アバタセプトを1群当たり雌雄各65匹のCD-1マウス3群に、投与量20, 65及び200 mg/kgで 週1回、最長88週間皮下投与した(表2.6.7.10-1 毒性試験概要表、4.2.3.4.1-1)。対照群の動物 には、生理食塩液又は溶媒(4%マルトース、10 mMリン酸ナトリウム、20 mM塩化ナトリウム)
を投与した。1群当たり最初の雌雄各5匹のマウスは、53及び79回の投与後のTKパラメータ測 定並びに53及び79回の投与後168時間目の免疫原性(薬物特異抗体産生)の評価のためにのみ 使用した。低投与量群の雄及び雌の生存率がそれぞれ 84及び88週目に 25%になったことから、
雄生存動物を84週目及び雌生存動物を88週目に剖検し、すべてのマウスで病理組織学的検査を 実施した。
がん原性試験におけるマウスの定常状態での全身曝露量を表 5-1 に示す。投与間隔中の Cmax 及び1投与間隔におけるAUC[AUC(TAU)]は用量依存的に増加したが、増加割合は用量比を下
回った。TK パラメータは53及び79回の投与後で類似し、明らかな性差は認められなかった。
投与量20, 65及び200 mg/kgでのAUC(TAU)は、アバタセプトを臨床用量で月1回静脈内投与し
た場合のヒトでの曝露量のそれぞれ約0.8, 1.9及び3.0倍に相当した。アバタセプトの薬理作用か ら予想されたように、低投与量の1例を除き、試験期間中には薬物特異抗体は検出されなかった。
表 5-1: がん原性試験におけるマウスの曝露量とヒトの曝露量の比較
種 試験 投与量
(mg/kg)
AUC(TAU)
(μg·h/mL) AUC(30d)b (μg·h/mL)
ヒトに対するマウスの 曝露量比 ヒトa 反復静脈内投与
(qm) 10 50102 50102 –
マウス 反復皮下投与 (qw)
20 65 200
8812 22600 34925
37892c 97180c 150178c
0.8 1.9 3.0
a 定常状態のAUC(海外臨床試験IM101-100)
b 30日間のAUC
c 1ヵ月間の曝露量を算出するために、AUC(TAU)(TAU=7日間)を4.3倍した。なお、曝露量は53回目の投与 後に測定した。
出典:5.3.5.1-2, 4.2.3.4.1-1
アバタセプト投与群の生存率は対照群よりも低値を示したが、死亡/瀕死例の発現頻度は全投 薬群でほぼ同程度であり、投薬群のマウスの死因の約50%がリンパ腫であった。
全投薬群でリンパ腫の発生率が統計学的に有意(P < 0.0001)に上昇したが、発生率に用量依存 性はみられなかった(表 5-2)。生理食塩液及び溶媒対照群並びにアバタセプト 20, 65 及び 200
mg/kg群におけるリンパ腫の発生時期は、雄でそれぞれ55, 83, 36, 41及び44週目、雌でそれぞれ
68, 43, 32, 26及び12週目であった。アバタセプト投与群のCD-1マウスにおけるリンパ腫の発生
率は、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)社で以前に実施したがん原性試験16),17),18),19)及
び文献値20),21),22)よりも高値であった(表 5-3)。
表 5-2: がん原性試験におけるマウスのリンパ腫発生率 (%)
群 1 2 3 4 5
投与量 (mg/kg)
0 (生理食塩液)
0
(溶媒) 20 65 200
性別 雄 雌 雄 雌 雄 雌 雄 雌 雄 雌
動物数 60 60 60 60 60 60 60 60 60 60
リンパ腫を有する動物数 1 4 1 7 18a 27a 22a 35a 17a 34a リンパ腫発生率 (%) 1.7 6.7 1.7 11.7 30.0 45.0 36.7 58.3 28.3 56.7
a Peto and Pike検定(死亡時期及び死因で調整)で合算した対照群と比較し有意(P < 0.0001)
表 5-3: BMS 社及びCRL 社で実施した過去の試験及び文献におけるCD-1 マウスのリンパ腫 発生率 (%)
参照先 BMS試験番号a CRLb Tox.
