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中村賢一氏による『海外駐在員の心得』 (1987年6月)を読む、

ドキュメント内 タイの自動車ディーラーの総合的研究 (ページ 94-98)

第2章 タイ日野自動車販売の歴史(前編)

1. 中村賢一氏による『海外駐在員の心得』 (1987年6月)を読む、

本稿の5.「中村賢一の経営哲学を検証する」に於いて、同氏がタイ日野自販の設立以来、経営 に関与した経験を基にして綴った、主に海外での企業経営に関する3通のメモを紹介した。それ らは、1975年から1981年に書かれたものである。その後1987年に、同氏が過去に著 述したものを『海外駐在員の心得』として集大成し、日野自動車工業の社員研修に於いて輸出部 門の責任者として使用し、社員に配布していたことが分かった。本稿作成後に、遺族の中村伸氏

(日野自動車工業、現輸出事業部長、タイ勤務経験あり)より同書の提供を受ける事ができた。

本著作は、A4版10頁で、内容は、海外駐在員の仕事・任務・適正・理想像(第1章~第3章、

第7章)、現地会社の経営(第4章)、現地庸員の士気向上(第5章)、本社と現地の板ばさみ(第 6章)、から成っている。全文紹介すると長くなり、一部紹介済み分との重複もあるので、この内、

これまで述べられて無かった部分の3章について紹介することとした。

現地会社の経営(第4章)は、筆者の海外勤務や、その後人事担当役員を勤務した経験から見 ても、極めて適正な記述が多く、今日でも全く古さを感じない。一つだけ挙げるとすれば、4番 の「すべて『話さなければ意は通じない』と肝に命ずべきである。」は当たり前であるが、以って 名言である。

現地雇員の士気向上(第5章)は、中村氏の指摘通り「基本的に異文化対応の問題そのもの」

である。その中でも、とりわけタイに関して造詣の深い同氏の指摘する、3番の「タイ国では、

『ボリサ』(会社)は『サバイ』(居心地の良い)と同時に『サノック』(楽しい職場)でなくては ならないと云う。物の面と共に心の面の豊かさも要求しているのである。」と言う指摘は、凡そタ イ研究者がこれまで指摘したことのない、実務経験者でないと分からない側面である。「タイ人は 勤勉性が足りない」と指摘する駐在員が多いが、「勤勉性の不足」と「楽しく仕事する」ことの微 妙な差を理解する事は、実は大変難しいのである。しかし、事実は中村氏の指摘の通りである。

本社と現地の板ばさみ(第6章)は、常に採り上げられる、古くて新しい問題である。これと 言った、解決策は無いので筆者はコメントを避けるが、最近ではかなりの企業が、地域本部を現 地に置くケースが多くなっており、余り話題にならなくなって来たように、筆者は感じている。

しかし、この問題は、この当時大いに議論された問題である。

2.『海外駐在員の心得』(抜粋)

(1)第 4 章 現地会社の経営

1 現地会社の経営の要諦は『仕事の運営』そのものよりも、むしろ『人の運営』であると云 っても過言ではない。

2 出向者である日本人社員、又、現地雇員も含め仕事にやり甲斐を感じさせ、総合戦力を発 揮させることが経営者の役割である。

3 異文化社会に育った現地雇員でも、誠意を以って接すれば意は必ず通ずると主張する人が

いるが、この考え方は正しくない。

すべて『話さなければ意は通じない』と肝に命ずべきである。

4 日本式の経営方針と外国式には大きな差があり、外国では夫々異なった固有な仕事のやり 方がある。夫々の異なったやり方に固執すると双方の間に亀裂が生じやすい。

5 これら如何に調整し、無理なく日本側に受入れられる様にするかが、現地会社の経営者の 仕事である。

6 現地会社経営の基本は、企業としての独自性と主体性が十分に発揮されるものでなくては ならない。

7 現地会社の特色は、経営の場が日本ではなく外国であると云う事である。

これは当然のことであるが、その当然が観念的に理解されていても実際の行動に反映され ないことが多い。

そして経営面での失敗の根本的な原因ともなっている。

8 日本人同志では、良く話し合えば意志の疎通を図れることでも、全く異なった文化的背景 の中で育った現地雇員との間では、異なった価値観、労働観、人生観の為、お互いに理解 できない事が多い。

