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ここでは、ターンアラウンドに成功したそれぞれのリーダーによるリーダーシップの発揮 プロセスについて、組織の変革に着手し始めた頃の初期、変革の過程である中期、変革に成 功しその影響が浸透していった後期の3つの段階に分けて説明する。

円山動物園では、リーダーである園長は、着任した頃の初期には、組織を改善していくた め、職員から顧客サービスなどに関する提案やアイデアなどの意見を引き出すような行動を 行い、職員の顧客意識を高めるようなスタイルのリーダーシップを行っていった。

円山動物園のリーダーが初期の段階でこのようなスタイルのリーダーシップを行ってい ったのは、顧客の減少などにより低迷している組織を復活させていくためである。リーダー は、門外漢が、半世紀の歴史がある施設や組織を外圧だけで変えることは不可能であり、こ の危機を克服できるかどうかは、職員の意欲にかかっていると認識していた。このため、組 織を復活させていくには動物園の職員の力が必要不可欠であり、その力を引き出す必要があ ると考えていた。しかし、現状は組織の低迷などにより、動物園の職員のモチベーションは 低下していた。このため、リーダーは職員との面談や対話を積極的に行い、その面談や対話 を通じて、職員から顧客のためのサービスに関する提案やアイデアなどの意見を引き出して いくとともに、顧客意識も浸透させていこうとした。これは、顧客のためのサービスに関す る提案やアイデアなどを考えていくことによって、顧客を意識するようになっていくからで ある。また、リーダーが事務職員出身であり、動物園での勤務は初めてであったことも、職 員の力を活用していこうと考えた動機になっていたと考える。

中期の段階では、リーダーは、職員の顧客サービスに関する提案やアイデアなどの意見を 積極的に採用し、職員が自主的に意見を出すよう促すとともに、フォロワーをサービスの前 面に出し、職員と顧客の距離を近づけるようなスタイルのリーダーシップを行っていった。

中期の段階で、リーダーがこのようなスタイルのリーダーシップを行っていったのは、職 員の提案やアイデアなどの意見を積極的に採用していくことで、職員の動機づけと参画意識 の向上を図っていこうとしたためである。これは、自分の提案やアイデアなどが採用される ことによって、職員は自分が高く評価されていると感じることができるからである。これに より、職員が自主的に意見を出すよう促すようにした。さらに、職員をサービスの前面に出

し、職員と顧客の距離を近づけるようにした。この例の1つとして挙げられるのが、顧客の 前で担当動物を紹介するものである。これは、顧客との距離が近づくことによって、職員に 顧客から見られていることを意識させ、職員が顧客を意識するようにするものである。

また、他人から注目されたりする状況では、人は「自覚状態」(self-awareness)24になり、

自分のもっている正しさの基準と現実の自己を比較し、基準が一致しない場合は、自己への 注意を回避するか、不一致を低減させようとする。ここでは、職員というのは、動物に関す る専門家(profession)である飼育員である。専門家であるため、ここでは「私的自覚状態」

(private self-awareness)25が働き、動物に関する説明はできて当然と考えるようになり、顧

客の前で担当動物を紹介するなど、自己への注意を回避するのではなく、不一致を低減させ ようとする行動を行った。このように、顧客の前面に出るようになったため、職員は、顧客 を意識するようになると考える。

後期では、リーダーは、職員の自主的な顧客サービスを認め、任せるようなスタイルのリ ーダーシップを行っていった。

後期の段階で、リーダーがこのようなスタイルのリーダーシップを行っていったのは、こ の段階では職員は自主的に意見を出し、行動するようになっているからである。この前の段 階では、職員の提案やアイデアなどを採用することよって、職員は自分が高く評価されてい ると感じることができるため、リーダーは職員の顧客サービスに関する提案やアイデアなど の意見を積極的に採用し、自主的に意見を出すよう促していく「他律的な外発的動機づけ」

