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システムのデザインに関する研究(サーベイ)

ドキュメント内 2019 年度テーマ研究論文 (ページ 32-38)

第 1 章 先行研究レビュー

第 4 節 システムのデザインに関する研究(サーベイ)

第1項 Narango-Gil & Hartmann(2006)

Narango-Gil & Hartmann(2006)は,トップ・マネジメント・チーム(TMT)が専 門職タイプであるかまたは管理職タイプであるかによって,マネジメント・アカウンティ ング・システム(MAS:Management Accounting System)の利用方法が異なり,そのこ とが戦略実行に影響を与えることを明らかにすることを目的とする研究である。特に

「TMTタイプがMASの利用方法に違いを生じさせ,そのことが戦略実行に影響を与える」

というこの研究で発見されたフレームワークが,コアーシブ・イネーブリングのフレーム ワークにも適応できるという結果が重要である。

Narango-Gil & Hartmann(2006)は,スペインを拠点とする218の一般的な病院にお ける,92のTMTを構成する884人のTMTメンバーを対象とした,質問票調査による定 量的分析である。

Narango-Gil & Hartmann(2006)によると,専門職タイプ18のTMTは,MASのイネ ーブリング利用に正の影響を及ぼしており,また MAS のイネーブリング利用は,コスト 重視戦略と柔軟性戦略の両方に正の影響を及ぼしている。特に後者の関係は,Ahrens &

Chapman(2004)で述べられている,イネーブリング・コントロールは組織の効率性と 柔軟性を同時に達成するという主張を支持するものである。一方で MASのコアーシブ利 用は,コスト重視戦略に正の影響を及ぼしている。

Narango-Gil & Hartmann(2006)では,MASのコアーシブ利用を,MASの診断的利 用,MASにおける財務情報の利用,業績測定へのMAS利用の3つから成ると定義し,一 方でMASのイネーブリング利用を,MASのインタラクティブ利用,MASにおける非財 務情報の利用,資源配分へのMAS利用の3つから成ると定義している。この前提を踏ま えた上で当該研究で注目すべきなのは,MASのコアーシブ利用とMASのイネーブリング 利用のそれぞれの構成要素単位では見られていた MAS と戦略の関係性が,コアーシブ・

イネーブリング単位では見られなくなる点である。具体的には,以下のとおりである。① MASのイネーブリング利用の構成要素であるMASの非財務情報の利用はコスト重視戦略 に負の影響を及ぼしていたが,MAS のイネーブリング利用はコスト重視戦略に正の影響 を及ぼしている。②専門職タイプのTMTは,MASにおける財務情報の利用とMASの診 断的利用に負の影響を及ぼしていたが,専門職タイプのTMT はMAS のコアーシブ利用 に影響を及ぼしていない。③MAS における財務情報の利用は,柔軟性戦略に正の影響を 及ぼしていたが,MAS のコアーシブ利用は柔軟性戦略に影響を及ぼしていない。これら の点について当該研究は,各MAS間に相互関係があること及び,同一目的の戦略実行(例 えば,コスト重視戦略)には様々なMAS 利用パターンや組み合わせが考えられることを 指摘している。

第2項 Chapman & Kihn(2009)

Chapman & Kihn(2009)は,ERP(Enterprise Resource Planning systems)に代表

18 Narango-Gil & Hartmann(2006)では,トップ・マネジメント・チーム(TMT)の タイプを専門職(臨床)分野と管理職(全般管理)分野におけるマネジャーの教育や経験 の年数によって区別している。

されるISI(information system integration)が,どのように業績を向上させようとして いるマネジャーを支援するかを明らかにすることを目的とする研究である。特に,当該研 究では,ISIが予算利用におけるイネーブリング・コントロールの 4つのデザインの特徴 に与える影響と,予算利用におけるイネーブリング・コントロールが部門業績に与える影 響を分析している。また,当該研究では,Ittner et al.(2003)に則り,システムの成否 と財務・非財務的な部門業績を区別するために,システムの成否19と財務・非財務的な業 績20を別々の構成概念としている。

Chapman & Kihn(2009)は,フィンランドの大企業群からランダムに抽出した86社

の経営管理者300名(職能は,財務,生産,R & Dである)を対象とした,質問票調査に よる定量的分析である。

Chapman & Kihn(2009)によると,ISIはシステムの成否との間に正の関係を有して

いるが,部門業績との間には関係を有していなかった。また,ISI は予算利用におけるイ ネーブリング・コントロールの柔軟性を除く3つのデザインの特徴に対して正の影響を与 えており,一方で,柔軟性に対して負の影響を与えていた。このことについて,当該研究 は,ISI の文脈において予算の柔軟な利用は困難であることを示唆し,また,柔軟性はイ ネーブリング・コントロールの重要な一部ではあるが,業績を達成する必要条件ではなく 十分条件であると言っている。つまり,柔軟性を業績につなげるには,それをサポートす るような構造が必要であるということである。

予算利用におけるイネーブリング・コントロールの柔軟性を除く3つのデザインの特徴 は,システムの成否との間に正の関係を有していた。また,予算利用におけるイネーブリ ング・コントロールの 4 つのデザインの特徴は,概ね部門業績に正の影響を与えていた。

具体的には,修復能力は財務業績とマーケット業績に正の影響を与えており,全体透明性 はマーケット業績と社会的責任に正の影響を与え,柔軟性は財務業績に正の影響を与えて