この様な人達の間でお互いに協力関係を作り上げてゆくことは、如何に困難なことかが推 察できるであろう。

(2)第 5 章 現地雇員の士気向上

1 現地雇員に『やる気』を起させ仕事に『やり甲斐』を感じさせることは、現地会社の人事 管理上最も重要な事柄である。

2 現地雇員の士気向上を図る為にはどうしたら良いか。

給与面で優遇すれば従業員はやる気を起すと単純に考えることは、間違いである。

3 タイ国では、『ボリサ』(会社)は『サバイ』(居心地の良い)と同時に『サノック』(楽し い職場)でなくてはならないと云う。

物の面と共に心の面の豊かさも要求しているのである。

4 心の面での豊かさとは、仕事面での満足感を持つと云うことである。

一般的に現地雇員の心の中にある不満とは・・・

①現地会社は、日本人中心に動いている。

②現地雇員を責任あるポストに付けない。

③日系の会社はショブマニュアルが不完全で、ジョブディスクリプションも明確でない。

④日本人社員は情報ばかり収集したがるが、それに基いて決断することが少ない。

⑤日本人は、人種的偏見と不信感を感じさせる。

5 以上の不満をなくす為には、日本人社員の現地雇員への気配りである程度解決出来ようが、

根本的な解決策とはならない。

6 これは基本的に異文化対応の問題そのものである。

本社側としては、過去のケースで成功した対応策を良く整理して、海外に派遣される要員 に徹底的に教育する以外に方法はないだろう。

(3)第 6 章 本社と現地の板ばさみ

1 異文化適応や企業の国際化、現地化の問題に関連して『郷に入れば郷に従え』と云う諺が よく引用される。これは仲々、実行困難あると云っても、或程度は従わないと海外での生 活や仕事がうまく行かない。

2 現地に出来るだけ溶け込み、現地の人達の考え方にも理解を示し、現地的に行動すること は、海外で仕事をする上で欠かせない基本姿勢で或る。

3 本社から出された指示・命令に従って行動することは駐在員の義務であるが、その指示・

命令は必ずしも現地事情を十分に理解したものとは云えない場合もある。

特に、現地事情が激動する場合には、不適格な指示が出ることもあろう。

これにどの様に対応するかが、駐在員にとって大きな問題である。

4 駐在員とは、その行動が会社の業績に寄与すれば本社側で高く評価され、本人の昇進・出 世にも影響するので、日夜一生懸命に働いている訳である。

5 これが郷に従って行動し過ぎると本社側の意向に合わず、不満を抱かせることにもなる。

逆に本社の立場に立ち過ぎると、現地側の反発を買うことになるのである。

6 以上の二つの行動は本質的に背反関係にあって、駐在員としては基本的に矛盾する立場に ある。

これがしばしば本社と現地の板ばさみとなるのである。

(本社に)忠ならんと欲すれば、(現地に)考ならずと云った心境である。

7 現地会社の利益は、廻り廻って結局は本社の利益に連がって来る訳であるから、駐在員と しては当面は現地会社の利益優先を考えることは止むを得ないであろう。

然し乍ら、駐在員は最終的には本社の利益代表であることを常に忘れてはならないのであ る。

[参考文献]

○ 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科論集、16号、2008年10月。

○ 日野自動車工業『日野自動車工業40年史』東洋経済新報社、1983年。

○ 東思納寛惇著『泰ビルマ印度』、講談社、昭和16年。

○ 原田泰著『タイ経済入門』、日本評論社、1988年。

○ 末廣昭著『タイ―経済ブーム・経済危機・構造調整―』(財)日本タイ協会、

1998年3月。

○ 田坂敏雄著『バーツ経済と金融自由化』、お茶の水書房、1996年。

○ ネーションパブリッシング編『タイの華人財閥57家族』(株)NNA、2003年。

○ トヨタ自動車販売株式会社社史編集委員会編集『トヨタ自動車株式会社の歩み』、

(トヨタ自動車販売株式会社、1962年)。

ドキュメント内 タイの自動車ディーラーの総合的研究 (ページ 94-98)