間を社内の顧客に請求したりすることで,Willの収益をあげることができた。

従業員は,自分が個人事業主であれば支払うことになる取引,たとえば自分の給料や他の 人に割いてもらった時間,各種経費などの支払いのために Willを用いた。部門によって は,オフィスの賃貸料や会社で使用しているコンピュータについても,所属する従業員に 負担相応額の支払いを求めた。

…(中略)…。その他にも,従業員がWillを稼いだり使ったりするさまざまな方法が 存在した。プレゼンテーションの指導を請け負ったり,社内向けにアプリケーション(た とえば出張予約アプリケーションなど)を開発して使用料を徴収したりする従業員もいた。

また,社内のプロジェクトに投資し,そこから「配当金」を受け取る従業員もいた。

…(中略)…。個人間の振替位処理は1日に数回バッチ処理で行われたため,従業員は 自分の残高をほぼリアルタイムで確認することができた。自分の1ヶ月,3ヶ月,6ヶ月,

1年のWill収益もイントラネットで確認できた。(Bernstein, Jinjo and Sakuma,2018,

pp.4-5)

従業員の業務遂行の価値がWillに変換され,個人Will口座を通じてWillの収支が可視 化されるようになり,さらにその会計情報にイントラネットでアクセスできるようになっ ている。

全体透明性は,「ボーナス」から観測された。Bernstein, Jinjo & Sakuma(2018)によ ると「個人Will に連動するボーナスのための予算は,まずは各部門のWill利益貢献の合 計金額に基づいて各部門に配分され,その後,従業員の相対的なWill貢献度に応じて一人 一人に配分された。内藤は,まずは各部門に配分してそれから各従業員に配分するという

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