本博士論文では、インターナル・マーケティングではリーダーシップが重要な役割を担っ ているため、インターナル・マーケティングにおけるリーダーシップの要素について、ケー ス・スタディ・リサーチをベースとした比較研究を行った。
ここでのリーダーシップとは、インターナル・マーケティングとしてエクスターナル・マ ーケティング、さらには、顧客に対して影響を及ぼす、ビジネスにおけるリーダーシップで ある。
ビジネス・リーダーシップの要素を抽出するため、5つの組織に対するケース・スタディ・
リサーチによる比較研究を行っている。比較研究では、それぞれの組織を1対1で突き合わ せ、合計で10回の比較を行った。
対象となる組織は、顧客や売上の減少などの低迷した状態から見事に復活を遂げた4つの 組織と、1つの機能不全の組織である。復活を遂げた4つの組織から、顧客の増加や満足度 の向上、売上の増加などに影響を及ぼしているリーダーシップの要素を抽出した。さらに 1 つの機能不全の組織は、比較研究によって、復活を遂げた4つの組織の優れた特徴的な要素 を浮き彫りにした。
このようにして、リーダーシップがインターナル・マーケティングとしてエクスターナル・
マーケティングに影響を及ぼし、さらには顧客の増加や満足度の向上、売上の増加などに影 響を及ぼしている要素を明かにすることができた。
また、復活を遂げた4つの組織において、低迷した組織のターンアラウンドに成功したリ ーダーのリーダーシップについても分析を行った。この分析では、組織のリーダーになって から成功に導くまでの期間を、初期、中期、後期の3つの段階に分け、それぞれのリーダー が行ったリーダーシップに関する特徴を抽出した。そして、それらのリーダーシップに関す る特徴を基に、リーダーシップのタイプに関して、新たな分類を行うことができた。
さらに、新たに分類したリーダーのタイプに対し、比較研究によって抽出した要素を対応 させていった。その結果、新たに分類したタイプのリーダーに必要となる要素についても明 らかにすることができた。加えて、組織の業績向上のためには、フォロワーの力を引き出し、
その力を発揮してもらうことが重要であり、その力を発揮してもらうことによって業績の向 上などの効果を上げていくには、いかにサーバント型のリーダーシップ・スタイルに移行し ていくのか、さらには移行できる状態に変えていくのかが重要であることも明らかにするこ
とができた。
また、インターナル・マーケティングにおいて、リーダーシップが重要な役割を担ってい ることも確認することができた。
今後の研究では、インターナル・マーケティングにおけるリーダーやリーダーシップだけ でなく、人事制度やキャリア設計などについても研究していきたいと考える。
補論:ケース(組織)の分析における比較の内容
この補論では、5つのケース(組織)について、それぞれ1対1で比較分析を行った内容 について述べるものとする。
1 中小組織支援相談所と円山動物園との比較分析
ここでは、中小組織支援相談所と円山動物園との比較分析を行った結果、どのようなリー ダーシップが起点になって、最終的に顧客の状況に変化を及ぼしているのかについて、順次 説明していく。
(1)リーダーシップに関する分析
円山動物園では、リーダーは顧客数を増やすため、顧客に訴求したいという顧客訴求意欲 があり、組織での考え方の基礎となるビジョン等は構築するが、業務に関してはフォロワー の力を引き出し、その効果を導き出すための対話を中心とした行動を行うリーダーシップ・
スタイルをとっている。
中小組織支援相談所では、リーダーにリーダーシップは存在しておらず、あるのはヘッド シップだけである。上位の職にある者から下位の職にある者へ指示や命令などの行動を行う ヘッドシップのスタイルをとっている。ヘッドシップはリーダーシップではないが、あえて これをリーダーシップの視点から見ると、マイナスの効果となる。
円山動物園と中小組織支援相談所の比較では、顧客訴求意欲、組織での考え方の基礎構築、
人的資源効果導出力、リーダーシップの有無が相違点として挙げられる。顧客訴求意欲に関 しては、円山動物園のリーダーは顧客数を増やすため、顧客に訴求したいという顧客訴求意 欲があるが、中小組織支援相談所のリーダーにはない。組織での考え方の基礎構築に関して は、円山動物園では組織での考え方の基礎となるビジョン等を構築しているが、中小組織支 援相談所では構築していない。人的資源効果導出力に関しては、円山動物園のリーダーはフ ォロワーの力を引き出し、その効果を導き出すための対話を中心とした行動を行うが、中小 組織支援相談所のリーダーは行っていない。リーダーシップに関しては、円山動物園のリー ダーにはあるが、中小組織支援相談所のリーダーにはない。中小組織支援相談所のリーダー
にあるのは、ヘッドシップだけである。また、類似点は見当たらない。
