子化された会計情報の展開
要約:
第1節では、会社登記を電子化によって企業情報を推進するアプローチをオーストラリアは採用 していることを紹介している。その結果、企業が非上場企業も財務諸表などを登記することになる から、海外企業の子会社も財務諸表の登記が必要になる。第2節では、現在の会計における電子化 の展開を紹介する。電子化された内部統制や企業情報の電子開示によって、企業リスクが軽減され ていることを紹介する。
第1節 オーストラリアにおける電子登記の構造
(1)電子化された会社登記の概要、
英国の制度を継受するオーストラリアでは法務行政の一環として、会社関係の登記制度 が機能してきた。上場の有無にかかわらず、全ての法人は会社番号が割り振られ、名刺を 含めたすべての会社書類に会社番号を明記する義務がある。そこで役員などの登記が電子 的に行われている。これが、アスコット・システムと呼ばれる登記制度である。
ここでは全ての株主が個人である場合を除き、勅許(公認)会計士の監査済み財務諸表 などが登記の対象となってきている。これの閲覧には料金が必要であり、閲覧者自身が登 録者となるか、あるいは登録代理人を通じて財務資料を入手することになる。
このために、米国型の上場企業のみを専らの対象とする財務諸表開示制度とは異なって おり、非上場の外国企業の子会社であっても、監査済みの財務諸表の登記が必要となるか
ら、目本企業も監査済みの財務諸表を提出し、電子開示しなければならない。
会社の登記番号はその会社の納税者番号とも対応しており、税務当局の徴税事務の軽減 にも貢献している。
(2) 非上場企業の電子開示の長所
目本や米国型の電子開示システムは上場企業の財務開示を目的としている。したがって 非上場企業の財務情報は開示されない。そこでは、ある会社にとって必要な財務情報は連 結情報に取り込まれていることになる。しかし、連結子会社かどうかの判定は容易ではな
い。
オーストラリア型の開示制度では、基本的には全ての法人の財務1青報を開示することに なっているから、仮に連結子会社に漏れた場合でも財務情報は入手可能である。資格があ
り職魚倫理規則に服する専門家による監査を法定していることで、企業の持続可能性を向 上させようという目的であり、これによってオーストラリアでは企業犯罪の抑止に寄与し
ている。
(本章は、オーストラリア学会『オーストラリア研究8』第9号、1997.12。に所収の同名 の論文を加筆要約したものである。)
第2節 電子化された会計情報
(1)はじめに
1949年にイタリアの数学者であるルカ・パチョーリ38)が複残簿記0原理を著書「 SUmade しArithmetica,Geometria,Proportioni et Proportionalita (算術、幾何、比および比 例に関する全集)」で紹介してから以来、最近の10年間こそが最も大きく変貌を遂げた時 期であるといえよう。その理由は、I Tが会計に与えている影響は非常に多岐にわたるか らである。現在、ルカ・パチョーリの説いた手書きの仕訳帳を実際に使用している目本企 業は皆無であろう。手書きの仕訳帳は、すべからくコンピュータに置き換わってしまった
からである。
I T技術なくしては、企業は社会が求める適時・範囲・品質に即した会計情報を提供す ることはできない。このような社会が求める拡大する会計情報を提供することで、企業は 持続的な成長を可能にしている。
ここで会計に寄与しているI T化技術は何かと言えば、従来の帳簿組織に置き換わった 財務パッケージであり、、さらにER Pソフトである。また、時価主義会計を支えるのは、
複利による割引計算を容易に提供しているエクセルなどの表計算ソフトである。本社子会 社間の連絡や官庁への報告にはインターネットによる添付ファイル技術、また開示につい てもインターネットのブラウザ技術が不可欠である。内部統制では情報セキュリティ技術、
会計監査ではデータベース検索技術やデータ保存技術に支えられている。この結果、監査 法人や税理士法人における会計専門家が、I T専門家の意見に依拠する場合が少なくなく
ない39)。