19 Chapman & Kihn(2009)は,システム(予算システム及びISI)の成否を,①コスト

を上回る便益を得られているか,②そのシステムが部門を管理するために適しているツー ルであるか,の観点から測定している。

20 Chapman & Kihn(2009)は,財務・非財務の観点から,部門業績を①財務業績,②

マーケット業績,③社会的責任に分類している。このうち,財務業績はROI(return on

investment),利益,営業キャッシュフローで測定している。また,マーケット業績は新

製品の開発,売上量,マーケットシェア,マーケット成長で測定している。さらに,③社 会的責任は個人の成長,政治・公共的事象で測定している。

いる。一方で,内部透明性は財務業績に負の影響を与えており,これは,財務業績が悪化 しているときに内部透明性が財務業績に正の影響を与えることを示唆している。つまり,

良い財務業績のときより悪い財務業績のときに内部透明性をもたらす予算の詳細な調査・

調査が行われるということである。

予算におけるイネーブリング・コントロールの4つのデザインの特徴間の関係について は,修復能力は内部透明性及び全体透明性と正の関係を有し,内部透明性と全体透明性は 正の関係を有している。一方,柔軟性は他の3つのデザインの特徴と関係を有していない。

第3項 Hartman & Maas(2011)

Hartmann & Maas(2011)は,コントローラーの役割21に対する不確実性22の直接的な 影響及び予算コントロール・システムの役割23に対する不確実性の間接的な影響を明らか にすることを目的とする研究である。

Hartmann & Maas(2011)は,CI(Controllers Instituut)に登録されているオラン ダの中規模から大規模の企業における分権化された事業部のうち,134の事業部のコント ローラーを対象とした質問票調査による定量的分析である。

Hartmann & Maas(2011)によると,コアーシブな予算の利用及びコントローラーの 企業警察としての役割は,どの不確実性のタイプにも影響を受けていない。これは,事業 部のマネジャーの意思決定をコントロールする重要性は不確実性のタイプと無関係である ことを意味している。この発見は,不確実性が増加するほどコントロール・システムは厳 格度が低い(looser)ものにすべきとする先行研究と矛盾する。

また,当該研究は異なる不確実性のタイプとイネーブリングな予算の利用の関係につい て興味深いパターンを示している。予期できない外部要因によって特徴付けられる不確実

21 Hartmann & Maas(2011)では,コントローラーの役割をビジネス・パートナーとし

ての役割(Business Partner Role)と企業警察(Corporate Policeman Role)としての役 割の2つに分類している。

22 Hartmann & Maas(2011)では,不確実性のタイプを①環境不確実性(Environmental Uncertainty),②タスク不確実性(Task Uncertainty),③他事業部からの影響(Impact Of

Others),④他事業部への影響(Impact On Others)の4つに分類している。

23 Hartmann & Maas(2011)では,予算コントロール・システムの役割をイネーブリン

グな予算の利用とコアーシブな予算の利用の2つに分類している。

性(環境不確実性や他事業部の影響)は,イネーブリングな予算の利用に正の影響を及ぼ していた。一方,タスク不確実性はイネーブリングな予算の利用に影響を及ぼしておらず,

他事業部への影響はイネーブリングな予算の利用に負の影響を及ぼしていた。この結果は Hartmann(2005)の異なる不確実性のタイプは予算の利用に異なる影響を及ぼすとする 結論を確かめるものである。

加えて,当該研究は予算コントロール・システムの役割(イネーブリングな予算の利用 とコアーシブな予算の利用)と事業部のコントローラーの役割(ビジネス・パートナーと しての役割と企業警察としての役割)の関係性にも着目している。当該研究によると,イ ネーブリングな予算の利用はコントローラーのビジネス・パートナーとしての役割に正の 影響を及ぼしており,またコアーシブな予算の利用はコントローラーの企業警察としての 役割に正の影響を及ぼしている。さらに,イネーブリングな予算の利用はコントローラー の企業警察としての役割に正の影響を及ぼしている。これは,厳格度の低い予算を用いる 場合,部分最適を防ぐためのコントローラーの役割が重要になることを意味している。

第4項 中川・近藤・西居(2013)

中川・近藤・西居(2013)は,親会社による効率的な管理体制下において海外子会社の 現地環境に対応する自律的な行動を可能にするマネジメント・コントロールの分析フレー ムワークとして,イネーブリング・コントロールの適用可能性を検討することを目的とす る研究である。当該研究で注目すべきなのは,イネーブリング・コントロールの4つのデ ザインの特徴に関する定量的検証は先行研究においてほとんど行われていないため,構成 概念を測定する質問項目を独自に開発している点である。

中川・近藤・西居(2013)は,東洋経済新報社の海外進出企業データベースとダイヤモ ンド社の役員・管理職情報ファイルを用いて分析対象企業を選出し,海外進出企業 4,333

社5,410部門に対して質問票調査による定量的分析を行った。

中川・近藤・西居(2013)によると,構成概念妥当性はイネーブリング・コントロール を分析フレームワークとする可能性として考慮しうる程度の水準にある。これは,海外子 会社内の経営管理実践には,管理体制の公式化と深く関連したイネーブリング・コントロ ールの4つのデザインの特徴が想定しうることを意味している。しかし,柔軟性に関して は他のデザインの特徴との間に有意な関係が観測されず,また,公式化との間では唯一弱

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