それでは、このようなリーダーシップ又はヘッドシップのスタイルをとっている2つの組 織のリーダーの状態は、どのようなものなのであろうか。これについては、次で説明する。
(2)リーダーの状態に関する分析
組織の業績を改善するために重要なことは、当然のことであるが、リーダーのやる気であ る。リーダーは組織の要であり、リーダーにやる気がなければ、組織の業績は改善されない であろう。組織の業績を改善していくためには、リーダーの能力などが重要となってくる。
円山動物園では、リーダーは動物園を含む組織全体のトップである市長から任命され、円 山動物園の園長に就任した。市長がリーダーに対し、動物園の業績改善の期待があることを、
リーダーは知覚している。このため、リーダーは、顧客へ訴求し、動物園に顧客を呼び戻す ため、ビジョンや目標などの組織での考え方の基礎となるところを構築し、組織の業績を改 善しようとした。
しかしながらリーダーは、円山動物園の園長に就任する前は役所の事務職員として業務に 従事してきており、就任当初は動物の飼育や動物そのものなどの動物園業務に関する専門的 知識はなかった。さらに、門外漢が半世紀の歴史がある施設や組織を外圧だけで変えること は不可能であり、この危機を克服できるかどうかは、職員の意欲にかかっていると、リーダ ーは考えていた。またリーダーは、これまでの業務経験から、意思決定への参画が職員のモ チベーションを向上させることも認識していた。
このため、リーダーは、人的資源(人材)の力を引き出し、その効果を導き出す人的資源 効果導出力によって、組織の業績を改善しようと考え、部下から改善のための案を出しても らえるようなアプローチを行っていった。
このように、円山動物園では、リーダーは顧客訴求意欲と人的資源効果導出力のある人材 であった。
中小組織支援相談所のリーダーは、この組織にくる前は役所の行政職をしており、これま でルールに従って行動してきた。このため、自らがリーダーとしてビジョン等の組織での考 え方の基礎を構築する力がない。だから、中小組織支援相談所には組織での考え方の基礎が ない。
また、中小組織支援相談所の組織の形態は、顧客である会員組織で構成された総会を最高
意思決定機関とするライン組織であり、ほとんどの役員は会員組織の代表者で構成される外 部役員である。しかしながら、役員の中には役所を退職し、転籍してきた者がおり、その者 がマネジング・ディレクター(以下「MD」という)として中小組織支援相談所の組織の業務 運営における担当役員となっている。プレジデントはあくまでも形式上のトップであり、事 実上の組織のトップはMDとなっている。
このため、中小組織支援相談所のリーダーはMDのポストの者になるのであるが、このMD は、役所を退職した後、ただ単純に、従前から役所の転籍のポストとなっていたMDのポス トに就いただけである。だから、就任当初は中小組織支援相談所の業務内容や会員組織に関 する専門的知識があるわけでもなく、リーダーとして何らかの役割を担って役員になってい るわけでもない。このように、中小組織支援相談所では、リーダーに不適切な人材が就いて いるような状況となっている。
円山動物園と中小組織支援相談所の比較では、顧客訴求意欲、人的資源効果導出力、組織 での考え方の基礎構築が相違点として挙げられる。
顧客訴求意欲と人的資源効果導出力に関しては、円山動物園のリーダーは、顧客に訴求し ようとする顧客訴求意欲と、人的資源(人材)の力を引き出し、その効果を導き出す人的資 源効果導出力によって、組織の業績を改善した。一方、中小組織支援相談所のリーダーは、
顧客訴求意欲もなく、人的資源(人材)の力を引き出そうともしなかった。このため、組織 は改善しなかった。リーダーに顧客へ訴求したいという顧客意識がなければ、リーダーはフ ォロワーに対し、顧客のためになる影響力を与えることはないであろう。また、リーダー1人 だけの力では、組織の業績を改善させることは難しい。組織内部の資源、特に人的資源(人 材)の持っている力を引き出し、その効果を導き出すことは、組織の業績を改善させていく ために重要となってくる。組織での考え方の基礎構築に関しては、円山動物園ではビジョン 等の組織での考え方の基礎などを構築したが、中小組織支援相談所ではしなかった。類似点 としては、既述のとおり、就任当初はその組織や業務内容に関する専門的知識がなかった点 である。もちろん、専門的知識はある方が良いが、それは就任してから習得すれば良いこと であり、就任当初においては、組織の業績を改善するために必須となる要件ではなかったの である。円山動物園のリーダーのように、就任当初は自分に専門的知識がなくても、自らも 学習するとともに、フォロワーの力を引き出し、その効果を導き出すことができれば、組織 の業績を改善することは可能である。
それでは、このようなリーダーの状態が、どのようにフォロワーへのアプローチの違いと