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トヨタ生産方式

ドキュメント内 2019 年度テーマ研究論文 (ページ 51-55)

第 3 章 イネーブリング・コントロールを用いた日本企業の管理会計システムの設計・

第 1 節 トヨタ生産方式

出所:Aherens & Chapman2004)等を参考に筆者作成。

次章では,本章のリサーチクエスチョン及びリサーチデザインを踏まえた上で,分析枠 組みを日本企業の管理会計システムの設計・利用方法に当てはめていく。

第 3 章 イネーブリング・コントロールを用いた

ように組織業績につながっているかを分析する。

初めに,トヨタ生産方式の概要を説明する。前田(2009)によると,トヨタ生産方式と は,①作りすぎのムダがないよう市場需要の台数だけを生産する,②人を増やさないで生 産性を向上させていく,という生産部門への期待に応えるために大野耐一氏らが築きあげ た生産体系である。①の期待に応えるには各製造工程が連携して市場需要の台数を生産す るシステムが必要であり,そのシステムが「ジャスト・イン・タイム」である。また,② の期待に応えるには一人一人の作業者の作業能率を上げるとともにその代わりに生じうる 品質・安全などの問題を予防するシステムが必要であり,そのシステムが「自動化」だと 考えられる。

次に分析枠組みをトヨタ生産方式に当てはめて,イネーブリング・コントロールの4つ のデザインの特徴を観測した上で,イネーブリング・コントロールが活用する従業員の「知 識や経験」を指摘し,それらがどのように組織業績につながっているかを分析する。

まず,トヨタ生産方式を分析枠組みに照らした結果を図表4に示しておく。

図表4:分析枠組みのトヨタ生産方式への当てはめ

出所:筆者が作成。

修復能力及び柔軟性は,「ジャスト・イン・タイム」及び「かんばん」,「自働化」から

測定された。ジャスト・イン・タイムの条件を満たすためには,「後工程から,必要なもの を,必要な時に,必要なだけ,前工程に引き取りに行き,前工程は引き取られた分だけつ くる」という後工程引取り方式を実施する必要があった。そこで,後工程から前工程に向 けて日々の顧客オーダーに基づく市場需要の情報が流れ,それに基づいて各工程が自工程 の日々の生産量を判断できるようにするために「かんばん」が生み出された(前田,2009)。 大野(1978)によると「生産管理部が伝票を切る,計画変更書を出す,そんなことをやら なければ動き出さないようでは,企業はヤケドや大怪我から免れることはできないし,大 きなチャンスを逃してしまう。変更を変更と気付かせないような微調整機能を企業内に備 える」(p.186)ことができることに,かんばんの意義があるという。さらに,前田(2009)

は,「かんばんは市場需要の情報を提供するものであると同時に,ジャスト・イン・タイム のシステム内で用いられると,各工程の作業者たちに後工程(ひいては自動車購入者)へ の責任を果たすための改善を行うように影響を及ぼす機能も有する」(pp.44-45)と述べて いる。

自働化では,作業能率を可視化する仕組みとしての作業標準が定められた。前田(2009)

によると,作業標準とは以下のようなものである。

品質や安全の低下は,モノや作業者に関わって起こり,それは目で見て把握できる。そ のため,異常が発生した際に,その被害が拡大しないようにしたり,それを発生させない ように改善策を講じることができる。一方,作業能率は目で把握することができない。そ のため,作業能率を可視化させる手段が必要となる。その手段こそ,作業標準であった。

…(中略)…。作業者の能率を上げるには,熟練した現場監督者が作業者たちの作業を 指導しなければならない。だが,そもそも各作業者についての現場が分かり,それが良い ものか悪いものかを判断できなければ指導などできない。そこで,1952 年,トヨタは作 業標準をマニュアル化させた「標準作業票」を作成し,これを通じ,監督者に各作業者の 能率を目で見て管理させたのである。(前田,2009,p.45)

