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シンポジウムⅢ

ドキュメント内 第10回日本禁煙学会学術総会抄録集PDF版 (ページ 47-53)

「社会的責任・社会貢献」というイメージ戦略

誰のための奨学金か?

~日本のタバコ産業による教育戦略~

むら

よう

へい

近畿大学文芸学部文化・歴史学科 准教授

本発表では、日本たばこ産業(JT)が実施している教育奨学金制度の狙いを検討することで、この 制度が、いったい「誰のための」教育支援になっているのかということを明らかにしたい。

具体的には、JT が CSR(企業の社会的責任)活動の一環として実施している「JT アジア奨学金」(1998 年~)および「JT 教育奨学金」(2014 年~)に注目し、これらの制度の概要と問題点を、奨学生や JT 関係者などの諸言説から検討した。その結果、この奨学金制度は、「学生の教育支援」という側面よ りも、内外の若い世代(高学歴層)に対する「タバコ産業のイメージ向上」という側面を大きな目的 にしていることが明らかになった。いわば、教育奨学金の給付という社会貢献活動の名目に隠された、

JT の真の狙いが浮き彫りになったといえる。

ただし、2005 年に発効した FCTC(タバコ規制枠組み条約)の第 13 条においてタバコ産業のスポン サーシップが明確に禁止されているように、JT の奨学金制度は条約違反に該当しかねないものである。

受動喫煙対策をはじめ、FCTC を遵守する姿勢がみられない JT による奨学金制度は、まさに「学生」の ためというよりも「タバコ産業」のための生き残り戦略を新たに教育分野で展開しているといって過 言ではない。そして、このような JT の諸活動を日本政府が事実上黙認しているという日本社会特有の 構造的問題も、決して見逃してはならない今後の大きな課題であろう。

「嗜好・喫煙文化」というイメージ戦略

喫煙文化人の言説に見る詭弁

ひら

とも

やす

国立がん研究センター がん対策情報センター たばこ政策支援部 研究員

喫煙行為を支持する、あるいは喫煙を単なる個人の趣向の問題だと考える人も世の中にはいる。著名 な文化人の中にも、本来たばこは個人の嗜好の問題であるのに、それがあたかも罪悪であるかのごとく 扱われるのは、それこそ自分の嗜好を押し付ける感情論だという評論を発表している者もいる。

このような評論に対して、われわれは違和感を禁じ得ない。どうしてそのような結論が導かれるのか、

議論がどこでねじ曲げられて誤った論理展開がなされているのか。そこで、「愛煙家通信」に登場する 著名な文化人の論評の中で、どのような詭弁がなされているのかを分析した。

一つの良くある形は、誤った二分法によるものである。例えば、「ヒトラーは反たばこ政策を行い、

チャーチルは葉巻を愛してやまなかった。禁煙運動はファシズムであり、負けが運命づけられている。」

という手のものである。連合国と枢軸国、イギリスとドイツ、戦勝国と敗戦国という二分法が前提の議 論であるため、たばこに関する議論にあてはめる段階から、そもそも偽である筈である。さらに「ファ シズム」というネガティブ・インパクトの強い言葉を用いることで、禁煙運動を全体主義的で攻撃的、

侮辱的なレッテルを貼っている。このタイプの詭弁は、情報操作やプロパガンダの手法としてよく使わ れることが知られている。

最近見られる「あなたの好きが誰かの嫌いかもしれない。また誰かの好きがあなたの嫌いかもしれな い。」にも誤った二分法は通底する。たばこという深刻な健康被害を引き起こす社会問題を、単に好き

/嫌いの問題に二分すること自体が間違いである。多様性の尊重という間違った論理展開がなされた上 に、分煙という誤った推論が導かれている。「私は愛煙家です。私は捨てない。」も同様だろう。

二つ目は、論点回避というものである。前提となる命題が誤っているにもかかわらず、結論を真とす る論調である。「医学論文なんて恣意的に数字を選んで結論を導きだすものだから絶対的な信用はおけ ない。たばこの害は証明されているとは言えない。それだから、禁煙運動はおかしい。」「たばこが1 箱1000円になったら、禁煙する人が80~90%出てもおかしくない。だから、たばこを増税して、税収が 減るというおかしなことがおこる。」などである。多くの喫煙文化派の人々は喫煙者であり、喫煙の害 を小さく考える、ないしは無視する傾向にあることが詭弁に繋がる背景にあるのだろう。

三つ目は、伝統に訴える論証である。「葉巻やたばこの文化はインディアンか。以来ずっと文化が残 されてきた。」の類である。過去に正しいから採用されたのか。関係する状況は現在と過去で代わって いないか。の検証がないと根拠にならないはずだが、一切なされていないままに推論されている。

喫煙を嗜好品文化という詭弁には、このように故意に誤った論理展開に基づいて、たばこ産業にとっ て都合の良い結論が導き出されているものが見受けられる。注意喚起が必要だ。

シンポジウムⅢ

害を過小評価させる疑似(にせ)科学戦略

喫煙・受動喫煙による害の矮小化

やま

ひろし

産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室 教授

公共施設、教育施設、官公庁だけでなく、飲食店等のサービス産業を含む民間施設の屋内を全面禁煙 とする法律が2014年までに49ヵ国で施行されている。わが国では、「神奈川県公共的施設における受動 喫煙防止条例(2010年)」、兵庫県における「受動喫煙の防止等に関する条例(2012年)」が施行され たが、前者では官公庁にも喫煙室の設置を、両条例とも民間のサービス産業には営業区域での喫煙を容 認する内容となっている。その後に条例化が検討された京都府では「京都府受動喫煙防止憲章」に、山 形県では「やまがた受動喫煙防止宣言」で条例として成立せず、大阪府で検討された「大阪府受動喫煙 の防止等に関する条例(案)」は取り下げとなった。神奈川県と兵庫県の条例に喫煙場所の設置を容認 せざるを得なかった、もしくは、京都府、大阪府、山形県では条例として成立しなかった原因は、いず れも、タバコ産業からの妨害によるものであった。

