第 2 章 パタ作製儀則 (2) ̶ 作画規定を中心として ̶
sarvavighnaghātakī 2 devī uttamā bhayanāśinī /
6 受持呪者 パタの下方 香炉を持ち蹲踞 情景 パタの下方に池があり,上記の三尊の両側に山の峰が描かれる
2.5. 第四パタ
本節では,本研究<本論>
1.5.
において取り上げた第四パタの画布作製に加え,第四パタ の画像の特徴を整理し,前三章の儀則との関係を探ってきたこれまでの考察をまとめてみ たい.
2.5.1. 第四パタに描かれる尊格(Cf. 資料篇<復元図試案>)
次に第四パタの画像について言及していきたい.すでに第四パタの画像については,前
節
2.4.2.2.
において,六字文殊成就法のパタとの比較を通じて取り上げているが,改めて第四パタを中心とした視座から特徴を整理しておきたい.
[表1:第四パタに描かれる諸尊]
尊格名
(漢訳) 配置 尊容に関する主な記述 補記
1
Mañjuśrī(妙吉祥) パタの主尊
童子形・五髻・説法印・獅子座 に半伽で右足を下ろして宝台に おく・行者(持誦者)に視線を向け る
三尊の座が同根多枝 の蓮華座でつながっ ていて,中央に根本 の 蓮 華 の 花 柄 が あ り,その上に妙吉祥 の獅子座と宝台があ る
2
Samantabhadra(普賢) 妙吉祥の右側 左手に如意宝珠・右手に白払 子・白蓮華座・聖紐をつける
3
Avalokiteśvara(観自在) 妙吉祥の左側 左手に白蓮華・右手に白払子・
白蓮華座・聖紐をつける
4
Nanda(難陀) 上記の三尊の
下方 七龍頭・人間の半身を有する
上記の三尊の座す同 根多枝蓮華の花柄を 二尊で支える
5
Upananda(跋難陀)
6
Sādhaka(持誦者)
妙吉祥の 右下方の隅
実際に儀礼を行う行者の装いや 外見のままに描く・香炉を持ち 蹲踞・妙吉祥の顔を見る
7
Devaputra(天子) 上方の両隅 雲中に住す・華鬘を持つ・花を
まいている
8
情景 パタ下方には無熱悩池が広がり,無数の蓮華が咲いている
前節
2.4.2.2.
において言及したように,第四パタは,図像上の特徴から六字文殊成就法のパタとして理解することができる.この点は,第7章が,第四パタ作製儀則の中で,文殊 の六字真言を説くことからも明らかであろう73.しかし,本経第
7
章は,前節2.4.2.2.
で取 り上げた他の四文献(前節2.4.2.2.
において②〜⑤の番号を付した文献)と比べて,尊格の尊容に関する記述が最も詳細に示されている.さらに,第7章の第四パタ作製儀則のみに確 認できる重要な記述も確認できるので,次項において当該箇所を引用して考察したい.
2.5.2. 第四パタの画像の特徴
下記の引用文(1)の部分の梵本には混乱があり,筆者には正確な読解が困難であるため,対 応する蔵訳,漢訳も併せて引用しておく.
(1)[MMK ch.7, 4-2-2-4.]
ekapadmaviṭape sthitāni trīṇi padmāsanāni, madhyamamūlapadmakarṇikāyām āryamañjuśriya- sya siṃhāsanaṃ ratnapādapīṭhaṃ ca / aparasmiṃ padma
āryasamantabhadraḥ, tṛtīye padma āryāvalokiteśvaraḥ / śobhanaṃ ca tatpadmadaṇḍaṃ marakataratnākāram anekapadmapuṣpa-mukulitaṃ patropetaṃ vikasitārdhavikasitapuṣpaṃ mahāsarānavataptotthitaṃ / dvau †nāga- rājānāv aṣṭabhya† nandopanandasandhāritaṃ tatpadmadaṇdaṃ, ...
de nas sdong bu gcig las skyes pa’i pad ma gsum la dbus kyi rtsa ba’i pad ma’i ge sar la ni ’phags pa ’jam dpal gyi seng ge’i khri dang rin po che’i zhabs rten no | gnyis pa’i pad ma la ni ’phags pa kun tu bzang po’o | gsum pa’i pad ma la ni spyan ras gzjigs dbang phyug go | pad ma’i sdong bu mdzes pa rin po che ma rgad ’dra ba | pad ma’i me tog du ma kha ma bye ba dang | phyed tsam bye ba dang kha bye ba dang ldan pa | mtsho chen po ma dros pa las skyes pa klu’i rgyal po dga’ bo dang nye dga’ gnyis pad ma’i sdong bu la ’dzin pa | ...
於一莖幹有三枝蓮華.中枝白蓮華坐妙吉祥.兩邊白蓮華右坐普賢左坐觀自在.其蓮華 莖作大緑寶色.於大無熱惱池出二大龍王.一名難陀二名跋難陀.
一つの蓮華の茎に,三つの蓮華座があり,真ん中の根本の蓮華の花芯において,聖文 殊師利の獅子座と宝石でできた足台がある.第二の蓮華に聖普賢がいて,第三の蓮華 に聖観自在がいる.また,かの蓮華の茎は壮大であり,エメラルドの宝石のような形 状で,無数の蓮華の花のつぼみを有し,葉をそなえていて,開敷していたり半開敷し ている花を有し,大池
Anavatapta
から生じている.八[
大龍王]
より二尊の龍王がいて,その蓮華の茎はナンダとウパナンダによって支えられている.
引用文(1)全体の文脈を考慮すれば,中心の三尊(文殊・普賢・観自在)の坐す蓮台が同根多 枝蓮華でつながり,その蓮華の中心の茎をNandaとUpanandaが支えていることを読み取れ る.こうした特徴は,本章
2.1.2.
において指摘したように,本経第4章の最勝パタに見られ る特徴と同一である.特に同根多枝蓮華で諸尊の座がつながる構図は,仏伝文献に描かれ る「舎衛城の神変」の一つである「千仏化現」を表現する図像の作例や,阿弥陀浄土図の 作例などに見出される仏教美術の主要なモチーフである.したがって,第四パタは,六字 文殊成就法のパタとは系統の異なる,且つ,重要な要素を有していることがわかる.ただし,前節2.4.2.3.で見たように,前三章の三種のパタに描かれていた開華王如来が,
第四パタには描かれない点は,注意を要する.というのも,本経は,種々雑多な儀則の集 成であるが,前三章のパタは,『大日経』との関係において重要な開華王如来を軸とした明
確なつながりを有しているからである.それゆえ,開華王如来の有無を視座とすれば,第 四パタは,この系譜から外れることになる.
以上を整理すれば,第四パタの画像の特徴は,①小位パタと同様に,六字文殊成就法の パタと非常に似た構図を有する.②最勝パタと共通する仏教美術の主要なモチーフを取り 入れている.③開華王如来が描かれない.以上の三点に集約することができる.