を巡る諸問題
要約:
企業の持続可能性を強化するには、違法行為を戒め企業倫理の向上することがリスクを低下させ、有 効である。そこで、職業倫理に拘束されている会計専門家を利用することは意義深い。上場会社には外部 監査人に公認会計士あるいは監査法人を選任する義務があるが、同様に公認会計士を経理担当者や内部監 査人に雇用する場合もある。彼らが公認会計士協会の倫理規則を遵守することで、企業のコンプライアン ス・リスクを軽減することが期待できる。現時点では倫理規則の遵守の程度と倒産回避との統計はないが、
上場企業における倒産回避が大きい事実を支えている要因であろうと思われる。
第1節 上場企業における専門家の意義
上場企業においては公認会計と言う専門家による財務諸表監査が義務付けられている。非 上場企業ではこのような義務はない。上場企業の倒産は非上場企業の倒産と比較すると非常 に少ない一つの理由に、経営環境が厳しくなると予想される場合には予めM&Aなどによっ て経営統合や救済が行われ易い環境があるからである。財務諸表は監査を受けているし、重 要な不正も監査によって防止されている。
会計専門家が経理部長などの企業内で勤務すれば、どのような問題が起き得るのかを検証
する。
公認会計士にはr会計基準を守る」という使命があり、倫理規則を持ち、継続教育を受け、
一部の不正に関しては内部通報義務を負っている。
第2節 企業内会計士の倫理問題
企業内会計士であれども、公認会計士に登録している以上は目本公認会計士協会の制定す る倫理規則に拘束されることになる。その倫理規則は国際会計士連盟の雛型を踏襲したもの である。ここでも、企業内会計士は企業の就業規則とは別に会計士協会の規則に服すること が明記されているから、世界中の公認会計士が同様の義務を負っていることになる。
不正への本人の関与は当然に禁止されている。問題は不正の可能性をどの程度に容認する か、また、それに遭遇した場合にどのように対処すべきかである。企業内会計士の遭遇する 可能性のある不正には、裏金や違法取引などの金銭の収受を伴う不正支払い、不正受領の他
にも、税務申告や財務諸表での虚偽報告といった金銭の収受を伴わない不正がある。
目本公認会計士協会の倫理規則でも、不正を押し付けられそうなr脅威」には対処すべき 旨が記載されている。対処法には、上司やさらにその上部への相談、自己の所属する団体(目 本公認会計士協会)、弁護士などが挙げられている。しかし、このような行為が就業規則の 守秘義務違反に抵触するような場合にどちらを優先すべきかは明らかではない。さらに、ど
うしても脅威が除去できない場合には、辞職も検討しなければならないとしている。
この規定は、第3条のr概念的枠組みの適用」として知られている。つまり、第1項では、
第2条で規定する基本原則に対する脅威となる状況又は関係を認識した場合、その脅威の 程度を評価しなければならない。第2項では、会員は、その脅威の程度が明らかに些細な 場合を除き、適切な措置を検討し、適切な措置を講じて、脅威を除去するか又は許容可能 な水準にまで軽減しなければならない。
そこでは、会員は、脅威の程度を評価する際、量的要因と質的要因の双方を考慮しなけれ ばならない(第3項)。企業内会計士にとって厳しいのは第4項で規定するr脅威に対し適 切な措置を講じることができない場合、専門業務を辞退若しくは撤退するか、あるいは必 要に応じて、依頼人又は雇用主との関係を終了しなければならない」という既定で、結局 は辞職するか、配置転換を願い出るか、あるいは公認会計士の廃業しか選択肢はない。こ れを裏付けるために、第5項では、会員に対し、この規則の規定に違反していることに気 付いた場合には、その違反をすみやかに是正し、又は適切な措置を講じなければならない 義務を課している。
監査を行っている監査法人は金融商品取引法によって規制当局への不正通報義務が課せ られているが、企業内会計士による内部通報については明確ではない。倫理規則でも第2 条(守秘義務)第6項では、会員に対し、正当な理由なく、業務上知り得た秘密を他の者 に漏洩したり、自己又は第三者の利益のために利用してはならないと規定している。ここ で、業務上知り得た秘密とは、会員が、会計事務所等、雇用主(潜在的な雇用主を含む。)、
依頼人(潜在的な依頼人を含む。)及び業務上の対象となった会社等から知り得た秘密を含 めているから広範囲にである。
しかし、守秘義務と概念的枠組みの適用とのどちらが優先すべきかについて、明確では
ない。
このような大きな問題を抱えている企業内会計士であるが、このような倫理規則に拘束さ れる企業内会計士の存在は企業の法令順守に大きく貢献することになることは間違いない。
結果的には、企業の持続可能性を高めることになる。米国でも、公認会計士の中で半数以上 は企業などに勤務する公認会計士となっている。
図表6.1 A l C P Aにおける会員統計(2008年度)
開業(Public abcoujnting) 42.O%
企業内会計士(Business nad industry) 41.6%
教職(Educatio血) 2.3%
政府・自治体(Govemment) 3.5%
退職その他(Retired nad misc.) 10.6%
合計 100.0%
出典:A I C PAホームページ
図表6.2豪州勅許会計士協会における会員統計(2007年度)
開業(Public practice) 42%
企業内会計士(Co㎜erce) 39%
教職、政府・自治体その他(Education) 19%
合計 100%
出典:豪州勅許会計士協会ホームページ
このような企業内会計士の実態を目本公認会計士協会は把握すべきであるし、何ら かの方法でその統計資料を作成すべきである。
(本章は、日本監査研究学会『現代監査研究』第18号、2008年3月、にある同名 の論文に加筆要約したものである。)