38)ルカ・パチョーリ(Fra Luca Bartolomeo de Pacioli、1445年一1517年)は、イタリアの数学者 39) 1998年3月r監査基準委員会報告書第14号(中間報告)専門家の業務の利用」目本公認会計士協会
(2)適時・範囲・品質の観点による会計実務に対するIT化現象
(i)3つの観点の概要本稿の特徴は、様々な会計実務に対するI T化の展開現象を、適時・
範囲・品質という3つの観点から分析を施すものである。適時性は時間軸、範囲は空間軸、
品質とは信頼性の軸の3次元で表現すれば図表1で示され、社会が求める会計情報の方向 は右上に向かうベクトルで示されることになる。このベクトルを動かす原動力は、グロー バルな競争環境の中で、組織体の長期的な持続可能性40)を向上させるためと本研究では捉え
ておく。
図表8.1社会が求める会計情報の方向
品質
社会が求める会計情報の方向
適時性
(の会計情報の適時性第1の適時性に関しては、社会の要請が迅速な意思決定に役立っ会 計情報を求めているからに他ならない。その典型例が、取得原価主義会計から時価主義会 計への移行である。また、時価のない有価証券や固定資産に対する減損会計、賃貸用不動 産の時価情報開示である。時価主義会計では、割引現在価値法(DCF法)が多用される から、複利計算を簡単に処理できるエクセルなどの表計算ソフトが不可欠である。
有価証券報告書も従来の6か月決算を主体とした本決算と中間決算の年2回の開示から、
現在では四半期開示に増えている。有価証券報告書以外にも臨時報告書も金融庁の電子開 示システムで適時開示性が図られている。これに加えて目本には決算短信による開示制度
も併存する。
その結果、企業経営者は迅速な情報収集を図る必要が出てくる。とりわけグローバル企
40)勝山進「社会関連会計・環境会計・持続可能性会計」『會計』第163巻第4号2008年に、持続 可能性会計についての説明が詳しい。
業にとっては、I T技術抜きには四半期開示制度は成り立たない。例えば連結財務諸表作 成における情報のサプライチェーンにおけるI T技術を概観しただけでも、四半期報告な
どの会計情報の適宜性の確保するためにはI T化が不可避なことが分かる(図表2)。
図表8.2四半期報告制度の下での置丁化の例示
データ処理 関連するI T化の技術
1 本社・子会社での連結パッケ ージの作成
● 単体の財務諸表の迅速な作成にはE R Pが不可避
● 連結パッケージそのものが、エクセルなどでI T化
2 本社の連結担当部署への電 送
● FAXやフロッピー・ディスクから、インターネット網による送信に進化
3 本社での連結パッケージヘ の読み込み
● データの再入力ではなく、エクセルのマクロなどで対応
● XB RLによるフォーマット変更の煩雑性の回避
4 連結べ一スでの四半期報告 や有価証券報告書の作成
● 連結ソフトの活用
5 監査法人による監査または レビュー
● リスクアプローチによる財務分析に対する、パソコン利用による迅速化
● 監査調書の電子化
6 金融庁への報告 ● インターネット送信
● XBRLによるフォーマット変更の煩雑性の回避
7 利害関係者による閲覧 ● インターネット閲覧の提供
これ以外にも、銀行から目本銀行への財務1青報の提出、国税庁への電子申告など、報告 の迅速化のためなどでI T技術は多くで使われている。
このように適時性を実現するには多くのI T化費用が不可避であるし、時価情報を開示 すると利益変動性が増加して、却って企業の持続可能性に悪影響を与えるのではないかと いう懸念もある。しかし、適宜性を確保することは企業自身にとっても素早い対応が可能 になるものであり41)、かつての日本企業の含み益経営から含み損トバシ行為までを許した取 得原価主義会計の時代の反省に立脚しているのである。その意味で、適時開示の制度によ って業績の悪い企業は株価の低落によって他の企業の買収のターゲットになり、多くの場 合には他の上場企業のグループ子会社になって、倒産が回避され、経営資源が有効に使わ れて行くことになる。
41)トヨタ自動車による迅速な決算見通しも、適時開示システムの寄与が大きい。2008年12月23目r目 本経済新聞』 rトヨタ、生産抜本見直し、来期設備投資、1兆円以下に、今期営業赤・宇1500億円発表」
朝刊,1ぺ一ジ