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アメーバ経営

ドキュメント内 2019 年度テーマ研究論文 (ページ 55-59)

第 3 章 イネーブリング・コントロールを用いた日本企業の管理会計システムの設計・

第 2 節 アメーバ経営

ちいち人間の身体でいえば脳に相当する生産管理部や工務部などに問い合わせなくとも 自らの判断でできるような現場にするということである。

私はトヨタ自工の場合,「ジャスト・イン・タイム」の思想を生産現場に深く広く浸透 させていることと,「かんばん」の使い方のルールを徹底させることで自律神経が備わっ てきたと考える。(大野,1978,pp.81-82)

最後に,イネーブリング・コントロールの 4 つのデザインの特徴と組織業績の関係は,

「自動車の製造原価低減」から観測された。大野(1978)は以下のように述べている。

トヨタ生産方式における「経済性」の考え方を,「工数低減」と「原価低減」の関係を 通じて具体的に述べてみよう。

この両者の関係を先に明らかにするために,企業存続・企業発展の最大条件たる「原価 低減」を実現する手段の一つとして「工数低減」策をここで考えてみたいのである。

トヨタ式工数低減活動は生産現場に関する全社的活動であり,その目的は,再びいうが

「原価低減」なのである。したがって,いろいろな考え方も,改善の方策も,せんじつめ れば,すべて原価低減につながっていなければならないのである。(大野,1978,p.94)

このように,イネーブリング・コントロールの4つのデザインの特徴が,従業員の「知 識や経験」を活用し自動車の原価低減をする目的で設計されており,このコスト削減がひ いては組織業績につながっている。

経営と呼ばれているものである」(p.116)とある。また,アメーバ経営学術研究会(2010)

によると「アメーバ経営とは機能ごとに小集団部門別採算制度を活用して,すべての組織 構成員が経営に参画するプロセスである」(p.20)27とある。この定義における小集団は,

アメーバと呼称され,事業部制などよりさらに小さい組織を指す。アメーバ経営では,こ の組織に対して部門別採算制度を適用する。また,機能別という点では,本来製造ライン の1つの工程といった製販両機能を有していない組織であっても,社内売買等によってプ ロフィットセンター化しているという特徴を持つ。さらに,すべての組織構成員が経営に 参画するという点については,機能別に編成された小集団に会計上の責任が付与され,十 分な情報フィードバックとともに経営判断を行う権限が委譲されている。最後にアメーバ 経営をプロセスとして規定しているのは,アメーバ経営をツールの集合体としてではなく,

動的な活動過程として捉えているためである。

次に分析枠組みをアメーバ経営に当てはめて,イネーブリング・コントロールの4つの デザインの特徴を観測した上で,イネーブリング・コントロールが活用する従業員の「知 識や経験」を指摘し,それらがどのように組織業績につながっているかを分析する。

まず,分析枠組みをアメーバ経営に当てはめた結果を図表5に示しておく。

図表5:分析枠組みのアメーバ経営への当てはめ

27 アメーバ経営学術研究会(2010)によると,本定義は将来の研究や実務の発展の制約と ならないよう暫定的なものであり,今後の研究で見解が変わる可能性がある。

出所:筆者が作成。

修復能力及び柔軟性は,「小集団部門別採算制度」から観測された。稲盛(2000)によ ると「各アメーバはそれぞれがプロフィットセンターとして運営され,あたかも一つの中 小企業であるかのように活発に活動する。そのリーダーには,上司の承認は必要だが,経 営計画,実績管理,労務管理などの経営全般が任されている」(p.116)とある。アメーバ 経営では,機能別に編成された小集団に会計上の責任が付与され,十分な情報フィードバ ックとともに経営判断を行う権限が委譲されている(柔軟性)。これにより,現場のアメー バリーダーが裁量を持ってアメーバの採算を意識しながら,業務遂行上の異常や問題がど こにあるのかを突き止め,その解決に取り組むことができる(修復能力)。

内部透明性は,「時間当り採算」から観測された。稲盛(2000)によると「私は,われ われが日常働く中で生み出しているこの付加価値をできるだけわかりやすく表現するため に,単位時間当りの付加価値を計算して「時間当り」と呼び,付加価値生産性を高めてい くための指標とした。そして,「時間当り採算表」を管理部門に毎月作成してもらい,現場 で作業している従業員にも採算が簡単に理解できるようにしたのである」(p.118)とある ように,時間当り採算の作成にあたって従業員が理解しやすいことを念頭においている。

時間当り採算という会計数値がオープンになることで,従業員の業務遂行が時間当り採算 に落とし込まれ,同時に時間当り採算を通じて業務遂行の過程が可視化されるようになり,