Path.c 試験番号/
実施年 90004 93601 96040 96651 1995 2000 1988
雄 雌 雄 雌 雄 雌 雄 雌 雄 雌 雄 雌 雄 雌 動物数 100 100 100 100 120 120 120 120 423 425 2565 2822 891 890 リ ン パ 腫
発 生 率 (%)
4 11 2 12 4.2 28 10 15 2-24 1-28 1-21 2-28 8.1 22
BMS:Bristol-Myers Squibb(米国)、CRL:Charles River Laboratories(米国)、Tox. Path.:Toxicologic Pathology a BMS社で実施した試験成績16),17),18),19)から抜粋
b 動物業者(CRL社)で実施した複数の試験成績20),21)から抜粋(発生率の範囲)
c 文献値22)から抜粋
投与量65及び200 mg/kgの雌で乳腺腺癌の発生率が統計学的に有意に上昇した(表 5-4)が、
雄では乳腺腫瘍はみられなかった。生理食塩液及び溶媒対照群並びにアバタセプト20, 65及び200
mg/kg群の雌における乳腺腫瘍の発現時期は、それぞれ88, 65, 75, 57及び45週目であった。乳腺
腺腫単独の発生率は対照群と比較して統計学的に有意差はみられなかったが、過去のマウスの試 験の発生率より高値であった(表 5-5)。高投与量の雌における腺癌発生率はチャールス・リバー・
ラボラトリーズ(CRL)社の報告20)における対照群の最高値12%より高く、中・高投与量での発 生率は BMS 社内の対照群の背景値よりも高かった(表 5-5)。溶媒対照群の発生率は BMS 社の 対照群の背景値よりも高かったが、生理食塩液対照群とは有意差が認められなかったことから、
試験計画書に従い生理食塩液対照群と溶媒対照群の成績を合算して対照群とし、投薬群との間で 統計学的比較を行った。死亡時期及び死因で調整したPeto and Pike検定ではP値が0.0001未満で 統計学的に有意とされること、発生率がBMS社内の対照群での背景値(0~1%)を上回っていた ことから、投与量65及び200 mg/kgにおける乳腺腫瘍の発生率上昇は本薬投与に関連した変化と 判断した。
表 5-4: がん原性試験におけるマウスの乳腺腺腫及び腺癌発生率 (%)
群 1 2 3 4 5
投与量 (mg/kg/week)
0 (生理食塩液)
0
(溶媒) 20 65 200
性別 雌 雌 雌 雌 雌
動物数 60 60 60 60 60
乳腺検査動物数 60 57 55 58 58
乳腺腺腫を有する動物数 [発生率 (%)]
1 (1.7)
0 (0.0)
2 (3.6)
3 (5.2)
2 (3.4) 乳腺腺癌を有する動物数
[発生率 (%)]
1 (1.7)
4 (7.0)
1 (1.8)
6a (10.3)
8c (13.8) 乳腺腺腫又は腺癌を有する動物数
[発生率 (%)]
2 (3.3)
4 (7.0)
3 (5.5)
7b (12.1)
10c (17.2)
a Peto and Pike検定(死亡時期及び死因で調整)で合算した対照群と比較し有意(P = 0.0061) b Peto and Pike検定(死亡時期及び死因で調整)で合算した対照群と比較し有意(P = 0.0017) c Peto and Pike検定(死亡時期及び死因で調整)で合算した対照群と比較し有意(P < 0.0001)
表 5-5: BMS 社及びCRL 社で実施した過去の試験及び文献におけるCD-1 マウスの乳腺腺腫 及び腺癌発生率 (%)
参照先 BMS 試験番号a CRLb Tox. Path.c 試験番号/実施年 90004 93601 96040 96651 1995 2000 1988 乳腺検査動物数 100 100 119 118 549 2573 890 乳腺腺腫発現率 (%) 1 0 0 0 0-2 0-2.6 1 乳腺腺癌発現率 (%) 1 3 0.8 2.5 0-12 0-8.3 6.3 BMS:Bristol-Myers Squibb(米国)、CRL:Charles River Laboratories(米国)、Tox. Path.:Toxicologic Pathology a BMS社で実施した試験成績16),17),18),19)から抜粋
b CRL社で実施した複数の試験成績20),21)から抜粋(発生率の範囲)
c 文献値22)から抜粋