トヨタの大きな特徴として,この作業標準の設定を生産技術者などのスタッフ部門に行 わせず,製造部門の当事者に行わせた。

以上より,ジャスト・イン・タイムと「かんばん」の両仕組みを通じて,現場の従業員 は後工程に対する責任に対し自己の裁量の下で(柔軟性)業務遂行上の異常や問題がどこ

にあるのかを突き止め,改善を行なうことができるようになっている(修復能力)。また,

作業標準の設定においても作業者が自身で作業標準の設定を行い(柔軟性),それを用いた 品質・安全の低下につながる異常の発見・防止に対する改善(修復能力)がみられる。

内部透明性は,「コストの見える化」から観測された。見える化により長年経理部の機 密事項であったコスト情報がオープンになり,現場従業員がコスト情報にアクセスできる ようになった。また,見える化により活動した結果がすぐに可視化されるようになった。

挽(2005)では,トヨタ生産方式における見える化について以下のように述べている。

トヨタでは,長年にわたりコスト情報は経理部の機密事項であったが,20 世紀末より 経理部はその「見える化」と共有化に着手し,後述するように工場にも原価情報を「見え る化」した。…(中略)…。「見える化」の目的は,会計情報を見えるようにすることに よって,望ましい活動を促進させることにある。差額目標から絶対値目標への移行は,「見 える化」のための1つの手段である。

…(中略)…。「見える化」により望ましい活動を促進させるためには,活動とその活 動成果を示す会計数値とが直結している必要がある。…(中略)…。

「見える化」の目的を達成するためには,会計数値を見せるタイミングも重要である。

活動が行われたら,すぐにその結果を「見える化」することにより,より早く活動を促進 させることができるからである。(挽,2005,p.115)

全体透明性は,「コストの見える化」から観測された。コストが見える化されているこ とによって,活動とその活動成果を示す会計数値とが直結し改善の効果が見えるようにな った。その結果,原価企画において自らの活動がどのように総原価低減に貢献しているか を理解できるようになった。

イネーブリング・コントロールが活用する従業員の「知識や経験」は,①ジャスト・イ ン・タイムの思想の理解及び②「かんばん」の使い方のルールの定着である。大野(1978)

は以下のように述べている。

私どもの生産現場についていえば,自律神経とは,現場の自主判断機能ということであ る。今日はもうこれ以上つくらなくてもよいとか,いろいろな部品をつくる順序であると か,あるいは今日は残業してでも一定数をつくらなければならないとかいった判断を,い

ちいち人間の身体でいえば脳に相当する生産管理部や工務部などに問い合わせなくとも 自らの判断でできるような現場にするということである。

私はトヨタ自工の場合,「ジャスト・イン・タイム」の思想を生産現場に深く広く浸透 させていることと,「かんばん」の使い方のルールを徹底させることで自律神経が備わっ てきたと考える。(大野,1978,pp.81-82)

最後に,イネーブリング・コントロールの 4 つのデザインの特徴と組織業績の関係は,

「自動車の製造原価低減」から観測された。大野(1978)は以下のように述べている。

トヨタ生産方式における「経済性」の考え方を,「工数低減」と「原価低減」の関係を 通じて具体的に述べてみよう。

この両者の関係を先に明らかにするために,企業存続・企業発展の最大条件たる「原価 低減」を実現する手段の一つとして「工数低減」策をここで考えてみたいのである。

トヨタ式工数低減活動は生産現場に関する全社的活動であり,その目的は,再びいうが

「原価低減」なのである。したがって,いろいろな考え方も,改善の方策も,せんじつめ れば,すべて原価低減につながっていなければならないのである。(大野,1978,p.94)

このように,イネーブリング・コントロールの4つのデザインの特徴が,従業員の「知 識や経験」を活用し自動車の原価低減をする目的で設計されており,このコスト削減がひ いては組織業績につながっている。

ドキュメント内 2019 年度テーマ研究論文 (ページ 51-55)