さらにその会計数値にアクセスできるようになっている。具体例として,京セラミタのケ ーススタディ(谷・窪田,2012)が挙げられる。谷・窪田(2012)は以下のように述べて いる。

従業員に時間当り採算という目標を与えることで経営に参画させ,その目標の達成に向 けて努力するとい考えを根付かせた。数字に対する責任によって,参画型メカニズムが形 成されたといえる。

…(中略)…。従業員は,昔とは正反対に会計数値をオープンにされることで,数値目 標の達成の重要性を認識した。数字がオープンになることで経営に参画する楽しみも生ま れるが,同時に責任も生じる。(谷・窪田,2012,p.115)

このように,京セラミタでもアメーバ経営において内部透明性が観測されている。

全体透明性は,「時間当り採算」及び「経営トップによる方針や業績の伝達」から観測 された。稲盛(2000)よると「あるアメーバの正味の生産高である「総生産」が,全社の 生産高に対してどれだけ貢献したかもすぐわかるようになっている。この結果,社内向け の生産しかしていないアメーバでも,その「総生産」は会社全体の生産高に貢献している ことが明確に認識でき,会社としての一体感も高めることができるのである」(p.120)と あるように,時間当り採算を通じて,各アメーバが自らの成果を全社の視点から理解でき るようになっている。また,稲盛(2000)では「たとえば,京セラの経営方針は,大きな 労力を費やして社員一人ひとりに伝達される。年初には社長より経営方針が発表され,本 社所在地域にいる中堅以上の幹部社員に対して直接発表されるが,それは同時に各地の工 場には衛星中継されている。社長の経営方針を聞いた幹部は,職場でその内容を部下たち に伝える。その後,職場の全員が交代でビデオに録画された社長の話を聞く。このように して全社員が経営方針の中で説明される,会社およびグループ会社全体の経営方針ととも に,具体的な経営目標,およびそのための具体的政策を正しく理解できるになっている」

(p.142)とある。経営トップが方針や業績を現場に伝えることで,従業員自らの位置付 けや部門の状況を可視化しており,それにより従業員が事業全体の採算や製造ラインを踏 まえた設計を取り組むようになっている。具体例として,京セラミタのケーススタディ

(谷・窪田,2012)が挙げられる。谷・窪田(2012)によると「クライアントである従業 員は,経営破綻という失敗経験を真摯に受け止め,事業の立て直しのために経営トップの

方針に素直に対応した。経営トップが方針や業績を現場に伝えることで,クライアントは 徐々に組織にコミットするように変化した。バーチャル組織を含め,製造が主役という意 識が醸成され,開発・生産技術の有能なスタッフは事業全体の採算や製造ラインを踏まえ た設計に取り組むようになった」(p.115)とあるように,京セラミタでもアメーバ経営に おいて全体透明性が観測されている。

イネーブリング・コントロールが活用する従業員の「知識や経験」は,①従業員の京セ ラフィロソフィの理解・納得及び②従業員のアメーバ経営の知識の定着である。京セラで は,従業員へのフィロソフィ及びアメーバ経営の教育を行っており(庵谷,2018,pp.42-43), フィロソフィの理解がアメーバ経営の理解を深めている。具体例として,京セラミタ株式 会社(以下,京セラミタ)のケーススタディ(谷・窪田,2012)28が挙げられる。谷・窪 田(2012)によると「叱咤激励を伴う山際氏の教育により,現場従業員はフィロソフィを 理解・納得し,それが次第に結びつくようになった」(p.114)や「京セラミタでも,三田 工業にいた有能な人物を発掘して,その者たちにフィロソフィやアメーバ経営の知識を移 転させていた」(p.115)とある。

最後に,イネーブリング・コントロールの4つのデザインの特徴と組織業績の関係は,「時 間当り採算」から観測された。「京セラのアメーバ経営をささえる管理会計のしくみは,時 間当り採算の計算である。これは,非常に簡単に付加価値を計算するしくみである。その 構造は,非常にシンプルなつくりになっている。そのシンプルさゆえに,時間当り採算は,

目標指標として機能する一方,最終的企業利益につながるものとして,結果指標としても 意味を持つ指標になりうるのである。アメーバの構成員は,時間当り採算をたかめようと 努力するが,そのためにどういう行動をとったらよいかが明確になっている。そしてその ように行動した結果が,予想通りの結果となって時間当り採算のなかにあらわれるのであ る」(尾畑,2005,p.61)とあるように,アメーバ経営におけるイネーブリング・コント ロールの4つのデザインの特徴が,従業員の「知識や経験」を活用し時間あたり採算を向 上させることで,組織業績に貢献している。

ドキュメント内 2019 年度テーマ研究論文 (ページ 55-59)