本薬投与に関連した非腫瘍性所見として、全投与量で腎臓尿細管上皮における慢性炎及び尿細 管上皮細胞変性を伴う巨大核の発現頻度及び程度の上昇がみられた。これらの腎臓の変化は腎機 能障害を伴わないことから、ヒトとの関連性は低いか又は関連していないと考えられた。
マウスでは、レトロウイルス(MLV 及び MMTV)がそれぞれリンパ腫及び乳腺腫瘍を誘発す ることが報告されている22),23),24),25)。本試験に用いたCD-1マウスのゲノム中にはエコトロピック で特異的な内在性MLVのDNAが検出されたが、CRL社によればCD-1マウスはレトロウイルス フリーではないとのことであった。本試験における乳腺腫瘍の電子顕微鏡検査成績から、細胞質 内で構築され、細胞膜から出芽した多数のウイルス粒子が細胞外で検出された。これらのウイル ス粒子の超微細構造の特徴はMMTVと一致し、MMTV特異抗体による免疫組織化学的検査によ って対照群及び投薬群のマウスの乳腺腫瘍組織で MMTV の存在が確認された。これらの結果よ り、本試験でみられた悪性腫瘍の発生率上昇は、長期にわたるアバタセプトの免疫抑制作用によ
りこれらの種特異的な腫瘍ウイルスに対する免疫監視機構が低下したことによる二次的な影響で あるという結論が強く支持された。なお、いずれの投与量でもアバタセプト特異抗体産生が抑制 され、明らかな免疫抑制作用が認められた。がん原性試験と同様の投与経路及びスケジュールで 別途実施したPK/薬力学試験でも、投与量20 mg/kg以上でKLH特異抗体応答及び薬物特異抗体 応答の強力な抑制が認められ、これらの投与量で強い免疫抑制作用が確認された(4.2.3.7.7-1)。
動物 6),7),8)及びヒト 4),5)で、腫瘍発生率の上昇と長期にわたる免疫抑制作用との関連が報告されて
いる。腫瘍発生率の上昇と長期にわたる免疫抑制作用との関連性は、一連の試験(4.2.3.3.1-1, 4.2.3.3.1-2, 4.2.3.3.1-3)でアバタセプトが遺伝毒性を示さないことからも強く支持された。
6 生殖発生毒性試験
親ラット(F0)の受胎能・生殖能・妊娠・出産・授乳、マウス・ラット・ウサギの胚・胎児(F1) 発生及び次世代(F1)ラットの成長・発達・生殖能・免疫機能に及ぼすアバタセプトの影響を検 討するために、一連の生殖発生毒性試験を実施した。適切な試験計画の下、GLP に準拠し、ICH ガイドラインで推奨されているか又はそれを上回る試験を実施した。
生殖発生毒性試験におけるアバタセプトの全身曝露量を測定するために、別途妊娠ラット又は ウサギを用いた TK試験を実施したが、妊娠マウスでのTK 測定は実施しなかった。さらに、本 CTDの非臨床薬物動態の項(2.6.4.6)に記載したように、妊娠ラット及びウサギにアバタセプト を投与すると胎児が曝露され(マウスでは測定せず)、授乳ラットにアバタセプトを投与すると乳 汁中への移行が確認された。生殖発生毒性試験に用いた投与量におけるラット及びウサギの全身 曝露量(AUC)を表 6-1に示す。
表 6-1: 生殖発生毒性試験におけるラット及びウサギの曝露量とヒトの曝露量の比較
種 試験 投与量
(mg/kg)
AUC(TAU)
(μg·h/mL) AUC(30d)b
(μg·h/mL) ヒトに対する
曝露量比 ヒトa 反復静脈内投与
(qm) 10 50102 50102 -
ラット 静脈内投与I・II試験 (q3d)
45 200
14983 54646
149830c 546460c
3 11 ラット 静脈内投与III試験
(qd)
45 200
15009 49281
450270d 1478430d
9 30 ウサギ 静脈内投与III試験
(q3d) 200 145681 1456810c 29
I試験:受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験
II試験:出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験 III試験:胚・胎児発生に関する試験
a 定常状態のAUC(海外臨床試験IM101-100)
b 30日間のAUC
c 1ヵ月間の曝露量を算出するために、AUC(TAU)(TAU = 3日間)を10倍した。
d 1ヵ月間の曝露量を算出するために、AUC(TAU)(TAU = 1日間)を30倍した。
出典:5.3.5.1-2, 4.2.3.5.1-1, 4.2.3.5.2-3, 4.2.3.5.2-5, 4.2.3.5.3-1