2015年、北海道美唄市で官公庁、教育や医療施設を対象とした「美唄市受動喫煙防止条例」が可決さ れ、2016年7月に施行された。美唄市条例では第1回検討委員会の時点から「飲食店等の民間施設には適 用しない」とされていたにもかかわらず、条例の検討委員会でタバコ産業は条例成立を妨害するための 意見陳述を行った。その際に使用された81枚のスライドがタバコ産業のホームページに公開されている。

喫煙と受動喫煙の健康被害を矮小化し、屋内を全面禁煙とする規制に反対するタバコ産業の以下の主張 に対して理論的に対抗する準備を行っておくことが、今後、屋内を全面禁煙とする法律・条例の成立に 重要であり、一問一答形式で呈示する。

・ 受動喫煙は、喫煙室を設置する「分煙」で解決できる

・ マナーの問題であり、喫煙の規制は法律や条例で規制すべき問題ではない

・ ポイ捨て防止、歩きタバコ防止、吸い殻拾い、未成年者喫煙防止を推進すべきである

・ サービス産業では、店舗の自主性により「全席喫煙」「分煙」「喫煙・禁煙タイム」「全面禁煙」

とすればよい

・ 飲食店等のサービス産業を禁煙にすると営業収入が減少する

・ タバコは肺がん、虚血性心疾患、肺気腫など特定の疾患のリスクを高めることが、疫学的に示され ているが、それらの疾患は喫煙だけでなく、食生活、運動習慣、大気汚染、ストレス、遺伝的要因 も関与している

・ 喫煙率は減少しているにもかかわらず、肺がんの罹患率と死亡率は上昇している

シンポジウムⅢ

無害を偽装する次世代タバコ戦略

「低有害性タバコ」開発が狙うもの

くぬぎ

なお

国立保健医療科学院・生活環境研究部 部長

受動喫煙対策を含む各種たばこ対策が実施されるタイミングに合わせるかのように新しいたばこ及 び関連製品が開発され販売が拡大されている。健康増進法が施行された平成15年にはスエーデンからガ ムたばこ・ファイヤーブレークの輸入販売が始まった。その際には日本学術会議からの注意喚起に関す る報告や厚生労働省から「ガムたばこと健康に関する情報について」と題して注意喚起が出され、その 後販売中止になった経緯がある。FCTC第8条ガイドラインの実施に向けた健康局長通知が発出された平 成22年にはJTから各種無煙たばこの販売が開始され、平成25年からはスヌースの販売も開始された。

2020年東京オリンピック開催が決定し、たばこフリーオリンピックとともに受動喫煙対策への関心が高 まると、たばこ産業からは世界に先駆けて非燃焼・加熱式たばこの販売が開始された。

合わせて、電子タバコの普及も急速に進んでいる。国内では薬機法(旧薬事法)によりニコチンを含 んだものの販売・使用は、個人輸入を除いて制限されている。厚生労働省・たばこの健康影響評価専門 委員会で議論の整理が公開されている。一方、FCTC-MPOWER政策に基づいたたばこ政策を幅広く実施し てきた英国では、保健省のPublic Health England が、電子タバコから発生する有害化学物質は紙巻き たばこより圧倒的に低濃度であり、たばこによる害をトータルで速く減少させるものであり、使用者本 人および社会への有害性の低減:ハームリダクションの観点から電子タバコの使用を推奨している。

ここでは、たばこの有害化学成分の分析を通して、国内外の情勢を交えながら、最近の新規たばこ製 品の開発・販売の動向について議論したい。

我が国の新規たばこ及び関連商品販売の推移

2011年 無煙たばこ

(嗅ぎたばこ;ビター)

2010年(健康局⻑通知, たばこ増税)

無煙たばこ

(嗅ぎたばこ;ミント)

2012年 無煙たばこ

(嗅ぎたばこ;3種類)

2 0 1 3 年

無煙たばこ ( ス ヌ ース ; 2 種類

2003年(健康増進法施⾏)

ファイヤーブレイク

(ガムたばこ)

メ ン ソ ールたばこ

電⼦タ バコ ⼦燃焼・ 加熱式たばこ

2013年 2014年 iQOS プルーム

(2020年東京オリンピック)

(2016年 プルームテック)

我が国の新規たばこ及び関連商品販売の推移

2011年 無煙たばこ

(嗅ぎたばこ;ビター)

2010年(健康局長通知, たばこ増税)

無煙たばこ

(嗅ぎたばこ;ミント)

2012年 無煙たばこ

(嗅ぎたばこ;3種類)

2013年

無煙たばこ(スヌース;2種類)

2003年(健康増進法施行)

ファイヤーブレイク

(ガムたばこ)

メンソールたばこ

電子タバコ 非燃焼・加熱式たばこ

2013年 2014年 iQOS プルーム

(2020年東京オリンピック)

(2016年 プルームテック)

シンポジウムⅢ

ドキュメント内 第10回日本禁煙学会学術総会抄録集PDF版 (ページ 47-53)