によって、職員のモチベーションの向上を図っていた。これは、最初は他律的な外発的動機 づけが働くことによって職員のモチベーションが向上していたとしても、他律的な外発的動 機づけを本人自身が取り込んで内面化させることによって、同一化的動機づけや内発的動機 づけなどの「自律的動機づけ」に移行し、職員のモチベーションが向上してくるようになる からである26。さらに、職員と顧客との距離を近づけるようにし、職員に顧客から見られて

24 自覚状態(self-awareness)とは、自己フォーカスが高まったときの行動変化を説明しようとする 考え方である。自覚状態になると、人は正しさの基準(standard of correctness)と現実の自分の姿とを 比較し、基準に達していない(「負の不一致」という)場合は、注意を自己から逸らせて自覚状態を 回避しようとするか、不一致低減のため、基準と一致するように努力する(Duval and Wicklund, 1972;

押見, 1992)。

25 私的自覚状態(private self-awareness)とは、自分の気持ちや考えに忠実で個性的であろうとす る、自分の能力や感性を高めようとする行動ルール(自己実現基準)に従って振舞うようになること である(押見, 1992)

26 速水 (1998) では、従来の外発的動機づけと内発的動機づけという二律背反的な見方でなく、自己

決定性の低いものから高いものまでの連続的なものとして見ようとするものである。最初のきっかけ は他律的動機づけであっても、本人自身が取り込んで内面化させることによって、自己決定性の高い

いることを意識させていくことによって、職員の顧客意識が向上し、仕事そのものに対する 興味が向上していくことで、内発的動機づけなどの自律的動機づけの割合が高まっていくこ とも考えられる。自律的動機づけによって職務を行うようになった職員は、自主的に意見を 出したり、自主的に行動したりするようになる。このため、リーダーの行動は、職員の自主 性を認め、任せていくスタイルのリーダーシップになっていくと考える。

また、日本の組織の場合には、顧客や世間から注目されることによって、「恥の文化」に基 づく「恥ずかしくない行動をしたい」という動機づけ要因としても働く可能性がある。例え ば、Bedford and Hwang(2003)は、儒教的関係主義(Confucian relationalism)の文化では恥の

意識(shame)が、逆に西洋的個人主義(Western individualism)の文化では罪の意識(guilt)

が行動統制の機構として働くことを仮説的に主張している。佐藤(2015)は、伊那食品工業 の「良い会社をつくろう」という社是とそれをベースにした社員の日頃の行動を、「恥の意識」

という概念を用いて説明している。

それでは、はとバスの場合はどうであろうか。リーダーは、社長に着任した頃の初期には、

赤字を解消し、利益を生み出すような組織に改善していくため、自ら進んで顧客へのアプロ ーチを行うなど、自ら率先してフォロワーの手本となるような行動を行い、さらにフォロワ ーを顧客の前面に出すことによって、フォロワーを顧客視点へシフトさせるようなスタイル のリーダーシップを行っていった。これは、典型的な変革型リーダーシップ(transformational leadership)である。

はとバスのリーダーが初期の段階でこのようなスタイルのリーダーシップを行っていっ たのは、顧客を満足させるだけでなく感動させるような対応を行っていくことによって、赤 字が続いている組織を、利益を生み出し黒字を出すことができる組織に変えていくためであ る。その対応の1つとして、バスが出発する際、運転士もマイクを取って顧客へ挨拶すると いうものがある。バスが出発する際、ツアーに参加している顧客に対し、バスガイドや添乗 員が挨拶をするのは当然であり顧客満足につながるが、それでは顧客に感動を与えることは できない。顧客に感動を与えるためには、運転士もマイクを取って挨拶してはどうかと、リ ーダーは考えた。これで、顧客に新鮮な驚きを与えるに違いないと、リーダーは思った。と ころが、当初、運転士は応じてくれなかった。このため、自ら率先して現場に行き、出発前 のバスに乗り込んで顧客に挨拶するなど、リーダーは自ら率先して従業員の手本となるよう な行動を行っていった。さらに、従業員を顧客の前面に出すことによって、従業員を顧客か ら見られるようにし、従業員の視点が顧客へシフトするようにした。